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方舟亭へようこそ! まずは挨拶から。そして、冒険者ギルド本部へ! こちらもまずは挨拶から。え? 養成所ですか?

方舟亭。

冒険者の間では定評の宿場でもあった。

冒険者を兼業している主人が居ては切り盛りをしていた。

けれども、今はその姿は遠い過去のものに風化していっていた。

「こちらの路地の先になります。表通りは主流な道になりますので、人の往来が多いですが、裏通りは井戸なども有り、生活の場になっております。教会は……そうですね、信頼のおけるのは冒険者ギルド方面の方が良いですね、何かあれば治癒はそちらでも、後は……やはり冒険者ギルドの方面の方が食材も溢れているかもですね。うちにも色々と有りますが、まだまだ基盤を整えている最中というのが本音かもです。では、こちらになります! 少しお待ち下さい、今……中を確認してきますので」

そう言いつつ、従業員の青年はノックをしてから2階建て住居の1階の住居へと入っていった。

中から少しだけザワザワと音をした後に元気な女の子が出てきた。


「えっと……いらっしゃい! って、本当にお客様? 私と年齢が変わらないような……?」

「こ、こら! ナタリア! お客様に……って、あら? 本当に若い子ね?」

「え、えぇ……ですが、そのちゃんとノルトメ商会としても保証出来るお客様で有ります!」

「あはは……」

「ま、マコト様すみません……」

「ううん、まぁ……普通の反応だと思うよ?」

「マコト? マコト……マコト……あ! えっ?! あのマコト?!」

「どうしたのナタリア?」

「お母さん! あの噂のだよ!」

「え? え?! で、でも……えぇ?!」

「お2人とも、すみません、詳しくは中で……あっ、マコト様達もどうぞ……!」

「あはは……エルザ、行こうか?」

「うん? そ、そうね……」

従業員の青年が慌てて周囲を見てから、母娘を家に押し入れつつ、僕たちを迎え入れる。


「タチアナさん、それにナタリアちゃん……その静かに。お客様にもプライベートがありますから!」

「あっ……ごめんなさい」

「す、すみません……私ったら……娘と共に謝罪致します」

「あー、いえ、まぁ……身分は出来るだけ大きくはしたくないので気をつけて貰えたらと思いますが、いつかはバレてしまうかもですが……そうですね。今はもう少しだけここを満喫したいので、秘密にして貰えると助かります」

「え? やっぱり、そうなると本物なの?!」

「そうですよ! お客様は本物です!」

「な、なら、この方は王女様?! エルザ様なの?!」

「えっと……エルザで大丈夫よ? ナタリアさんでしたっけ?」

「ナタリアであってます! え、えっとナタリアで大丈夫であり……ます?」

「ふふふ、敬語じゃ無くても大丈夫ですよ」

「う、うん、そう……なら、助かります!」

どうやら、あちらは上手く打ち解けられそうだ。

問題は目の前の奥さんのタチアナの方かな?

少しだけ気丈に振る舞っているけれども、部屋の中を見渡す感じと本人の雰囲気的にまだ立ち直れていないのも窺えるし、娘のナタリアの方も無理して明るく振る舞ってる感じがする。

チラッと従業員の青年を見やるとバツが悪そうに頭を掻いては軽く会釈してきたときた。

どうやら、結構……色々とケアが必要らしい。


「うん、案内ありがとう御座いました。後は僕の方でタチアナさんと話してみますので大丈夫ですよ」

「わ、分かりました! 何か有りましたら気兼ね無くノルトメ商会にお越し下さいませ! では、私はこれにて……」

ササッと行ってしまったが、まぁ……うん、部屋の中も少々埃が被ってる所がある。

暫くまともに生活出来てなかったのだろう。


「タチアナさん?」

「……ぁ、す、すみません。私ったら」

「大丈夫ですよ。これからよろしくお願い致しますね?」

「本当にうちなんかで良いのですか? その、うちは……」

「今は少しずつ、少しずつ行きましょう。ある程度はセルゲイさんからも窺っております」

「あっ……」

「今日は食事は取られてますか?」

「えっと……まだ……」

「エルザ、ナタリアさん……で大丈夫かな? タチアナさんも含めて、皆でまずは買い物に行きましょう」

「あっ……そんな、お金は……」

「気にしない、気にしない。後は……実はまだ来たばかりで周囲を良く分かっていないのです。穴場とかあれば案内して貰えたら、その報酬に食材とかにしませんか?」

「あっ! それなら、私が! ね? お母さん、行こうよ……?」

「えぇ、そうね……」

「マコト、荷物は……」

「貴重なものは既に持ってるし、セルゲイさんも気を遣ってくれるはずだから大丈夫だよ。エルザは大丈夫そう?」

「うん、人混みも慣れないとだし、私も行くわ」

「なら、決定だね」

僕とエルザはこのままで良い。

タチアナとナタリアは小走りで奥の部屋に消えては着替えてる音が聞こえてくる。

早くしないと……! と聴こえては来たので、ゆっくりで良いと伝える。

その間に新めて部屋を見渡すと……必要最低限は掃除とか生活の後はあるけれども、多少ゴミが溜まっていたりと、精神状況の悪さが見て取れる箇所が点在していた。

仕方ない事だろう。

お父さんを亡くしたのだ。

それも実際は消息不明のパターンだ。

冒険者とは危険も付き物だ。

その一端を垣間見てしまったとも言える。

幸せとは常に寄り添いあってるものではない。

エルザもそれに気付いては少しだけ心配そうな暗い表情を見せたので、軽く頭を撫でる。

それで、ある程度は暗さを取れたのなら御の字だ。

2人の母娘が着替え終わってからは僕たちは近場へと買い物に出掛ける事にする。


「えっと、裏手側は水場とかあって、用水路とかも裏手にあるよ!」

「へぇ、用水路が……」

「うん、ダンジョン内に引き入れているの」

「ダンジョンに?」

「エルザも聞いたことがあるだろう? ダンジョンは周囲を取り込んで成長していると、だから汚水等も中に引き込めば自然の浄水場にもなるって事かな」

「……それって確かデメリットがあったんじゃ無かったっけ?」

「ちゃんと王立学校の学びはあったね。確かに、そうだよ。周囲を取り込んで、ダンジョンは形成されていくから、取り込むものによって、ダンジョンの中は変わっていくんだ。だから、本来は余りダンジョンを利用しての都市などの計画は立てないとは思うけれども」

「ロマレンはダンジョンに寄り添って都市が出来てるって琴だよね?」

「そうだね。その通りだ」

「あっ! お母さん! 見て! このお肉お買い得だよ!」

「え、えぇ……今、行くわ」

本当に久しぶりに外に出てるみたいだ。

近所の方から、度々大丈夫だった? と心配されてる光景が見受けられる。

ナタリアのお肉も店主が気遣ってくれてるのだろう。

その顔には久しぶりに近所の方が外に出てくれて安心したような表情が見て取れる。


「沢山買っちゃった!」

「こんなに沢山……えっとお金は……」

「タチアナさん、大丈夫ですよ。そうですね……台所借りても大丈夫ですか?」

「えっ? あ、はい」

「マコト、料理出来るの?」

「そうだよ、それなりに出来るんだから、楽しみにしててくれ」

「へぇー」

「エルザ、タチアナさんとナタリアに聞きつつ、食べるところの準備お願い出来るかな?」

「うん、分かったわ」

うん、ナタリアとも買い物を通して、距離感を掴めた気がする。

食材を台所に並べる前にまずは綺麗に掃除をしないとかな。

先ほど、ゴミが溜まっているのを見ては料理は暫くはしてなさそうだと思ってたけれども。

以前はしていた形跡が沢山だ。

やはり、心の時間が止まってからは全てが停滞してしまったのだろう。

頭の中で所詮は生活魔法とも言えるだろう。

魔法を創造していく。

水魔法と風魔法を主にしては周囲を綺麗にしていく。


「うんうん。良い感じだ。さて、まずは食材を並べないとかな」

先ほど、買ってきたものを買い物袋……兼、簡易収納袋から取り出しては並べていく。

野菜とかはふわりと浮かせては水魔法と風魔法でくるくると回転させつつ綺麗に洗い上げる。


「さて、まずは下準備かな」

野菜をそれぞれ切り分けてはボールに入れていく。

野菜の大きさは今回の料理的には火の通りを均一にするのに揃えていくことにする。


「次はお肉かな……。先ほどの店主は良い肉をくれたみたいだ」

うん、良い肉だ。

安売りだからって、押し付けてたけれども。

全知全能を使わなくても、一目見て良い肉なのは分かっていた。

牛……うん、牛だな。

前世とこちらの牛も似たようなものだった。

だから、牛肉と言ってしまうけれども5~6㎝大に切っては、塩・こしょう各適量を振り付けては下味をつけていく。

この世界の調味料、食材をノルトメ商会で探す度に、前世と変わらないものが溢れているのに気付かされる。

多分、何かしらの理由はあるのだろうと今は見当を付けるだけに留めている。

考えすぎたり、答えを知ろうとすると痛みから気を失うのは分かりきっていたからだ。

これは本格的に全知全能さんがレベルMaxになるのを待つしか無いだろう。


「よし、焼いていくか」

ま、考えても仕方ない。

今はお肉を焼いていく。

ジュー──ジュー──。

と、香ばしい匂いと音を立てつつ全体にしっかりと焼き色をつけていく。

ヒョコヒョコと気配を感じては振り替えると、エルザとナタリアがこちらを見ていた。

少しだけ笑ってしまったけれども、料理に移る。

タチアナの方も2人に隠れていたけれども、香ばしい匂いと音には抵抗出来ないのか、チラチラと興味深そうにこちらを見てきていたから、作戦通りだ。


「油をひいて……と」

そのまま、野菜を焼いていく。

水分を飛ばすためにも軽く塩をふって炒めていく。


「よし、火力を少しだけ落として……」

火力は魔法で今回は行った。

絶妙な調整はこれに限る。

まぁ、余程の魔力制御の実力があるか、火魔法が得意な人しか出来ないだろうけれども。

僕の場合は問題はない。

野菜を少しずつ入れては鍋底に焦げがつかないように木べらと風魔法を総動員してかき混ぜつつ、野菜全体にツヤが出るまでしっかりと炒めていく。


「今度はトマトを……入れて」

酸味を飛ばすイメージで加熱しつつ、野菜にしっかりとなじませていく。


「後は赤ワインを……」

アルコールだ。

ちなみにノルトメ商会からは白ワインも絶賛売りに出している。

売れ行きは凄いことになっている。

お茶もだけれども、アルコールの類いは革命を起こしてると言っても他言ではない。

冒険者ギルドとも提携を組んでは今は併設されてる酒場などでも提供されている。

ま、話しは置いておきつつ、弱めの火力で煮込みつつ、次の行程に移る。


「後は味に濃さと深みを出すのに……」

こっそりと指輪からデミグラスソースとチキンブイヨンを取り出す。

これは僕オリジナルのものだ。

まぁ、ノルトメ商会でも取り扱い始めているけれども……これから一気に売りに出す予定の代物だ。


「後は……お肉と香草を入れて……」

そこからは時間を敢えて掛けてみた。

理由はエルザにタチアナとナタリアとの距離を掴んで貰えたらという理由と、所詮はまだ出会ったばかりの僕たちだ。

何かしらタイミングが無いと話し合う機会は作れないと思ったからだ。

良い匂いをさせながらだったら、空気も悪くはならないだろう。

時たま、ポンポンと僕の方にも質問を投げ掛けられては答えつつ、アクを取りつつ、ソースが煮詰まり過ぎないように煮込んでいく。


「うん、良い感じかな」

少しだけ、すくっては味を確認する。

理想していた味だ。


「エルザ、ナタリアお皿を」

「すごーい、これは……何て言うの?」

「うーん、ビーフシチューかな」

「わぁ、久しぶりにマコトのシチューだわ」

「……良い匂い」

「後は、パンを……どうぞ」

「ふわふわ……!」

「本当に何から何まで……」

「いえ、お気になさらずに。これからお世話になる身ですから」

「でも、うちは……私は──」

「お、お母さん……」

「旦那様は……グセフさんはその……」

「エルザさん、ごめんなさいね。そんな心配そうな顔をさせちゃって……分かっているの。あの人はもう戻ってくる事は無いって。けれども、遺骨も遺品も何もなくて、私は……私は……。今日も稼いでくるからって、あの人は……」

「お母さん……」

そっと、ナタリアはタチアナの背中を撫でてはうつ向いたタチアナからは涙と押し殺した声が聴こえてくる。


「冒険者ギルドからは何かしらの連絡は?」

「ううん、無いの。それにね……えっと……」

「大丈夫。言ってごらん。これでも、僕はプラチナランクなんだよ?」

「う、うん。そのね、クエストを受けたらしいのだけれども、そのクエスト自体が何故か抹消されてるみたいで。それで、ただのダンジョンに入り込んだ扱いで、何も補償も無いって……」

「そう、そうなの……。だから、あの人の事に関して冒険者ギルドは……! 何も! 教えて……うぅ」

「……でも、実際にダンジョンに入ったのは……それは……」

「それはセルゲイさんがノルトメ商会で調べて下さったの……」

「マコト……何かおかしいの、変なの……でも、私もお母さんも何も出来なくて──」

「マコト……」

「いや、エルザ。うん、分かってる。2人とも顔を上げて、ナタリア? 明日、冒険者ギルドに案内してくれないかな?」

「え?」

「僕からも調べてみるよ。確かに聞いてる限りでも、今の話しは変だ。本来だったら、もっと早急な対応や、補償があるのが普通だ」

「マコトさん、良いのですか? 迷惑が……」

「構わないよ。それにもう、一緒の家に住む仲じゃないですか。頼ってください」

「……! あ、ありがとう御座います。ありがとう御座います……!!」

「とりあえず、冷めないうちに食べましょう?」

「「は、はい!」」

「マコト、ありがとう。えっと、頂きます」

「頂きます?」

「うん、そう言ってから食べてるんだ」

「……うん。分かった。頂きます」

「頂きます」

「さ、食べよう」

自分も頂きますをしては食べ始める。

シチューの暖かさか、部屋の空気の暖かさか。

確かに溜まっては停滞していた空気が緩やかに動き始めるのを感じたのだった。


「──あ」

「どうしたのお母さん?」

「私ったら……まだ、上の掃除が……」

「あぁ……!!」

「い、今やりにいきますので……」

「大丈夫ですよ。皆でやりましょう」

「そうね、マコト」

「私も頑張る!」

「えっと……ふふ。では、お願い致します」

その後、食べ終えては片付けてから皆で2階に上がっては掃除を始める。

家具とかは備え付けであったから、良いけれども、埃などはあるので、どんどん魔法をフル活用しては綺麗にしていく。

布団も風魔法と火魔法で、フワフワに乾燥機の応用でしていく。

クリーナーをイメージした魔法で殺菌と除菌もしつつ、パタパタと4人でせっせと動いたら、スムーズに終えられた。


「本当に何から何までありがとう御座います」

「マコト、エルザ! お休みなさい。明日、案内は任せて!」

「ふふ、お休みなさい」

「あぁ、お休み」

2人が下に降りたら、僕たちはゆっくりとソファに腰を下ろす。


「ねぇ、マコト。どう思う? さっきの話」

「冒険者ギルドの話だよね」

「うん……」

エルザの顔は複雑だ。

それはそうだろう。

彼女と関わりのあった冒険者ギルドといえば、王都とルソーレの冒険者ギルドであり、それらはあくまでも彼女にとっても誠実で暖かみに富んだものだった。

それが今回みたいに不誠実で揉み消しがあったような話が出るような印象とは縁が無いものだった。


「どうだろうね。ただ、1つ言えるのはこの都市ロマレンは一筋縄ではいかなそうというのだけは確かだと思うよ」

「……うん」

「明日、それを確かめに行こう。とりあえず、話してみないと分からないからね」

「そうだよね」

「あぁ。だから、今日は眠ろうか」

「……ね、ねぇ」

「ん?」

「別々の部屋で眠るの……?」

「……」

心得ておりますとも。

ベッドはそれぞれ違う部屋にあったけれども、一旦収納空間へしまってから、同じ部屋にくっ付けて並べる。


「さ、寝よう?」

「えへへ……」

ここの方舟亭の良いところはなんと、お風呂を備え付けてあったことだ。

冒険者の宿泊者が多かったのもあって、優先的に取り入れていたのだろう。

エルザと一緒に済ませては腕に抱きついてきたエルザと共に一緒にその夜は眠りに就くのだった。


ガヤガヤ──。


「ん……」

「スゥ──スゥ──」

外の賑やかな生活音と窓のカーテンの隙間から暖かな光が部屋を照して始めては僕は目覚めたのを自覚する。

隣を見たらエルザが足を絡めては気持ち良さそうに眠っていた。


「エルザ……エルザ……」

「ん……」

暫く、撫でながら声を掛けるとパチッと綺麗な瞳が開かれる。


「おはよう」

「ん……おは、よう……」

「さ、支度しようか?」

「うん……」

随分と気持ち良かったらしい。

まぁ、ここまでそれなりの長旅だったからな。

のんびりと支度を整えては下に降りてはドアをノックするとドアの向こうから元気そうで、でも緊張したナタリアの声が聞こえてくる。


「は、はい! 今、行きます!!」

「おはよう御座います、マコトさん」

「おはよう御座います、タチアナさん」

「ちょっと待っていてね。……ナタリアー?」

「今! 今、行くー!」

「ごめんなさいね。私もあの子も緊張しちゃってて。その……今日はよろしくお願い致します」

「ええ、任されて下さい。自分も気になっているので、出来る限り確認してきますので」

「本当にありがとう御座います。少しでも良いの……あの人の……グセフの事を知りたい……」

「「……」」

「ごめんなさい! お待たせ!」

タチアナが少しだけ瞳を潤ませた所で娘のナタリアが準備を済ませては顔を出す。

タチアナは笑顔に切り替えてはナタリアの頭を撫でては気をつけてと声を掛けて、僕たちを見送ってくれたのだった。


「ここからは冒険者ギルドのエリアかな?」

クルっと前を歩いて案内していたナタリアが振り返って、手をスッと線を引くようにしてから言った。


「それまでは生活圏? って、感じかな」

「確かにちょっと雰囲気が変わってきてるかも?」

「エルザも分かるようになってきたね」

「うん。少しわね」

主に人の雰囲気が変わっている。

どこかピリッとした雰囲気を纏わせている人が増えて来ていた。

人によってはゴツい装備を見せびらかすようにしている人も居たが、それはそれで醍醐味なのだろうが──人の往来の激しい、この場所ではカモに適した人とも言えそうだった。


「ここ! ここが冒険者ロマレンの……ううん、冒険者ギルドの本部!」

スタスタと人の往来の中を歩いて行くと、上に一際貫くようにそびえ立っていた建物に突き当たる。

そして、ナタリアがここが冒険者ギルドの総本山……そう、統括本部だと案内してくれる。


「すごい……何階なんだろう?」

「どうだろうね。空間魔法も感じるから、実際はもっと中は複雑かも知れないね」

「マコト、分かるの?」

「まぁ、ちょっとだけね。さ、行こう。ナタリアも待ってるよ」

「うん」

ナタリアが扉の前で待っている中、僕たちも合流しては冒険者ギルドへと遂に踏み入れる。


「人が多い……」

「流石はギルド本部って事かな?」

「マコト、エルザ……受付はあっちだよ!」

中は人でごった返していた。

もう少しで第2の鐘……午後をお知らせするような時間にも関わらずに人で溢れかえっていた。

これなら、第1の鐘の鳴る時の朝は想像に絶する多さなのだろう。

とりあえず、僕とエルザの手を取ってはひいて案内してくれるナタリアに着いていくのだった。


「あ、あの!」

「えっと……君は?」

「ナ、ナタリアです!」

「えーと……あ、君は……えっと……」

受付の1つにやってきてはナタリアは受付のお姉さんへと声を掛けていた。

その他の窓口も人で埋まっていたが、なるほど……総合窓口みたいな感じかな?

書類に目を落としていた受付の人だったが、ナタリアの名前と人の特徴を捉えると気まずそうな顔をしては態度をあからさまに変えてきていた。


「えっと、ごめんね? 君みたいな子は受け付けられないの」

「え? だって……」

「これは規則なの」

「そんなのどこにも……」

「あー……もう……」

「あの、失礼。彼女には僕から案内をお願いしたのです。重ねて、彼女の質問にも答えて貰いたい」

「ん? あなたは誰? ここはあなた達のような人が来る場所じゃないの」

「あっ、そうですか。それなら、向こうが空いたので同じく聞いてきます」

「ふんっ、勝手にしてください」

「えっ、でも……」

「いいんだよ、ナタリア。おいで」

「う、うん」

あの受付の人はダメだな。

受付の人と言うよりは箝口令かんこうれいでもしかれているのか?

全くナタリアの話を聞こうとしていない。

それに変に目立ってしまったようだ。

他の受付の人や雇われの冒険者ギルドの職員にも目を向けられてる気がする。

これじゃ、空いてる所に言っても同じ対応をされるのが関の山か。

仕方ないか──。

聞く耳を持たない相手を話し合いの場に立たせるのに挨拶は必要だよね。


「エルザ、ナタリア。こっちに──」

「え?」

「何するの?」

「ん? 挨拶だよ。向こうが聞く耳を持たないのなら、聞く耳を持たせるだけ、だろ?」

「え? それってどういう……」

ドンッ──と音がするような錯覚に陥るほど、濃い魔力を一気に放出する。

自分の傍に抱き寄せた、エルザとナタリアには魔力の重みは襲い掛からないが周囲はそうはいかない。

人によっては急な魔力の濃さで魔力酔いを起こしてはふらついたり、その場に倒れ込んだり、吐いたりしている人も居る。

先ほどの受付の人や、僕たちに対して疑惑の目やあざけりに近い目で見ていた冒険者ギルドの雇われ冒険者も等しく同じだ。

まぁ、巻き込まれた人は……傍観者に徹した罰ということにしておこう。


ジリリリリリ──。

と、警報音が聞こえてくる。

けれども、暫く立っても人は来ない……いや、正確には到達出来ないのだろう。

来たくても途中で魔力に押し潰されてはリタイアしてるとみた。


「マ、マコト……これ、何起きてるの?」

「ん? 挨拶だよ?」

「エルザ……マコトの挨拶ってこんななの?!」

「んー……あはは、慣れが必要かも、ね」

ナタリアの驚きの目を、エルザはどこか遠くを見るような目で応えていた。

失礼な。

これでも、誰も傷付けてはいないというのに。

少しだけ名誉を傷付けはしてるけれども、こちらに対する態度でお相子あいこだろう?


────ズゥゥゥン。

ずっと魔力を垂れ流し続ける。

次第に周囲の苦しみの目から恐怖に変わっていってるのが手に取るように分かる。

基本的に魔力とは有限だ。

どこかから無限に沸いて出るような代物ではない。

人にはそれぞれの魔力量があって、基本的にこうやってただ放出するだけでも、基本的にはすぐにガス欠に陥って、放出者は情けなくも気絶するか倒れるのが関の山だ。

けれども、自分の場合は違う。

単純に周囲の魔力を息をするように取り込めるし、逆に放出も出来る。

だから、無限に近いことも出来る。

そう……それを知らない彼らはただ、その今目の前に起こってる非現実に恐怖するしか無くなっているということだ。


「けれども、いつまで続ければよいかなぁ」

「え?」

「マコト? 何言ってるの、すぐ止めるべきじゃないの?!」

「止めるのは構わないけれども、そしたら、ずっと口を聞いてくれなくなるし、お父さんの事分からないままだよ? 彼らは君が聞いた時の不審な動きには気付いただろう?」

「ッ──」

「正攻法で上手くいかないのなら、変化をもたせるしかないのさ」

「でも、マコト? いつまで続けるの?」

「エルザ……そうだね。多分、僕の予想だとそろそろ……ほら、来た」

話し続けながらも魔力の放出を止めない中、冒険者ギルドの扉が開かれては奥の部屋から3人の人物が出てきた。


「お前かッ──!!」

「あっ、マキシム待って!」

「はぁ、今度は暴力か」

「この野郎──!!」

ズゥゥゥン──と、更に魔力を強くすると何人かが泡を吹いては気絶していく。

こちらに飛びかかって来た、筋肉ダルマの野性味溢れる男性は攻撃の速度が目に見えて落ちていた。


「暴力には暴力をですよ」

「こ、のやろ──」

「ちょっと、失礼──」

スッとエルザを抱き寄せていた手を自由にさせて、飛び掛かって来ていたマキシムの拳をはね除けては逆に殴り返す。

面白いようにマキシムは飛び掛かって来た側へと飛ばされては屋外へと壁を突き破っては飛んでいった。

そして、空いた箇所から魔力が爆発したように漏れ出ては外も阿鼻叫喚となっていっていた。


「あなた! あなたは何をしたいの……!! 止めなさい! さもないと……」

「さもないと? 何? それが冒険者ギルド本部の対応かな? 地に落ちたものだね」

「言わせておけば……!」

「待て、エレーナ!」

隣の老人が止めようとしたが遅かった。

エレーナは杖を取り出しては魔力をこの中でも何とか纏めてはこちらへと攻撃を仕掛けようとしていた。


「愚かだね」

「な、に、をッ──」

「何故、魔力が支配されてる中で魔法を選択する? 余程の自信があるならば、別だろうけれども、そもそも纏めて形にしただけに過ぎないのなら、操作権もすぐに奪われる。この通りに、ね」

「なっ……!?」

エレーナの魔法をこちらに主導権を奪う。

エレーナの発現しようとしていた魔法を高速に書き換えては別の事象へと昇華させる。

そして、目の前で爆風を起こしては同じくエレーナも屋外へと新たに壁に穴を空けては吹き飛ばす。

同様に魔力が漏れ出ては阿鼻叫喚が巻き起こっている。


「なんだ、このギルド? 話し合いっていうのが出来ないのか?」

「マコト……話し合える人が居ないの間違いじゃないの?」

「ナタリア? エルザは分かってると思うけれども、僕以上に紳士的な人は居ないよ」

「エルザ……そうなの?」

「う、うーん……あはは」

エルザのどこか残念な目で来るが気にしない。

気にしたら負けな気がする。


「それで、残ったあんたは話し合い……応じてくれるのでしょうね?」

「まずは……この魔力を解いて貰えないかの?」

「解くのは構わないけれども、こうなったのはそちらの落ち度だ。今から話す内容に真摯に応えているのなら、考えよう」

「……わかった」

「さ、挨拶は済んだから、ナタリア? 聞いてごらん」

「えっ?」

「彼なら応えてくれるはずだよ。彼が応えないなら……ギルド本部が無くなるだけさ」

「冗談だよね?」

「さぁ?」

「……はぁ、ありがとう、マコト。うん、聞いてみる」

エルザの反対側のナタリアを抱き寄せていた手を話してはナタリアを自由にさせる。

彼女の周囲の魔力を調整しつつ、彼女が話しやすいようにする。


「あの、私はナタリアと言います」

「ふむ。ナタリア……ナタリア……」

「はい。聞きたいことがあって、何度も母とも冒険者ギルドを訪れたのですが、いつも無碍むげにされてきました」

「ん? いや、私の冒険者ギルドにとって、そんなことは……」

「はぁ……何を言ってるんだ、あんた? そんなことがあったから、今になってるのだろう?」

「む……」

「それで、聞きたいことが有ります。父の事です。グセフという冒険者は知っていますか?」

「グセフ……? はて……」

「冒険者ギルドで手配されたクエスト中に亡くなった、私の父です……!! でも、遺品や情報も開示されず、更にはクエストなど無いと言われて補償も何もかもされずに追い出されました……!!」

「な、にを……」

「はぁ、あんたは何も知らないのか?」

「し、知らぬ……」

「なら、そこの受付を起こすか。おい、起きろ」

「……はっ! 私は……こ、こは……? え?」

「お、教えろ。こいつらに何を聞かれた?」

「会長?!」

「おっと、正確にちゃんと真実を応えないと。冒険者ギルドもお前も、そこの会長なのか? この老人も許さないぞ?」

「うぐっ……」

そして、スタスタと歩いては老人を魔力を強めては動けなくしては締め上げる。

受付嬢は身体をガクガクと震わせては顔を蒼白に変えては目を見開いていた。


「ナタリア? もう一度、そのお姉さんに質問してごらん」

「う、うん」

「わ、わわ……私は……!」

「おっと、気絶するな。そんなことは許さないぞ? 後は口以外を動かすな?」

「ぐっ……」

「あんたもだ、会長さん?」

「おま、え……」

「さ、ナタリア。聞いてごらん」

魔力を這わせては周囲の動きを封じる。

屋外の騒ぎも静かになっていたが、気絶したか恐怖で動けないだけだろう。

外に向かうほど濃い魔力は薄れるはずだが、逆に言えば今も広がっている。

ま、プチパニックになってるかも知れないが知ったことではない。


「ナタリアです。教えて下さい……お父さんのこと。グセフのことです」

「わ、私は何も知らな……」

「ウソをつくな」

「ガハッ」

「会長……!!」

「脈が……動悸でウソがバレバレだぞ? これ以上つまらないウソを吐くのなら、こいつの命はないぞ?」

「し、真実をいうのだ!」

「わ、わた、私は……!! ナタリアという娘のいうことは封じろと言われただけで……!」

「誰からだ?」

「い、言えない……!!」

「何故、言えないんだ?」

「あ、あ……アァ!! アアアアァ───!」

「……呪いか」

コトッと生気が無くなったのが分かる。

受付嬢はそのまま息を引き取っていた。


「おま、え……!!」

「静かに……今呪いの元を辿ってる、行けッ!」

光を生み出しては呪いの発生の魔力を追わせる。

そして、一気に冒険者ギルドを離れては貴族街に行ってはある場所で魔力の糸は切れた。


「……こいつで、いいか。起きろ。ロマレンの地図を持ってこい」

「は、はい……!!」

1人、また受付嬢を起こしてはロマレンの地図を持ってこさせる。


「さて、あんたの名前は?」

「わ、私は……会長のアレクサンドルだ」

「アレクサンドルか。分かった。ここの場所はなんだ?」

「ここは……何故、ここなんだ?」

「?」

「マコト……ここはこのロマレンの領主のマンチーニ公爵邸だよ」

「マンチーニ……そっか。ナタリア、君のお父さんはマンチーニ公爵と何か関わりがあったのかい?」

「え? お父さんはそんな貴族と関わりなんて……」

「そっか、分かった。おい、そこの受付嬢。次はマンチーニ公爵依頼のクエストを直近のを持ってこい」

「えっ?」

「急げ」

「は、はい!」

そして、受付嬢は直近のマンチーニ公爵依頼のクエストを持ってくるが……。


「何故、全部不透明なんだ? この冒険者ギルドの承認の得ていないクエストはなんだ? それにこれは補償も何もない、クリア報酬もなんだ、これ?」

「わ、私は何も分かりませ……」

「いや、分かるはずだ。全ての依頼は冒険者ギルドを通されるはずで、承認もクエストの張り出しや派遣や請け負いも全ては冒険者ギルドを通している。それが何が分からないんだ? それに直近のこのクエスト……請け負った者のパーティーや名前が不透明になっているが、ナタリアの父グセフが受けた時期と、内容と一緒に攻略を行った冒険者パーティーの名前はグセフが経営していた方舟亭で宿泊していた冒険者パーティーと同じだ。何故、隠す? 会長? あんたも噛んでるのか?」

「わ、私は知らないぞ……なんなのだ、これは……」

アレクサンドルの反応を見る限りはウソはついて無さそうだ。

動悸に関しても変な反応は無い、魔力の揺らぎも同じくだ。


「本当に知らなそうだな?」

「あぁ、誓って本当に分からない」

「分かった。けれども、マンチーニに関しては何かを知っていそうだな?」

「それは……」

「答えられない事なのか?」

「ここでは……」

「ふむ」

周囲を見るとほとんどは気絶していたが、何名かは意識があるようだった。


パチンッ──。

敢えて、指を鳴らす動きを入れては魔力を解除する。

そうすると、一気に緊張が弛緩したかのように空気が変わっては取り込まれていく。


「はぁはぁ……お前……何者だ」

「ここを何処だと思って……攻めてきたのか分かるのかしら?」

暫くすると仲良く吹き飛ばされた、マキシムとエレーナも戻ってきた。

外は未だに息を潜めるように静かになっている。

まぁ、腐っても冒険者だ。

身の危険を感じたら、まずは周囲の状況の把握から努めるというわけか。


「さぁ? 君たちこそ、僕が誰だか分かって質問してるのか?」

「何をふざけた事を……! 会長!」

「マシキムの言う通りです。この輩を今すぐ断罪するべきです。冒険者ギルドの権威を貶めました!!」

「はぁ……で、会長さん? あなたの答えは?」

「マキシム、エレーナ……落ち着け。冷静に状況を判断するんだ」

「会長?! 何を言って……」

「冷静になれ──!!」

「「!」」

「すまないね。まだまだ、若いもので」

「苦労しますね」

「あぁ……本当にその通りだ。して、改めて君の名前を教えてくれないかな?」

「ギルドカードも必要ですか?」

「出来れば周りに周知させたい」

「はぁ、まぁ……仕方ないですね。こちらです。私はプラチナランクを拝命しています、アマガミ・マコトと言います。こちらは妻のエルザ、そして今回の私の依頼主のナタリアです」

「エルザです」

「エルザって、おい……王女様じゃ……」

「え? マコトって、あの?」

「だから、言ったじゃろう。落ち着けって……」

「わ、私はナタリアで、です……」

「それで、僕を排除するのですか? やりますか?」

「い、いえ! そんなことは……」

「人によって態度を改めるのはまずはよした方がいい。付け込まれるよい材料になるだけだ」

「すみませんでした」

「後はエレーナと言いましたか? あなたもです。偉い立場の人だとはお見受けしますが、動揺と共に魔力が揺らいでるのは頂けない。私を知ってくださいと言ってるようなものだ」

「……すみません」

「すまない。マコト殿、マキシムはここのギルドマスター、エレーナはサブマスターなんだ」

「だから、なんなのです? 僕たちには関係の無いことだ。先ほどの話をさせて貰いたい。いつ頃出来るようなりますか?」

「少しだけ待って貰えないか? すぐに用意させよう」

「はぁ、分かりました。エルザ、ナタリア? あそこのソファーで待とうか」

「う、うん」

「そうですね」

バババッ──とモーゼの道よろしく! っと言った感じで冒険者が割れてはソファーまでの道が出来る。

ドンッと腰をかけては周囲を見やると、そそくさと冒険者がギルドをフラフラしてる者も居るがそそくさと出ていくのだった。


「それで、そろそろ話しはしてくださるのですか?」

「あぁ」

「では、マンチーニ公爵の事をお願いします」

あれから、バタバタと人によっては休憩室に運ばれたり、空いた穴の修繕に終われたり。

人気の無くなった冒険者ギルド内を整理したり……後は外の支援に駆けつけたり、慌ただしくしているなかで僕たちへの準備をしていたようだ。

今は会長室に案内されては、僕、エルザ、ナタリア……そして、アレクサンドル、マキシム、エレーナの6人が揃っていた。


「どこから話せばよいか……」

「長くても大丈夫なので、最初から話して貰えたら助かります」

「そうか、助かる。では、話そう。まずはここロマレンの成り立ちからになってしまうが、ここロマレンは当初は何も無かった。巨大ダンジョンが発見されては冒険者が通い詰めて、次第に冒険者同士で休憩所を作ってはそこの管理に冒険者ギルドが出向したのが始まりだ。そこから冒険者ギルドは人が集まっては各自自由に発展していくダンジョン周りを時には支援したりしては、いつかはそれがダンジョン都市ロマレンと言われるようになっていった。ロマレンとはロマンとレンジャーの掛け合わせとも言われてるな。そして、少し前に国が動いてはここを領と定めてはあの男を派遣させたのじゃ」

「それがマンチーニ公爵と?」

「あぁ……。今はマンチーニ公爵、私の冒険者ギルド、後は同じく新参としてはノルトメ商会がここ、ロマレンを執り仕切り始めているといっても過言ではない」

「なるほど、それでクエストの件はどう繋がるのですか?」

「ハッキリというと、分からぬ。だが、推測は出来る。マンチーニ派の者が冒険者ギルドに紛れ込んでは何かを工作してるのかも知れん」

「その過程でナタリアの父、グセフさんが巻き込まれたと」

「すまない……。そこまでは分からぬ。けれども、確かにマンチーニ公爵の依頼されたクエストは抹消された形跡があるのは確認出来た。ナタリア嬢、心よりお詫び申し上げる」

「……」

「はぁ。そのお言葉、彼女の母のタチアナにも伝えてください」

「分かった」

「そうなると、これ以上は居る意味が無さそうだな」

「ま、待って貰えないか!」

「え?」

これ以上は情報も出てこないだろう。

僕が立ち上がっては2人を連れて行こうとしたら、マキシムが突然立ち上がっては頭を下げてきていた。


「どうしたのですか? 謝罪はもう大丈夫ですよ」

「いや、そうじゃないんだ……。こんな事をしでかした後で、お願いをするのは図々しいとは分かっているが、聞いて貰いたい事があるんだ……」

チラッと、エルザを見てみるとコクリと頷いたので、溜め息をついてはもう一度ソファーに腰掛けるとマキシムの隣のエレーナも安堵したように息をこぼしていた。


「実は……冒険者の育成支援を考えているんだ」

「育成支援ですか?」

「あぁ、ここ最近は冒険者の事故死も多いのと、全体的な知識の浅さとか問題になっていてな。その強さこそが全てみたいな輩が最近は目に余るほど多いんだ」

「はぁ……」

いや、目の前の筋肉ダルマのマキシムが言っても説得力に欠けるというか……そんな視線が分かったのか、エレーナは少しだけ申し訳無さそうな表情を浮かべていた。


「それで、その育成支援と僕がどんな関係が?」

「あ、あぁ……それでだな。しっかりと報酬は払う。だから……育成支援……養成所で新人を育てて貰えないか?」

「え?」

「いや、ロマレンに居る間でいい! マコト殿の空いた時間、少しでもいいんだ……。プラチナランクの指導ともなれば箔も付くってもんだ! お願い出来ないだろうか?」

「うーん……」

「あ、あの……」

「ん?」

そんな時に隣から声が発せられて振り向いてみるとナタリアが声をあげていた。


「それって……私も……その入れるのですか?」

「あ、あぁ……と定員が……」

「マキシム! 定員が何なの? 元々、試験的な始まりで人数は少なかったでしょ? 1人くらいは大丈夫でしょ?」

「あ、あぁ。ナタリア嬢が良ければ受け入れは可能だ」

「本当……?」

「ええ、約束するわ」

「急にどうしたんだナタリア?」

「マコト……私、冒険者になってみたいの。お父さんみたいに」

「ナタリア? お母さん……タチアナさんには話してるの?」

「エルザ……ううん、話してない。話してもきっと反対されちゃう」

「はぁ。話しは分かりました。そうですね、直ぐとはお返事出来ないですが、もし……そうですね、ナタリアが通うようならば、その時は養成所の件は承りましょう」

「本当か!?」

「えぇ」

「分かった! 待ってるぞ!」

「話しはこのくらいで大丈夫ですかね?」

「あぁ、引き留めてしまってすまなかった」

「いえ、それではまた後日お返事致します。本日はこれで。さぁ、2人とも行こうか」

「うん」

「そうですね。……その良ければですが」

「ん? なんですかエルザ様」

「もし、マコトが養成所の先生をするようでしたら私もお願いしても良いでしょうか?」

「……! よいのですか?!」

「えぇ、良ければ」

「願ったり叶ったりです! その際は先生の枠を約束しましょう!」

「ありがとうございます。それでは私もこれで」

「マコト殿、エルザ様、ここにはいつでも気兼ねなく来て貰って構わないからの」

「ええ、分かりました。それでは」

そして、アレクサンドル、マキシム、エレーナに見送られて僕たちはギルド本部を後にするのだった。


「お帰りなさい……!! 大丈夫でしたか……?」

「ただいま! お母さん!」

「あぁ、ナタリア……無事そうね」

「タチアナさん、お時間は有りますか?」

「えぇ。有りますが……」

「積もる話が沢山有ります。良ければ話しても大丈夫でしょうか?」

「……分かりました。お茶でも用意させて下さい。中へどうぞ」

「ありがとうございます」

僕たちを心から心配して待っていたのだろう。

ナタリアが帰宅すると同時にタチアナは駆けつけるように迎えに来てくれていた。

とりあえずは話すことが多くある。

グセフの事、ナタリアの養成所の事。

うん、まだロマレンに来てからは行動の指針が立てられていなかったが、ここで運命が動き出すような気がする。

とりあえず、僕たちはタチアナに中へ招かれては話を始めることにするのだった。

グセフはマンチーニ公爵の陰謀に巻き込まれたのでしょうか?

そして、ナタリアの冒険者への気持ちは父親譲りなのでしょうか?

まずはグセフの話、そしてナタリアの話。

そして、マコト達の今後の話へと物語は揺れ動いて行きそうです。

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