表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/27

【王立学校4年】始業式、ジャンの弟? へぇ……可愛いじゃん。そして、魔の森周辺の不穏な気配~のスタンピードへ。エルザの願い、そしてマコトの決断。晴れてはダンジョン都市ロマレンへ!

遂に王立学校の4年ですね。

卒業の年になります。

無事に4年目を迎えられたら良いのですが──。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……緊張してる? ねぇ、私緊張してるのかな? どうしよう、マコト?」

「あはは……」

「わ、笑わないでよ…」

ごめんごめん──と、言いつつヘアスタイルが崩れない程度に優しく頭を撫でると、素直に猫のように撫でられるエルザが居た。


早くもかな──そう、始業式の日だ。

何となく通い始めた頃を思い出してしまうな。

あの時はエルザのお姉さん……レイラが挨拶をしていたが中々印象深かったと今更ながらに思う。

元気にしているだろうか。

いや、守護者だったクラウスとも一緒に居るから安心して良いだろう。


「あの、そろそろ挨拶の方を……」

「あぁ! 来ちゃった!」

「一緒に隣に付いていてあげるから」

「う、うん」

そう言ったは良いものの、それで緊張が解ける訳でも無いだろう。

それに何より、程よい緊張感は良いけれども過度な緊張は厳禁だろう。

ほら、歩くのも固い……。


「それでは……生徒代表の挨拶になります。4年のエルザ・リシャール様。よろしくお願い致します」


うん、司会進行の方の声が聞こえては壇上に向かうのだけれども……1歩が歩めそうに無さそうに見える。


「一緒に行こっか」

「いいのかな?」

「いいさ、僕は守護者だしね。何も言わせないよ」

そう、言いつつ──反対側に居る学長のパスカルを見やれば僕のしたいことを察したのか、許可をくれるように軽く頷いてくれたのでセーフだろう。


「おまじないしてあげるよ」

「おまじない?」

「緊張も解けるし、歓迎の意味も込めてね?」

ちょっとだけ、おまじないに釣られるように好奇心が少し勝ったのだろう。

エルザの1歩が動いた。

後は一緒に壇上まで登るまでだ。


「すみません。エルザからの挨拶の前に守護者を務めています。私、マコトからささやかながらの新入生へのプレゼントを贈らさせて頂きたく思います」

フワッと手を頭上に伸ばしては魔法を発現させる。

イメージは桜の散る様だ。

けれども、桜の花びら自体は魔法で創っているのである程度経ったら消えてしまう。

けれども、うん──前までは難しかった魔法の扱いもextraskill魔法創造の恩恵だろう。

イメージを確かにすることで必要な工程も視えて来るし、後は魔力を必要に応じて注いでいく感じだ。

それを会場全体に……満遍なく届くように桜の花びらを皆に届ける。


綺麗──。

なにこれ……魔法?


そんな声が聴こえて来るけれども、うんうん。

嬉しそうな反応で何よりだ。

それに隣のエルザの緊張も程よく解けてくれたらしい。

スッと前に少しだけ出ては挨拶を始められるようだ。


「新入生の皆様方。ご入学おめでとうございます。私の守護者のマコトの贈り物は喜んで頂けましたでしょうか? ここ、ウェレギュア王立学校では可能性が常に広がっています。そして、皆様もその可能性に触れては伸ばしていけます。その先に望むものがあるのならば、それに向かい切磋琢磨するべきだと私は思います。そう、例え望むものが自由だったとしても──ここにはそれをサポート出来る環境も整っていますから……。では、堅苦しい挨拶はこの辺で、改めて新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。私たちは皆様を歓迎致します。それでは、私の挨拶は終わらさせて頂きます」

……うん、良い感じだ。

ペコッと軽く会釈をエルザとしつつ、壇上から降りていく。

自由に関してのフレーズはエルザ自身の願いの話だろう。

それに関しては僕の方も改めて、エルザから聞かされているので、今もその願いを叶える方法を模索している最中だ。


パスカルともチラッと目があったけれども、桜の花びらの魔法に目を奪われたのか、詳細を知りたそうな目線を投げ掛けて来たので、スッーと視線を逸らしておく。


「次は新入生代表の挨拶になります。新入生代表のデニス・フランシス様。お願い致します」


デニス・フランシス……フランシス……。

ん? ジャン・フランシス……フランシス公爵の子息か。

ジャンの弟君でもあるのか。

でも、ジャンは余り家族の話はしたがらない傾向だから、その理由の一端が見れるのだろうか?

とりあえず、少しだけ顔を見てみようと壇上へと向かう彼の横顔を見ようと目線を動かしたら、キッ──と睨んでくるようなデニスと視線が合ってしまった。


……?

僕は彼に何かしてしまっただろうか?

エルザの方は、話し終えられた達成感から視線に気付くことが無かったのは良かったのかな?

と、思っていた矢先にデニスの挨拶が始まる。


「デニス・フランシスです。新入生代表として挨拶致します。ですが、まず──正すべき事があります。我々は貴族です。そして貴族とは高貴なもので、その最たるものとしては使命を果たすべき事です。ここにあるのは全て踏み台であり、且つ──乗り越えるべき必要なステップであることだと言うことです。可能性、自由などは不必要なものです。私はここで全てを学び、そして帝国──この実力主義の中で更に飛躍していくことを宣言します。必要なら、私を頼ってください。フランシス家としても、付き合っていきましょう」

キッ──と睨まれた意味は……うん、分かった気がする。

それよりも先ほどの挨拶はエルザとは真っ向から違う、そう否定する口上だ。

流石にザワザワとしている。

かといって、不敬とも言えない。

あくまでもエルザは第2王女の地位で、デニスも4大公爵の1つ、フランシス家の第2子息でもあるのだから。

それに何よりもデニスの話はあながち間違える訳でもない。

ここ帝国は実力主義だ。

エルザの発想の方が少しだけズレているとも取られても仕方ない。

なので、会場内の反応も様々だ。

デニスの意見に頷くものや、新しい何かを見つけようとして来ている子達は逆にエルザの話しに感化している様子もあるのだから。

でも、今は入学式の場であり、この状況が好ましい状況でも無いのは事実。

どうするべきかと思う矢先には壇上に向かいパスカルが登っていた。


「あー、宜しいかな? 皆、静粛に。私は学長のパスカルと言う。見ての通り、エルフでもありそれなりに長生きもしておる。さぁ、皆落ち着いて私の挨拶でも聴いて貰えないかな?」

おー……静かになった。

元々、存在感も威厳もあるのと、学長というポジションは実力もないと務まらないから、皆尊敬の念を抱いているものだ。

だから、自然と聞く耳を持つし、今みたいに静かに傾聴しようとする。


「さて、今年も新しい風が吹き込んで来ては嬉しい限りだ。エルザさん、デニスさんの話もとても良いものだ。そして、皆それぞれ信念を抱いてはここに居ると思う。私たちはそれをサポートするのを約束しようではないか。多くを学び、多くの視野を広げ、見聞を広げた先に自分の成すべき方向性や使命に関して、答えを見つけていけば良い。ここは準備期間の場でもあるのだから。そんな機会のある、この王立学校へようこそ新入生諸君。私たちは君たちを歓迎しよう。より見聞を広めては切磋琢磨してくれたまえ」

そう言ってはパスカルも壇上から降りてくる。

なるほど……両者の意見も持ちつつ、最後は各々に問い掛ける形か。

でも、それで良いのだろう。

皆が静まったタイミングで慌てたように司会が会の終了を告げたのが印象的だった。

でも、デニス・フランシスか。

ジャンの弟君はなかなか……可愛い感じではありそうだ。

これから沢山の出来事に揉まれていくだろう。

彼の信念、使命はどのように変わっていくのか……はたまた貫いていくのか気になってしまった自分が居た。

ただ、ちょっとだけ不満があるとすると、オブラートに包むこと無く真っ直ぐに発言していたために、それを聞いていたエルザの僕の手を握る力が強くなってしまった事だろうか。

頭を撫でるのは人目があるので、強く握ってしまっていた手をポンポンと空いた手で優しく労っては包み込んであげたら幾分か落ち着いたようだった。


ま、それぞれの考えがあるのは当たり前だ。

でも、使命か。

なかなか強いワードだなと思いながらも僕の方も隣のエルザを見つつ、改めて年内にエルザの願いの目処を考えないとと思い入るのだった。


「マーク? どうした?」

「あー、いや……いや、見せた方が良いか」

話はここから始まった。

ランチタイムのエルザと僕の王室の個人のサロン。

いつものメンバーが集まってる中で、マークの手元には便箋が握られており、その内容を見通したマークの表情が険しいものになっていたのだ。

それに気付いたエドワードの心配の声への返答が始まりだった。


「なになに……魔の森の周辺調査の結果と懸念点?」

「あぁ、親父からの連絡だ。俺の従者が急ぎ携え今朝方持った来たやつだ」

「魔の森が昨今、活発化している兆候が見られる? いや、調査が間に合っていないのか? そして、周辺の生態系の魔物化が見受けられる……か」

「すまん、マコト。こう、聞くのは良いのか俺には分からないが……大丈夫だろうか? ルソーレの街のギルドマスターも奔走してるらしいが……俺には何か悪いことが起きる前兆に感じるんだ」

不安そうな目をエドワードと話していたマークが自分にその視線を向けてくる。

でも、マークのその直感にも近い感覚はマークの場合は本能に近いレベルで戦っては磨かれてきたセンスであり、彼の立派な培われた能力の一部だろう。

あながち的を外れないと見た方が懸命だろう。


「自分がルソーレの街を離れてから4年目か……」

ダンジョン含め、魔の森の周辺の調査が間に合っていないのは自分の抜けが大きいのと、多分そこまでのレベルに達しては登用できる冒険者の人材の育成が間に合ってない……いや、もしくは皆こぞってダンジョン都市ロマレンに流出してしまっているのも、その背景にあるのかもしれない。


「……マコト?」

「違うよ、エルザのせいではないよ。決して君のせいでは無いよ」

彼女の頭をそっと撫でながらそう言い聞かせる。

これは僕を連れ出してしまったかもという彼女の負い目なのだろう。

そんなことは決してないのに。

どのみち自分は自分のルーツを知るために外に出ては居たのだ。

けれども、ルソーレの街……ひいてはエバンス領についてもマークとの付き合いもある。

心配につきる。

さて、どうしたものか……。


「皆に相談があるんだ……」

「なんだよ、マーク改まって……ま、予想はつくけれども」

「そ、そうなのか?」

「あぁ、水くさいぞマーク」

「ジャン……エドワード……」

重い口を開いたマークにジャンとエドワードが軽口を叩くように話しかけたが2人はマークの次の言葉を想像出来ているみたいだった。

いや、ナタリーもエルザも同じだ。

……仕方ない。

いや、これはチャンスかも知れないな。

エルザをチラッと見ては功績の部分を考えてしまう。

今の自分には喉から手が出るほどに求めてるやつだ。

そうでも無ければ、エルザが求める先は逃亡の姫君だ。


「4年次は基本的に自由なんだろ? 俺はエバンス領を助けに行きたい。やり方は分からないけれど、そうだな……まずは書かれてる通りに最前線のルソーレの街に行きたい。なぁ、俺を……助けてくれないか? いや、何も渡せるものが俺には無いが、必要なら親父にも頼み込むから……」

「落ち着け、マーク」

「そうだぞ、マーク」

「僕たちは学友じゃないか、それに確かに僕たちには確かに立場といえるものがあるかも知れない。けれども、今は一介の学生だ。学生の仲間として一緒に行くんだ。そこに報酬とか難しいものは望んでないよ」

「エドワード……」

「ま、詭弁と言われるけれども、そんなの関係無いしね。それに……冒険者として名高いブラックランクのマコトも……来てくれるんだよね?」

「ジャン……それに──マコト?」

「はぁ……見ての通りだよ。エルザも、それにナタリーも行きたいでしょ?」

「うん、私は行く」

「私も行きますわ」

「決定だね」

そう言っている間にもサロンの入り口の彼ら彼女らの従者の方々は、その話を聞いては早速準備に取り掛かったようだ。

本来の彼らの主人は当主なのだろうけれども、流石に4年も一緒に苦楽を供にすれば、その認識にだいぶ変化が見られて来ていた。

顕著なのはナタリーの従者達だろう。

当主からの要請は実際は多いだろうが、彼らの彼女らがナタリーの自由性を今は尊重しては動いてくれている。

それを何を意味するかは彼ら、彼女らは心の奥底から理解しているだろうにだ。


全く……変わったな。

いや、自分もか。

食べるのを中断していた手を動かしては、自分の思考にも驚いていた。

いつの間にか、皆を守らないといけない存在だとしっかりと認識していた。

確かに僕の世界は広がっているのだと改めて認識しては不思議な感覚に僕自身が味わっていたのだ。

料理の美味しさ以上に甘い感情を僕は味わうのだった。


「イヒヒヒ……」

「ゴードン……」

「はっ! はい!」

「僕の前では商人のスタイルは繕わなくていい」

「すみません、久しぶりなものでつい……」

「そんなにまた放置して……いや、任せっきりだったかい?」

「そうで御座いますとも。確か……3ヶ月はお見えになってませんでしたぞ?」

「そ、そっか……。えと、運営はどうだい?」

「マコト様の資産ですな? 苦情が先日入ったところですぞ?」

「苦情?」

「ええ、ええ……このままでは国庫以上の資産になってしまうから、当銀行でも扱いに困っ……いえ、うちから絶対に離れないでくださいと伝えて下さいと頼まれましたな」

「え? 国庫以上?」

「はて? マコト様でも驚くような事があるのですな」

「いやいや、僕をなんだと思って……」

「神様ですな」

「……」

このゴードンはぬけぬけと言ってきたが、半神でもある僕は安請け合いの買い言葉では無いけれども、簡単には返事を切り返せなかった。

それよりも、ゴードンが見せてくれた資産を確認したら、金額を確かるのも止めてしまった。

うん、軽く国庫といえるのはあながち間違えでは無いだろう。

それに現在も継続して増えている。

ゴードン曰く、ノルトメ商会という肩書きは僕というブレーンが主体になって今は動いていること。

そして、僕が世界を牛耳るノルトメ商会の心臓に既に皆に認知され始めているということだった。

いやいや、4年目を向かえる間に何があったのか。

いや、有りすぎたか。

まずは会長の隠居していたと思われていたゴードン・ノルトメが表舞台にまた降り立ったこと。

そのノルトメと謎のフィクサーが主だって革命を起こした事、それは商業革命だ。

既存の魔道具理論から、食事や文化まで一新したこと。

今じゃ、帝国、王国、神国……ひいては貴重品としての扱いでエルフの里にも商品が流れているという。

その手数料……果ては莫大な金銭が僕の懐に何もしてなくても流れ込んできているというわけだ。

ま、銀行では口座から僕の存在は把握してるだろうけれども、易々と僕を売ったりはしないだろう。

彼らにとっても僕は心臓部であり、帝国を代表する銀行なのだから……。

ゴードン、流石隙がないな。


「では、ルソーレに向かわれるということですな?」

「そういうことだね」

「ふむ、では私どもの方で準備を致しましょう。何か希望は御座いますかな?」

「そうだね……認識阻害の仮面を人数分頼みたいかな」

「阻害の仮面ですか……」

「必要になるかも知れないからね」

「畏まりました。すぐに準備させます」

パンッと手を鳴らしては即座に下の者が準備に奔走し始めていた。


「では、明日までには全て揃えます」

「うん、宜しく頼むよ。後、これを……」

「これは?」

「レシピだよ。後は見せれば分かる」

「ほう……承知致しました」

渡したのは夏に向けての冷蔵品の小型化に関しての魔方陣の構想と、後は新たな料理のレシピのヒントだ。

1~10まで教えることはないけれども、それらを散りばめて伝えるようにはしている。

答え自体は全知全能さんを使えば僕は理解してしまうけれども、それではきっとダメだろうから。

少しずつ、少しずつだ。

いつか、全てが花開けば良いのだと僕は思う。


「じゃ、ゴードン、僕は行くね」

「はい! また、お待ちしております」

ペコッと頭を深く下げるゴードンにサッと片手をあげては勝手口からノルトメ商会を離れていく。

表口から出たら、僕の存在が明るみに出てしまうからね。

誰にも見られては気付かれないように認識阻害を展開しては出来る限り闇に潜んでは学校へと僕は戻るのだった。


「皆、ありがとう……!」

「マーク、早いぞ!」

「そうだよ、こういうのは終わってから言うものなんじゃないの?」

「あっ……確かにそうだな。エドワード、ジャン」

「ふふふ……」

ナタリーが可笑しそうに笑っている。

ナタリーの自然な笑顔も今はマークと一緒に居ると増えていた。

出会ったばかりの時の暗い陰険な雰囲気は既に払われていた。

いや、当主からのしがらみを彼女の従者の方々が護っているからでもあるのか、又はマークの影響、いやどちらも彼女の笑顔には必要だったのだろう。


ナタリー・マンチーニ……マンチーニ公爵か。

ダンジョン都市ロマレンを領にしている公爵。

いつか、調べてみる必要はありそうだ。


でも、今はその前に。

「ねぇ、マコト? 準備はこれだけで大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。皆も必要な武器とか貴重品は大丈夫かな?」

「「あぁ」」

それぞれ、返事が返ってくる。

そう、僕が伝えたのは武器、又は貴重品のみの用意だ。

それ以外は自分で用意すると伝えた。

さて、そろそろ約束の時間だな。


パカッパカッパカッ──。

と、馬車の音が聞こえてくる。

来たみたいだ。


「マコト様ー! お待たせ致しました」

「あぁ、ありがとう」

「いえ、中身等の確認をお願い致します!」

「少し待ってて」

そう言って、御者は控えるように馬車の隣で待っている。

軽く全知全能さんを頼りつつ、必要な食材や衣服──諸々を確認していく。

うん、漏れは無さそうだ。

後は……これかな。

自分のは黒いので、他は白い……キツネ型の仮面を取り出す。

認識阻害の組まれた仮面だ。


「ありがとう、全て滞りなく揃ってるみたいだ」

「いえ、良かったです。マコト様……お気をつけて。今はルソーレ方面は緊張状態だとお聞きしました」

「緊張状態?」

「はい、何やら不測の事態が起きそうだという風の噂が流れています」

「……分かった。ありがとう」

自分の耳にだけ入るように御者からの話を聞いては引取のサインを済ませて御者の席に僕は座る。


「皆、さぁ、乗って……行こうか」

「すごいな……マコトは」

「うん、こうやって見ると冒険者でブラックランクなんだなって僕も思うよ」

「ナタリー……手を」

「ありがとう、マーク」

「私はマコトの隣で」

「御者席で大丈夫?」

「ここがいいの」

「りょーかい」

皆がそれぞれ馬車に乗り込む。

幌馬車の中は広々している。

必要な物は僕が空間収納しているからだ。

皆の着替えや食料も等しくだ。

後は……あれだけは皆に渡さないと。


「なにこれ?」

「認識阻害の魔法が付与された魔道具だよ」

「認識阻害?」

「僕たちの顔は……いや、存在は良い鴨だからね」

「あぁ……」

「必要な時に皆、着けてくれ」

「「了解」」

うん、準備は整った。

不測の事態か……、先ほどの御者の言葉を思い出す。

その言葉の指す意味は最悪のケースになると、一度止めきったというルソーレの街のギルドマスター……僕の恩人でもあるアランの体験したスタンピードそのものだ。

けれども、アランの場合はダンジョンのスタンピードだ。

魔の森周辺の一部でしかない。

なら、魔の森周辺だったら……?


「マコト……?」

「あっ、ごめん。行こっか」

「大丈夫。私が……ううん、皆も居るから」

「ふふ」

「笑わないでよ……」

「ううん、頼りにしてるよ」

自然と手綱を強く握ってしまっていたらしい。

それに気付いたエルザがそっとその手を包んでくれていた。

緊張していたらしい。

らしくないな……。

けれども、ルソーレの街は僕にとっては欠けがえなのない存在で場所だ。

仮面を早速、取り付ける。

隣を見たら、エルザも着けている最中だった。

これで周りからは平凡な一般人に見えてるだろう。

さぁ、行こう。

ルソーレの街か……そっか。

もしかしたら……アイク、スーザン。

そして、アラン、ケイト──彼らの子供ももう5歳を迎えてるだろう。

彼らの顔や声を思い出しては馬車を進ませるのだった。


「どうして、野宿が多いんだ?」

「ん?」

「いや、気になってな」

「僕も気になってました」

「マコト、どうして……?」

パチパチ……と焚き火の音を聞きながら、皆が不思議そうに僕を見てきていた。

出発してから、ずっと僕たちは野宿をしながら進んでいる。

いや、正確には最初は街で泊まろうとは思ったのだ。

けれども──。


「理由はある」

「……」

「はぁ、最初の街に寄った時──後は今も野宿とかの時は道を外しているけれども、すれ違う人々に何かを感じなかった?」

「……皆、必死そうでしたわ」

ナタリーの言葉に何名かが頷く。

そう、皆が皆必死そうだった。


「そう、荷物を見て分かる通り町を捨てて移動している人が居るんだ」

「は?! 町を捨てて? それなら街に行けば……」

「……受け入れられないから、受け入れてくれるところ……王都付近まで来てしまってるだと思う」

「ま、待て……待ってくれ! そんなことは手紙には……!」

そう、手紙には書かれていない。

そして、情報も不測の事態が起こりそうという噂のみ。

それが指し示す答えは──。


「マコト……何かが始まって──ううん、起こってるの?」

「分からない。まだ、情報が足りない。けれども、分かってることもある」

「教えてくれ、マコト」

マークの懇願に近いような言葉に頷いては答えることにする。


「1つ、まずは町の人間が住む場所を諦めては逃亡している状況。2つ、それを受け入れられる街が無いこと。3つ、皆殺気だっていること。それに合わせて盗賊が姿を潜ませては窺っていること。4つ、強力な情報規制が敷かれていること。これは騎士団、ギルド含めて統制が行われていると見るべきだ。それは公爵まで及んでいる。マークに真実を話せない位には。5つ、ルソーレに僕たちは向かっているけれども、それに向けて周囲の環境が緊迫しているものになっているのと、僕たちはノルトメ商会として物資を運んでいる体裁で認識阻害とノルトメ商会の証明書を持っているから進ませては貰っているけれども、既に規制が掛けられていること。これだけでも今は情報が揃っている」

「ねぇ、マコト……? 何が起こっているの?」

「……僕は少し気になることがあるから、このまま進むけれども……。皆は引き返せる所だ。本当に──」

「マコト! 俺は……俺は行く! 何がなんでも、だ!」

「あぁ、僕たちを見くびらないで貰いたいね」

「そっか、分かった」

僕の発言に皆が改めて視線を強めては、その覚悟を僕へ向けてきていた。


「多分、スタンピードが起こ……いや、今も起こっているのかも知れない」

「どうして……そう思うんだ?」

「今も野宿しているけれども、魔物、動物含めての生物の存在が見受けられないからだよ」

「だから、マコトは野宿をしていたの?」

「エルザ、それは理由の1つだよ」

「でも、確かに……こんなに何も存在が無いのは変だ……」

ジャンの言葉に改めて、皆周囲を確認している。


僕の場所は既に全知全能さんを通しても周囲一体は確認している。

動物は奥深くの魔力が薄い場所、そう、薄い場所へとどんどん逃げている。

魔物は居ない……いや、移動した後だろう。

僕たちの進んでいる方面へと。


「でも、普通のスタンピード……なんだよな?」

「いや、待てマーク。僕の知るスタンピードはダンジョンから溢れ出た現象だと思ってる」

「なら、今回のは違うのか?」

「分からない……マコト? マコトなら分かるか?」

……マークとエドワードの視線が僕に刺さる。


隠し通せるものでもないし、覚悟は必要だろう。

「皆、聞いて貰いたい。これは普通のスタンピードじゃないと思う。範囲は魔の森周辺……そう、それは魔の森とその周辺のダンジョンも含まれている」

「「──!!」」

あぁ、僕の伝えたい事が伝わったのだろう。

皆の表情が青くなっている。


「それって、スタンピードでも……」

「形容する単語がないかな。1つ言えるのは未曾有の大災害が今も継続していると思う。そして、中心は冒険者の街ルソーレで最終防衛戦を張っているはずだ。マーク……君のお父さんもグラハム公爵もそこに居ると思う」

「親父……! 今すぐ……今すぐ……!」

「落ち着けマーク……」

「だが……!!」

「マーク、エドワードの言う通りだ。今焦ってもダメだ。規制もある。それに後数日の距離だ。少し飛ばそう。残り2日……位で行けるはずだから」

「分かった……」

マークの手は強く、強く握り締められていた。

その手をナタリーが優しく、とても大切に包むように手を差し伸べてはマークの表情が幾分、穏やかになっていた。

ナタリーが居て、良かった。

昔はナタリーがマークを必要をしているように見えたが、今は立場が逆転してるように見えるのは環境のせいだろう。


「ん……?」

「マコトも……だよ」

いけないな。

自分もマークの事を言えないらしい。

手を強く握り締めていたみたいだった。

エルザに手を包まれて気付いた。


「ジャン、僕たちは周囲を警戒しよう」

「そうだね」

「すまない」

「いや、いいんだ。僕たちにはこれくらいしか出来ないからね」

エドワードとジャンに頭を下げては仮眠を取らせて貰う。

明日から出来る限り、馬の状態を見ては走らせようと心に決めたのだった。


「ここは……一般人の受け入れは……」

「いえ、私たちは緊急の物資を運んでいます!」

「緊急の……! やっと来たか! 証明書は持ってるか?!」

「こちらに……」

「あぁ……本物だ! やっと、来たんだな……。良かった……これでルソーレに支援物資を送れる……あそこはもう地獄だ」

地獄? 聞き捨てならないワードが聞こえてきた。


ギリッ──と、マークの歯を食い縛る音が聞こえてきた。

いや、違う。

……僕の音だ。


「ど、どうしたんだ? お前さん……まさか……ルソーレに誰か居るのか?」

「い、いえ……ルソーレは今、どんな状況ですか?」

「あぁ、ここまで来たら伝えても良いだろう。あそこはもう地獄だ。複数のダンジョンのスタンピードと魔の森からのスタンピードが同時に起こって、1回目は凌げたんだが、既に崩壊しかかっている。だけれども、避難も出来ない状況でなんとか、物資ルートだけを決死の覚悟で確保している状況だ。そろそろ、2回目が起こ……お、おい待て! どこに行く! そっちはダメだ……!! お前ら死んでしまう!! 誰かあの商人を止め──」

門番の衛兵の声が後ろから聞こえて来るのと、唯一の搬送ルートの前には彼らの声を聞いてか、騎士が立ち塞がって居た。


「皆、エルザ──ごめん。覚悟を決めてくれ」

それだけ、それだけ言うと皆が頷いてくれる。

僕は仮面を外しては認識阻害を解除する。

皆も同じだ。

シャラン──とゴードンから贈られた装飾剣をその手に空間収納から取り出して掲げる。


「私の名前はブラックランクの冒険者マコト! そして、隣におわすウェレギュア帝国第2王女エルザ・リシャールの守護者! 今ルソーレを護りに来た! 目の前の道を……開けよ!!」

「私の命を下します──道を開けなさい!」

ザザッと目の前の騎士達は横にズレては臣下の礼をとる。

お気をつけて──そう、彼らの横を通りすぎる時に声が聞こえて来た。

彼らの声を置いては僕たちはルソーレの街までの現在までの唯一の搬送ルートを駆け出すのだった。


「エルザも幌馬車の中に──」

「うん……マコト、お願い」

「大丈夫。任されたよ。皆も頭を低く! そして、エルザ、ナタリー防御魔法を皆の周囲に! 僕には何もしなくていい!」

「「は、はい!」」

バリアを皆に張られていくのを横目に前へと意識を向ける。


先ほどの衛兵の話では2回目のスタンピードまでは時間があると言っていたけれども、僕の全知全能を通して見る状況は全く違った。

既に魔の森含めて、複数のダンジョンから魔物が溢れていては脳内のマッピングは真っ赤に染まっていた。

そして、ここのルートを護っていたであろう騎士達……いや、衛兵も居ただろう。

彼らを示す青い点はどこにも無い。

無いということはそういうことだ。

目の前には既にこと切れた彼らの骸が……いや、骸とは言えない。

今も食べられているのだから、骸だった存在が目に見えている。


そして、ルソーレは街の防壁は死守されてるようだが……これは搬送ルートが必然的に魔の森とは反対側で薄いのだろう。

今でも食い破られそうな状況なのだと伝えられてくる。


「くっ──悩んでる暇は無い……皆! 歯を食い縛って! 飛ばす……!」

目の前の馬はこの前編み出した空間転移の応用で、先ほどの町の防衛拠点へと戻す。

そして、風の魔法を纏わせては風の馬を創っては一気にルートを駆け抜ける。


グァア──!!

「邪魔を……するなっ!」

制限を外す。

ゴードンから用意して貰った装飾剣から、以前作ったダンジョン剣に持ち変えては魔力を纏わせて一気に凪払う。


レベルアップしました──。

レベルアップしました──……。

レベルアップ──。


周囲に生存者は居ないのは知っている。

ならば、関係無い……全て、灰塵かいじんに帰すまでだ。

剣を何度も──何度も振るっては周囲の魔物を一掃していく。


「──間に合え……!!」

ルソーレの街の搬送ルートの門は決壊した。

真っ赤なマークがルソーレの街に流れ込んでいるのが目に見えていた。

後少しだ──!

剣に魔力を纏わせては最後に目の前に残る、搬送ルートの入り口の門に今も雪崩れ込んでいる魔物に振るう。

魔力には指向性を持たせた──それは魔物だけを凪払うようにと。


ズバンッ──! と音を轟かせては周囲の魔物を一掃する。

そして、搬送ルートの決壊した門が見えた。

街中には既に魔物が流れ込んでいる。

街内の騎士が応戦しているのは目に見えている。


「エルザ! 皆を冒険者ギルドへ! マーク! グラハム公爵はギルドに居る! 僕は……後で合流する!」

「ま、マコト……!」

エルザ含め、皆に強力な防御魔法を施しては一気に駆け出す。


それはマイナの宿亭から冒険者ギルドへと向かっている大切な存在だと指し示す点の場所へ。

真っ赤なマークが今にも差し迫っていた。


「あっ……」

「マイナ──!!」

「──させない!」

ギャァァア──!!

今にも飛び掛かって来ていたゴブリンの首をはねる。


「あ、あんたは……!」

「遅くなりました、おばさん……いえ、スーザン!」

「マコト……!?」

「マコ、ト──?」

ニコッと腕に抱えた少女に微笑みかけては殺到してくるゴブリンを凪払う。


「話しはまた後で──!」

「ニコラ……!」

──!!

そして、もう一方ケイトの方へと殺到しては男の子に殴りかかろうとしていたゴブリンの攻撃を守護の指輪Sの効果で守る。

男の子とゴブリンの前には明確なバリアが張られては、ゴブリン達を押し返していた。


そのゴブリンへと向かって一気に駆け抜けては魔力を纏わせて剣を振り抜く。


レベルアップしました──。

レベルアップしました。

レベルアップ──。


急なレベルアップのせいだろう。

普段は伝えてこない全知全能さんがお知らせしてきているのだろう。

脳裏に通知を押しやりながら、剣を空間にしまいつつ、男の子もマイナとは逆の手で抱き上げる。


「あなたは……」

「僕は……マコトだよ。そうだね、君たちのお兄ちゃんだ」

「お母さんの言っていた人……?」

ニコラの質問に答えつつも、マイナの答えには笑顔で頷く。


「本当にマコトなの……? でも、マコトは王立学校に……」

「ケイトさんもお久しぶりです。その話は冒険者ギルドに着いてからでも。そちらに向かっていたのでしょう?」

「えぇ、そうよ──。急に街の防壁が決壊して……それで急いで一番安全な場所へと避難するところだったの」

「では、急ぎましょう。このスタンピードは普通のスタンピードじゃないです。余りにも文献とも違いすぎますから」

「やっぱり、そうなのね……あの人も、アランもそう言って居たから……」

冒険者ギルドへと向かいながらもケイトと情報を擦り合わせる。

グラハム公爵は冒険者ギルドで指揮を。

騎士団、衛兵含めても今は冒険者ギルドで拠点を構えては指示を出している状況だが、既にもう戦況は切迫……いや、決壊し始めているらしい。

ギリギリ四方に、ギルドマスターのアラン、騎士団、冒険者と振り分けては護りを固めていたが、やはり……それでも搬送ルートの門は薄くなってしまい……今の状況らしい。


「親父──!」

「マーク! 何故、ここに?!」

冒険者ギルドへと入ると声が早速聞こえて来ていた。


「マコト?! あなた、1人で来たわけじゃ……」

「───」

ケイトから非難の目を向けられるが、流石にそこは自分でも罰が悪かったので、渋った表情になってしまった。


はぁ──。

と、頭を抱えてはケイトはしつつも、頭を振っては公爵の下へと向かう。


「グラハム公爵……大丈夫でしょうか?」

「あ、あぁ……すまない。情けない姿を見せてしまった」

「いえ、家族の事ですから、それは仕方の無いことだと」

「公爵ともあろう私が情けない……ん?」

「ご無沙汰しております、公爵」

そう言ってはケイトと話始めていた公爵がケイトの隣に居た自分へと気付くのにはそう時間は掛からなかった。


「マコト殿なのか……?」

「マーク! 話は終わったか! 周辺の魔物は狩って……どうした?」

「これは?! レーガン公爵、フランシス公爵……マンチーニ公爵のご子息とご息女……後は、エルザ様?! マーク! お前は……何をしているか分かって……」

「お、親父……俺は……」

「───!」

「そこまでにしてください。最終的な判断をしたのは私です、グラハム公爵」

「マコト殿……」

「分かっています。彼らは冒険者ギルド、及びその周辺を守るだけの戦力はあります。それ以上はさせません」

「マコト殿……だが、戦況は見ての通りだ。もう戦線など維持が不可能に近い。どうお考えだ? 責任を……取れるのか?」

「大丈夫です」

「大丈夫──?」

何を言っているんだ? と、初めての表情をグラハム公爵から見た気がする。

いや、どちらかというと周りの避難者や集まっている人達からも、同じ目を向けられている気がする。


「もう一度言います。大丈夫です」

けれども、同じことを言いつつも次は押さえ込んでいた魔力を少しだけ外に流す。

普通に見るだと、魔力の複数の色が……前世では気というのだろうか? 身体から溢れているように見えるだろう。


そのまま、エルザの下に歩いては僕は口を開く。

「エルザ、立場的には今は君がここで一番の権力者だ。まずは冒険者ギルド周辺の安全を確保して貰いたい。後は避難者の遅れやまだ出来ていない住民も多いと思う。グラハム公爵と協議して人を選抜しては事にあたって貰いたい」

「うん」

「僕はこれから周辺を掃討してくる。負傷者も多くが避難してくると思うから、ギルド裏でも良いから救護場を確保するんだ魔力の枯渇は魔石で補っていい、その代金は全て僕が持てるから。後は……マーク、エドワード、ジャン、ナタリー、それぞれエルザのサポート頼む」

「あぁ」

「分かった」

エルザに話しつつ、皆にも指示を出しつつ冒険者ギルドから出る。


「ま、マコト……!」

「エルザ?」

「気をつけて……後は、ちゃんと帰ってきて」

「うん、ちゃんと君の下へ帰ってくるよ」

冒険者ギルドから出た僕を慌てて追いかけて来たエルザが呼び止めては僕へ言葉を送ってくれる。

それに応えるように服の裾を掴まれた手にそっと手を重ねては帰ってくる約束をすると、エルザの掴んだ手が離される。

そのまま、久しぶりに全知全能さんをフル稼働を僕は始める。


「全く……数が多いな」

制限を取っ払った僕はふわりと空へと舞い上がる。

風魔法をある程度極めたら出来るようになる浮遊だ。

それで、冒険者の街ルソーレの四方を確認する。

とりあえずは搬送ルート側の方は先ほど自分が一掃した。


一方はアラン、冒険者を率いて、一方は公爵家のお抱えの騎士、一方はルソーレの街の守護の騎士団と衛兵達だろう。

それぞれ粘っているといえるが、差異はあれど押されているのは目に見えている。

そして、もう少し外側に目を向けてみるとそれを覆うように魔物の大群が……更に奥……魔の森……奥深くに一番、このスタンピードの元となっているであろう、瘴気ともいえる濃い存在があるのが感じられる。


「なんだ……あれ──」

その瘴気の正体が気になっては水魔法でレンズ代わりを創りつつ、見通してみると濃い瘴気に覆われたデカイ存在が見えてくる。


「ドラゴンか……?」

いや、でも……腐り落ちてるようにも見える。


ドラゴンゾンビ──。

そう、全知全能さんの結果が伝わってくるまでそれを凝視してしまっていた。


なるほど。

あれがこのスタンピードの大元か。

あれを何とかしない限りは、これは止めどなく続くのだろう。

なら、まず最初にしないといけないのは……。


まだ、周辺のスタンピードが来るまでは時間が掛かりそうだ。

なら、今やるべきなのは周囲の防壁周りのスタンピードの魔物の掃討だ。


一番押されている騎士団と衛兵の方へとひとっ飛びする。


「門を死守しろ!」

「盾──構え! 隙間から槍を突き出せ! 可能ならば後方部隊は魔法をぶっ放せ!」

これは騎士団長のアンドレとクリスの声か。

でも、今は見るからにジリ貧だ。

負傷者は門の中へと既に搬入しては門の前を盾で防いでは半壊箇所を護っている状況だ。

魔物も知恵が無い訳じゃない。

その出来た隙間を乗り越えようと飛んで来るが、それ目掛けては槍を応戦しては、更に後方へと魔法を放っている状況だ。

だが、魔力も底を尽きかけているのだろう。

明らかに弱い魔法しか見えない。


「ここは何としても死守するんだ……!!」

「我らの命はここで消える事になっても──!」

「消えられちゃ困りますよ……!」

「なっ……?!」

「誰だ……!?」

騎士団の盾へと更に突撃しようとしていた魔物の前に降り立っては剣を一閃しては魔力波を飛ばしていく。


ギャァァア──!!


レベルアップしました──。

レベルアップ──。

レベル……。


「皆さん、大丈夫ですか?」

「君は……マコト?」

「お久し振りですね、クリスさん」

「なんで、君がこんな所に!? は、離れて──」

「いえ、大丈夫です」

剣に魔力を纏わせつつ、創造する……。


「我は命ず──悠久の氷獄、如何なる者もその前には悠久に閉じ込められる。今を以て顕現せよ、氷獄を関するその名は……アブソリュートゼロ!!」

詠唱とは創造を明確にするため。

普段はしないけれども、今はもっと正確性を求めるために。

剣を一気に地面に突き刺しては魔法を顕現させる。

そして、一気に目の前は氷獄の世界に様変わりする。


ヒュゥウウウ──。

一気に氷雪が吹き込んでは目の前の魔物の軍勢は氷の世界に閉ざされる。

そして、1拍置いては魔物の魔石だけを残して氷の世界は風と共に消えていく。

まだ、少しだけ遠くには生き残りの魔物が居た。


「アンドレさんもお久し振りです。さぁ、今のうちに皆、街の中へ。そして、早く門の修繕を!」

「あ、あぁ……」

「マコト! 君は……君はどうするだ!」

「僕は目の前の敵を片付けたら応援に向かいます。時間がありません! 早く!」

「わ、分かった! 新たな負傷者を優先して中へ! 街へ入り次第、全ての魔力を注いで門を修繕する! 急げ!!」

判断と行動の早さは騎士団仕込みだろう。

そのまま、一気に駆け抜けては残党の魔物を狩り尽くす。

まだ、もっと先へは次のスタンピードの魔物が見えるが、まだ時間の猶予はあるだろう。

そのまま、僕は次は公爵家のお抱えの騎士団の下へと飛んでは急ぎ向かうのだった。


レベルアップしました──。

レベルアップ──。

レベル……。


全知全能さんのお知らせが止まらない。

いや、処理に手間取っているのだろうか。

こんなにも大量に経験値を獲得したことも無かった。

一息つく頃には急激なレベルアップ酔いが来そうだ。

今も尚、少しずつであるけれども自分のスペックが変わっていっているのが分かる。


「……見えてきた」

流石、公爵家のお抱えの騎士団だ。

練度が違うのだろう。

魔物と拮抗しては前線を維持していた。

でも、流石に後方の魔物まで来たら無理だろう。

今はゴブリンやコボルトを相手にしているようだが、後続はオーガ、トロール、更に武装したリザードマンまでも見えていた。


なら、僕のすることは……。

僕と公爵家の騎士団との関係性は薄い。

変に共同戦線などは出来ないだろう。

それならば、露払いをするまでだ。

ゴブリンやコボルトの後方へと一気に降り立つ。


ドカンッ──!

風圧で境界線を作りつつ、一気に駆け出してはオークの群れを一気に魔力の刃を振り抜く。

そのまま、オーク……リザードマンへと攻撃へと転じては加えていく。

圧倒的な攻撃の前では物量も問題ない。


レベルアップしました──。

レベルアップ──。

レベル……。


目の前の魔物を全滅させては背後を振り替えると、ゴブリンやコボルトとの戦いも目処が立ちそうだった。

一瞬、向こうの騎士団の指揮する者と目が合った気がしたが、僕はそのまま飛び立っては……残り1ヶ所アラン、冒険者の守る門の方へと向かうことにする。


グルッと向かいながらも状況を把握する。

ギルド裏の方は救護場として、早速機能を始めていた。

街の中へ侵入した魔物も掃討されたようだ。

冒険者ギルド周辺の建物を利用しては避難所として開放しているみたいだ。


「見えてき……流石だな、アランさん」

どこの門も切迫していたのは変わらないけれども、ここは底力は違うだろうと思っていた。

今は魔物の群れを押し返し始めていた。

その先頭に立っては陣頭指揮を執っているのはアランだ。


「後方! オーク、トロール! 更にリザードマン! リザードマンに魔法は防がれる!! 魔法はオーク、トロールへ! タンク! ゴブリン、コボルトを押し返せ! リザードマンへは俺へ続け! オーク、トロールは多数で当たれ!!」

指示を出しながらも、迫ってくるゴブリンを一刀のもと、叩き伏せている。


そんなアランへとリザードマンがその手の剣を一気に投擲してきていた。

賢いリザードマンも居た者だ。

スタンピードで魔物の目はほとんど目の前しか見えていないのに、少しだけ知性を感じる目をしていた。


「アランさん──!」

「なっ──?!」

そんなアランの下へと降り立っては投擲された剣を弾いては、リザードマン目掛けて魔法を放つ。

先ほどみたいに巨大ではない。

周りに被害を出さないように抑えつつだ。

だが、それだけで充分だ。

そのリザードマン周辺を含めて、一気にリザードマン達は魔法で飛散した。


「マコト……なのか?!」

「それ以外に見えます?」

「はっ、その軽口はマコトだな。だが、悠長に話してる暇はない!」

「ですね。前は……リザードマンは僕が受け持ちます」

「……分かった。トロール、オークは俺らが受け持つ! お前ら! 死神のマコトが来たぞ! ゴブリン、コボルトやり次第、俺たちはトロール、オークだ! マコトの攻撃に巻き込まれたくなったからリザードマンには近づくな!!」

「「オオオオオオ──!!」」

一気に戦況が熱くなった気がする。

いや、実際に士気が上がったのだろう。

脳内マップの魔物の赤いドットが消える速度が確かに加速されていた。


「うおおおお──!!」

そのまま、反転してはオーク、トロールへと向かうアランを見つつ、リザードマン達へと振り返る。

彼らも同族を僕が一気に殺したのは把握したみたいだ。

剣に魔力を纏わせてはリザードマンの群れへと僕が飛び込んでいくのと彼らが僕へと殺到するのは同時だった。


リザードマンの攻撃が遅いわけじゃない。

僕が早いだけだ。

その剣筋を見切るのは簡単だ。

そのまま時には避け、時にはそのまま弾き返しつつ、リザードマンを叩き伏せていく。

そして、攻撃の手が足りないと思ってからは彼らの剣を拝借しては2刀の下、リザードマンを全滅させるのに、そんなに時間は掛からなかった。


「はぁ……」

「マコト、久し振りだな」

リザードマンの返り血を拭いつつ、振り返ると向こうもトロールやオークの返り血を拭っては手を上げて挨拶してくるアランが居た。


「本当にお久し振りです。まぁ、再開がこんなことになるとは考えてなかったですけれど……」

「まったく、マコトは時が経っても口調が固いのは変わらないんだな」

「まぁ、僕は僕ですから……」

「──良く王都から来てくれた。本当に助かった。ありがとう」

「……やめてください、僕とアランさんの仲じゃないですか」

「そっか……」

急に真面目な雰囲気になったと思ったら、しっかりと頭を下げては感謝を述べてくるアランに気恥ずかしさを感じてしまっては、すぐに返事を返してしまった。

でも、そうなのだ。

僕とアランの仲だ。

色々とルソーレの街では学ばせて貰っては助けて貰った。

多くの事をアランにも助けて貰った。

このくらいは助けることは僕にとっては当たり前なのだと思ったのだった。


「そうだ、ニコラ……いや、俺とケイトの子が産まれてな! いや、手紙で知ってるか? それがな凄い可愛くて──」

「ええ、本当に可愛かったですよ」

「そうだろう、そうだろう……ん?」

「はい?」

「お、おい、マコト? もう会ったのか?」

「え、えぇ……」

「い、いつだ?」

「いえ、マイナの宿亭から避難する所を……」

「ぶ、無事なんだな? ケイトは?」

「お二人とも無事だと思いますよ?」

「…………うおおおおお! ケイトぉぉ! ニコラぁぁぁ!! 今、お父さん行くからなぁぁぁ!!」

バシッと肩に手を掴まれた時には、1度拭った返り血が顔にビシャッと飛んできたが、それ以上にアランの決死の顔が凄くて何も言えなかった。

そのまま、アランは吠えつつ、最高速度でも出てるんじゃないかという速度で冒険者ギルド方面へと駆けていっていた。


「あぁ……アランさん変わっちまったよなぁ……」

「まぁ、あれが今のアランさんらしいっちゃ、らしいよな……」

うん、あれが……いや、親バカの片鱗はルソーレの街から出る時には既に出ていたが、あれ以上に進行していたらしい。

周りの冒険者の目や声、態度を見てみると凄い感じてしまったのだった。

ただ、僕自身もエルザ達を待たせている。

もう一度、顔の返り血を拭っては冒険者ギルドへと歩を進めるのだった。


「マコト──!」

僕の姿を見たエルザは形相を変えては走り出して飛び込んできた。


「大丈夫……?! 血が、血が、こんなに沢山……!」

「えっと……エルザ? 僕は大丈夫だから──それにこれは魔物の血……」

「え──?」

一瞬ポカンとした顔になってはムッとした表情になって……最後は安堵した表情になったエルザは再度、僕を抱き締めて来ていた。


「エルザ? ほら、汚れちゃうよ……」

「いいの……。心配させたマコトが悪いの──」

「はぁ……」

頭を撫でるのは血で手が汚れすぎだ。

エルザを汚す訳にも行かずにただただ、他の皆が僕に気付いては来るまでは大人しくエルザに抱き締められるのだった。


「魔法はやっぱり便利だね……」

「あぁ、そうだな」

「これでスタンピードは終わりなのか?」

そんな風に僕も含めて、ジャン、エドワード、マークと即席の魔法での湯浴みを行っては冒険者ギルドの臨時対策本部へと戻ってきていた。

女性陣はまだのようだが。

僕を視界に捉えたグラハム公爵は直ぐ様、自分へと頭を下げて来ていた。

それに合わせて騎士団、アラン含めても僕へと礼をしてきた。


「皆さん、急にどうしたのですか……」

「マコト殿、今回の助力……本当に心よりお礼を申し上げる」

「お、親父?」

「シッ、マーク今は静かに……」

ジャンが直ぐ様、口を開きかけたマークを止めていた。


「私からも礼を言わせてくれ。君が来てくれなかったら、騎士団に甚大な被害が出ていた」

「あぁ、俺もだ。ニコラの事、ありがとう。お前と会ってからの人生で一番お前に感謝をしている」

「……いえ、私の方こそ皆さんに間に合って良かったです」

そう、自分がいうと少しだけその場の空気は弛緩しては暖かなものへと変わる。


「すみません、遅くなりました……!」

そこにエルザとナタリーもちょうど戻ってきては、場の空気はもう一度引き締まるのだった。


「エルザ様も来られたので、改めて戦況を確認しよう。現状の報告はどうなっている?」

「騎士団の方は負傷者も居たが現状は復帰出来そうだ。修繕した門の方も今は魔力が回復したものから強化魔法を施している最中だ」

「衛兵の方は今は街内の警備に当たっている。魔物との対応に関しては今後は更に手強くなる際は……すまない、余り役には立てなさそうだ」

「冒険者ギルドの方は魔力切れで動けないものが多数出ている。今は休ませているが、再度動けるようになるまでは時間が掛かりそうだ。後は致命的に武器の磨耗が激しい」

「そうか……。やはり、色々と人員の不足と武器の磨耗、後は配給するための備蓄も……」

「マコト……マコトからは何か無いの?」

それぞれ、グラハム公爵へと騎士団長のアンドレ、衛兵長のエリック、ギルドマスターのアランが報告をした後に周りを見回してからはエルザは自分に何か無いのかと問い掛けて来た。


「……主要な人たちを呼んできて下さい。まとめて連絡したい事があります。後はギルドの前のスペースを開放してください」

「ん? あぁ、マコト殿が言うならば……皆、ギルド前の広場の整理と主要な者達を集めてくれ」

「マコト?」

「大丈夫」

「う、うん」

「マーク達も彼らを手伝って貰いたい」

「あぁ、分かった……!」

グラハム公爵の指示で皆が動き始めては僕も準備へと移る。

空間収納しては肥やしそうな色々な物を吐き出す時が来たのだろう。

それに費用は考えなくてもよい。

どのみち自分の今の資産は国家の資産にも匹敵するのは分かっているのだから。


「さて、良い話しと悪い話があります。そして、話の順番的には悪い話からさせて頂きます」

「ん? マコト? もう何か掴んでいるのか?」

「そうですね、とりあえずアランさん聞いて貰えたら」

「そうだな、すまない。話してくれ」

広場に主要な人たちが集まっては自分の話を聞こうとしてくれている。

まずは皆の気を引き締める目的もあって、敢えてアランが一役買ってくれたのだろう。

皆が引き締まったのを見ては僕へとウインクしてきた。

それに応えるように頷いては僕も話し始める。


「皆様、改めて集まって頂きありがとうございます。そして、現状分かっている事をお伝えします。スタンピードの予測は現状永続的にある存在を対応しない限り続くものと思われます」

ザワザワと一気に、周囲が動揺が走るが同じくある存在って何かと問い掛ける声も幾つか上がる。

「ある存在……動揺しないで聞いてください。あれは見る限りはドラゴンゾンビだと思われます」

「ドラゴン?!」

「ま、待て……ドラゴンだって?! なんで、そんなものが……」

「いや、それにゾンビだって?」

「マコト殿!? そうなるとスタンピードの原因はドラゴンゾンビの生み出す瘴気だと言いたいのかね?!」

「はい。そして、ドラゴンゾンビをどうにかしない限りはドラゴンゾンビの魔力が尽きない限りはスタンピードは永続的に続くと思います」

「おい、待てよ……ドラゴンは……魔力は無尽蔵じゃないのか?」

「いや、だがゾンビだろ?」

「ばか! それでもドラゴンだ……ドラゴンなんて神話や伝承でしか伝え聞いた事が無いぞ……」

いや、分かる。

ドラゴンなんて、普通に目にかかれるものじゃない。

そもそも、ドラゴン……いや、古くより居るそれらは世界のバランスを司る調停者にも近い。

それがゾンビに……それにドラゴンだと何故分かったと言える。

僕の場合は全知全能があるから分かったと言えるが、目の前の皆にはまことしやかに聞こえるだろう。

けれども、現状がそれを現実への認識に押し上げてるに近い。


「そして、次のスタンピードは目測と魔物の進行する早さから早くても明日の第1の鐘、もしくは第2の鐘の際には到達すると思います」

第1の鐘……前世では朝の6時、第2は12時頃だ。

自分の話を聞いてはまた同じくらい動揺が広がる。


「終わりだ……」

そんな声も聞こえてくる。


「そして、これが現状の悪い話です」

「マコト? 良い話はなんだ?」

アランさんの問い掛けに頷いては口を開くことにする。


「良い話の1つ目は僕のものを皆さんに提供します。有効活用して貰えたら助かります」

何を言っているんだ……?

あの子のもの?

そんな声が重ねて、聞こえてくる。


とりあえず、広場の整理されたスペースに歩いて、移動しては食料品、回復薬、武器防具と……分けては一気に空間収納にしまい込んでいたものを吐き出していく。

一気に収納区間のしまい込んでいたものを吐き出したので、全知全能にてリストアップしていた項目がどんどん綺麗に片付いていく。

そして、それを見ている周りの者達の目は驚愕と人によっては腰を抜かしている者も居た。

まぁ、これで現状の物資の問題については片付いただろう。

魔力切れも解消されるはずだ。


「スタンピードへは物資をありったけ使って良いので対応してください。城壁を更に強固にして、魔法にて攻撃を……! 魔力酔いにだけ注意して、どうしても必要な際はどんどん武器を消耗して良いので事に当たって下さい」

魔力酔いは回復薬でどんどん魔力を底上げしは使い潰した際に起こる症状だ。

まぁ、休み休み魔法を放てば大丈夫だろう。

それに先ほどの動揺はある程度は沈静化しては、逆に運用方法を考え始めている人もチラホラ居る。


「そして、良い話の2つ目はドラゴンゾンビの対応は私がします」

「マコト……? 何を言っているの?」

「そのままだよ、エルザ」

「ま、待って……私はマコトを死なせに来たんじゃないの! ダメ! 行ってはダメ! 王族としてそれは許可しない!」

「うん、そう言うと思った。けれども、僕を止められる人も今はここには居ないし、ここじゃなくても止められる人は居ないよ。元々、何とかしようと来ていたから」

「マコト……? お前……何言って」

「マーク、ちゃんと親父さんを支えろよ。皆も、ここまでちゃんと来させる目的は果たせて良かった。暫くは持つから、僕が戻るまでは死ぬなよ?」

「マコト? ダメ……ダメ! そ、そう! 守護者の責任は?!」

「ごめんね、エルザ。クリスさん……居ますね。彼女を……エルザをお願いします」

「良いの──?」

「はい、お願いします」

「ま、待って……ねぇ、マコト……? マコト! マコト! マコト──!!」

「少しだけのお別れだから……大丈夫。行ってくるね」

ポンッと、両手を騎士団の第3騎士団の隊長……クリスさんに押さえられてるエルザの頭に軽く置いては撫でたらドラゴンゾンビの方へと身体を転じさせる。

グラハム公爵、アラン、アンドレ、エリックにも頷いては挨拶を返す。

色々と話してる時間はない。

今は時が待ってくれる状況では無いのだから。


イヤァァァァァ──!!

エルザの悲痛な悲鳴が聞こえる。

あんな大声をエルザは出したことはあっただろうか。

胸の痛みは無いとは言わない。

その場から飛び立ってはドラゴンゾンビへと向かう中で距離を開けて──向こうからは見えないだろうと思う距離で少しだけ振り返ってしまった。

取り乱しては静止の効かないエルザにクリスが手で気絶させてるところだった。


ごめん。


けれども、ただ助けたいだけではない。

僕も人間……いや、半神だけれども欲はある。

それは功績だ。

彼女の願いの自由だけれども、僕も彼女と居たい。

なら、立ち向かうべきだ。

その相手がこんなに強大だとは想像しなかったけれども。

半神か──。

けれども、ドラゴン自体も存在自体は神みたいなものとして扱われてはいる。

その神性はどの程度かは計れないけれども、似たような存在かも知れない。

ドラゴンに近付いていく中で自分のステータスを改めて確認してみる。


《名前》天神アマガミ マコト

《種族》人?(半神)

《年齢》16

《レベル》33→100(Limit)→★101(LimitOver)

《extraskill》全知全能 Lv8

《extraskill》魔法創造 Lv1→2

《extraskill》身体超越 Lv1→2

《extraskill》絶対攻守 Lv1→2

《extraskill》迷宮創造 Lv1→2

《extraskill》武装錬金 Lv1※new

《体力》∞→∞(error)

《魔力》∞→∞(error)

《魔力コントロール》Lv10★

《身体強化》Lv10★

《思考加速》Lv10★

《土魔法》Lv10★

《水魔法》Lv10★

《火魔法》Lv10★

《風魔法》Lv10★

《光魔法》Lv10★

《闇魔法》Lv10★

《聖魔法》Lv10★

《無属性魔法》Lv10★

《剣技》Lv10★

《槍技》Lv7→10★

《弓技》Lv7→10★

《斧技》Lv7→10★

《鎚技》Lv7→10★

《盾術》Lv7→10★

《体術》Lv10★

《体力回復上昇》Lv10★

《魔力回復上昇》Lv10★

《攻撃力上昇》Lv10★

《防御力上昇》Lv10★

《鑑定/解析》Lv10★

《空間転移》Lv7→9

《隠蔽》Lv10★

《収納》Lv8→9

《付与術》Lv7→10★

《錬金術》Lv10★


レベルアップの通知が途中で止まったと思ったら……LimitOver? 101? それに種族表記が遂に人? になってる……。

これはもう……人を卒業しちゃったかな?

後は付与術と各種格闘系統のスキルが上限の影響か新しいextraskillを得てるな……。


武装錬金……。

えっと、なんだって全ての武装を使いこなせては全ての武装の概念を錬金しては産み出せる?

……これはまた世界の概念を歪ませるskillだな。

神剣と言われるものも必要なら生み出せるし、扱えるという事か……。


うん、とりあえず今のステータスの確認はこれで良いだろう。

全知全能さんからも伝わってくる。

まるで気を引き締めろと言っているようだ。

ドラゴンゾンビの領域に入ったみたいだ。

急に空気が一気に濃厚な瘴気に覆われていく。


「向こうも分かってるって事か。こっちの実力が……」

つい、言葉にしてしまったが……うん、気を引き締めよう。


グァァァア──!!

咆哮……いや、違う。

瘴気の魔法のブレスだ。

同時に瘴気を這わせた衝撃波をその爪で空間を引き裂きながら放ってくる。


チッ──!

厄介なのはただの瘴気じゃなく、神性も纏っている点だろう。

空間を震わせては避けた攻撃が背後で爆発を起こす。


むせ返るような魔力が空間を包んでは行き場の無い魔力が更に誘爆を起こす。

周りの魔物はゾンビ・スケルトン系が主だっていた。

いや、普通の生物や魔物も居たのだろう。

けれども、ドラゴンゾンビの瘴気に当てられては腐敗してしまったようだ。

居るだけでも災害級ということだ。

まずは挨拶──と剣に魔力を這わせては斬撃を飛ばしてみるがドラゴンゾンビの骨に弾かれては消失していく。


ッ──!

面倒な。

身体全体が既に瘴気と神性を纏っているということか。

見てくれは腐敗してはボロボロだけれども、姿と内容は違って、そこには一分の隙も無いと来た。


ガァアア──!!

そして、1番の厄介は無尽蔵に思われる魔力だ。

今も絶え間なくブレスと爪での斬撃が襲ってくる。

ギリギリ躱しては弾いて、肉薄しようとすると身体全体から濃い瘴気を爆発させては周辺さえも誘爆して近付けさせないようにする徹底ぶりだ。


「こんなのどこから出てきたんだ?」

…………。

ダメか、全知全能さんでも答えが今は返ってこない。

いや、魔力が足りないとかでは無さそうだ。

これは情報が足りない?

全知全能なのに?

…………。

なんだか、全知全能さんが動揺してるように感じる。

けれども、今はそれを推し計る時間は無さそうだ。

完全に僕を有害な敵と判定したドラゴンゾンビは僕を狙って来ていた。


──…………──。

「なんだ……?」

ドラゴンゾンビがブレスを止めてはそのアギトをカタカタ震わせては……何かを……唱えて?


「ッ──上か!」

闇の終焉──神話の終わり……その重苦にもがき蠢き、彼の者を終焉へと招け!


ガァアア(MYTHOLOGY DARKNESS )──!


「神話級の魔法……!」

自分の天地に巨大な魔方陣が展開されては一気に闇の往来が始まっては重力場が形成され、自分を磨り潰そうと魔法が顕現する。


「──ッ!」

耐え……られ、る。

けれども、初めて全力の障壁を展開してはゴッソリと魔力を持っていかれる感覚が僕を襲う。


けれども、勝機も同じく見えた。

ただの魔法じゃない……神話級だ。

ポンポンと連打出来るものじゃない。

ドラゴンゾンビの身体周辺の魔力は剥がれては、やつの根幹を成す、竜核の位置もその魔力の供給から把握できたし、何よりも一気に使った魔力運用に身体が追い付かなかったのか、やつの身体がボトボトと地面に落ちていっては竜核自体を露出していた。


「……ガァアア!!」

「そっちも前回か……なら、これはお前と僕の……我慢比べだ!!」


やつの魔法がまた一段と重くなった。

この一撃に賭けるらしい。

そして、僕も同じだ。

これを耐えきれば──終わった一瞬だ。

そこに全力を込めて……やつの竜核を破壊する。


ガァアア──!!

あぁぁぁ──!!

どのくらい、魔力が迸っては一帯を灰塵に帰す程に耐えきってはやつはこちらを仕留めようとしたのかは分からない。

けれども、物事には終わりがあるのは道理だ。


──…………。

「今ッ──!!」

全てが等しく静寂になっていた。

シュン──と僕の剣の一振の音が世界を震わせていた。

最初の一太刀目はやつの神話級魔法を天地を両断しては砕いた。

そのまま、一気にやつに接近しては二太刀目はドラゴンゾンビの竜核を刺し貫いた。


パキンッ──。

と、小気味良い音が空間を支配した。


────。

そして、ドラゴンゾンビがサラサラと魔力の粒子になっては世界に還元されていく。

僕の手元にはやつの巨大な竜核が残っていた。


【世界調律者を介錯かいしゃくしました】

そう、全知全能から知らされた気がした。

世界調律者?

世界のバランス……釣り合いを取る者?


そして、手元に在った竜核が震えたように感じて手元に目を戻してみると淡く輝いてはスルスルと自分の手のひらから内側へと溶け込むように吸収されていってしまった。


レベルアップしました。

レベルアップ──。

レベル……。

世界の概念を更新しています……。


世界の概念を更新?

何を言って……。


《名前》天神アマガミ マコト

《種族》人?(半神)→★神(下級)※更新処理中

《称号》世界調律者※new 世界調停者※new

《年齢》16

《レベル》★101(LimitOver)→★150(下級Limit)※Over処理中

《extraskill》全知全能 Lv8

《extraskill》魔法創造 Lv2→3

《extraskill》身体超越 Lv2→3

《extraskill》絶対攻守 Lv2→3

《extraskill》迷宮創造 Lv2→3

《extraskill》武装錬金 Lv1※new→2

《extraskill》空間創造 Lv1※new

《体力》∞→∞(error)→∞※new

《魔力》∞→∞(error)→∞※new

《魔力コントロール》Lv10★

《身体強化》Lv10★

《思考加速》Lv10★

《土魔法》Lv10★

《水魔法》Lv10★

《火魔法》Lv10★

《風魔法》Lv10★

《光魔法》Lv10★

《闇魔法》Lv10★

《聖魔法》Lv10★

《無属性魔法》Lv10★

《剣技》Lv10★

《槍技》Lv10★

《弓技》Lv10★

《斧技》Lv10★

《鎚技》Lv10★

《盾術》Lv10★

《体術》Lv10★

《体力回復上昇》Lv10★

《魔力回復上昇》Lv10★

《攻撃力上昇》Lv10★

《防御力上昇》Lv10★

《鑑定/解析》Lv10★

《空間転移》Lv9→10★

《隠蔽》Lv10★

《収納》Lv9→10★

《付与術》Lv10★

《錬金術》Lv10★


んー……?

確認していた手が止まる。

何となく、空中に浮かんで見えるものだからスクロールしてる感覚で手を動かしていたけれども、うん、止まる。


うーん……?

「なんだ、これ……」

そう、なんだこれだ。

いやいや、確認していこう。

まずは人を卒業しては神になったらしい。

いや、原因は分かる。

先ほどの竜核だろう。

あの神性を吸収したことで変容……いや、変質……いや、やってしまったらしい。


それにオマケで称号も増えている。

世界の調律者? それに調停者? バランスを保ち、時には仲裁に入る者? あれか、堕ちたドラゴンを介錯した影響か?


そして、次はレベルだ。

Limit? 限界ということか? いや、下級のLimit……これは種族の下級とリンクしてると見るべきだ。

なら、更新処理中の下級から昇級したら、レベルの上限も開放されるということか。


「あっ、開放された」


《名前》天神アマガミ マコト

《種族》★神(下級)

※(下級)→(中級)へはレベルと素養を満たして下さい

《称号》世界調律者 世界調停者

《年齢》16

《レベル》★150

※現在~★200(中級Limit)Over条件は位階を満たして下さい

《extraskill》全知全能 Lv8

《extraskill》魔法創造 Lv2→3

《extraskill》身体超越 Lv2→3

《extraskill》絶対攻守 Lv2→3

《extraskill》迷宮創造 Lv2→3

《extraskill》武装錬金 Lv→2

《extraskill》空間創造 Lv1

《体力》∞

《魔力》∞

《魔力コントロール》Lv10★

《身体強化》Lv10★

《思考加速》Lv10★

《土魔法》Lv10★

《水魔法》Lv10★

《火魔法》Lv10★

《風魔法》Lv10★

《光魔法》Lv10★

《闇魔法》Lv10★

《聖魔法》Lv10★

《無属性魔法》Lv10★

《剣技》Lv10★

《槍技》Lv10★

《弓技》Lv10★

《斧技》Lv10★

《鎚技》Lv10★

《盾術》Lv10★

《体術》Lv10★

《体力回復上昇》Lv10★

《魔力回復上昇》Lv10★

《攻撃力上昇》Lv10★

《防御力上昇》Lv10★

《鑑定/解析》Lv10★

《空間転移》Lv10★

《隠蔽》Lv10★

《収納》Lv10★

《付与術》Lv10★

《錬金術》Lv10★


「これでハッキリした……」

レベルの上限は次は200か……。

でも、先ほど見た時は体力、魔力共に既に無限になっていた。

これがドラゴンの無尽蔵の魔力と言われてた所以か?

今は呼吸するように世界の魔力と、それに伴って世界に身体が一体化しているような気がする。

それならば、レベルアップは既に各種能力上げの為ではなく、これは徳を積むための過程だと見るべきか。

レベルアップとは経験値と言っているが、明確な命のやり取りだ。

殺生の果てに生命の糧がレベルアップ、そしてそれは成長と言っているに過ぎない。

いや、それ以外にも何かを修練することでもレベルは上がるから、一概にそれを基準に置くのも間違いか。


しかし……これは──。

下級→中級へはレベルと素養か。

素養は多分……extraskillを指しそうだ。

なら、これらを伸ばすのにも意味があるのだろう。


そんなextraskillでも新しいskillが生まれていた。

きっと、空間転移と収納がスキルレベルが上限に達して条件に達したのだろう。


・空間創造

空間に関する、すべての事象を創造出来る。


「ん……?」

それだけ? いや、待て……。

意識すると空間と把握しては認知している場所へと物を収納したり、飛ばしたり……いや、自分さえも転移出来るみたいだ。

何よりも迷宮創造と合わせると──。

いや、その可能性は今は置いておこう。


「もしかしたら……」

元のあの世界に──。


ズキンッ──ッ!!

ダメみたいだ。

いや、飛べそうではある。

むしろ、世界は自分が思っていた以上に広いらしい。

多次元世界というのか、並行世界ともいうのか。

世界は複雑らしい。

魔力が……いや、これは魔力の不足というよりはやはり、自分の記憶のロックが原因みたいだ。

これも今は置いておこう。


身体の疲労は不思議と回復している。

いや、世界と繋がっている感覚がするから、世界の魔力と神性をお裾分けして貰った感覚だ。

今は自身で生み出している魔力が世界に溶け込んでいる感覚がある。


「なるほど一は全、全は一とはよく言ったものだ」

この感覚がそれなのだろう。

今までの魔力の運用の感覚とは比べ物にならなさそうだ。

今も身体に感覚を落とし込んでいる最中だ。


「よし、今の自分自身の把握はここまでにしよう。今は状況把握だ」

これ以上の変化は今の僕には無さそうだ。

有っても困るというか、今でも溢れ返ってる位だ。

とりあえず、空間創造の応用だ。

意識を世界の魔力に溶かし込んでは繋げては今の状況下を確認していく。


「まずは──周辺」

意識を自分を中心にまずは広げていく。

この辺り一帯は先ほどの僕とドラゴンゾンビとの戦闘で灰塵になっている。

だけれども、まだ魔の森の生命力を感じられる。

これ程までの影響下なのに時間を掛ければ生態系すらも回復するのが視える。


「凄いな……魔の森は……でも、もう少し先、もっと先──」

周辺を越えてはルソーレの方面へ。

ルソーレと自分の立ち位置の中間地点にはまだ魔物が残っている。

スケルトン・ゾンビ系統はヤツが消えた影響か、消滅したようだ。

ルソーレの方は……。


「派手にドンパチを繰り広げてるみたいだ……」

鉄壁となった防壁からは止めどない魔法の雨が降り注いでいる。

後はありったけの矢も降り注いでいる。

魔法薬を多用しては見事に放っているみたいだ。

これなら、暫くは持つだろう。


「なら、周辺を……と思うけれど──ここまで来たら安全だろう。自分の目的の功績作りと行きますか」

身体に魔力も感覚も馴染んで来たと思う。

腕を軽く回しては肩の力を弛ませていき、座標を飛ばした視界から固定する。


「エルザ……目が凄いな……。自分のせいなのだけれども──」

座標はエルザだ。

目元が真っ赤で晴れ上がっている。

けれども、泣いてるだけじゃダメだと彼女本人も分かっているのだろう。

冒険者ギルドを中心とした四方への支援に奔走していた。


「1発……張り倒されるのは覚悟しないとかな」

そのまま空間転移を発現させる。

目の前が光に包まれたと思ったら、目の前に既にエルザが現れていた。


「ふぎゅっ──痛っ……い………?」

「あはは……エルザ、ただいま」

「──マコト?」

「…………」

ふぎゅっ──って、初めて聞く効果音を耳にしたように思う。

突然目の前に現れた僕に反応出来る訳なく、彼女は僕に突っ込んでいた。

頭を押さえている、エルザにただいまを伝えるとその背中はビクリっと動いては、震える面持ちで顔を上げては僕を見返してきていた。

その顔は魂が抜け落ちてるような顔で、いたたまれなくなった僕は反応を返すことが出来なかった。

けれども、彼女はそのまま僕の全身をペチペチと触れては最後に抱き締めて来ていた。


「え、エルザ……魔法薬が転がっているよ……」

「うるさい──」

「え、エルザ……ほら、皆が見ているよ……」

「うるさい、うるさい」

「悪かったよ……」

「────ばか」

彼女の抱えていた魔法薬は床に転がり落ちたままで、まだ四方へと支援に向かう人の往来は激しく、僕たちの抱き合っている状況は確かに目立っていた。


「マ、マコト……?」

「や、やぁ……?」

「お前……ドラゴンゾンビは……」

「大丈夫、それは片付いたから」

「本当か? 幽霊じゃないよな?」

ペタペタとそう言っては今度は自分を見つけたマークが走りよって来ては僕を触ってくる。


「ど、どうしたの? 何を騒いで……マコト?!」

あっ、ナタリーだ。

そっか、マークと一緒に動いていたのか。

けれども、ナタリーも驚きからマークと一緒に支援に出ようとしていた所なのだろう。

その手元から回復薬が転がってはその波紋はコロコロと周辺の人達にも伝播でんぱしていっては動揺が広がっていっていた。


「何を騒いでおるの……だ……?」

「あっ、公爵……」

「マ、マコト殿……!!」

あっ、公爵も同じパターンに入った。

これはずっと、俺のターン! に……。

暫く似たような状況が続いたが、とりあえず大きな混乱はなく、うん……驚きは広がったが冒険者ギルドへと一旦僕は公爵への報告もあり中に入れた。


「それでマコト殿、マコト殿の言っていたドラゴンゾンビは?」

「ドラゴンゾンビに関しては討伐を成功させました」

「なんと……」

「ただ、問題があるとしたら証明する竜核が手元には……いや」

うん? 僕の中に何かを感じる。

魔力じゃない、ずっと根底に形成された……。

内面に目を向けてみると、魔力を内包させている核を感じる。

これは僕の魔力の核? いや、それにしては──意識を広げてみると竜核に近い、いや核は核だ。

竜核とは神性さとその大きさから形容しているだけに過ぎないと全知全能のサポートの知識も入ってくる。

これなら、瘴気も多少加えたら同様のものが創れそうだ。

……っと、いうよりはこれは他言無用だろう。

核とは生命の根幹だ。

魂というものがあるならば、組み合わせて箱を作ればそれは生物として完成するともいえる。

それは神の御業の領域だ。


「大丈夫そうです。しっかりと回収できております。瘴気が多少内包されてしまっているので、今は僕の手元で浄化を試みています。神性さだけになれば、ここのルソーレの守りの要を再生するのに利用できると思います」

「良いのか? それはマコト殿のものではないのか?」

「良いのです。その為に私はここに来たのです」

「どこまで感謝を述べたら良いか……」

「すみません。それで公爵、今の戦況は……」

「あぁ、今手元に揃っている資料の通りだ。四方のスタンピードには現状耐えられている。ただし、回復薬と魔法薬を常時支援しながらで、その為に中心のここを拠点に奔走している最中だ」

「なるほど、だとしたら……後は……ここの部分の後続のスタンピードを抑えられたら僕たちの勝利です」

「……! ここでスタンピードは終わりなのかね?!」

「はい、後はもう一度のスタンピードを抑え込めたら終わります」

どよめきが周囲に広がっていくが、僕としては未だに僕を抱き締めては話さないエルザに動揺が走っていた。

マークとナタリーはこれはマコトの責任だからと言っては支援に向かってしまった。

周囲の人も触らぬ神に祟りなしでは無いけれども、僕に抱きついているエルザには触れないようにしているようだ。


「なので、僕も支援に向かうように致します」

「良いのか? 休まなくても……」

「大丈夫てす。無理は……えっと──しませんから」

「そうか、なら支援を頼む」

そう言って、現在の報告の中での支援の必要な場所へと向かっていく。

休まなくても……の部分はエルザの事なのかも知れない。

無理……というワードも今は気を付けないとかも知れない。

彼女の抱き締める力が強まったからだ。

無理に離すのは良くないのは僕にだって分かる。

だから──。


「エルザ、ちょっとごめんね」

「きゃっ……」

ヒョイっと、そのままエルザをお姫様抱っこすることにする。

そのまま支援へと駆け出す。


「僕が悪かったよ」

「……」

エルザの機嫌は暫くは直らなさそうだ。

けれども、少し前よりは暖かみは感じる。

とりあえず、今は支援だ。

支援という名の功績作りともいう。

四方にこれから奔走しては一気に迫りくるスタンピードの魔物を強烈な一撃で屠っていくことにする。


「すげぇ……」

「あれが人の出せる力なのか?」

「いや、でも、なんで女の子をお姫様抱っこしてるんだ?」

四方の魔物を殲滅した際にはそんな驚愕と疑問の声の両方が上がっていた。

身内の方からは僕の責任だと言われてしまったが。


「マコトも完璧じゃないんだな」

「アランさん、止めてください」

「ハハッ。そんな風にさせてしまったのなら、アレだ。責任を取らないとな」

「……!!」

「責任ってアランさん……」

「責任……責任──」

「え、エルザ……?」

次のスタンピードが最後なのは皆に連絡が言っていた。

まだ暫くは時間があるので、皆で食事をとっていた際に一連の話を聞いたアランが多少は真剣身を帯びた形で話して来ていたが、責任という言葉に遂に離れてくれたけれどもピッタリとくっついては離れないエルザから迫りくるような……いや、迫ってきてはじっと見つめられてしまっていた。


「マコト……」

「え、エルザ?」

「責任……」

「────はい」

「……!!」

「お幸せに……俺はニコラとケイトの所に戻るわ」

「アランさん待っ……」

「マコト! 責任取ってくれるの?! 本当? 嘘じゃないよね? ね?」

「あ、あぁ……」

ちょっと、エルザの雰囲気が重……いや、自分のせいなのだけれども。

それに去っていくアランの横顔はしてやったりの表情だったし、少し目線を遠くにすると、マーク達皆が居ては僕を見ては口パクでお幸せにと言っては離れていってしまった。


これは……嵌められた?!

いや、元からエルザとは収まるところに収まれればと思っていた節はあったけれども。

僕はまだ一介の冒険者……兼、守護者で……いや、今回の功績があれば……いや。


「うふふ~」

「……はぁ」

僕に顔を埋もれさせては頬をだらしなく弛みきってるエルザを見ていたら、悩んでいた事が飛んでいってしまった。

とりあえず、頭を撫でては自分の表情もだらしなく弛みきっているのだろうと確信してしまった。

それはまた、マーク達が今度は微笑ましそうに物陰から僕とエルザを覗き込んでいたからだ。


「もう、どうにでもなれ。なんでも、かかってこいだ」

「……?」

エルザが不思議そうな表情を向けてくるが、幸せ感で思考が弛んでるのかも知れない。

自分も自分だ。

神となったのに、その実態は何も変わらないんだなと思うのだった。


そして、ひと眠りしての朝。


「おはよ! マコト!」

「あ、あぁ……」

昨日とは打って変わって健やかな? いや、晴れやかな表情と態度のエルザが居た。

けれども、すぐに抱きついてくる辺りスキンシップの割合は進化したというべきだろう。

前までは大人っぽさを無理やり貼り付けていた印象だったけれども、年相応になったと思う。

王女としてそれはどうなのか? と言われたら言葉に詰まってしまうけれども、使い分けだろうと思う。

ゆっくりと背を伸ばしては、仮眠施設からエルザと一緒に冒険者ギルドを目指す。


「今日が最後のスタンピードだ! これで今日までの地獄は終わる!」

「あぁ、悪夢は終わるもんだ」

「へへっ、俺、これ生き延びたら、愛するあの人に告白するんだ……」

「お前ッ! それ以上は話すな!」

「武器防具たぶん……ヨシッ!」

何やら、死亡フラグやら現場猫が見え隠れしたが大丈夫だろう。

広場に集まった皆の士気は良さそうだ。


「皆、これが最後のスタンピードになる! 報酬・褒賞は終わり次第、皆に贈ることをこのグラハム・エバンスが約束する! なので、皆生きるんだ! 生きてまた会おう!」

「「おおおお!」」

公爵の言葉に士気は更に高まっては皆、指示された四方に散っていく。

長かったスタンピードも今日で終わる。


「汝は知るだろう、幾重なりし讚美の歌は今顕現しては地上にその奇跡を降り注ぐだろう──セラフィック・ハーモニー!!」


神の奇跡……そう見えはするだろう。

天空からは光の柱が降り注いでは地上の魔だけを払っていく聖系統の魔法に見えるだろう。

まぁ、うん。

詠唱句は雰囲気の為でもあるが、その実はextraskillの魔法創造の恩恵だ。

それに、これは聖魔法というよりは神性系統の魔法の分類だ。

神性系統なんて、存在はしない。

そもそも神性を纏う存在が神なのだから。

滅多に居ないというのが正解だろう。

ただ、地上の魔物には効果がてきめんで、視覚効果もてきめんだ。

人によっては発現させた自分を崇拝するように見てきている人もチラホラ居る。

生き延びた魔物も居るが、その内包した瘴気にダメージを受けているのだ。

能力面から見ても大幅なダウンだろう。

人には逆に祝福を与えている。

多少の傷は治すし、魔力をジワジワと高めている。

魔術師の方はいち早く気付いたのか驚いている者が、こちらもチラホラと居た。

そんな感じで、エルザを伴っては四方へと馳せ参じては巨大魔法を放っていく。

魔力? 問題は無いのが分かった。

やはり、自身の生み出す魔量も周囲の自然の魔力も問題なく息をするように変換等気にすることなく使えるようだ。


全員に見せ付けるように魔法を全域に放っては後はもう掃討戦になったスタンピードの行く先を見据えた。

最後は皆に譲るべきだ。

各々の褒賞や報酬もあるのだ。

これからの生活の建て直しにも必要だろう。

魔物自体は消滅している訳ではない。

かなり衰弱しては弱っているだけだ。

皆、どんどんと狩り尽くしている。

そして、お昼を過ぎる頃には遂にスタンピードの終了をグラハム公爵が告げるのだった。


「生き残った……」

「うおおおお!」

「あははッ!」

夕方には僕の提供した食材を用いては盛大な宴を開いた。

そして、その裏の意味合いは弔いの意味もある。

人によっては酒瓶を持っては亡き人に捧げていた。


「マコト……!」

「お、お兄ちゃん……」

「やぁ」

「……! スーザン、マイナ……アイクさん」

「お兄ちゃん……!」

マイナはトテトテと走ってきては僕に抱きついてきていた。

頭を撫でながら、顔を上げてはスーザンとアイクの表情を見る。


「大きくなったね。4年でだいぶ大人っぽくなったね。って、出会った頃からマコトは大人っぽかったかな?」

「いえ、そんなことは……」

「あぁ……マコト……! ありがとう」

「す、スーザン……く、苦し……」

スーザンの愛は今も重かった。

でも、心地よい。

思いっきり抱き締められては暫くして放して貰う。


「? この人はだーれ?」

「えっと、私はエルザ……お、お兄さんのその──こ、恋び……ううん、奥さんかな」

「!! マコトお兄ちゃんケッコンしてるの?!」

「え? あ、えーと……こ、これから、かな?」

否定は……出来ない。

いや、エルザの目がスゥーと細くなったから、急いで言葉を話すと、どうやら正解? だったらしい。

嬉しそうに微笑んでくれていた。


「あら、マコトは敷かれるタイプだったの?」

「そうなると僕と同じかな?」

「あら、アイクったら……」

「ははは!」

う、うーん?

反応に困るような。

そのままマイナは僕の近くに来ていた、マーク達にも挨拶をしては馴染んでいっていた。

人付き合いの良さは両親譲りなのかな?


「えっと、改めて……そのお、お久しぶ……ううん、ただいま」

「ふふ、おかえりなさい」

「あぁ、お帰りマコト。それに戻ってくる時に奥さんを連れてくるなんてやるじゃないか」

「なっ……」

「ふふ、積もる話しもあるだろうから向こうで聞きたいわね」

「そうだね、奥さんの馴れ初めも、ね」

「あはは……」

これは……腹を括るしかないか。

エルザもお誘いを受けてはスーザンとアイクにルソーレの街を離れてからの話を始めた。


時々、小話も交えながらだけれども朝までは長い。

途中でマイナを連れたマーク達も合流しては僕の話しは続いていく。


「イタッ」

「全くマコトは女心を分かってないわ!」

「そうだね、流石にそれはダメだね」

「……すみません」

そして、時たまお説教モードに入るのだが。

流石にドラゴンゾンビの際にエルザを泣かせた話しは怒られてしまった。

いや、もっとやりようはあったとは自分でも思うけれども……うん、言い訳はよそう。


「マコトはあれだ、思わせ振りが凄いんですよ!」

「そうそう、大切な事や大事なことは隠してる時が多くて」

「マコトって、どんな感じだったのですか?」

エルザと責任を取るの話しになった後は僕の話の根掘り葉掘りだ。

マーク、ジャン、エドワードが少々躍起になっては僕の事をスーザンとアイクに聞いてきていた。


「マコトは昔から何でも知ってたからなぁ……」

「そうね、私たちも救われてたばかりだから」

「おー、マコト! ここに居たか」

「おっ、アラン!」

「それにケイトも……!」

「無事そうね」

「そっちもね、ケイト」

そして、更にアランとケイトも合流……ニコラも居たけれども、ケイトの腕の中で眠りに就いていた。

マイナも途中からはスーザンの腕の中で眠っていた。

解体親分のサムは早速魔物の解体を急ピッチで始めてるようだ。

まぁ、鮮度や劣化は品質に関わるからな……。


その後は衛兵長のエリックに衛兵のボブ……。

そして、騎士団の団長のアンドレに……クリスは……。


「えっ? エルザ? 本当に?」

「う、うん……」

「……」

カシャンとクリスの手元からグラスが落ちていた。


「先を越されちゃったな、クリス隊長」

「まぁ、最近は嘆いていたからな」

「クリス隊長は理想が高いからなぁ……」

「おい、お前ら……聞こえてたら殺され……ぁ」

「あなた達~? ねぇ、誰の事を楽しそうに話してるのかしら? ねぇ?」

「ばっ! 逃げろ!!」

「待ちなさい!」

隊員達だろう。

クリスはその拳に魔力を這わしては彼らを追いかけて行ってしまった。


まったく……本当に……。

でも、心はどこか暖かかった。

朝になる頃にはごろ寝してる人も多発しては宴は終わりを迎えるのだった。


そして、ルソーレの街の復興は早くも始まった。

幸いだったのは街中の方の被害は少なかった事だ。

城壁の修繕の方が主に。

後は街道の整備や物資の方が復興の必要なものになっていた。

そして、物資に関してはそれから1週間後にルソーレの街に急ピッチで整備された街道を通してやってきたのだった。


「郵便でーす!」

「えっと、これは……マコト? 宛なのかしら? マコトー?」

「ん? どうしたのスーザン?」

「これはマコト宛よね?」

「えっと……ノルトメ商会のマーク……僕宛かな」

そう言って、郵便を受け取る。

うん、マーク達含めて僕たちはマイナの宿亭にお世話になっている。

グラハム公爵は今は領に戻られては公務に邁進まいしんしている最中だ。


「とりあえず、中身を確認しないとかな……」

中を開こうとしたけれども、細工が施されていた。

各種の魔法をそれぞれ順番通りに流し込む形だ。

んー? やけに盗難防止の罠が多いような?

各種と言ったが全属性だから、ほぼ解除可能なのは僕だけだろう。

これは何かあるかも知れないな。


「便箋? それと証書?」

中を開いてみたら、便箋と証書が入っていた。

とりあえず、まずは便箋を手に取っては確認してみる。


──。

手紙は無事に届けられましたでしょうか?

はい、貴方様のゴードンで御座います。

証書の方も確認出来ますでしょうか?

これは内密な内容になりますので、確認する際は人払いの方をお願い致します。

では、早速本題に入らさせて頂きます。

今回、私めからご連絡させて頂いておりますが、その実……本来の宛はエルザ様で御座います。

今回の功績に関して王より褒賞及び、報酬のお話が上がっております。

そして、それに伴いマコト様の責任追求の件も上がっております。

同じく、褒賞と報酬の話しもあります。

責任に関しては監督責任……いえ、守護者としての立場上での話だと思います。

同封しております証書は王城へ入る際の通行証だと思って貰えたらとの事であります。

公式ではなく、非公式の謁見を先に行う為に、それの参加への証書になっております。

期日は1月は王城は見ております。

出来る限り時間を守って貰うようにお願い致します。

P.S

ここ、最近の目覚ましいノルトメ商会の発展の立役者……いえ、陰のフィクサーに関してまして王直属の諜報部隊はマコト様と確信しております。

マコト様の方からも特に隠し立てしなくても良いとの約束でしたので、大丈夫だとは思いますが……謁見の際にはその話題にも波及する可能性が充分あると見受けられます。

念のためですが、留意して頂けていますと助かります。

では、ここまで……。

手紙に関しましては処理の方をお手数お掛けしますがよろしくお願い致します。

証書の方も紛失はマコト様に限っては無いと思いますがお気をつけて下さいませ。

──。


「面倒な事になったな……いや、なるべくしてなったのか──腹を括る時かな」

パチンっと指を弾いたら、空気と結界を調整して編み出していた盗聴・盗視防止の薄い幕の魔法が弾ける。

一応、念の為だ。

まぁ、腹を括るのは後にも先にも、何にでも訪れることが確定している。

少し視線をずらせばマイナと仲良く楽しそうに話しているエルザが見えた。

うん、彼女の願いでもあり……何よりも自分の願いにもなっている。

とりあえず、まずは彼女に話しては皆へ話すかを決めて、王城に向かわないとだな。


「……って、話なんだけれども」

「…………ど、どうしよう?!」

「とりあえず、落ち着いて……ほら、深呼吸」

「──はぁ……すぅ……」

めっちゃ慌ててますやん。

あの後、2人で話したいことがあるからと元、自分が使っていた部屋に案内しては話してみたのだけれども、最初はただ自分に誘われて嬉しそうにノコノコと付いてきてきたエルザだったけれども、手紙を見せながらOHANASHIしたら、目に見えた動揺が始まっていた。


「か、覚悟は出来てるのよ?! で、でも、その……どうしようって……えっと、ううん。覚悟は! 覚悟は出来てるの!!」

「う、うん。大丈夫。ほら、大丈夫」

「う、うん。うん。うん」

これはすこーしだけ落ち着くのに時間が掛かりそうだと僕は確信しては、とりあえず相づちを打つこと少々……時間が経過してきたら、エルザもだいぶ落ち着いて来ていた。


「でも、情報が届くのが早すぎるわ」

「情報?」

「えぇ……。グラハム公爵が早馬で伝手を出したのかしら」

「それなら、確かに王都に連絡が入って、即座にある程度の対応をしてから文を出したのだとしたら、今手元にこれが届いてるのは違和感は無いかな」

「でも、お父様もお母様も何を考えて……」

「それは考えちゃうさ、本来なら僕たちは王立学校に居るのが普通だからね。それがスタンピードという情報規制されてる地で発見されてはその解決に大きな功績を残したとあれば……まぁ、こんなものも届くのがはずさ」

「確かにそうだけれども……」

「問題はマーク達にも伝えるか、どうするかかな。戻るにしても、結構急いで戻らないといけなくなりそうだね」

「私はここまで一緒に来たのだから、事情を説明して移動は先に私たちだけでも……いえ、でもやっぱり危ないから皆で帰るべきだと思う」

「そっか、確かに安全を考えるとそうなるか。わかった、皆に今晩知らせよう」

うん、皆にも伝えるべきだ。

とりあえずはエルザとの話しは終えるのだった──。


「で、俺たちに今話してるってこと?」

「うーん、そうなるかなぁー」

「はぁ、いや、王城に呼び出しを受けるのは予想は出来るよ」

「それに……」

それにと言いながらジャンはエルザをチラリと見やっていた。


「ま、一緒に戻るのは俺も賛成だな。ナタリーのことも安心して一緒に戻りたいからな」

「やだ、マークったら……」

「はぁ……また始まった。エドワードと僕も賛成で」

「あぁ、僕たちも戻らないといけないし、何よりも道中の安全はマコトが居ると安心出来るからね」

「わかった、なら皆で明日準備しては明後日には発とう」

「皆、ごめんね」

「へへっ、大丈夫大丈夫」

「あぁ、もうここまで一緒の仲だからね」

エルザの謝罪に皆はにかんでは応える。

とりあえず、王都には明後日戻ろう。

それまでには改めて、各自知り合いには挨拶をしたり用意したりをすることを話しては眠りに就くのだった。


「マコト、お前は本当に忙しいんだな」

「いえ、目の前のアランさんに言われても……」

「あっ、マコトお兄ちゃん……!」

「あなたー? 資料が……って、あらマコト?」

「ニコラもケイトさんもこんにちは」

「あー! 資料はそこのテーブルに置いておいてくれ。いや、マコト明日には発つみたいでな」

「え? マコトお兄ちゃん行っちゃうの?」

「ごめんね、また会いに来るからね。あっ、そうだ。僕からのプレゼントのネックレス……はあるかな?」

「うん、これ?」

「そうそう、これこれ。ちょっとだけ失礼するよ」

マイナにも昨日の夜に付与したけれども、ペンダントを手に取っては魔力を這わしては効果を付随させていく。

効果は守護の指輪Sと似たようなものだ。

任意の対象を強い想いが発露した際に護る効果を足した。


「うん、これでよし」

「何かを付与したのか?」

「うーん、おまじないかな?」

「そ、そうか。まぁ、マコトなら悪いようにはしないか」

ニッコリと微笑んでやり過ごす。

効果なんて話したら、大変なことになってしまう。

喉から手が欲しくなる人なんて多く居るような効果だ。

この子達が護られ、その子の大切な人が護られるようになれば僕には充分だ。


「そう言えば、街周辺の調査の人材は大丈夫そうですか?」

「あぁ、その件は今王都の方やギルド本部、グラハム公爵も検討してくれていてな、目処は立ちそうだ」

「良かった」

「ま、俺たちがマコトに依存しすぎていただけだ。気にすること無い」

「いえ、そんなことは……」

「ははは! まぁ、まだ挨拶するところあるんだろう?  こっちは大丈夫だから、行ってこい」

「分かりました。アランさん、何かあればいつでも文を出してください」

「あぁ、お前の方もなマコト」

「はい!」

冒険者ギルドの雰囲気は戻った際は作戦本部として機能していたから、要所要所では気付かなかったけれども、だいぶ育児する人に向けてサポートが厚くなっているようだ。

所々に育児サポートの施設や部屋がある。

まぁ、確実にケイトさんの為にアランさんが精力的に動いたのだろうなと思う。

受付の方も出戻りの主婦の方も多いし、子供も多い。

強面の冒険者も子供をあやしてはニヘラ顔になっていたりもして、不思議空間が生まれていた。


「これも時代なのかな、後は……騎士団の方か」

そんなに多くの知り合い……は居ることは無いのかも知れない。

ノルトメ商会はゴードンはもう王都の方だし……後は騎士団位だ。


「マコト様!」

「あぁ、大丈夫。頭をあげて、僕はそんな身分では無いから」

「いえ、あなたは私たちの命の恩人でもあります!」

「あはは……えっと、アンドレさんか、クリスさんは……」

「おっ! マコトじゃねぇか!」

「あれ? エリックさん? ……と、ボブさん?」

「よっ!」

「なんで、衛兵の方も……」

「いや、門の修繕で場所も無くてな。それに今はお互いに場所を決めてパトロールも臨時でやってるんだ」

「な、なるほど」

「で、どうしたんだ? アンドレさんは居るが、クリスさんはエルザ様とお取り込み中だぞ?」

「あっ、エルザも来てるのですか?」

「あぁ、少し前に見かけたぞ」

「いえ、明日には発つので挨拶周りを」

「えっ! 明日にはマコト様出ちゃうのですか?!」

「あはは……」

入り口を守っていた騎士の1人がガックリと肩を落としてるが、もう一人が慰めるように肩を叩いていた。


「そっか、マコト出ちゃうのか」

「明日ですか……マコト殿は忙しい身ですね」

「アランさんにも言われました」

「とりあえず、気をつけてと俺からは言えないわな」

「私からも同じくなってしまいますが」

「マコト殿!」

バンッとアンドレとエリックと話していたら、クリスが盛大に扉を開けては登場してきた。


「──?!」

「マコト殿……! お気をつけ下さい!」

「は、はい……?」

「え、えっと……」

クリスの後ろを見ると手をアワアワしてるエルザが見えた。

なるほど、ある程度事情を話しちゃったと見た。


「クリスさん、落ち着いてください。ある程度知っちゃったのはクリスさん位で周りは分かりませんから。そして、大丈夫ですよ。私も覚悟は出来ておりますので」

「────よし」

バシッと顔を押さえられてはジーと見られては何故か許可を出された?!


「取り乱しちゃって、ごめんなさい。でも、そうよねマコト君なら大丈夫よね」

「あはは……」

君じゃなく、殿だったから呼び方にも驚いたけれども、だいぶクリスも焦っていたのだろう。

クリスも落ち着いたら、改めてエルザも交えては明日発つのを報告するのだった。


「ほら、マイナ……?」

「……」

「あはは……お兄ちゃん子だな」

「アイクもほら、笑ってないで」

「大丈夫だよ、スーザン。マイナは聡い子だよ。ちゃんと分かっているから、今は気持ちを整理してるんだよ」

「まぁ、私も分かるけれども……」

「お兄ちゃん……」

「また、会えるよ」

「……本当?」

「うん、本当だよ」

「……もし、来なかったら」

「ん?」

「マイナがお兄ちゃんに会いに行くからね」

「……分かった」

強い覚悟を持った言葉だった。

頭を撫でたら、ギュッとしては離さなかった身体を離してくれた。

けれども、上げた顔は真剣な顔で子供でも意思を宿った目を見ては、少しながら僕も心が揺り動かされてしまった。


「では、行ってきます」

「あぁ、マコト……! 気をつけて!」

「いつでも、また帰ってきなさい」

「お兄ちゃん……」

皆は既に別れの挨拶を済ませては冒険者ギルドが用意してくれた馬車に居る。

荷物はノルトメ商会を使わせて貰った。

ゴードンの息が掛かっているので融通が利いたのも大きかった。


「皆、乗り込んだかな?」

「あぁ!」

「はい!」

「バッチリだよー」

「では、王都に向けて行くよ!」

パシンッと軽く鞭を入れると、馬も一歩一歩と進んでくれる。

ある程度の街道の安全も今は回復してるはずだ。

ただ、道中は戻ってくる人等の往来が激しいから気を付けるようにとは情報は貰っている。

だが、余り時間が無いのも確かだ。

少しずつ速度を上げながら王都へと進むのだった。


「や、やっと……」

「着いた……」

「あぁ……」

「お、お尻が……」

「ほら、エルザ……淑女がお尻とか言わないの」

「でも、マコト~」

うん、まぁ、皆こうなるのは仕方なくもあるか。


人の出戻りが激しいということは宿泊施設は全て埋まっていたのだ。

逆に安全な街道脇で野宿する人や、それ目当てで商魂逞しい人は商売をしている人も居たくらいだ。

まぁ、しっかり休める訳もなく、やっと着いた際には皆、見事にダウンしている状況だ。


「ほら、皆……注目浴びる前に……」

それぞれの家の使用人が駆け付けては皆を助けている。

ま、皆大丈夫だろう。


「ほら、エルザも行こっか」

「うぅ……」

「ほら、手を貸して」

「ありがとう……」

おぶる訳にも行かないし、人目があるところでは手を支えては移動を始める。

馬車は馬を労っては王立学校の職員に手渡し、後日、ギルドに依頼を出しては戻して貰うように手配した。


「や、やっとお家だぁ……」

「ふふ、何か飲む?」

「うん、冷たい……ミルクティーがいい」

「はいはい」

早速、寮に着いたら、椅子に身体を預けてはポンポンと靴を脱いではエルザはその身体をぐったりとさせていた。

まぁ、お疲れになるだろう。

身体も心も今回は今までの人生の中で濃密なはずだ。


「はい、どうぞ……」

「おいしぃ……」

「良かった良かった」

「頭も撫でてー」

「甘えん坊さんだね」

撫で撫で……と。

飲み終わっては撫でていたら、寝息が聞こえてくる。

ブランケットを彼女に掛けては、起こさないようにしつつ、荷解きと部屋の掃除をすることにする。

王城へは……数日、日があるけれども。

僕たちが戻ったのは既に連絡は言っているだろう。

王都に入った瞬間には諜報員だろう人達の視線を感じたから、早速向こうも準備に入っているだろう。

こっちも準備というよりは休息は必要だろう。

うん、ご飯を作ったらエルザを起こしては入浴させて横にさせないとかな。

ググッと背を伸ばしたら、改めて僕は動き始めるのだった。


「ど、どうかな?」

「うーん、もう少し……帽子でも被ろうか?」

「に、似合う?」

「うん、可愛いよ」

「えへへ」

朝はゆっくり過ごしては第2の鐘がそろそろ鳴る頃には王城へ赴く為の用意をエルザとしていた。

帽子は……うん、変装の一貫だ。

これはお忍びである。

まぁ、見る人にとってはバレバレだけれども──まぁ、今はこれでいい。


「さ、行こうか」

「うん」

扉を開けては彼女をエスコートして、僕とエルザは王城へと向かう。


「えっと……」

「……彼女だね」

「え? でも、そっちは裏口よ?」

「うん、でもこっちかな。あの人の雰囲気が僕たちを待ってるみたいだから」

「あっ、ちょっと──」

「大丈夫、大丈夫」

王城前では入り口にはいつもの騎士の門番が居たが、僕は僕たちが近付いたら、軽く極微量な魔力を放って知らせてきた裏口で僕たちを待っていたような諜報員がふんした使用人に近付いていく。


「お待ちしておりました。気付いて頂けて助かります」

「そりゃぁ、まぁ……うん、気付くよ」

「え? 何が?」

「ふふ、エルザ様にはまだ早いようですね」

「いや、誰しも気付けたら、この国は強者ばかりになっちゃうよ」

「確かに、それはマコト様の言う通りですね。えっと……一応、証書の確認をお願い致します」

「こちらでどうでしょうか?」

「お確かめ致します」

僕が差し出した証書を大切に傷付けないように受け取っては魔力を這わしては合っているか見ているようだ。

微細な魔法を流しては署名された所を確認してるみたいで、それが証明確認の方法らしい。


「ええ、確認が取れました。こちら、お返し致します。案内致しますので、こちらの中でお待ちを」

そう言っては裏口を開けては小さな待機室に案内してくれて、使用人に扮した彼女は去っていってしまう。


「大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だと思うよ。彼女も諜報員の1人みたいだし」

「……全然分からなかった」

「あはは……何でも分かっちゃうなら、諜報員として泣けちゃうから、騙されて貰った方が向こうは安心するとは思うよ?」

「でも、マコトは分かるのでしょ?」

「あはは……」

まぁ、僕の場合は随時脳内で周りの状況も見えているから、身分を偽るとかの前に気配を隠して忍ぶことすら無理な訳で。


「で、カトリーヌさんはいつ案内を始めてくれるのかな?」

「…………」

「え? カトリーヌ?」

「──はぁ、いつからお気付きで?」

「まぁ、うーん秘密かな?」

「暫く見えない間に更に鋭くなったのでは?」

「お褒めの言葉として預かるよ」

「えぇ? どうして、そんな所に?!」

「エルザ様もお久し振りです」

僕が指摘すると壁と気配を忍ばせては同化していたカトリーヌが現れた。

なんだか、多少見破られた事にショックを受けたようでシュンとしているのが印象的だ。


「驚かせようと思ったのですが、まだまだ腕を上げないとですね。えっと……お待ちを……」

コンコンと扉を叩かれてはカトリーヌが出ると先ほど案内をしてくれた使用人が居ては連絡を取り合っていた。


「エルザ様、マコト様。謁見の間の準備が出来たみたいです。今回は非公式なので、裏口から入ります。こちらです」

カトリーヌに案内されては久しぶりに謁見の間へと向かう。


「おお! エルザ! マコト殿! 元気そうで良かった」

「お久し振りです。クリストフ国王、並びにイザベラ様」

「うむ」

「元気そうで何よりです」

「私へは何も無いのかな?」

「いえ、パトリック様もお久し振りです」

「よろしい」

謁見の間へ向かうとそこには現国王のクリストフ、王妃のイザベラ、宰相のパトリック、それに宰相の妻のアナベル、そしてエルザの兄でもあり、次期国王として筆頭のダニエルが居た。


「まぁ、堅苦しいのは無しだ……と言いたいが、話題が話題だ。多少、堅苦しくなるのは覚悟しておくれ」

「はい、国王」

「うむ。パトリック、確認を頼む」

「はい。エルザ様、ならびにマコト殿、今回の騒動に関して、真実をつまびらやかにしては判断を下したいと思う。なので、ここは非公式ではあるが、ここの判断が全てになると思って貰って構わない。よろしいかな?」

「「はい」」

パトリックの言葉にエルザと共に頷いて応える。


「では、今回の騒動に関して始めから教えて貰いたい」

「始まりは王立学校のお昼のサロンから始まりました。エバンス公爵家からの便りをマーク・エバンスが受け取り、その文の内容が怪しいとの事で確認をしに行くことに致しました」

「ふむ。続けてくれ」

「道中、人の流れと魔物、生物の環境の変化からエバンス領の不穏な空気を感じとりましたが、それらを同伴してきた者達へと情報を共有してはそれらの確認へ行くことを決定致しました」

「私から質問がある」

「はい、パトリック様」

「その際、守護者としての責任。エルザ様、そして次期領主の方々の安全面を考慮したのか?」

「それは……!」

「エルザ、今はマコト様に聞いております。あなたは静かにしなさい」

「……はい、お母様」

「で、どうなのだ?」

「その話しも含めて、全て報告した後に弁明の機会を頂けたらと思います」

「……分かった、続けたまえ」

「はい──」


そこからは、実際に物資の搬送の最後のルート上での話、ルソーレの街での話をかいつまんでは、時々質疑が入っては詳細に話すことになった。


「……概要は分かった。もう少し詳しく聞きたい。一貫しているが、何故マコト殿はそこまで安全だと言いきれたのだ? 何故、今回の件がドラゴンゾンビだと分かった? 何故、スタンピードの終息や及び、発生要因が分かった? そなたの話だとそれの理由が分からぬ」

「……」

「マコト殿、説明を……つまびらやかに出来るか?」

「そうですね。出来る部分は有りますが、約束をして頂きたい。今から話す内容に外部への情報漏洩をしないと。忍ばせている、諜報員、近衛騎士団を外させて下さい」

「──分かった」

「すべての者はここから離れなさい」

パトリックが指示を出すと、一気に周囲に居た者達が離れていくのを確認出来た。


「これで良いだろうか?」

「はい。それでも、他言無用でお願い致します」

「分かった。国王クリストフの名に掛けても、この場の全員が情報を漏らさないことを誓おう」

「では、私の始まりから……そうですね、私は迷い人です」

「「?!」」

「それはまことか?」

「はい。私の始まりはルソーレから始まります」

「マコト殿が異人だと言うのは誰が知っておる?」

「今で、エルザ以外にこの場の方達になります」

「……ふむ」

「そうか、だからマコト殿の力はそれほど強く……でも、歴史を紐解いてもマコト殿位に強い異人は居なかったはず」

「いえ、多分似た人は居ます。そうですね……それらを調べるためにも私は王立学校の図書に興味が有りました。その中で、この国を築く際に尽力した異人の情報にも巡り合えました」

「……な?!」

「プラチナランクの冒険者の秘密にも巡り合えました。彼らの存在は王族の盾でも、剣にも成りえると」

「それは禁書指定では?」

「縁があり、閲覧出来ました」

「待て、そうなるとマコト殿は……いや、あなたは……」

「マコトで大丈夫ですよ。今になって呼び方を変えられても……むず痒いので」

「今、帝国外でもノルトメ商会の話に持ちきりです。その……スイーツに関しましても、魔道具に関しましても同じくです。裏ではマコトが居るのは聞いてはおりますが、それも異人としての知識もあるのかしら?」

「そうですね、アナベル様の見立てで合っております」

「「…………」」

「マコト殿、確認をしたい。そなたはこの国の起こした祖の帝王と共に居たと言う異人の生まれ変わりとかでは無いのだな?」

「いえ、そんなことは……ただ──」

「ただ、なんだ……?」

「私は世界の調律者でも、調停者になりました」

「ちょう……なんだと?」

「ドラゴンゾンビを沈めたことにより、世界より称号を頂いております」

「なんと!?」

「お父様……称号って?」

「あぁ、エルザは分からないか。神国の姫のように世界より称号を授けられる場合があるんだ。神国の姫は聖女の称号を得られていたはずだ。称号とはただ有るだけじゃない、それを至らしめるように運命がその者の人生に働きかけるんだ」

「そうなのですか……ダニエル兄さん、ありがとうございます。でも、そうなるとマコトはどうなるの?」

「「……」」

「マコトさん?」

「はい、イザベラ様」

「すべてです。すべて話してください。悪いようにはしません。あなたの望むこと、そして叶えたい事を話してください。ある程度はこちらでも把握していましたが、話の規模が想定を超えていて、話を聴きながら、今判断を下したいと思います」

「イザベラよ?」

「クリストフ? これは非公式ですけれども、きっとこれからの話と判断で、この国、いえ世界の行く先が変わると思います。心して判断の必要が有ります」

「そうだな、マコトよ話を頼む」

ここだ。

ここがターニングポイントだ。

功績は充分に達成した。

称号に関しては、後程精査して貰えれば分かるはずだ。

いや、どのみち僕が望む立ち位置に就くためには精査するしかない。

そして、何よりも……チラッと隣を見やると緊張しては不安そうな気配を出しつつも、何とかしっかりと立っては前を向いているエルザが居た。

そんな彼女を安心させるようにその手を掴むと、ビックリした様にこちらを見てきては、同様にクリストフ国王含め周りも驚いたように僕を見てきていた。


「私が望むもの──それは彼女です。エルザと一緒になる許しを下さい。そして、立ち位置に関しては私に冒険者ランクのプラチナランクを所望します。その王族の契約者はエルザで、彼女の自由と私の自由を保障をして下さい。その代わり、プラチナランクとして、帝国に危機が瀕した時はプラチナランクの盟約通り、その危機に立ち向かう事を誓います」

「「────」」

場の空気が凍りつくのを感じる。

プラチナランクとは冒険者のランクだ。

なるには高い素養が必要となっているが、基本的には異人が該当していた。

そして、重ねてその身は帝国の盾でも剣でもあって、異人への保護の救済措置としても機能している背景もあったらしい。

らしいというのは、暫くプラチナランクは輩出されていなかったからだ。

そして、そのランクの立ち位置は王族、もしくは国として機能する反面もある。

それらを抑えるという体裁の為にも、契約を結ぶというものがある。

それらは軽い時もあるが、重い時もあるが一貫していえるのはその根幹は契約者は王族の者となり、彼、彼女らとは切っても切り離せない関係になる。


「して、エルザと契約をするとなるとその内容は如何様に?」

「彼女の存在と私の存在は等しくなるように」

「等しく……とはどのような意味になるのですか、マコト?」

「共有になります。彼女の命も含めて、全てです」

「ま、待てっ! マコト殿! それは妹……エルザの命はマコト殿と共有するということに……!」

「いえ、違うわ。命だけじゃなく、魔力含めてになるのかしら?」

「アナベルさん、そこは少しだけ違います。それはエルザ自身の能力に寄ります。ただ、私の魔力を使うことは出来ます」

「……マコト殿」

「はい、パトリックさん」

「その様に重い契約を結ぶ理由は?」

「彼女と一緒になりたいのと、彼女と自由を掴みたい為です」

「……ふむ」

「エルザ?」

「はい、お母様」

「あなたの想いを聞きたいわ。話してくれるかしら?」

ジッとイザベラに見つめられては、一瞬だけ身体をこわばらせたエルザがいたが、一呼吸置いては僕の繋いだ手をギュッとしては前を改めて見つめていた。


「私は……私は小さな頃から外を見たかった。そして、同じくらい外が怖かった。けれども、外への興味は尽きなかった。あの日、王立学校が……私は人の目が怖くて嫌で嫌で、でも外への憧れは捨てられなくて、同じくらい外への憧れが好きで強くて、私は飛び出して……そして、マコトと出会いました。彼は私の太陽でもあり、月でもあります。時には道標のように暖かく照らしてくれて、時には穏やかに冷たくも心地よく私を見守ってくれます。私は彼と出会っては世界が広がりました。そして、同じくらいもっと、もっと──外を知りたいです。王国、神国、エルフの里、魔の森、果ては……その先も……。でも、私は1人だったあの時だったら、夢だと全て諦めては私の人生は終わっていたと思います。私は彼と出会って……ううん、マコトと居ることで人生が出来ています。私を支えるのがマコトで、そんなマコトを支えるのが私で在りたい。ただ、私の生まれ持った血は変わらないのも分かります。だから、きっとマコトはプラチナランクの事を今、持ち出してくれたのだと思います。契約内容も私には異存はありません。ただ、彼と……マコトと一緒に居たい。そして、世界をもっと知りたい。ただ、必要なら帝国の助けにもなりたい。私は──マコトを愛しています」

「「───」」

「そうか……」

「クリストフ、私はマコトの要望を受け入れるべきだと思うわ」

「イザベラ?」

「あなた? もし、マコトが王国や神国にくみしたらどうします?」

「困る」

「それにイザベラ、クリストフ? 私たちが断ったら、多分、マコトは……エルザと今すぐここを発ちそうよ?」

「な?!」

「パトリック? マコトの資産やノルトメ商会の規模は調べてくれてる?」

「あ、あぁ。アナベル……君に前回お願いされたからね。確かに、あの規模ならそうだね……視野に入れてると言われても驚きは無いかな」

「はぁ……パトリック。口調が戻ってるぞ」

「う……はぁ、アナベルと話すとどうしてもね」

「それよりも……クリストフ? さて、どうします?」

「そうだな……」

「マコト殿?」

「はい、なんでしょう? ダニエル様」

「……お前はエルザを護れると俺に誓えるか?」

「誓います」

「……俺がいずれ国王になった際は、何かあった際は手伝ってくれるか?」

「はい、約束します」

「……分かった。お父様、私はマコト殿とエルザの件を認めるのを推します」

「……はぁ。マコトよ?」

「はい、国王」

「そなたの望みはこちらとしても、落とし所としては理想……いや、願ってもない事だ。それは受け入れよう。ただ、娘──エルザの事をお前に任せることになる。エルザを……娘を悲しませることはないと誓うか?」

「誓います」

「分かった」

「エルザ?」

「はい、お母様」

「あなたもマコトさんの事をその全てを捧げても、支えては時にはお互いに全てに立ち向かう事を誓えますか?」

「……はい!」

「はぁ……決まりね。アナベルとパトリックは?」

「私? 私は……そうね。マコト?」

「はい?」

「時には新しいスイーツの話や提供をお願い。使用人を向かわせても、間に合わなかったりで……すっごくヤキモキしてるの? 良いかしら?」

「……分かりました。ゴードンに話を通しておきましょう」

「ふふ、それなら私はこの話は賛成よ」

「次は私か……マコト殿、エルザ。すぐには自由にはさせて上げられない。まずはプラチナランクの授与式を今回のエバンス公爵領の最大功績の褒賞として与える事になると思う。それと同時進行で、プラチナランクの契約と共に、君たちの婚約と結婚の話を進めるのが1番だ。そして、自由に関してだが……王立学校の卒業と共に結婚した身となり、自由に活動して良いことにする方針が妥当だろう。詳しくはもう少し詰めるが……よろしいかな?」

「えぇ、私から異存は無いです」

「私もマコトと一緒になれるのなら」

「ん? そうなるとパトリック、エルザの結婚式は……」

「そうですね、授与式の時の祭典の時が最期でしょう。王立学校の卒業と同時に2人には約束通り、自由になって貰うのなら、それが1番だと思います」

「分かった。マコトよ、国王として要請する。授与式と婚約・結婚式典の滞り無い進行の参加をお願い出来るかな?」

「ありがとうございます。是非、お願い致します」

「うむ。では……非公式ゆえに時間が押してるだろう。この話はここで終える。また、正式に呼び出そう。マコトよ、エルザよ。……ありがとう」

王様の礼に慌てて、僕とエルザも頭を下げる。

今は王族以外居ないからなせる姿だろう。

諜報員や近衛の方が来た時には立派な出で立ちになっていた。


「では、出口まで案内します」

「ええ、カトリーヌさん。お願いします」

そして、僕とエルザはカトリーヌさんに案内されては王城を後にしては寮へと戻るのだった。


「…………」

「…………」

「ねぇ、マコト?」

「ん……?」

「……にへへ」

「どうしたんだい?」

寮に戻ってはお互いに落ち着いてからソファーでゆったりしてる中で、はにかんでいるエルザが居た。

ソファーは幾つかあるけれども、僕の座っている所に来てはその身を僕に預けて来ては僕に今は包まれている状態だ。


「……ありがとう」

「いや、ごめんね。契約──」

「ううん、私嬉しかった」

「え?」

「マコトって、たまに本当に私が届かない知らない場所まで遠くを……本当に遠くを見てるような時があって。私は置いてかれそうに思えちゃって、でも……そんなマコトが一緒になってくれると言ってくれて、マコトの重さも少しでも一緒に共有出来るのが私には嬉しかったの」

「そんなこと思っていたんだ」

「うん。だって……」

「……え?」

突然、振り返ってきたエルザに唇を奪われていた。


「私……マコトの事、愛してるから──わ、私! 今日はお休みなさい!!」

突然の事にフリーズしてしまっていた。

唇には熱いほどに熱が残っている。

エルザは顔を真っ赤にしては寝室に向かってしまった。


ムムム──と何故か全知全能さんが僕を見ている気がする。


「……不意打ち過ぎる」

僕の顔も赤いのだろう。

手をおでこに乗せると、熱がおでこまで広がっていたようだ。


とりあえずはテーブルの上の飲みかけのお茶を飲み干しては片付けては寝室に僕も向かう。

背を向けては眠っているエルザが居たけれども、僕が横になるとギュッ……と抱き締めて来ていた。

言葉はない。

ただ、そっと頭を撫でているとエルザの浅い呼吸が聞こえてくる。

僕もそれに釣られては眠りに落ちていくのを感じるのだった。


「で、やっぱりこうなるのか……」

うん、あれから数日経った。

王都はこれでもかとお祭り騒ぎと言われそうな程、色めき立っていた。

理由は簡単だ。

今回のエバンス公爵領の功績授与の祭典と何か王族からの発表があると噂が既に流れているからだ。

いや、流したのは王族からで、主な実行依頼を受けて流しているのは目の前の──。


「マコト様! お似合いで御座います……!!」

うん、ゴードンだ。


「いえ、もう少し……派手でも、そうは思わないアナベル?」

「え? あっ、ここはもっとフワリとボリュームと持たせて! 何、イザベラ?」

「お、お母様……おば様……」

エルザはまるで着せ替え人形みたいに……いや、彼女自身も嬉々として服を選んでいる。

むしろ、時には僕の服装の注文をしている。

うん、これは授与式と……エルザとの婚約・結婚式での服装選びだ。

あれから、急ピッチで取り組んでは準備をしている。

ゴードンの張り切り具合もそうだし、何よりもイザベラとアナベルも意気込み……いや、エルザも負けず劣らずに凄い。

マーク達には軽く概要を話しては話を合わせて貰うために動いて貰っている。

うん、持つべき者は友だね。


「とってもお似合いで御座います。マコト様、エルザ様」

「あはは……ここ、数日ずっと試行錯誤の日々だったからね」

「それにしても、マコト様には裁縫やデザイン方面の才能もあるとは……私、感動致しました」

「いや、うん、まぁ……」

「風魔法との利用での魔道具のミシン……も、これから普及が早くなるでしょう。今は試作段階ですが、これから軌道に乗せられるようにしませんとな」

「苦労を掛けるね」

「いえ、マコト様程では……」

「ね、マコト? どう? ねぇ? どう?」

「本当に綺麗だよ」

「えへへ、ありがとう。マコトも……その、カッコいい──よ?」

ゴードン、ノルトメ商会の仕立屋に囲まれながら僕とエルザは式典用の服を着こなしていた。

服に関してはあの世界での服を細かい箇所で取り入れてみた。

エルザの服装程、細部が分かりやすい。

元々、あの世界でもデザイン、ファッションというのは急成長を遂げていた。

ここで、ヒントと実際の実物を合わせたら一気に産業革命が起こるのは目に見えていた。

ゴードンには先見の明がある、彼にはこれからの服飾の時代の風を感じてるはずだ。

実際に服飾部門で仕立屋を大量に雇い始めている。

まったく、隙もない人だ。


っと、意識を外に向けていたけれども。

エルザは本当に綺麗だ。

式典を終えたら、次は自分のプラチナランクの儀式と平行して婚約・結婚式の流れだ。

今は王城前ではパレードが終わり、それぞれグラハム公爵から騎士団、そしてマーク達へと褒賞が与えられている。

そろそろ、僕たちも最後に呼ばれる番だ。


「エルザ、大丈夫?」

「え? うん、大丈夫」

緊張は……してなさそうかな?

なんだか、見ていてもワクワクが勝っているような?

まるで、こぼれんばかりの笑顔がそこにあった。


「エルザ様、マコト様──ご準備を」

コンコン──とドアをノックされては使用人の方の声が聞こえてくる。

そろそろみたいだ。

外ではクリストフ王の僕たちを呼ぶ声が聞こえてくる。

エルザの手を取っては僕は舞台へと上がるのだった。


「では、最後の褒賞としよう。民の皆へは既に噂が流れていたであろう。改めて、余からこの2人へと褒賞を与えたいと思う。エルザ──マコトよ」

クリストフ王の言葉が終えて、僕とエルザが舞台に上がると式典に参加している……いや、王都の民からの喝采を浴びる。


「では、余からの褒賞は今回は2人共有での褒賞となる。余は──マコトにプラチナランクのランクを与える。そして、その契約を余の娘、エルザとする事をここに宣言する。重ねて、エルザとマコトの願いを叶える事にする。2人の契約・婚約・結婚をもって自由を与える。契約・婚約はこの式典にて執り行う。結婚に関しては現在、通っている王立学校を卒業後は正式に妻となり、自由を与える為、今回の契約・婚約式を以て余は王として、王族として帝国を代表して盛大な祝いをする事をここに誓おう! では、2人は契約の儀を……!!」

「私、マコトは誓います。今ここでプラチナランクの称号を承り、その契約内容は妻、エルザとの運命とすべての共有をする事を」

「私、エルザは誓います。今ここで夫マコトのプラチナランクの契約の履行を認め。そして、私もマコトとの運命とすべてを共有する事を」

ピカッ──と、自分とエルザの重ねた手のひらから溢れんばかりの光が生まれる。

これは魂の契約が結ばれた証だ。

そして、クリストフ王の頷きと共に再度、民衆からの溢れんばかりの歓声が上がるのだった。


「今、ここでプラチナランクの契約と2人の婚約・結婚が認められた事を宰相パトリックが宣言する! そして、今を以て2人の婚約・結婚のパレードを始める!」

「マコト、着替えに戻りましょう」

「うん、そうだね。でも、その前に……」

「え?」

「では、ここからは私、イザベラが進行を執り行います。まずはお二人はお色直しを」

「さ、行こう。エルザ、こっちだよ」

「え? え?」

エルザの聞かされているのはここからは着替えてパレードの参加だったのだけれども、僕とゴードンはもう1つ画策していた事があった。

その協力をイザベラにお願いしていたのだ。

あんなに沢山、イザベラとアナベルがエルザを着せ替え人形みたいにしていたのは彼女のサイズを正確に測るためだ。

僕は僕自身が仕立てているから問題ない。

この世界にはエンゲージリングやマリッジリングの概念が無い。

いや、痕跡はあったけれども……普及はしていなかった。

祝詞のりとに近いものは神国にはあったけれども、それも神国のみのカルチャーに近かった。

後は……裁縫技術や素材の品質の問題もあって、ウェディングドレスというものが概念に無かった。

今回が初お披露目だ。


「えっ……これって……私?」

「これが僕からのエルザへのプレゼントだよ」

「え? え? え……」

「うん、とっても綺麗だ。さ、戻ろう」

「マコトも……カッコいい……。う、うん」

僕のは所詮タキシードだ、と言いたい所だけれども。

こんなにシャープな服装は無かった。

いや、これから一気に普及していくだろう。

デザインや構想は既にヒントと共にゴードンに渡してある。

状況に応じて爆発的に普及していくだろう。


僕たちが舞台に戻って姿を現したら、先ほどの歓声がまばらになってはどよめきが生まれていた。

主にどよめいているのは女性だ。

口々に発せられてるのは綺麗──美しい。

あれは何て言うの? と、口々に言葉をつむいでいる。


男性の方もエルザに看取れては骨抜きになってはパートナーが居る人は隣の女性に叩かれていた。


「あわわ……」

「ふふっ。ほら、行こうエルザ。足元に気を付けて」

「は、はい!」

フワフワと足が浮いたようにエルザは歩いている。

先ほどの祝福の眼差しとは違って、今は羨望の目だ。

ここに来て緊張してきたらしい。


「エルザ、とってもお似合いよ」

「は、はい! お母様!」

「マコトも素敵ね」

「ありがとうございます、イザベラ様」

「では、私イザベラがマコト、エルザに確認致します。2人は健やかなる時も、病める時も、運命とすべてを共有してはその困難へと立ち向かい愛することを誓いますか?」

「はい、私、マコトは誓います」

「は、はい! 私、エルザも……誓います!!」

「ふふ、では、私、王妃イザベラが今日この日を以て2人の婚約・結婚を認め、2人のこれからの幸せを祈りましょう。それでは誓いの指輪を」

そして、アナベルがそっとこちらへと歩いて来てはその手に2つの指輪を取り出す。


「マコト……これって──」

「結婚指輪だよ」

一瞬婚約指輪にするか、悩んだけれども結婚指輪とすることにした。

また用意するというよりも、この1品にすべてを注ぎたかったからだ。

まぁ、ゴードンには婚約指輪と結婚指輪の概念を教えたから、貴族相手に良い商売をするだろう。


「結婚指輪……」

「うん、これは僕から君への愛の証だよ。さ、手を出して」

「は、はい……」

エルザの左手の薬指に指輪をはめると、指輪はその大きさに合わせてフィットするようにはめられていく。

うん、魔道具様々だ。

これで、外せないということは無いだろう。

そして、エルザからも同じく指輪をはめて貰う。

指輪の効果は、付与出来るすべてを注いだ。

そう、すべてだ。

なので、何が出来て、どんな効果がある? と言われたら枚挙にいとまがない。

ただ、世界で1番の効果とレア度だと自負している。

感覚的には全知全能さん2号に近い。

ただ、使用できる人はエルザだけに固定されている。

自分のは自分のみだ。


そして、お互いにはめたら──それを民衆へと掲げると、そこで一気に歓声が再度上げられた。


「マコト……ありがとう。私……今、1番幸せ──」

「何言ってるの。これからもっと幸せになるよ」

「うん、うん──」

そこからはエルザは笑いながら照れながら泣いていた。

そして、手を周りに振り撒いてはパレードへと移行していく。


「つ、疲れた……」

「わ、私も……」

今日だけは王室の客室に泊まっていた。

エルザも一緒の自室だ。

お互いに初めて、一緒にお風呂に入った。

まだ、王城の外、城下町の方も賑やかな音が鳴り響いている。

僕とエルザの客室周辺は必要最低限の警備みたいだ。

それでも実力屈指の人を置いているみたいだ。


そして、さらっと言ってしまったが一緒に初めてお風呂に入ったのだ。

……結婚初夜の概念は生きていた。

何故、生きていたのかと冷静になるのに問い掛けていたが、全知全能さんも全く反応してくれなかった。

いや、なんだかムスッとしてる感じだったので、それ移行はdon't touch meだ。


ベッドに2人で横になりつつ、思い出す──。


「ね、ねぇ……一緒に……だよね?」

「え?」

「……私、覚悟出来てるから」

「え? え?」

あんなに王立学校の図書館で知識を付けたと思っていたが、慣習に関しては抜け落ちていたみたいだ。

顔を真っ赤にして、蚊の鳴くようなか細い声でエルザが僕に説明してくれた時は、僕は相当変な顔をしていたらしい。

途中で顔を真っ赤にしながら、笑ったエルザは僕の手を引いて……でも、お風呂での記憶が正直、耐性がここまで無かったのかと衝撃で……。


「……マコト」

「う、うん」

「明るいと……私……えっと──」

「あ、う、うん……え、えっと」

「ライト……消すね」

「う、うん」

「「────」」

とりあえず、全力で頑張った。

体裁は保てたと……思う。

いや、気付いたら外が明るくなり始めていて2人して驚いていたのである。

のである。

うん。


「おはよ! マコト! いや、旦那様か?」

「なっ!」

「まったく……隅に置けないな!」

「やめてくれ、マーク」

「あはは!」

「そんなマークはナタリーとはどうなんだよ」

「はっ?! あ、あーと……文通することにした」

「えっ? あの長続きしないマークが文通?」

「おい、ジャン……俺だって……出来るんだからな! な、エドワード?」

「まぁ、マコトとエルザの婚約式典から続いてるもんな」

「嘘でしょ?! えっ? 僕、その情報知らないんだけど?!」

「はっ! 俺は良いんだよ、お前らはどうなんだよ?」

「僕はとりあえず、フランシス領を把握してから……」

「そうだな。僕たちはお互いに領を把握してからだな」

「お前ら……なんか、それを逃げ口にしてないか? なぁ、マコト?」

「え? うーん、そうだね?」

「何々、素敵な旦那様は何か悩み事ー?」

「ジャン……その旦那様は止めて、マコトといつも通り言ってくれ……」

「いやぁ、そういうと。ほら……周りの女の子達がキャーキャーいうの面白くって」

うん、あの婚約式典の衝撃は世の女性達には大きすぎたらしい。

今は絶賛、結婚ブームというか、服飾の流行も爆発上昇中だ。

レンタルの概念もゴードンに話していたから、低い階級の底流階級の貴族や、平民の方にも手が伸ばせては加速度的に文化が咲いているといえる。

貧民街の方にも素材は彼らが届く値段で抑えて、デザインをこだわった品も出しているので、彼らの方でもブームが起きては、重ねて衛生面の改善も生活環境の安定から向上しているらしい。


「はぁ……まぁ、諦めた」

「それよりも何を悩んでいるんだ?」

「いや、もう卒業だろう? 少し考えてることがあって、どうエルザに話そうかと」

「なんだ? そんなことか、素直に話してみたら良いんじゃないか? 僕の姉……アリソン姉さんはいつも、相手とは素直に話してるみたいだぞ?」

「え、エドワードの姉さん付き合っている人いるの?」

「ん? そうだが、どうしたジャン?」

「あー……ジャンは惚れてたんか?」

「おい、マーク!」

「ははは! 早くに分かって良かったじゃないか!」

「なっ! この! おい、待てマーク!」

「ま、素直に話してみたら良いと思うよ! おい、ジャン、マーク! そっちは次の講義場所とは逆だぞ!」

ジャンとマークを追い掛けていくエドワードを見送りつつ、今日は久しぶりにもう何もすることも無いので真っ直ぐ寮に戻ることにする。


「あっ……マコト! お帰りなさい」

「うん、ただいま」

ギュッとエルザは抱き付いてくる。

あれから、もう卒業式が直ぐになるまで時は早いもので経っていた。

まぁ、そして、時が経つということは。

お互いにスキンシップする機会は2人っきりしかいない、この寮では巡り合わせが多いことで……うん、エルザと僕の距離感はだいぶ近くなっていた。


「……どうしたの?」

「あー、うん。その聞いて貰えるかな?」

まぁ、まずはエドワードのお姉さんアリソンの教えに倣ってみようと思う。

僕の恋愛経験値、いや……まぁ、うん、色々と発展途上だとここまで来るのに思い知らされたからね。

いや、分からさせられたとも言えるのか……。

人には得手、不得手があって、どちらかと言うと、そこら辺はエルザはしたたかだったと言えただけだ。

別に決して、強がりで言ってる訳ではないと僕は……。

なんだか、全知全能さんの呆れた感覚を受けた気がする。

話を戻そう。


「えっと……?」

「あぁ、ごめん。いや、卒業したらさ……その、自由じゃない?」

「うん、そうだね。ずっと一緒だよ?」

「あ、うん。そこは一緒なんだけれどもさ……その、行きたい所があって──」

「いいよ」

「え?」

「どこへでも、私はマコトと一緒に居られるなら大丈夫だよ」

「ほ、本当に?」

「本当じゃなければどうなるの? それに……ほら? 2人の誓い」

そうやって、エルザは愛しそうに結婚指輪を見せてくる。


「それで、どこに行きたいの?」

「うん。僕は……王都には当初、迷い人関連に知りたくて来たんだ」

「うん。最初の年はずっと図書館の主になってたものね」

「あはは……」

「じゃぁ、今はどうしたいの?」

「実はダンジョン都市……ロマレンが気になっていて……」

「ロマレン……ナタリーのお父様マンチーニ公爵が治めている場所ね」

「うん。ダンジョンとか気になるんだ」

「うん、分かった」

「いいの?」

「なに、心配そうな顔してるの? 私が断ったり何かすると思った?」

「いや、余りそういう話してこなかったからさ」

「もう……マコト? 約束して? 何かあっても相談して、私もマコトに相談するから。私はマコトの事……愛してるし──一緒に歩きたいの」

「うん。わかった……ありがとう、エルザ」

「えへへ」

そのまま、話しながら一緒にソファーに座ってはエルザは身体を預けて来ていた。


「でも、もう卒業式か……」

「そうだね」

「早かったなぁ……4年間。お姉ちゃんもこんな感じだったのかなぁ」

「どうだったろうね」

「でも、私は私だものね。ありがとう、マコト……大好きだよ」

「僕もだよ」

とりあえず、うん……ありがとう、エルザ。

それから、僕たちは残り少ない卒業式までの日までクリストフ王達、王族の方、ゴードン率いるノルトメ商会の方々、マーク達や、知人には卒業したら暫くはロマレンに滞在予定だと伝えつつ、準備を始めるのだった。


「今日、この日を迎えられて私は幸せに思う。今年は色々とあったが、また良き卒業生を輩出出来ることを誇りに思う。それぞれ、皆また新しい道を歩むことになるだろう。それは決して楽な道ではなく、時には苦難に溢れた道になるかも知れない。それでも、その時に少しでも、ここで学んだ事が役立てられれば私は嬉しく思う。では、これにて卒業式を終えよう。皆、本当におめでとう」

パチパチと拍手が各所から上がっては、後は宴へと変わっていく。


壇上から学長のパスカルが自分に目配せをしてきては、それに気付いた自分は隣のエルザに断りを入れてから追い掛ける。


「あぁ、やっぱり気付いてくれたね」

「気付かなかったら、どうしたのです?」

「その時は君に風を飛ばしては気付かせていたさ」

「なるほど……エルフらしいですね」

自分の言葉にパスカルは嬉しそうに微笑んでは表情を固くする。


「何かあったのですか?」

「いや、何か……いや、あったのだ」

「ん? 要領を得ませんが……どうしたのです?」

「君が昔に助けた白い髪のエルフの事は覚えているかな?」

「え? ……はい、覚えています」

「そうか……彼女の消息がどうやら掴めないらしいんだ」

「掴めない? エルフは独自のネットワークである程度はお互いの位置が分かるのでは?」

「確かに、君の言う通りだ。けれども、それが分からないらしい。それで、遂には私のところまで話が来た」

「エルフ狩りの可能性は?」

「その線が濃厚だと思われている」

これは厄介な話だ。

思った以上にややこしい事になっている気がする。

エルフ狩りとは、そのままの意味だ。

無理矢理、さらっては奴隷の首輪を嵌めては奴隷落ちさせて、その手の好事家に売り捌く手口だ。

エルフの里と帝国はギリギリのラインで付き合っている。

下手をしたら種族間の戦争だ。


「でも、どうして、その話を?」

「理由は君にある」

「私に?」

「彼女は君を探しに行くと言って里を出ていったのだ。師匠を探しに行くと言って、ね」

「師匠ですか……」

「あぁ、彼女は君の事を毎日考えていたみたいだよ? 彼女はその……環境が悪かったからね、その環境も相まっては拍車を掛けては君を想っていたのかも知れないね」

「えっと、彼女が……消息を絶ったのは、いつ頃なのですか?」

「彼女の消息が絶ったのは先月の話だ。でも、ここまで分からないのは珍しいのだ。それにエルフ狩りの疑惑の拍車を掛けているのは消息が絶った付近にも問題がある」

「どこなのですか?」

「君がこれから向かうダンジョン都市──ロマレンだ」

「ロマレン……」

「これは私からの頼みでもある。片時で良いから、良ければ彼女の消息を追って貰えないだろうか?」

「分かりました。状況にも寄りますが、出来る限りの事はしてみます」

「あぁ、それで良い。ありがとう。私からの話は以上だ。今は最後の宴だ。行ってらっしゃい、それから卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

そして、パスカルと分かれては最後の宴の会場へと戻っていく。

エルザには折を見て、相談してみようかな? と考えつつ、最後の皆との思い出を作るのだった。


「マーク! 私、待ってるから……!」

「あぁ! 俺もお前を直ぐに迎えに行けるように頑張る!」

「あれは、なんなの?」

「ん? いや、昨夜あの後マークがナタリーに告白したみたいでさ。マークが領主の座として相応しくなったら、ナタリーを迎えに行くって形で収まったらしいぞ?」

「へぇー」

「ジャン、エドワード、マコト、エルザ……俺はこれでエバンス領に戻る、何かあればいつでも頼ってくれ」

「「あぁ!」」

「では、俺は行くぜ!」

「マコト、エルザ? ロマレンに来るのでしょう? 何か困ったことがあれば……マンチーニ……ううん、私を個人的に頼ってきて。私に出来ることなら頑張るから、ね」

「大丈夫、ナタリー?」

「ええ、エルザ。私に出来る限りで頑張ってみる。今はマークも居るから、私、頑張らないと」

お嬢様そろそろ──と、使用人が声を掛けてはナタリーは改めて、エドワードとジャンにも別れを告げて行ってしまった。


「じゃ、マコト。僕たちも行くよ」

「何かあればこのレーガン公爵」

「それか僕のフランシス公爵」

「どちらも頼って貰っても大丈夫だからね」

「あぁ、分かった」

「じゃ、僕たちも行くよ! また!」

「あぁ、また!」

ジャンとエドワードはヒラヒラと手を振ってはそれぞれの道へと馬車に乗り込んでは進んで行く。


「さて、僕たちも行こうか、エルザ」

「うん、行こう」

「馬車はノルトメ商会のを借りるから……そこまでは歩かないとかな。その間に話があるんだ」

「ん? どうしたの?」

「卒業式の日に学長から話があって、どうやら前に僕と接点があったエルフがロマレン付近で行方不明になったらしい」

「え? それって大変な事なんじゃ……」

「あぁ、でも向こうもただ、ダンジョンに巻き込まれたのか、それとも……犯罪に巻き込まれたか、判断もつかないらしくて」

「確かにダンジョンもあるけれども……」

「うん、片時で良いから捜索の依頼を個人的に受けちゃって……」

「うん、分かった。私も手がある時はマコトと一緒に探すわ」

「……ありがとう。さて、そろそろかな」

話しながら、ノルトメ商会が見えてきた。


「マコト様……エルザ様、改めておめでとうございます」

「ありがとう、ゴードン」

「いえ、勿体無いお言葉で御座います。必要なものは全て中に有りますので……」

「いつも、ありがとう」

「いえいえ、向こうに着きましたら……早速向こうに寄越してる者に任せて貰えたらと思います」

「ん? 使いでも送っているのか?」

「それは着いてからのお楽しみにして貰えたら──」

「はぁ、分かったよ。後は何かあれば連絡を来れ。指輪の通信機能も拡張されているから、ある程度の魔力と魔力が届く場所には繋がると思うか」

「ははっ! 本当に私めにありがとうございます」

「うん、では行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ。奥方も……エルザ様もお気をつけて」

「はい、いつもありがとう」

「いえいえ」

馬車に乗り込んではエルザは品物を確認しつつ、指輪の収納空間にしまい込んでいく。


(エルザ、聞こえる?)

(はい、聴こえます)

「うん、大丈夫そうだね」

「うん」

指輪には通信機能も持たせている。

任意の対象を指定しては該当の使用者へと繋げる機能だ。

対象の魔力の性質に応じて、指輪の細かい所有者を登録しているので、お互いにパスを認めては通じているなら繋がる形だ。

やっと、ここまでこぎ着けられた。

空間転移・付与術・錬金術のスキルをMAXまで上げて、且つextraskillの魔法創造と空間創造の賜物だろう。

まぁ、使用者の魔力量によっては精度と持続性の問題は出てくるけれども、これ程便利なものは無いだろう。

後は今はクリストフ王とイザベラに渡してある。

所有者指定なので、他の人に悪用される心配は無いが、今はそこにゴードン、エルザ、自分を含めて5つ存在していることになる。

滅多な事で増やす事は無いだろう。

情報とは武器なのだ。

武器は利用の仕方で相手にも自分にも向けられるものだ。

慎重に使わざるを得ない。


「よしっ。じゃあ、行こう」

「うん!」

よいしょ──と、荷物を収納空間にしまい込んだエルザはお尻の下に座布団……そう、座布団だ。

裁縫技術の発展より生まれた至高の座布団を敷いては僕の隣に座る。


「ほら、マコトも……!」

「あ、ありがとう」

「えへへ」

もう一個取り出しては腰を浮かした僕の下に座布団をエルザは敷いてくれる。

そして、エルザは僕にもたれ掛かっては幸せそうに微笑んでくる。

季節というのがあるのなら、暖かくなってきた春の陽気と言えるだろう。

僕は馬に軽く鞭を入れてはダンジョン都市ロマレンへと進み始めるのだった。

これにて王都での生活は終わります。

次は遂にダンジョン都市ロマレンへ。

ダンジョンですよ! ダンジョン!

巨大ダンジョンみたいですが、それに加えて都市となります。

全ての財が集まるとも言われているらしいです。

果たして、マコトとエルザの生活はどうなるのやら……。

そして、白髪エルフちゃんの行方は……。

to be continued──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ