マイナの宿亭
旅の宿屋って良いよね。
後は冒険者家業から夫婦のお仕事。
※基本的には冒険者家業は危険が付きもの。
だけれども、それに見合う自由と対価も大きい。
ただ、その影には多くの犠牲もあるのは事実。
「ん……ここは──」
知らない天井だ。
ランプの灯り……? いや、ランプみたい見えるけれども、光源はなんだ? 石っぽい?
魔石
※魔物から産み出される核。
またはダンジョンから産出される鉱石。
主な供給源は魔物からである。
等級によっては価値が変わる。
うっ──。
マズイ……また、全知全能が発動しちゃ……。
「──ハッ!」
「まぁ?!」
「えっ?!」
意識が落ちてたのだろう。
意識が戻って身体を起こしたと同時に横合いから驚きの声があがって、自然と自分も驚いてしまった。
「マコトで良いのよね? 大丈夫かい?」
「……え、あ、はい。大丈夫です?」
「なんで、疑問系なんだい」
そう言って目の前の女性は軽く笑って、冷たいおしぼりを渡してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「こっちの分は回収しておくよ」
「あ、はい」
「お腹は空いてるかい?」
ギュゥゥゥ──。
「あっ……」
「ハハハ! 元気なのは良いことさ! 動けそうになったら下に降りておいで! 残り物だけれども、アイクに温め直して貰うからね」
「わ、わかりま……」
最後までいう前に部屋から女性は立ち去っていった。
女性は定期的に様子を見に来てくれていたのだろうか?
今は冷たいおしぼりが手元に残っているけれども、さっきはお布団に寝かされていたようだ──そこから起き上がった拍子に落ちたおしぼりを回収していっていた。
ここはどこだ……?
改めて見回すと、小綺麗な部屋だった。
質素と言う人も居るかも知れないけれども、ベッドに机と椅子、それにクローゼットもある。
それだけだと言えばそれだけだけれども、机の上に置かれた先ほどのランプのようなものが仄かに部屋を照らしていた。
魔道具
※様々な種類がある、動力源は魔石。
込められた魔石の魔力により、その道具の幅も変わる。
※該当の物は光魔法を込められている。
なるほど……。
へぇー……ん? 普段ならブラックアウトしそうなのだけれども、大丈夫そうだ。
魔力が増えたかな?
とりあえず、後で確認しよう。
今はその前にだ──!
「お腹減ったな……」
ギュゥゥゥ──。
自分の意思に応じるように盛大にお腹の大合唱が始まる。
半神といえど、身体は人なのだろう。
うん、何となく分かっていたさ。
まぁ、成長度合いとかその他は全く別物なのだろうとは、流石に気付き始めているけれども。
とりあえず、下に降りよう。
ここは何階だろう?
マイナの宿亭
※3階門部屋
1階は食堂、2階はパーティー用の部屋、3階は1人用の部屋。
マイナの宿亭か。
……あれ? 自分は城門に居たんじゃ?
首を捻ってみるが分からない。
全知全能が反応しないとなると、それはまだスキルレベルが足りないのか、認識外のせいなのか、魔力不足が原因なのか、そこら辺が問題なのだろう。
とりあえず、下に行けば答えは見つかりそうな気がする。
「よし、行こう。まずは現状の確認だ。それが冒険、それがロマン。それが……ファンタジーだよな」
……ん、ちょい鼓舞をしつつ部屋から出て降りることにする。
べ、別に緊張してる訳じゃないんだからね!!
って、誰にも届かないアピールをしておこうと思う。
……廊下は光源は少ない──と、言うよりも月明かりが光源かな?
魔道具は高いのだろうか?
ちょっとそこら辺は分からないのと、全知全能の反応も無かったので何とも言えないが、非常灯を例えたら良いのだろうか? 要所要所に置かれていて、階段の場所とかは分かる感じだ。
そう、思うと全知全能って……どうなんだろう?
そんなことを思うと全知全能のスキルレベルの1というのが視界の隅に強調されている。
あら、やだ怖い……。
えっ? アピール? アピールですか……?
ゾワッと背中に冷や汗を感じた所で、意識を切り替えては階段を降りることに集中することにする。
「意外と軋むな……」
キィー、キィーと木造建築よろしく! の音が響く。
これはこれで味があると言えるのだろう。
けれども、寝静まっていそうな時間帯だと思える、この状況下ではちょっと……いや、かなりプレッシャーですよ?
僕はほら、ちょっと……ナイーブですから。
「あっ、やっと1階かな?」
そんな事を思いながら降りていくと、意外と早くに1階に着いたようだ。
「おや! 降りて来たね! ほら、こっちへおいで!」
「あっ、はい!」
そんな自分へ食堂の方から声がして見ると、先ほどの女性が居た。
マイナ亭
※女将 スーザン
名前が気になってしまうと、全知全能さんがお仕事をしたのか名前と立場が出てくる。
スーザンさんというのか。
そうなると先ほどアイクと言っていた人は……旦那さんかな?
そう、考えつつスーザンさんに案内された席に着くと、ニコニコとスーザンさんは裏の台所の方へ消えていく。
周囲を見てみると宿泊者なのだろうか?
まばらな人数だけれども、お酒を嗜んで居る人達が居た。
「おお、目覚めたのか。具合は大丈夫かい? まったく、エリックが慌てて連れてきた時はビックリしたよ」
「エリックさん……えっと、確か城門に居た……」
「そうそう、彼は衛兵長なんだよ。ここのお得意さんだね」
「何言ってるんだいアイク、私達が結婚してここを始めるまでは冒険者パーティーだったくらいの腐れ縁だろ?」
「あはは……まぁ、そうなのだけれども、ほらマコトくんは目覚めたてだし、ほら、子供だから──」
「いや、エリックは結構聡明な子と言っていたよ? マコトは理解出来ているんだろう?」
「あっ、は、はい」
「……そっか、偉いね」
「い、いえ……」
ギュゥゥゥ──。
「ははは! でも、身体は立派な子供みたいだ」
「す、すみませ……!」
「いいんだよ! 子供はお腹を減らしてはたっぷり食べてぐっすり寝て育つのが一番だからね! アイクっ! 夕飯の残りまだあっただろう?」
「そうだね、少し待っててねマコトくん。ちょっと温め直して来るからね」
「あ、ありがとうございます」
「別に良いんだよ! しばらくはここが家みたいなもんなんだからね」
「…………えっ?」
自分が驚いたような表情をするとスーザンさんは驚いた顔をしていた。
「マコトは何も聞いてないのかい?」
コクコクと頷くと、ハァァァーとスーザンさんは大きな溜め息を吐いては「まったく、エリックはこれだから……」と呟いている。
「仕方ないね。マコトは気を失っていたからね」
「は、はい……」
「マコト、家無いんだろう?」
「……はい」
「エリックから頼まれたのさ、せめて自活出来る位までは面倒を見てくれないかとね」
「え? で、でも、僕は何も持って……」
「あぁ、良いのよ良いのよ。多少はエリックから貰ってしまったから、機会があればお礼を言えば良いさ。私らも話を聞いて放り出すみたいな真似はしたくなかったからね。ただ、ちゃんと自活するようにはするんだよ? 堕落してたらダメだからね?」
「は、はい!」
「そうなると私の名前も知らないか。私の名前はスーザン。あれは旦那のアイクだよ。そして、ここは私らが冒険者パーティーをやっていた時に貯めたお金で結婚を機に買ったマイナの食亭だよ! マイナの意味はもし、子供が産まれたら付けようと思ってた名前だね」
「な、なるほど……」
「まぁ、エリックは衛兵隊からの要請も前からあったから傭兵長にすんなりなっちゃったから、あいつはいつもちゃっかりしてるんだよね」
「な、なるほど……」
そう、その後はエリックについての話をスーザンさんから聞いていると食堂から湯気の沸き立つ土鍋をアイクさんが持ってきてくれていた。
「熱いけれども大丈夫?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「いえいえ、かなりお腹を空かせていそうだったからお粥にしたよ。夕飯のスープの残りで作ったからお口に合えば良いけれども……」
「──お、美味しい……です」
「本当かい? 良かった」
コクコクと頷くのを見てアイクさんの表情が緩んでいた。
でも、本当に美味しい。
お米……あるんだ。
そう思ってすすっては味わう。
でも、玄米粥だ。
コストを考えてだろうか?
それとも精米の技術が確立されていない?
でも、今は美味しいから良いか。
そう思って、僕は玄米粥を堪能するのだった。
「お腹はいっぱいかい?」
「は、はい……」
「まだ、寝ちゃダメだよ! ほら、頑張んな! 部屋までお湯を持っていってあげるから、ちゃんと拭いてから眠るんだよ! 服は……アイク何かあるかい?」
「ブカブカになっちゃうけれども、僕のを一時的に着させれば?」
「うーん、そうだね。そうか、服とかも整えないとかね」
「そうだね」
「…………」
「こら、マコト! 頑張りなさい! ほ、ほら!」
「うん……」
「あはは……僕がマコトを背負うかな」
「まったく、さっきまでは歳に見合わないような所作とか雰囲気とかだったのに、子供だね!」
「それはまぁ、8歳だらかねぇ」
「確かに、そうか。アイク、明日はちょっと第1の鐘と第2の鐘間にマコトの生活用品とか整えるよ」
「そうだね、暫くは起きなさそうだし、そうしようか」
「さて、アイク? 部屋までお願いね」
「分かったよ、スーザン」
「よっこら……せっ……っと、って軽いな……はは」
「暫くは私とアイクで面倒を見るよ」
「そうだね、うん、本当にそうだ」
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マイナの宿亭。
素敵な名前ですね。
でも、子供に付けたかった名前?過去形なのが気になりますね。
それに凄くスーザンとアイクの2人は愛情に近いものをマコトに注ごうともしています。
その理由はどこかで明かされるのでしょうか?