説明、そして提案……活動スタイル、異世界ライフの第1歩
なんだか、緊張しますよね。
目上の人に会ったりとか、説明したりとか。
ええ、まさしくこれからそれがイベントとして待っているのです。
──パチッ!
お目目を開いた子だぁーれ?
そう、僕です。
こんにちは、この人生の主人公のマコトです。
って、ぼんやりと天井を眺めつつ呟いてみたり。
所詮は独り言というヤツだ。
皆は皆、人生という舞台の主役なのだろう。
「ん~! はぁ……よし」
ベッドから降りて伸びをして息を整えると、全身の魔力が回復しているのと、体力も体調も万全なのが伝わってくる。
部屋の木窓から漏れてくる陽の光に薄く目をつぶってしまうが、木窓に近づいては開くと朝陽が僕を迎えてくれる。
「良い朝だな……」
そして、昨日の事を思い出す。
そっか、今日は色々と忙しくなりそうだな。
まぁ、なるようにしかならないか──。
いくら考えても未来なんて無限に広がっているものだ。
だけれども、出来る限り良い結果を掴めるように頑張るのだけはしていこう。
「1階に降りよう」
うん、そうしよう。
まだ第1の鐘が鳴ってないけれども、アイクさん辺りは起きているだろう。
それにスーザンさんの事も気になるし、何よりも今日は2人を連れて冒険者ギルドに行かないといけない。
「とりあえず、成るように成るしかないんだ。うん、そうだ」
言葉にするとストンと精神的に落ち着いて来る。
さて、と──。
僕は部屋を出て鍵をしては1階へと降りていく。
「あら! マコト! おはよう!!」
「え?! スーザンさん!?」
「どうしたの?」
「いや、えっと、どうしたのって……」
こっちこそ、どうしたのだよ?
普段は朝は弱いはず……いや、そっか朝が弱いのは毒の影響だったか。
「本当に治ったんだろうね。朝から凄い活力が漲っちゃっていて、身体を動かしたくて仕方なかったんだよ! ふふふ!」
そう言ってスーザンさんは力こぶを作るように腕を曲げては元気アピールをする。
「あっ、おはようマコトくん。体調は大丈夫かい?」
「あっ、はい! 大丈夫というよりは全快です!」
「なら、良かった。そして、改めて本当にありがとう。こんなに素敵な朝は本当に久しぶりだよ」
「私からも改めて、本当にありがとう、マコト。そして、今日は任せておくれ、アイクと一緒にマコトを守ってあげるからね!」
「うん、任せてくれ」
「スーザンさん……アイクさん……」
「あー、もう、そんな顔はしないでよ、マコト。とりあえずは朝ごはん食べるだろ?」
「う、うん」
「素直なのは良いことだね。よしっ、少しだけ腕をかけて朝ごはんを作ろうかな。僕も今日は朝から力が漲っているんだ!」
「あはは……」
でも、確かに2人とも力が漲っていそうだ。
長年のストレスというよりは呪いに近い毒が消え失せたのだ。
元から2人は素は元気そうに見えたし、これが本来の2人の姿なのかも知れない。
「ほら、ご馳走だよ! 今日は良い卵が届いたからパンをつけて焼いてみたんだ!」
「あら、豪勢ね!」
「美味しそうです……!」
目の前にはフレンチトースト……に、似たものがあった。
いや、正確にはフレンチトーストかも知れないけれども、僕の知っているのはフワフワのパンに甘いバター香る、あのフレンチトーストだったから、あくまでも似たものって表現になってしまう。
柔らかいパンは今のところ見掛けていない、けれども気になった僕は全知全能さんを用いて情報を集めてみたら、驚くべき結果になっていた。
どうやら強力粉になる赤小麦、薄力粉になる白小麦は存在しているらしい。
そして、グルテンの量で強力粉、中力粉、薄力粉に分かれるのだけれども、どうやら……強力粉以外は用途が無いように考えられているようで利用されていない、または育てられて居ないらしい。
場所によっては育ててはいるが1種類のみで仕上げるものと思っているのか、そこが原因で小麦の可能性が潰えている感じだった。
これは……どけんかせんといかん。
あの台詞が脳内で鳴り響いていた。
でも、自分でもそのブレンドする比率は分からない。
いや、全知全能さんが同じと見なしてるから、きっとあの世界の小麦と同じような性質を持っていると思われる。
だから、多分同じくらいの比率でパンに限らず、そこから派生するケーキ、クッキーの甘いもの、麺とかも含めて食事に関わるものがもっと素敵になると予感がしていた。
モドキ……なのは確かに散見されてるのだ。
いや、散見してるだけでも涙ぐまし努力と閃きの結晶だから凄いことなのだろうけれども、僕はあの世界の味を覚えているから食べたくなっている。
うん、本当にいつか着手しよう。
そう、心のメモ帳に書き留める。
「どうだい? 美味しいかい?」
「……どう?」
「は、はい! 美味しくて、ちょっと一瞬、時を忘れちゃいました」
「なんだい、それは!」
そう言ってスーザンさんは笑ってくれる。
うん、でも……これはこれで美味しい。
固くて甘くない……けれども素朴な卵の味わいがあるフレンチトースト、モドキだけれども、うん……美味しい。
愛情というスパイスが沢山詰まっていると思う。
僕は味わっては、しっかりと噛みしめて朝ごはんを食べ終えるのだった。
「さて、スーザンは支度は大丈夫かい?」
「ええ、体調もすこぶる良いし、完璧よ! アイクも完璧ね! マコトは……ちょっとだけ襟元を……」
そう言ってスーザンさんは僕のシャツの襟元を直してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「うん、立派な男の子だね!」
そう言って満足そうにスーザンさんは頷いている。
何かあった時用の余所行きの一張羅だ。
うん、何かあるかも知れないと、古着だけれども、それなりの値段の中でスーザンさんが選んで購入してくれたやつだった。
襟元を直してくれる時にスーザンさんを見ても思うが、本当にすこぶる体調は良いのだろう。
普段より、数段肌の潤い含めて綺麗だ。
「よし! じゃあ、行こうか」
「ええ、お客さんにも伝えているし。後は大丈夫でしょ!」
「さぁ、マコトくん、行こう!」
「はい!」
そして、アイクさんの手を握ってマイナの食亭から踏み出す。
スーザンさんも直ぐに空いた手を繋いでくる。
そして、端から見ると仲良さそうな家族として僕たちは冒険者ギルドへと歩きだすのだった。
まぁ、それら端からであって、内情はこれから冒険者ギルドでギルドマスターと会って、これからの方針を決めるんだけれどもね。
そんな僕の心の声は届かないだろう。
いや、両隣のスーザンさんとアイクさんには伝わっているだろう。
握った手から、多少なりとも緊張感は伝わってくるのだ。
「ケイト……!」
「あぁ! スーザン……って、ん? スーザンなんか若返った?」
「あら? 分かる?」
「んー? 何かあったの?」
「ほら、2人とも入り口で止まったら他の冒険者さんの邪魔になっちゃうよ」
「あら、いけない! 私ったらサブマスターなのに。あっ! 待ってたわよ、マコト」
「おはようございます、ケイトさん」
「ほら、進もう?」
「あっ! ごめんなさいね。えっと……ギルドマスターを拘束……いえ、待たせているので行きましょう!」
今、拘束って不穏な言葉が聞こえたような?
「オホホ……」と、いう感じでケイトさんは誤魔化しているけれども、確かに聞こえた。
えぇー……。
とりあえず、不安は残るけれどもケイトさんの案内で窓口の奥の方に連れられて冒険者ギルド……ギルドマスターの部屋まで案内された。
「アラン! 入るわよ! いえ、入ったわ!」
「うぉ! 待っててくれ、まだ俺は働きたくは……。いえ、働きます!」
ケイトさんの睨みで、背筋を伸ばして返事をする中年男性が見えた。
「まったく……しっかりしていればカッコいいのに」
「え? カッコいいのか? ……そ、そか」
おや? なんか脈有りなのか?
ちょっとだけどピンクな雰囲気が見えるような──。
「コホン! ほら、アラン!」
「あ、あぁ……。いらっしゃい。堅苦しいのは苦手なんだ、気楽に構えて貰っていい。目の前のソファーに座ってくれたまえ」
「「「あ、ありがとうございます」」」
見事にスーザンさん、アイクさん、僕がハモってしまった。
少しだけ空間が変な空気になったが、僕たちは言われるがままにギルドマスター……アランさんの前のソファーに座る。
「ケイト、悪い。珈琲……いや、ミルクと砂糖も用意してくれ。後は水晶球も頼む」
「はい、畏まりました」
「マコトくんで良いかな? 珈琲はミルクと砂糖あれば大丈夫かな?」
「平気です」
「そか、良かった。それにしても居ずまいや佇まいから……ふむ。なるほどな」
「えっと?」
「あぁ、悪いな。俺もあれだ……面倒だからたまに水晶球を誤魔化す時があるんだ」
「「「え?!」」」
また、ハモってしまった。
いや、ハモっても仕方ないだろう。
ギルドマスター自ら、不正をしてると言ってるようなもんなのだから。
「あら、そうなのですか?」
「うっ!」
「今度はちゃんと私にだけでも真実を教えてくださいね? アラン?」
「あ、あぁ……」
そんなアランさんだが、珈琲と水晶球をちょうど持ってきたケイトさんの言葉を聞いて、少しだけ表情を青くさせていた。
「えっと……」
「あ、あぁ……質問は大丈夫だぞ。むしろ、色々と聞いてくれ。何分、俺もどう対応しようか考えあぐねていたんだ。悪いようにはしないのは約束しよう」
「そうなのですか?」
「ん? 当たり前だろう?」
「「──」」
「マコトくん? アランはそういう人なのです。それ以上もこれ以下の言葉も有りません。まぁ、損する性格だとは思いますが」
「おいおい、そんなこと言うなよ。俺だって、それなりに上手く生きてるんだぜ?」
「そんなことは今の立場じゃ無ければ言ってください。まったく、アランは後進が心配だからと今の立場になって……今じゃ上にも下にも挟まれているし……」
「あぁ、悪い悪い」
「そう、思うなら……もっと、しっかりして下さい! 仮にもブラックランクの英雄でもあるのですから!」
「お、おぅ……!」
そして、また背筋をアランさんは伸ばしていた。
「ブラックランクなのですか?」
「あぁ、まぁ~長くなるから割愛するが、シルバーランクとして偽って、のんびりと暮らしてたのよ。変にゴールドになっても、たまに指名依頼とかあると面倒だからな。冒険者は自由だろう? けれども、運が悪いことに強い冒険者が出払ってる時に小規模だけれども、小さなダンジョンで管轄不備でスタンピードを起こしたもんで、そのままだったら甚大な被害が出るからって……まぁ、やっちゃったんだわ。オチとしては、水晶球を誤魔化してた事もバレちゃって、ただ功績は大きいからブラックランクに急遽上げられたんだけれども、その際にどうしたいか聞かれてな。まぁ、今回の事件は管轄不備からの問題だから、そういうのを無くせればといったら、どう転んじまったのか──ここの席に俺が座る結果になっちまった」
「はぁ、断ることも可能だと聞きましたよ?」
「なに言ってるんだケイト? それはそれで、その後は監視が着くか、良いとこの貴族に召し上がられるか。それか、衛兵では無いな……近衛とかの騎士に叙爵されるか。とりあえず、面倒なことばかりだ。ここにこうやって気ままに座っては自由を謳歌するのが1番だ」
「はぁ……あなたはまったく……」
「それに傍にはケイトが居るからな! それだけで充分さ」
「──ッ!」
バンッと、大きく背中をアランさんは叩かれていた。
イテテテ……とアランさんは言ってるが痛そうだとは見えなかった。
逆にケイトさんが顔が真っ赤だ。
「なるほどねぇ……ケイトはへぇー」
「な、なによ?」
「なんでもないわー!」
「あっ! スーザン!」
「2人とも落ち着いて……ほら、マコトくんの事を話すんだろ?」
「そ、そうね……」
「ふふふ……」
スーザンさんは面白いものを見つけたような表情をしてはケイトさんを見ていた。
とりあえず、この場の空気は完全に弛緩した事だけは確かだった。
「えっと、色々と分かりました? いえ、分かったような?」
「まぁ、うん。色々とあるんだよ。大人って……複雑だろ?」
そうやってキザな顔をアランさんはする。
「あはは……」と、僕は苦笑いで返すこと位しか出来なかった。
「とりあえず、だ。そうなるとまずはマコトくんの能力をちゃんと正確に把握しないとだな……。教えてくれるかい? ある程度は今も目視しただけで桁外れなのは居ずまいや、佇まいから感じたけれども」
「そうなのですか?」
「まぁ、曲がりなりにもブラックランクだからね」
「なるほど……」
「とりあえず、大丈夫かな?」
「はい、ちゃんとお伝え致します。じゃないと、考えたのですが僕の活動に支障が出てしまうと思うので」
「確かにその通りだ。冒険者は自由が1番だからな!」
「では、いきます」
アランさんの笑顔に頷いて返しては僕は水晶球に触れる。
そして、手のひらから水晶球が僕を探るような魔力を感じるが、今回は指向性を持たせないで自由にさせた。
《名前》天神 真
《種族》人(半神)
《年齢》8
《レベル》6
《extraskill》全知全能 Lv4→5
《体力》160000→200000(error)
《魔力》160000→200000(error)
《魔力コントロール》Lv4→5
《身体強化》Lv4→5
《思考加速》Lv4→5
《土魔法》Lv10★
《水魔法》Lv10★
《火魔法》Lv10★
《風魔法》Lv10★
《光魔法》Lv10★
《闇魔法》Lv10★
《聖魔法》Lv10★
《無属性魔法》Lv4→5
《剣技》Lv3
《槍技》Lv1
《弓技》Lv1
《斧技》Lv1
《鎚技》Lv1
《盾術》Lv1
《体術》Lv3
《体力回復上昇》Lv4→5
《魔力回復上昇》Lv4→5
《攻撃力上昇》──→Lv2
《防御力上昇》──→Lv2
《鑑定/解析》Lv10★
《空間転移》──
《隠蔽》Lv10★
《収納》Lv2
《付与術》──
《錬金術》──
「なぁにこれぇー?」
あっ、ケイトさんが壊れた。
「えっと……ん? 体力量と魔力量がerror? エラーってなんだ? 実際はいくつなんだい?」
「えっと共に20万デスネ」
「ん?」
暫く時が止まった。
うん、本当に時間が止まった。
静か過ぎて、冒険者ギルドの喧騒が防音しっかりしている部屋にも多少響いているのが分かるくらいだ。
「……ん? うん、そっか全属性最大か。鑑定解析も最大。完璧な隠蔽だと思ったけれども、これは隠蔽最大だからか。闇討ちも完璧だなっ! ははは……」
あっ、アランさんも壊れとる!
……アカン。
冷静なのは……あれ?
スーザンさんもアイクさんも目が遠い……?
あぁ、そっか……口頭とは違って現実として、ちゃんと如実に現実を突き付けられたから思考がストップしてるのか、なるほどねー!
って、アカンやん!
あれだ、これは……待つしかないか。
夢のトリップから戻って来るまで暫く待つか。
これもまた……人生。
人生だよな?
まぁ、独り言だけれども。
そんなどうでも良いことを考えいると1番最初にアランさんが現実に帰ってきた。
流石、ブラックランク!
「あ、あぁ……。これは現実か。ケイト? 僕を叩いてくれないか?」
「は? この穢らわしいブタめ!」
「え?」
「──ッ! 私、何て事を! 忘れてくださいッ!」
バシンッと渾身の一撃がアランさんの頭上に振り下ろされていた。
「グヘッ」と、アランさんの声が続いて聞こえる。
そんな2人を見て、スーザンさんとアイクさんも現実に帰ってきた。
帰ってきたウルトラ○ンシリーズみたいだよ?!
「あっ、僕はいったい……」
「私は……えっと……」
「お帰り、2人とも……大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
「私も大丈夫よ」
うん、何とか大丈夫そうだ。
そして正面を見るとアランさんが難しい顔をしては水晶球からの結果を見ていた。
「なるほど、これは隠すというか。隠さないといけないな。こんなのが露見すると帝国……国王から何かしらの王命が下ってもおかしくはない。とりあえず、水晶球のこのデータは破棄だ」
ガシャンと水晶球が壊される。
「え? 壊しちゃうんですか?」
「これが1番の確実な方法だ。これで正確に知っているのは私とケイトとスーザン、アイクだけになる」
「アラン? 一応、サム含めて何名かの職員や昨日報告に来た際に話が漏れ聞こえていた可能性もあるけれども?」
「そんなのは小さな事だ。それはこちらから対応して封じ込めればいい。何よりも、何かあってもはね除けられるくらいにマコトが育てばいい。いや、今も充分に強いが……そういう強さでは無く、権力的な意味だ。まさか、自由を得るために自由を縛る権力が必要だなんて、な」
「えっと……僕はどうすれば……1番良さそうですか?」
とりあえず、これだ。
確かにアランさんのいう通り、ここには僕の味方しか居ないと思う。
スーザンさんとアイクさんは当たり前だと思えるけれども、目の前のアランさんは話していて人柄から信頼出来そうだ。
何よりもケイトさんも信頼は置けると多少は僕も思っている。
少しは疑う心も必要だとは思うけれども、同じくらいに人を信じる心も大事だと思う。
「とりあえずはギルドとしては特例条件として最大限出来るのは仮登録の解除で本登録にして、ブロンズランクからシルバーランクへの無条件の昇格だな。ブロンズランクだとダンジョン攻略が認められていないが基本的にはシルバーランクからはどこも攻略が可能になる。ゴールドでも可能だとは思うが、指名依頼というのが発生するから、それはマコトの首を、いや自由を縛ってしまう。マコトにとっては今は自由を得つつ、生活して、何とか権力を得るのが必要だと思える」
「確かに……でも、権力ってどうなの、ケイト?」
「そこは私も分からないわ、現状だとどうしたら良いのかさえ」
「僕もお手上げかな」
「いや、1つ手はある。ダンジョン都市ロマレンだ」
「ダンジョン都市ロマレンですか?」
どこかで聞いた覚えのあるやつだ……。
「あぁ、あそこは帝国内だが、世界の全てが集約されている。それに冒険者が1番だ。そこで実力を示せば、それがマコトを守るはずだ。あそこは良くも悪くも治外法権だ」
「なるほどね」
スーザンさんが納得したように頷いていた。
「でも、今すぐは危険だろう。何よりもまだ8歳だ。成人として認められる12歳前後までは、ここで生活すべきだろう。4年だ。4年ここで過ごしてみないか? 俺に出来ることならばサポートしよう」
「良いのですか……?」
「あぁ、まぁ……こういう時にしか俺の立場は使えないからな」
「アラン……あなたって、やっぱり……」
「……ダメか?」
「いえ、素敵よアラン」
あっ、自然とピンク色な空間が出来た。
「4年か……」
「ふふ、もしかしたら妹か弟の顔が見えるかも知れないわね」
「え?」
「ほら、私の毒が消えたということはそういうことでしょ?」
「う、うん」
「僕も頑張るかな……!」
「アイク……!」
あれ? なんだこれ?
こっちもピンク色な空間が?
それに僕挟まれているし。
記憶が曖昧だけれども、僕にはそういう浮わついた話は無かったような気がする……。
むしろ、逆で世界の何かを1人抱えてしまったような……?
あっ、ダメだ。
また思考が搔き乱されてしまった。
「……ん? スーザン? あなた毒が消えたって言ったの?」
「え? ええ、そうよ?」
「え?」
「ん?」
そうして、スーザンさんとケイトさんの視線が僕を捉える。
「ええええ?! なら、子供ってそういうこと?!」
「そ、そうよ!」
「嘘ッ! えっと、めでたいけれども……ま、待って! アラン!」
「は、はい!」
「アラン!」
「お、おう!」
「私、1人なのだけれども?」
「そ、そうだな」
「……」
「け、結婚するか。俺もほら……落ち着きたいと思ってたから、さ」
「……! あぁ! アラン! あなた、素敵よ!」
な、なぁにこれぇー?
えっ?
なにこれ?
あれー? 僕の人生を決める場じゃなかったのか?
おう……ジーザス。
いや、神は私か。
いや、半分だけだけれども。
まさか、自分の人生というよりは。
アランさんとケイトさん……スーザンさんとアイクさんの人生が大きく決まったような気がする。
「え、えっと……僕の事、忘れてないですよね?」
「「「「も、もちろん?」」」」
あぁ、4人がハモった。
いや、ハモったのは良いけれども、何で疑問系なんだぁー。
はぁ……うん、まぁ……幸せな事は良いことだよね。
そう思うことに僕はした。
これが大人への1歩の処世術ってことでしょ?
……でしょ?
「あー、なんだ。ごめんな、マコト?」
「い、いえ……気にしてませんから」
「そ、そうか」
然り気無く、ケイトさんとアランさんは手を繋いでるよ。
目の前にはうん、まだ壊れた水晶球はあるけれども……片付けるのは随分先になるんだろうな……。
「と、とりあえず。本登録にしておこう。後はシルバーランクも明日には対応しよう。後は窓口だが……職員の専用入り口から直接、部屋を用意しよう。基本的にはブラックランクの人が現れた際に使う専用の窓口の個室だったりするのだが、ケイトを窓口にして、解体はサムを専属にしよう。サムには専用のマコト専用の解体用のマジックバックを渡しておくから、気兼ね無く素材を渡してくれて構わない。後は金銭はこちらでギルド管轄のマコト専用の口座を開設しておこう。って、それくらいで大丈夫か?」
「アラン? クエストは?」
「そ、そっか……ギルドで公募しているクエストや、ダンジョン関連のクエストもケイト経由で共有するようにする。これで何とかなるだろう」
「後はマコトは私と会う時はスーザンの知り合いとして遊びに来ている体裁で来ると良いと思うわ」
「な、なるほど……分かりました」
「そうなると後はマジックバックか……専用の大きいの使うか?」
「い、いえ……僕はこのスーザンさんとアイクさんからプレゼントされたマジックバックが良いです。それに収納のスキルで色々とカスタマイズ出来そうなので、これが良いです」
「そうか、そうか……って、カスタマイズ?」
「え?」
「いや、色々と仕様変更出来るのは聞いた事があるが、それはマジックバックを専用に取り扱う業界の公然の秘密のはずだ」
「そうなのですか?」
「あぁ、企業秘密というやつだな。そっか、常識部分の補完も必要か。すっかり、聡明な雰囲気があるから見落としてしまっていた」
「確かに私らも気付いてやれてなかった」
「スーザン、僕もだよ」
「ケイト? 良ければ、日々業務の時間を減らして良いからマコトに一般常識を教えて貰っても良いか?」
「ええ、大丈夫よ」
「すみません、ありがとうございます」
「マコト、とりあえずマジックバックの件は分かった。けれども、カスタマイズ出来ることは周囲に秘密にするようにだ」
「は、はい」
「後は何か考えがある際にはケイトやスーザン、アイクに相談するといい。ケイトへの相談は俺にも届くから必要だったら助言が出来ると思う」
「分かりました」
助かる。
本当に、助かる。
いや、全知全能なら大丈夫じゃない? と思うけれども、それは大きな落とし穴だ。
あくまでも、自分の知りたいことを知れる力だと思っている。
逆に必要だと気付いてない際は気付けないのだ。
これは致命的な落とし穴だ。
いや、そう思考すると全知全能さんが必死に今マジックバックの備考説明を表示させて来ているように感じるけれども……。
うん、そういうことなのだ。
うん。
分かった、分かったよ?!
全知全能さんがこれでもかと、情報を提供してこようとしてきていたので押し止めた。
ちゃんと、分かったことが伝わったのか全知全能さんは大人しくなる。
う、うん。
あの世界にもスマートフォンやら、パソコンやら情報に溢れていたけれども、使い手によっては色々と化けてたからな。
全知全能さんも同じなのかも知れない。
僕自身がちゃんと全知全能さんを理解して、一緒に歩まないといけないって事なのかも知れないな。
そこまで考えると、視界に収まる情報がいつも通りに収まるというか、控えめに労って来るような視界になった。
悪い悪い、ごめんよ──。
届くかは分からないけれども、全知全能さんに謝りを入れる。
「とりあえずは話し合いは大丈夫そうか?」
「はい、本当にありがとうございます」
「まぁ、4年といわず、生活するなかで常に環境は変わるだろうから、その時はその時で判断したらいいさ。だって冒険者は自由だからな!」
キザにアランさんは笑顔を向けてくる。
でも、それは不快では無くて、バッチリキマっていてカッコいいのだ。
「分かりました!」
「良かったわねマコト?」
「今日はのんびりと過ごそうか?」
「う、うん」
両隣からスーザンさんとアイクさんが暖かい目で言葉を掛けてくれる。
どこか、気恥ずかしさも持ち合わせてながらも僕は頷くのだった。
「とりあえず、明日にはシルバーランクのギルドカードも手続きしておくわね! 職員専用の入り口は分かるかしら?」
「今日入って来た所だよね?」
「ええ、そうよ。後は、一応裏手側の解体小屋からの入り口もあるから、帰りはそっちを案内するわね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、ではアラン? 私は案内してくるわね!」
「あぁ、気を付けて。マコトくんも安心して活動してくれ、全面的なサポートは約束しよう」
「本当にありがとうございます……!」
頭を思いっきり下げて礼をすると、アランさんは鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた表情になっていた。
けれども、表情を崩すと「うん、任せなさい」と言って僕たちを見送ってくれた。
「ここが解体小屋からの職員の専用の入り口ね」
「なるほど……」
「うーん? もしかしたら、マコトは裏口から入った方が良いかも知れないわね。人目にもつかないし」
「それは僕も今思いました……」
少しだけ、苦笑すると、ケイトさんも同じく苦笑いを浮かべていた。
「さて、私はこのまま仕事に戻るけれども後はスーザン? アイク? 大丈夫かしら?」
「当たり前だよ!」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとマコトくんは守るからね」
「ふふっ! じゃあ、マコトはまた明日ね! ここから入ると呼び鈴か、誰かしら職員は居るから、私を呼んで貰えたらそれで大丈夫だから、一応、表面上はマコトくんの勉強を教える体裁にするから、そういうことで宜しくね。後は……そっか、私はこのままサムの所に行くわね! 今だったらまだサムも時間あるだろうし、マコトの事を話しておくわ」
「分かりました!」
「うん、よし。後は……ここからは周囲の目もあるから、ここまでで」
「ありがとうね、ケイト」
「スーザンこそ、その……頑張ってね」
「あら! ケイトの方も頑張るのでしょ?」
「えっ、えっと……」
そして、ケイトさんの顔は真っ赤になってしまった。
耐性が意外と薄いのかも知れない。
ピュアとも言う。
「ケイトは昔から純情だからなぁ……」
「あっ! アイク!」
「ふふ、確かにそうねアイク。ケイトはピュアだものね」
「も、もう! とりあえず、マコト? また明日会いましょう!」
そして、挨拶もそこそこにケイトさんは解体小屋の方に向かって行った。
「さて、僕たちも帰ろうか?」
「そうね、まだやることも多いから。それに体力が漲っているのか、もっと働きたいわ!」
「あはは……、怪我はしないようにね」
「当たり前よ! さて、帰ろうかしら! ほら、マコト?」
「う、うん」
そうして、差し伸べられたスーザンさんの手を握ると、空いた方をアイクさんが繋いでくれる。
行きとは違って、帰りはよいよい。
うん、気持ち良い帰りになった。
これからの方針がある程度定まった気がする。
とりあえずは成人と認められる12歳前後まではここ、冒険者の街ルソーレが活動拠点になるだろう。
住む場所はもう家族みたいな認識になっているけれども、スーザンさんとアイクさんのマイナの宿亭だ。
明日……そうか、明日ギルドカード、シルバーランクを受け取ったらダンジョンについて聞いてみよう。
ダンジョンは気になるものだ。
それは異世界だからという所が大きいけれども、冒険者として定番の場所は? と聞かれるとしたら、それはダンジョン! っと、言っても過言では無さそうだからだ。
後は都度、ケイトさんに会った時は疑問に思ったりしたことは聞いていこう。
ある程度は全知全能さんが支えてくれるけれども、支えていく間柄を目指すならば、僕ももっとしっかりしないといけないだろうから。
もう少し、この世界の常識を知ろう。
沢山知らないことを知っていたとしても、皆が知っていることを知っているとは限らないのだから。
歩みよりやすり寄りは、いつの時も、場所も、必要な事なのだろう。
「つ、疲れた……」
そして、無事に帰宅した僕はベッドに身を委ねていた。
予想以上に精神的に疲れていたのか、気付かないうちに僕は眠りに落ちたようだった。
※応援頂けましたら励みになります。
なんだか、今後の展開が定まったような!
定まらないような?
いえ、冒険者は自由ですから!
これで良いはずです?
まさかのアランさんとケイトさんのカップル……ならぬ夫婦が爆誕しましたね。
そして、スーザンさんとアイクさんとの間に宝が……の時も近いかも知れませんね。
さてはて、次はダンジョンだったりするのでしょうか?