マコトの講義の始まり!巨大ダンジョン──アビス1階層の攻略開始→→→4階層の突破へ
さて、実践的な講義が始まります。
それは一重に生死を賭けた学びでもあります。
そう、それが冒険者。
でも、自由という見返りもあるのも冒険者。
「装備は行き渡りましたか?」
「「はーい!」」
冒険者ギルドからの支給の本当に初心者向けの装備だ。
何てことの無い、剣や盾、それにロッド。
防具もアーマープレートや、ローブまで揃っている。
それぞれ選んで貰っては着替えて貰った。
一瞬だけ、ダンジョン産の錬金するのも……と思ったが支給されるというのだ。
生徒達がある程度成長するまでは支給品で充分だろうと思えたので辞めた。
──なんだか、一瞬アビスというダンジョンから安堵の雰囲気を感じた気がしたけれども気のせいだろう。
「さて、と。攻略前に改めて説明していきます。ダンジョンとは人の魔力を喰らう一種の生物だとも言われています。周囲の魔力等も吸収しては糧として、ダンジョンはその形態を変化させては成長していきます。そして、一種の法則もあると思われます。それは──決してクリア出来ない訳ではないということです」
「えっ? でもマコト先生、このアビスは有名クランでも攻略出来ていないです」
「ボリス、確かにそうだね。けれども、それは攻略出来ていないだけで、それで攻略不可能な訳ではないと思います。ここのダンジョンはその巨大さから、その形態は深く変化していると思います。そのダンジョンギミック等に関しても同じく言えます。クリアするための下地や実力の問題とも言えます」
「むっ……なら、父さん達が弱いという訳ですか?」
「カール、まぁ、弱いという表現も適切じゃないです。パーティーとはクランとは……攻略とはバランスです。もしかしたら、今現在行き詰まっている階層の攻略への適性が不足しているだけかも知れないです」
「……まぁ、父さん達は4人パーティーだから」
「でも、マコト先生! そうなるとクランメンバーの多い運命の詩編はどうしてクリア出来ないのですか?」
「人数だけ揃っていてもクリア出来ないのかも知れないですね。その理由は自分達で確認するのが一番かもですね」
「うーん……」
「まぁ、納得するのは難しいと思います。──が、実際にこれからダンジョンの一端を垣間見ていくと思います。ダンジョンとは狡猾で且つ残忍な面を持ち合わせています。なので、1階層こそ、それが顕著に感じられるかもです。誰でも攻略出来るような雰囲気を出しつつ、進む度にその難易度を上げていく感じが肌で分かると思います。だから、常に気を引き締めてください」
「「はい!」」
生徒からの元気な返事を聞いては頷いて後方のリディア、アルメン、エルザを確認すると2人も頷いていた。
「まずはパーティーリーダーを選びます。リーダーは都度変えて行こうと思います。今日はとりあえず、カール。君がしてみてください。私はリーダーのサポートとしてパーティーに同行します。他の先生方は後方から生徒の必要な場合は適宜判断して支援をお願いします」
アビス──ダンジョン前で生徒達が頷きつつも装備を最終確認している様を見つつ周囲を見やる。
怪しい人物は居なさそうだ。
むしろ、露骨に避けるように視線を合わせないようにしているみたいだ。
全知全能さんの範囲網でも引っ掛からない感じ大丈夫そうだ。
ダンジョン内の問題は個人の責任だ。
悪くいうと死体漁りや、犯罪等、当たり前に発生している。
僕らは良くも悪くも鴨になりかねないと思ったのだけれども、先日の冒険者ギルドでの1件が今回は良い意味で効果があったみたいだ。
サササッと蜘蛛の子みたいに怪しい人物は周囲から消えていっていた。
「準備出来ました!」
うん、ナタリアの声が聞こえてくる。
視線を前に戻してはポッカリと大きな口を開けるようにしてそびえ立つダンジョンの入り口を見やる。
アビスは階層を潜っていく構造の巨大ダンジョンだ。
入り口周囲は治癒を受け持っている教会、素材買い取り所もある。
そう、素材買い取り所があるのだ。
基本的にはダンジョン産の魔物は核を残して消えていくのが常なのに、ここは魔力が濃い性質もあるのか、魔物の肉体構成もしているみたいだ。
ダンジョンに関してはまだ分からない部分が多い。
もしかしたら、その謎のヒントでも眠っているかも知れないと少しだけ好奇心を刺激されるのだった。
とりあえずは、好奇心は置いといて後は冒険者ギルドや露天販売の武器屋や食事処、後はマップ売りや情報屋なども溢れている。
傭兵、荷物持ち、奴隷……種族も疎らだが、エルフにドワーフ、人など多種多様だ。
獣と人が混じったような人達も居る。
いわば、獣人だろう。
他の街では見かける機会が非常に少なかったのはやはり人族の領域は人族の物という思想が蔓延っていた面もあるのだろうか?
ダンジョン都市ロマレンはある意味、冒険者の街だ。
実力さえあれば、どんな人物も受け入れる下地がある。
だからこそ、こうやって色んな人が溢れているのだろう。
「せんせい……?」
「ん? あぁ、ごめんごめん。よしっ、では行こうか! カール、先陣を頼むよ。必要なら僕からもサポートするから」
「は、はい! 分かりました……!」
意気込みは充分だ。
カールの声を切っ掛けに僕たちは巨大ダンジョン──アビスへと足を進める。
「ギギギ──!」
「ギャハハ!」
目の前には獣人タイプのコボルトが目の前に立ち塞がっている。
接敵する数は一様に疎らだが、そう多くはない。
まぁ、まだ1階層だからという理由もあるだろう。
武器も欠けた剣だったり、下手したら素手の場合もある。
明らかに弱っていそうなやつも出てくる。
けれども、しっかりとダンジョンのマッピング方法、罠とかの確認を怠らないように教えたりしつつも進んでいる。
僕の場合は特殊なだけだ。
今も視線を走らせたら、奥に居るコボルトや、古びた宝箱も見えている。
「2人で1匹を! 僕とボリスは右を! イリナとナタリアは左を!」
「あぁ!」
「「わかった(わ)!」」
1人は攻撃を防いではパリィ──弾き返してはスイッチ=入れ替わっては攻撃を当てていく。
それだけでゴブリンは倒されていく。
「素材は魔法袋に」
「うん」
魔法袋は冒険者ギルドからのプレゼントだ。
まぁ、ダンジョン産だからそこそこ入るし、使い勝手も良い。
「マコト先生! スクロールが出ました!」
「やっと、出たか。まぁ、1階層だからというのもあるのかな?」
「どうでしょう?」
イリナから古びた巻物を渡される。
スクロールの種類はダンジョンによって分かられる際が多いが、一般的には使い捨てが多い。
その用途は脱出用だ。
ダンジョンの入り口──入ってすぐ脇には転移魔方陣が地面に浮かび上がっている。
階層を深く潜る度に、ある一定層をクリア踏破することで、該当の層に飛べる仕様だ。
後は、目の前のスクロールは脱出用だ。
破った人がその入り口の転移魔方陣まで戻れるという形だ。
問題なのは外に持ち出せない点だ。
ダンジョン外に持ち出した瞬間に消えるのだ。
詳しくいうと魔力へと変換されて、ダンジョンに吸収されるといった具合だ。
そう上手くは出来てないということだ。
あくまでも、これもダンジョンの狡猾さから出る誘い込みの一環なのだと云われている。
「先生! 宝箱発見しました!」
「すぐには開けないで魔力を通したりしてみて、安全の確認を。魔物なら反応するのと、中身次第ではまた別の違和感を感じ取れます」
「俺がやってみます」
「ん? あぁ、ならボリス頼む」
「あぁ」
カールと入れ替わってはボリスが宝箱前に屈んでは魔力を通している。
まぁ、中身は古びたスクロールだ。
「反応は無い……から、安全だな。開きます──スクロールか」
「お! これで2つ目!」
「マコト先生! 次の階層の階段有りました!」
「ナイス、ナタリア!」
カールがナタリアに嬉しそうに反応している。
「マコト先生、このまま進みたいのですが……どうでしょうか?」
「イリナ? リーダーはカールだよ。カールに確認してみて下さい」
「は、はい! カール! 次の階層行ってみる?」
「うーん……そうだな、行ってみようか?」
そして、2階層へとカール達が降りていくのに合わせて自分も降りていく。
2階層もゴブリンだ。
事前の情報に寄ると4階層まではゴブリンの構成で4階層のボスを突破することで5階層の転移も解放されるということだ。
元々、生徒の素質も鑑みて選ばれているのもあって、それなりに動けている。
意外だったのはナタリアもしっかりと動けている点だ。
もしかしたら、父親のグセフに手解きを受けていたのかも知れない。
「ん……カール……! 横にも視野を広げて!」
キンッ──!
不意に横壁から現れたゴブリンの攻撃を防ぐ。
「なっ! さっきは居なかったのに!」
「これがダンジョンだよ。常に気を配るように、後は視野を広げて仲間の動きを頭に入れて指示も出さないと──ボリス! 物陰に気を配って!! イリナはナタリアに合流、なるべく横壁から離れつつ集まっては視野を確保して対応!」
「は、はい!」
「カール! パリィしたゴブリンが攻撃に転じているから追撃を! 今──!!」
「分かりました!!」
2階層からはゴブリンは武器を持つように、そして接敵する数は余り変わらないけれども、不意打ちが出てきた。
「反省点は分かるかな?」
「は、はい……ゴブリンの……いや、ダンジョンの動きが変わりました」
「そう、なるべくそれに早く気付けるようになるのも大切だし、この空気は実際に経験して磨くしかないものだから覚えておくように」
「わ、分かりました……。もう少し進んでも大丈夫でしょうか?」
「……判断は任せるよ。カール。今は君がリーダーだ。だけれども、アドバイスを送るとしたら今は僕たちが居るからある程度は冒険も出来る。エルザが支援に入るまでは無茶は通ると思っても良いよ。後は今みたいに僕が手を出す時があるかもしれないから、その時は僕の判断も見ていて欲しい」
「分かりました……! 皆、もう少し行きたいと思う……着いてきてくれるかな?」
「あぁ、分かった。リーダーに俺は従うよ」
「私たちもOKだよ」
「うん、行こう」
なかなか、結束も良さそうだ。
これは幸先が良い。
カールを先頭にダンジョンをそれからも進み始める。
「目の前にゴブリン! 罠は今のところは見えない、物陰に注意して──今! ナタリア……誘導の魔法を」
「うん──それは火の揺めき、強く強く燃え盛っては……目の前へと放たん──ファイア!」
ナタリアのファイアを先行弾して放ってはゴブリンの注意を引き付けては攻撃に躍り出る。
向こうが戦闘体勢に入る前に瓦解させては一網打尽にする。
「周囲確認……!」
「大丈夫だ」
「こっちも!」
「私の方も大丈夫!」
「よしっ、回収!」
うん、トライ&エラーがしっかり出来ている。
後は若さもあるのか、吸収するのと応用も早い。
「少しだけ集合」
「はい!」
「先ほどのファイアの魔法だけれども、戦闘中も使えたら便利だとは思わないかい?」
「えっ? それは思うけれど……」
「マコト先生、魔法は防衛や遠距離での戦闘向きで実戦では本当に支援やタンクが居ないと活用出来ないです」
「確かにカールのいう通りだね。けれども、そうだね……もう少し先に行けば階段とゴブリンの群れが居るから、僕の戦闘を見ていて欲しい」
「えっ? そんなのも分かるのですか?」
カールが驚いた表情をしているが、付き添いのリディアとアルメンも驚いた表情をしていた。
まぁ、見もしないのに分かるというのだから、当たり前か。
エルザは慣れているのか、また始まった……みたいな表情だ。
「わっ……本当に居る」
「さて、では良く見ておくように」
さっきと同じように魔力を極限に抑えては魔法句無しでファイアを放つ──そのまま切り込んでは1体目を斬り伏せる。
そのまま、背後から来る敵へ、こちらも無詠唱で目元へとファイアを放つと目に着弾したゴブリンが怯んだ隙に斬り伏せる。
同じように次はパリィしてはファイアアローでゴブリンをこちらは倒しては、最期の1体は同様に目眩ましのファイアを浴びせては斬り伏せて戦闘を終える。
一応、周囲には何も居ないのは分かっているが、周囲を確認するようにしてから、武器を仕舞う。
「こんな感じです」
「あの、マコトさん……今のは──無詠唱ですか?」
「そうですね。魔法はイメージが大切なので、魔法句はあくまでもイメージの固定化の為ですね。後は発動するための魔力を込めたら発現出来ます。パーティーで動いている際は敢えて、魔法名を言って知らせるのも有りだと思います」
「……今まで、私は魔法句ばかりを覚えさせられて来ましたから──えっと、なんでしょう……衝撃ですね」
「まぁ、それが常識みたいですからね」
「……エルザさんも出来るのですか?」
「……? はい、一応は……マコトに手解きをして貰ったので」
少しだけ自慢気にしつつもエルザはリディアにそう返していた。
生徒の反応は目を丸くしては驚いたまま固まっていた。
「お、お父さんはこれを知ってるのかな……」
そう、呟いていたカールが印象的といえば印象的だった。
「こ、これで3階層も終わりだ……」
「う、うん」
少しだけ肩で息をしているけれども、瞳に映る意思は滾っているようだ。
ボリスは何もいわずに装備を手入れしては軽く魔法袋から水筒を取り出しては口を湿らせていた。
ナタリアもボリスの横に座っては魔力を回復させているようだった。
「次で4階層だ。……クリア出来るかな?」
「出来れば私は行ってみたいかも!」
「俺もまだ行ける」
「私ももう少ししたら魔力を回復出来るから」
「分かった、ボスに挑んでみよう」
リディア、アルメン、エルザに目配せすると分かってるというように反応を返してくれた。
最初にしては上々の成果だ。
むしろ、ご褒美を上げても良いだろう。
ゴブリンへの対応に関しては上手くやっていると言える。
立ち回りも身に付いている。
適性は充分だ。
ただ、スタミナが不足しているのは否めないが、それは年齢からだろう。
実力を伸ばして行くとしたら、次のステップが必要だ。
そうなると必然的に4階層のボスの突破が必須になる。
さて、どこまで行けるだろうか?
少しだけ、期待を持ちながらも彼らの進み具合に合わせて僕たち教師陣も4階層へと降りる。
「グァァァ!!」
「奥に扉があるよ!」
「イリナ、分かってる!」
「ナタリア! ファイアを!」
「うん──ファイア!」
「ボリス……行くぞ! イリナは中衛をサポートを頼む。ナタリアは魔法と中衛でサポートも頼む!」
「あぁ! 分かった。」
「OK」
「うん!」
ボスだろう。
巨大ないかにもな扉があって開いたら、階下へと続く階段と目の前にはゴブリンキングだろう。
ゴブリンを纏める存在とゴブリン数体が現れた。
「ゴブリンは時間と共に増えるみたいだ! だから、それはイリナとナタリア……! ボリス、僕たちは……」
「あぁ、俺たちはアイツだな」
「そうだ──!」
ふむ。
ベストだろう。
問題はゴブリンキングをちゃんと押さえ込めて倒せるか。
後はイリナとナタリアがゴブリンを引き付けてはキングの下に行かせないように立ち回っては新たにゴブリンが現れる前に倒せるかだろう。
カールとボリスの息は良い感じに合わさっている。
お互いにパリィをしてはスイッチを行使して攻撃を展開させている。
少しだけ足りないのは狙いが荒くて急所を捉えられていない所だろうか?
精度に関してはこれから上げていくのが課題だろう。
後は急所部分や探る癖はこれから磨いて行けばいい。
イリナとナタリアも上手く戦えている。
イリナは片手剣と盾を上手く使いこなしては斬り伏せている。
ナタリアは片手剣とロッドだ。
まぁ……無くはない組み合わせだけれども──ロッドに魔法を最小限に留めては剣のように扱う術もあったはずだ。
今度、教えるのも有りだろう。
二刀流もあるにはあるが、あれは勝手がセンスが無いと難しい産物だ。
「よしっ! ボリス! 今──!!」
「あぁ! 最期だ──!」
「ッ──」
ボリスがラストアタックに転じようとした瞬間には横からエルザが駆け出していた。
ふむ。
心配性だな……でも、僕も手を出すか悩んでいたから良かったかも知れない。
パリィされては怯んでると思われたゴブリンキングだったがフェイントだ。
完全に足が浮き足立ってないのは足元を見たら分かるのだが、それに気付くのには経験が足りなかったようだ。
即座にボリスの攻撃を縫うようにゴブリンキングは反撃へと転じていたが、そこをエルザがパリィする。
「ちゃんと足元も見ないとダメ! 相手の目も見るように、大体の相手は目が語っているわ! ボリス! カール! 今度こそ、ラストアタックよ! ちゃんと仕留めなさい!」
「「は、はい!(あぁ!)」」
「スイッチ──!」
「「はぁぁあ──!!」」
バシュッとお互いに袈裟斬りにカールとボリスは斬り伏せる。
「──!!」
声に無い声を上げて、ゴブリンキングは地に伏せると同じくゴブリン達の動きも止まっては絶命したようだ。
イリナとナタリアもその意味が分かったようで、肩で息をしながらも嬉しそうに手を打ち付けていた。
「まだだよ、ちゃんと周囲を確認!」
「──!」
まだ、気を緩めてはいけない。
僕が声を掛けると一気に弛緩した空気が緊張したものへと戻る。
「……よし、大丈夫そうだ。ダンジョンは何があるか分からないから、最期まで気を抜かないように」
「は、はい……!」
「でも、今日はお疲れ様。回収したら階下に降りよう。転移陣があるはずだから、それで入り口に今日は戻ろう」
「分かりました」
自分の号令を受けては皆、それぞれ回収作業に入る。
そして、ポンッと遅れて音が鳴ったと思ったら中心部に宝箱が現れていた。
「ん? 宝箱か……」
「マコト先生……罠でしょうか?」
うーん?
確かにクリアして直ぐに出ない分、怪しさは満点だけれども、遅くなった理由も分かるには分かるのが難しいところ。
クリアした人達の層を見て精算しては報酬を決めている節がダンジョンの性質上ある。
エルザが介入したのと、僕たち教師陣もカウントに入れていたら、その集計に時間と報酬選択に時間が掛かったとも取れる。
まぁ、うん。
ちょっと試したい事もあるし──。
ちょっと、悪い顔をしていただろうか?
エルザが怪訝な顔で僕を見てきていたが気にしない、気にしない。
気にしたら負けだ。
「ちょっと、先生が見てみますね」
そう言っては手のひらを宝箱に重ねて魔法を通してみると4人分の……うーん?
いや、全知全能さんがリングだと伝えてくる。
品質……グレードは……まぁ、4階層だ。
良くも悪くも低品質だ。
けれども、それじゃ面白味に欠けるというやつだ。
少しだけニヤリと笑ってしまったのかも知れない。
生徒は怪訝な顔を。
リディアやアルメンは、はてなマークを頭上に。
エルザは諦めた表情を。
それぞれ浮かべていたけれども、もう片方の手をダンジョンの床に触れると早速始めてみる。
──?
魔力をダンジョンから引き出そうとしたら、何か詰まっているような感じがする。
まるで血管に例えるとどこかが病気を抱えては、そこで血流が滞留しているような……塞ぎ止められてるような。
とりあえず、応急措置になるだろうけれども、無理矢理ではなく一本一本通りが良くなるように紐解くようにしていくと床に触れた手にダンジョンの魔力が流れ込んでくる。
いや、でも、少しだけ違和感を感じる。
魔力が汚染されてるような気がする。
ダンジョン特有なのかが、分からない為、汚染部分は浄化しては魔力を吸い上げては宝箱へと流し込んでいく。
ガタガタ──ガタガタガタガタ──。
まるで、僕には歓喜するように宝箱が震えてるように見えるけれども。
周りの反応を見る限りは宝箱が悲鳴を上げてるように見えているらしい。
自然とリディアとアルメンは手を繋いでいるし、エルザは少しだけ不安そうにこちらを見ている。
生徒達も宝箱と僕から離れては避難体勢だ。
ムムッ……そんなことは……。
とりあえず、宝箱に注げるだけ注ごうとダンジョンから魔力を吸い上げるが、流石巨体ダンジョン……今までのダンジョンなら、喜びの声……(ギャァァァ!!)と上げていたけれども、何も言わずに吸わせてくれる。
逆に宝箱の様子がおや……?
ガタガタ─ガタガタガタガタガタガタ──バンッ!!
「あっ……」
爆発した?!
もしかして、爆発オチサイテー! って、やつか?!
「良かった……」
いや、爆散したのは宝箱の側だけみたいだ。
宝箱のあった場所の床にはなんて事の無さそうに見えるだけの指輪が4つ落ちていた。
とりあえず1個拾ってみる。
【error※※※リング──不明】
身体の疲労を軽減する。
※捕捉事項※
勘弁してください。
──ん?!
勘弁してください?
なんだこれ。
いや、捕捉事項は多分種族が神だから、それか称号の世界調律者か、調停者のどちらかか、何かが反応しては見れているみたいだ。
とりあえず、これはダンジョン? いや、宝箱からのお願いと捉えて良いのだろうか……。
その宝箱は今、爆散したばかりなのだけれども……。
とりあえず、宝箱に合掌をしておこう。
宝箱にも心はあったのかも知れない。
多分、errorや不明なのは僕が手を加えすぎてしまった影響だろう。
効果は多分、スタミナ不足を改善させようと思って魔力を注いだ影響だろうか。
指向性を持たせられるなんて……やだ、これチート。
まぁ、その度に宝箱ちゃんが爆散しそうな気配がするけれども……し、仕方ないよね?
ゾクッと──背中に視線を感じて振り向いて見ると意味深な目でエルザが見てきていた。
……あはは。
うん、冗談冗談。
気を付けよう。
これはあれだ──そうだ。
「ほら、おいで……僕からの──先生からのプレゼントだ」
「……マ、マコト先生……今のは」
「ん? 君たちは何も見ていない、いいね?」
「は、はい……」
「リディアさんと、アルメンさんも……良いかな?」
「ハハハ……」
「さ、4人分あるから、1人1個だ。身体の疲労を軽減してくれる効果が付属されてるから大切に使いなさい」
「えっ、でもマコト先生……ドロップ品の能力の確認って専門の人や協会じゃないと分からないんじゃ……」
「……君たちは何も聞いていない……うん、いいね?」
「「「は、はい……」」」
パワハラでは決してない。
うん、これは……その、愛情だ。
うん、愛情だ。
ウンウンと頷いては生徒含めて皆を5層へと進ませる。
5層へ降りたら早速、脇に転移陣があったので、入り口へと念じると目の前が揺らいだと思ったらダンジョン入り口に戻っていた。
「はい、今日は後は素材を売り払ったら終わりです! 金銭に関しては等分で皆で分け合うように」
「えっ! いいんですか?」
「君たちの手柄だからね」
「──!!」
ボリスの瞳が嬉しそうに輝いているのが印象的だった。
そして、冒険者ギルド御用達の素材買い取り場所へ持っていっては精算をしたら、皆で分け合っていた。
「マコト先生! お腹すきました!」
「うーん、皆はこの後の予定は?」
「私たちは特には」
「僕たちも」
「俺は……すみません、食わせたいやつらが居るので……」
皆が声を上げるなかで、申し訳無さそうにボリスが断りを入れてきていた。
「ん? 食わせたい……? なんかあるの?」
「……すまない。とりあえず俺は今日はこれで、ありがとうございました」
少しだけ顔を暗くさせつつ、ボリスはサッと離れては人混みに消えて行ってしまう。
「うーん、何かあるのかな?」
「でも、カール。必要ならボリスから話してくれるんじゃない?」
「それもそっか、イリナ達はどうなの?」
「私はナタリアが行くなら」
「わ、私は……お母さん……大丈夫かな?」
「お母さんの分のお土産も帰りに買っていこうか?」
「うん!」
妥協案では無いけれども、そう言うと、行きたかったのだろう、嬉しそうにナタリアは頷いては隣へと駆け寄って来る。
「じゃ、僕の奢りで何か食べましょう! そう言えば、ノルトメ商会の系列店があったはず……」
「ノルトメ商会! 人気店だ! やった!」
カールが嬉しそうに反応する辺り、繁盛していそうだ。
少しだけ歩くとノルトメ商会のお店が見えて来ては中に入ると、僕の事に関してはセルゲイから伝わっているのだろうか?
待っているお客さんも居たけれども、奥の席を空けてくれては案内してくれては沢山ご飯を食べさせて貰えた。
その後はカールはリディアとアルメンさんが途中まで、家が近いイリナと一緒の住居に住んでいるナタリアは僕とエルザが送って行く事になった。
「ダンジョンはどうだった?」
「うん、凄かった!」
「ナタリアはずっとお父さんと……その潜りたがっていたものね」
「うん……一緒には潜れなかったけれども、お父さんの教えてくれた戦いかたは出来たと思うんだ」
「やっぱり、そうだったのか」
「え?」
「いや、ナタリアの動きはどこか手解きを受けた印象だったからさ」
「えへへ……小さい頃からイリナもだけれども、お父さんから軽く教わっていたんだ」
「そっか……」
だから、あんなに上手く立ち回れていたのか。
カールは父親が有名クランのリーダーだから説明が何となく付くけれども、そうなるとボリスは誰から手解きを受けたのだろうか?
彼の動きはどこかモンスターではなく、対人用の動きに見えたけれども──今は深く考えても仕方ないか。
「そう言えば、ナタリア」
「ん?」
「剣とロッドを両手で使っていただろう?」
「うん、仕方なくだけれども……」
「そっか、二刀流にこだわりが無ければ、ロッドに最小限の魔力で刃を持たせる方法もあるから試してみるといい。刃以外でもイメージ次第では応用が利くから、色んな立ち回りに使えるはずだ」
「えぇ! そういうのもあるの?」
「魔法は基本的には万能だ。それを人の想像力が可能にしていくんだ。覚えておくといい。それで、良ければ教えても良いけれども、学んでみるかい?」
「うん! お願いします!」
「なら、明日から少しずつ教えよう」
「やった!」
「マコト先生! 私にも何か……アドバイスみたいなのは……」
「イリナはそつなく、剣と盾を運用出来ているから今のところは大丈夫かな。けれども……今後は敵の引き付け方や、タンクの動きを意識してみると良いかも知れない」
「……うん、分かりました」
「ま、初日でこれは本当に良い成果だよ。今日の指輪は皆へのご褒美だよ」
「「ありがとうございます」」
ニコニコと仲良く笑うイリナとナタリアを見つつ、隣を見やると少しだけ妬けている雰囲気のエルザが居た。
「エルザにはまた今度、ちゃんと埋め合わせをするよ」
「べ、別に……うん──待ってる」
「可愛いやつだ」
「んもぅ……」
手を繋ごうとしたら、小さな抵抗をしたフリをしてはエルザの方から繋いできてくれる。
そうやって、イリナを送り届けたらナタリアを待つ方舟亭へと帰ってきた。
タチアナはずっと待っていたようで安心と嬉しそうにナタリアを出迎えてくれた。
タチアナへのお土産を渡しつつ、僕たちは軽く食べる形で、ナタリアの今日の話を嬉しそうにタチアナは聞きながらご飯を楽しんでいた。
そして、夜も遅くになってはまた明日に備えて僕たちは上の借りている宿へと戻る。
部屋はタチアナさんが綺麗にしてくれていた。
お布団もお日様の香りがする。
手早く、仲良く一緒にお風呂を済ませては一緒のベッドで僕とエルザは今日の気付いた事や、明日の事を話しながら眠りに就くのだった。
無事に4層を突破です。
やはり無詠唱魔法というのは常識ブレイカーの権化になり得ます。
そして、彼らの学びは次のステップ……5層~へ。
しかし、ダンジョンの魔力の淀みは原因不明。
色々と抱えつつも物語は次章へ。