表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

なんてったってアイドル!

 まさに衝撃だった。

 この子なら……いや、この子しかいない。俺の最後のチャンス。

 一瞬で脳裏をよぎった。

 これが直感と言うやつか?


 「ピーチ……さん? 君はこの教会の娘さん?」


 「え? あ、違います」


 身長は恐らく155……はないな。

 小柄だが、実際の身長より大きく見えるのなぜだ?

 衣服が洋風のドレスのせいか? 

 だが、随分汚れている。転んだか?


 「じゃ、じゃあピーチさんは何をしていたんだい?」


 「え? あっ……洞窟の祭壇の魔導書を開いたら突然ここに……」


 「魔導書?」


 「はい」


 聞き間違いじゃない。

 祭壇の魔導書を見たら光に包まれてここに来たと言う事か? ファンタジーか? あり得ないぞ?

 いや、あり得なくても関係ない。

 仕事モードだ。


 「あの……僕は君に大変興味を持った。だから詳しくお話し聞きたいから、お茶でも――」


 しまった!

 いきなりはマズイか?

 しかも我ながら、この誘い方はなんだ? 


 「あの……」


 「なんだい?」


 「ここはどこですか?」


 「えっと、ここは東京だ」


 「トーキョー?」


 「東京は初めてかい? じゃあ外に出てみよう」


 「あ、はい」


 よし。

 とりあえず、自然な形でファンタジーな女の子を教会の外に誘いだせた。


 「…………」


 目を見開き、絶句する少女。

 みるみるうちに涙目に変わる。


 「どうしたんだい?」


 「私……ここ知らない場所……」


 ◇◆◇◆◇◆


 起死回生のタクシーをゲットし、地元のファミレスにやって来た。だが、ドレスのままだとちと目立ち過ぎるので俺のダッフルコートを羽織らせた。それでも一部の人間は俺達をみている。コスプレだ。聞かれたらコスプレと言う事にしよう。

 そしてピーチはキョロキョロと周りを見回し落ち着かない様子だ。


 「なんでも頼んでいいんだよ? とりあえず紅茶でも飲むかい?」


 「え? あ、じゃあ……エキナセアティーを……」


 「え?」


 後から知る事になるが、エキナセアティーはキク科の植物のハーブティーだ。

 この子はマジモンのファンタジーの女の子か? つまり、この世界の住人ではない?


 ならばパワープレイに出るしかない。


 「と、とりあえず注文は俺に任せてもらって構わないかな?」


 「はい」


 とりあえず無難な、レモンティーパンケーキセットを注文した。

 そんな事はどうでもいい。


 「イチから聞かせて欲しい。さっきの話――魔導書を開いたらあの教会に来たのは本当かい?」


 「え? あっ、すみません」


 女の子――ピーチはテーブルに置いてあるタッチパネル式のメニューを珍しそうに見ている。

 とりあえず矢継ぎ早に色々聞いてみる事にした。


 「ピーチさんは何歳だい?」


 「え? 16です」


 「どこに住んでるんだい?」


 「ラバーズスノー王国のラ・ムー地区です」


 「……ゴホン。趣味は?」


 「……読書です」


 「なるほど。どんな物語を読むんだい? ファンタジーとか?」


 「主に古文書です」


 「……えっと、好きな歌は?」


 「歌……ですか? 子猫ネコネコです」


 「……そうなんだ。随分可愛らしい歌だね」


 「え? 失恋の歌ですよ? 去年流行りましたよね? 王国の住人なら知らない人はいないと思ってましたが……」


 「す、済まない。俺は流行りに疎いものだから。好きな食べ物は?」


 「はい。クライゼルシュナッケのスープです」


 「……なるほど。高級そうだ。君の家はお金持ちかい?」


 「お金はわかりませんが、一応貴族です」


 「……」


 なるほど。

 わかったぞ。

 この子は間違いなく違う世界から来た女の子だ。

 まとめると、何かしらの事情で洞窟の祭壇の魔導書を開いた。そして何かしらの不思議な力でこの世界にやって来た。

 そう言う事だろう。


 とりあえずピーチさんが置かれている現実を突きつけないと話が進まない。俺はこの子をアイドルとして勧誘するのだから。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 「まさか……でも確かにここにある物は見た事ない物ばかりです。あの魔導書にはそんな力があったのですね」


 察しがいい。

 さすがファンタジーな世界からの転移者だ。そんな呑気な事を思っている場合じゃないな。

 控えめで少し大人しそうな俺のヴィーナス。

 もっと絶望感が漂う反応を予想していた。

 俺には一瞬、何かの圧から解放された様な安堵が見え隠れした。


 「あっ……でも私帰らないと……」


 「え? 帰る方法がわかるのかい?」


 「ええ。多分……魔導書に呪文が書いてあった気がします」


 「じゃあ、この世界に来た時の事を覚えているんだね」


 「はい」


 「聞かせてくれるかい。それと君自身の事を」


 それからどのくらいの時が経過しただろうか。

 ピーチは静かに話し始めた。

 テーブルに並んだ注文品そっちのけで、ピーチの話を聞き入った。


 幼い頃から友達がいなかった。

 同年代の女の子からはウジウジしてる、はっきりしゃべりなさいと言われた。

 母はピンクが産まれた際に死別。

 父は厳しい人だった。目の前でメソメソする事を許さなかった。

 自分の道は自分が決めて切り開け。

 そんな叱責を繰り返し受けて成長した。けれどもほんとの自分は弱い人間。でも、それは隠していた。

 基本的に話すのが苦手、更に同性と話すのが苦手。

 イジメられたトラウマみたいな物だろうな。

 

 お城のパーティーに行こうとしたが、簡単に言えば他の令嬢に嫌がらせを受け転倒。

 帰るに帰れなくなりトボトボと森を彷徨う。そして、小さい頃の遊び場だった洞窟に入った。そこには以前はなかった祭壇と魔導書が置いてあった。

 熟読した。

 そして最後のページを開いた。

 光に包まれた。


 あまりの信じがたい話。

 ここは敢えてくさいセリフ、かつストレートに締めくくってみる事にした。


 「ピーチさん。自分自身で光り輝いてみないかい? 君が今まで見たことのない世界へ一歩踏み入れてみないか――そしてアイドルの頂点に立ち光り輝く花を咲かせよう!」


 詐欺師みたいか?

 

 「え? アイドル?」


 「これを見てくれ」


 俺はタブレットを取り出し、幾つものコンサート映像を夢中で見せた。


 気づけば夜21時を回っていた。

 

 「私が歌って踊るのですか?! 無理です! 無理です!」


 「じゃあ、一人が無理ならグループならどうだい?」


 この返しは我ながらナイスプレーだ。別の担当者のデビュー前のグループがメンバーを探していた。最悪そこに入れてもら――


 「グループなら……じゃあ、戻って私がメンバーを探して来なきゃ駄目ですか?」


 「え?」


 異世界のメンバーによるアイドルグループ?

 これは凄い事になるのか?!


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ