来たれし入学試験ッ!やっぱり試験結果はちょっと特別に?校長先生はエルフ様。そして、ここから始まる学園生活。さらに、第1王女とその守護者との邂逅へ「初めましてエルザの守護者のマコトです」
王立学校の試験。
それは最初の貴族階級の振るい落としでもある。
商家も同じである。
落ちるようならば……残酷な未来が待ってるかもしれない。
そして、晴れて入学すればまた道は開かれるだろう。
「そう、そうして……もう入学試験の日が近くに……」
「なに? どうしたの、マコト?」
「あっ……ううん、何でもないよ」
「……?」
いや、何でもないさ。
ただ、あれだ……こう時間が過ぎたのを誰かに伝えたかったのかも知れない。
そんな独り言はさておき、うん、実際のところ入学試験は迫っている。
エルザも王族だからとパス出来るかといったら、そんな訳はない。
成績が悪かったら振り落とされるか? という問題は……考えるだけ野暮だろう、そうならない位に英才教育が整っているし、エルザだけ見ても、とても優秀なのは一緒に居ても肌で感じられる。
実際に歴史を軽くだけれども、教えて貰っていても知性は凄く感じられた。
さて、そんな訳で入学試験だ。
僕は王族や貴族……貴族かと言われると冒険者のランクがブラックだから怪しい所だけれども、一代貴族でも無いし、うん、ただの平民だ。
「ただの平民の冒険者のマコト」これが今の僕だ。
なので、迫る入学試験の会場は平民の所だ。
入学してからは身分関係無くの学舎だけれども、それまではしっかりと身分を意識して会場も分けている。
まぁ、そうしないと五月蝿い所もあるというのが現状なのかも知れないけれども。
「ねぇ、マコトは入学試験は大丈夫かしら?」
「ん? うーん……歴史はもうエルザに教えて貰ったから大丈夫かな」
「ふふ、良かった。私でもマコトの助けになれることがあって、貰いっぱなしだったら。こうやって何かで返せるのが嬉しい」
「……あはは。それは言いすぎだよ。こうやって今、傍に居られてるだけで僕は得られるものが多いよ」
「そ、そうかな……?」
「うん」
うん、本当だよ?
ほら、僕はどこからどう見ても平民だからね。
こうやって王族のお姫様と居られてるというのは、前世? から見てもあり得ない事だから。
っと、前世の事を連想するのはこの辺にしておこう。
じゃないとまたアレが来そうな気配がする。
記憶をかき乱される感じは未だに慣れない。
いや、慣れても困るのだけれどもね。
「当日は離れ離れだけれども頑張ろうね」
「あっ、確かに……。私、マコトが近くに居ると思ってたけれども。そ、そっか……」
「うん、僕は平民の扱いに……ううん、平民だからね」
「試験は学科試験と実技試験に分けられてるのよね……、実技大丈夫かしら?」
「まぁ、エルザもやることはやってるから大丈夫だと思うよ?」
「そ、そうかな……?」
「うん、最初の頃とは全く違うもの。緊張せずにやれば大丈夫だよ」
「マコトがそういうなら……」
「大丈夫、大丈夫」
うん、わりかし……と、いうよりは本当に大丈夫だろう。
魔力の循環の意識も、魔法に関しての知識も……エルザの学習能力……いや、知ろうという意識も然ることながら、それをしっかりと行使する能力も高かったのだ。
問題があるとすれば……僕の感覚に近い魔法体系の知識になってしまっているから、今さら詠唱句を覚えたり、それらの繋がりを紐解いて効率を覚えるとか……エルザはやりたがるだろうか?
うーん? まぁ、これから一緒に居るのだし、のんびりとそこら辺は付き合って行けばよいかな?
今はどちらかというと、前世のところでいう科学に強い興味を抱いてしまって、時たまそれを教えてる次第だ。
むしろ、科学を知ることで魔法に応用してオリジナルを生み出そうとしているから……うん、確実に今現在の魔法学のレールからは踏み外してしまってるかも知れない。
いや、そうさせた原因は僕だけれども。
イザベラさんは……まぁ、うん。
こうなるだろうと踏んでたらしく許してくれたというよりも、引き続き教えて貰いたいと逆にお願いされたから、まぁ、良いのだろう。
とりあえずは、大丈夫だ。
むしろ、エルザが緊張でさじ加減を間違えて魔法を強力に発現させないかの方が心配だ。
「試験はさておき、後は生活に必要な物はゴードンが取り揃えてくれてるから、後は本当に無事に入学出来たら生活を始めるだけだね」
「生活……」
「ん……?」
「な、なんでもない!」
エルザ……そんなに顔を真っ赤にされると流石の僕も照れるのだが……。
うん、まぁ、後はなるようになるだけだろう。
「とりあえず、今日はここまでかな? 後はお互いに準備があるだろうから、試験が終わったら合流しよう」
「う、うん!」
そう、今日でお互いに教え合うのも終わりだ。
残りは僕の方もだいぶ住み慣れて来た宿を整理したりして、いつでも出れるように身支度をしないといけない。
まぁ、お互いに準備期間だ。
エルザの方も家族との時間が必要だろう。
「それじゃ、またね」
「試験の後、待ってるから……!」
「うん、手早く済まして会いに行くよ」
「うん!」
そして、僕はそのまま王宮を後にして、既に慣れ親しみ始めた王城を後にする。
ここにも慣れたものだ。
そして、時たま分かりやすい位に監視の目があったけれども。
向こうもバレてるのが分かってる前提で動いてるから、僕も自然と分かった上で行動をしてる時もあった。
城門の近衛兵の方とも軽く会釈をして通して貰う。
うん、近衛兵の方にも顔はだいぶ覚えて……いや、近衛兵や諜報部隊の人は僕の顔を覚えさせられたのだろう。
あの日、非常勤だった人も居るはずだけれども……皆、骨身に染みる程に注意を受けたのか、僕に接する態度は常に丁寧だった。
とりあえず、宿へ帰ろう。
僕は足を宿へと進める。
「……マコト様、お帰りなさいませ」
「ゴードン……? ど、どうしたの?」
「いえ、もうそろそろお部屋の整理の時だと思いまして。しっかりとご挨拶出来る機会に挨拶をと思いまして、このゴードン……挨拶に参りました故……イヒヒ」
「イヒヒは大丈夫だから」
「そうですか」
「はい、そうです」
「しかし、たまに覚えて貰うのに使わせて頂きますよ」
はぁ……ダメだ。
うん、使いたいということだ。
まぁ、もう慣れて……は来てないけれども諦めよう。
「けれども、良く分かったね。確かに今日明日で片付けようと思ってたけれども……」
「このゴードン……しっかりとマコト様の事を考えて見て……いえ、考えておりますから」
「見え……?」
ヒエッ?!
いやいや、比喩よね? 比喩だよね?
ゴードンが言うと洒落にならないのが怖いところだ。
「イヒヒ……冗談で御座いますとも」
「だ、だよね?」
「それで、マコト様」
「ん?」
「もう必要な物は、入り用は大丈夫でしょうか?」
「そうだね。学校に関しての必要な物はゴードンに取り揃えて貰えたし、生活に関してはエルザと共に決めてきたし……後は……そっか、何か持ち込みは出来るんだよね?」
「はい、必要でしたら守護者としては武器の1つでもと思います」
「確かに……そうなると装飾剣辺りは必要かな?」
「はい、持っているだけでも違うと思います故に」
「なら、お願いしようかな? 数日しか日にちが無いけれども大丈夫?」
「いえ、もう用意は出来ております」
「…………えっ?」
ん? 用意は出来ている?
ん? もし、僕が必要だと言わなかったら?
……いやいや、怖くてその際のパターンは聞けないぞ。
それにゴードン……どこか恍惚とした表情に見える……。
そ、そっか……受け取って貰いたかったのか……。
「えっと、費用は……」
「大丈夫で御座います」
「いや……」
「私からの入学祝いで御座います」
「まだ、合格もしてないけれどもね?」
「祝いで御座います」
「はぁ……分かったよ。いつか、このお礼はちゃんとするから」
「はい、心よりお待ち申しております」
スッと……ゴードンの手元の魔法鞄から取り出されたのは、綺麗な装飾の施された一振の剣だ。
ただ、実用性もあるのは握った感覚で分かった。
とりあえず、これは外向き用として大切にしておこう。
僕はなるべく丁寧に仕舞う意識で装飾剣を自分の魔法鞄に入れた。
「では、私はこれで」
「これを渡すのが目的だったのか……」
「いえ、本当に顔を見たかったというのもあります」
「学校生活が落ち着いたら顔を出すようにするよ」
「左様で御座いますか?!」
「お、おぅ……」
ゴードン?! キャラ! キャラがブレてるから!
そんな怪しい男が……そんな忠犬ハ○みたいに喜ばれても困るから……!
「では、私はこれで……」
「あ、ありがとう。帰り道、気をつけて」
う、うん。
ちゃんと前見るんだぞ……。
なんだか、そんなに浮かれる理由は分からないけれども。
喜んでるようで何よりだよ。
「さて、僕も色々と片付けたり、用意するかな」
うん、頑張りますか。
まぁ、それでも手早くまとめたら終わるくらいなのだけれども。
終わったら後は久しぶりにゆっくりしてみよう。
ここ暫くは本当に右に左に奔走していた気がするし、ここらでちゃんと休むのも必要だろう。
うん、身体と心がそれを欲してる気がする。
僕はそう決めて、とりあえず少しは増えた身の回りの物を整理していく。
うん、整理は簡単だ。
どんどんと魔法鞄に放り込んでは後は魔法鞄をいじくり回しながら、魔法鞄内を整理する感じだ。
自分のオリジナル魔法鞄様々だろう。
よしよし……、このくらいかな?
「うん、良い感じだ」
綺麗になった室内を見回しては、僕はお風呂へ向かう。
お風呂……これが本当にあって良かった。
ゴードンを一番褒めたい功績かも知れない。
長く長く浸かっては、モフモフのベッドへと身体を預ける。
そして、僕は意識を落としていく。
そんな風にゆったりと、本当に久しぶりに過ごしたら、あっという間に試験の日が近付いて来ていた。
「今までお世話になりました」
「いえいえ、マコト様に宿泊して頂いて私どもも喜びの限りです。また、機会が有りましたら、いつでもお待ちしております」
「そんな……そこまでの事は……」
「いえ、ゴードン様からも良く見て貰い、うちはとても本当に助かって……」
「あ、あぁ……」
ゴードン……そうだ、思い出した。
わざわざ、僕の為に部屋を改装したのだった。
そっかぁ……それはこうなるよねぇ……。
「う、うん。また、機会があればお世話になるよ」
「はい! お待ちしております!!」
圧ッ!
圧ッ! が凄いのよッ!
「マコト様、お待ちしておりました」
「あ、うん……。宜しく……ね?」
「はい!」
わーお……。
宿を出たら、僕の為の試験会場への馬車がお待ちかねだ……。
そう、ノルトメ商会の……ね。
ゴードン……いや、ありがとう……。
うん、文句を言っちゃあ……いけない。
有難い事なのだ。
感謝の心を常に心掛けないといけないはずだ。
「では、参りますね」
「は、はい。宜しくお願い致します」
パシッ……!
っと、御者の方がムチを入れると馬はパカパカと動き出す。
まぁ、視線が来るわけで……。
それは僕に対してではなくて、ノルトメ商会というネームバリュー故だろう。
「マコト様、お着きになりました」
「ありがとう、ここまで助かったよ」
「いえ! チップは大丈夫です! そのお心遣いだけで……」
「もしかして……もう、ゴードンから……?」
「……」
「あ、うん。ありがとう。気持ちだけでもお伝えするね?」
「た、助かります!」
チップ文化は実は地味に存在しているらしい。
うーん、まぁ……異人さんが取り入れたのだろう。
異人の存在に気付いてからは、色々なあべこべだった疑問も解消されていくのが日々感じている。
……っと、試験会場の場所を確認しないとだ。
今は門前だ。
王立学校はやはり、規模が大きい。
寮もあるし、訓練所もあるし、学舎もある。
後は僕が一番気になっている図書館だ。
いや、逆に無いものは存在するのだろうか?
とりあえず、僕はそんな学校の門前に立っている。
御者の方はパカパカと走り去っている。
うん、後ろが控えているからね。
それに今さら気付いたけれども、周りの視線をかっさらってる気がする。
まぁ、ノルトメ商会から降りてきたから、何かしらの関係者なのかと探っているような視線だ。
とりあえず、気にしても仕方ないので、試験会場を案内している先生の1人だろう人に近付いて試験会場を確認する。
「うん、まぁ、離れかすよね」
平民と貴族関係の試験会場はやはりそれなりに離れて開かれていた。
まぁ、変な接点が無い方が緊張もしないだろうし良いのだろう。
「さてとまずは筆記試験か」
筆記試験の後は実技試験……があるみたいだな。
まぁ、なるようにするか。
一応、軽くは学校関係者には王様の方から僕の存在は通達しているようだけれども。
話し半分の人も居るだろう。
実際に王族関係者の方も僕を試すまでは疑いが大きかったのだから。
「って、考えてると時間が経っちゃうな、急がないと」
時間は有限だ。
急がないといけない時は急がないとだ。
僕は試験会場まで足早に向かうのだった。
「では、皆揃いましたね。試験を開始します。終了の合図までは席を立つことなどはしないように。よろしいですね? では、開始っ!」
会場に着いたら、手早く教師陣が受験者の確認をしていく。
そして、全員が揃っていることを確認すると試験用紙を配っては早々に試験が開始された。
(うーん?)
試験内容は……まぁ、うん。
簡単な数学、簡単な……のかは分からないけれども、自分からしたら語学は自然と理解出来てしまうので問題なく解けていく。
そして、歴史関係は簡単なものでエルザから教わった事をスラスラと書き込んでいったのだけれども、問題は……魔法学の方だ。
例えばファイアーを唱えるための起動句は?
魔力とは何歳から増えなくなる?
魔法具の可能性は?
……起動句かぁ。
なんだか、エルザが「こんなの意味あるの?」とか思って、一応模範解答をしている姿が容易に浮かんだ。
後は魔力は増えなくなることは無い。
増やすことは出来るが。
増えないというケースは呪い以外の何物でも無いだろう。
魔法具の可能性は固定観念が強そうだ。
あくまでも補助的なもので使い道が限定されてると思われているのが、今の魔法具への見方の現状だ。
本当は……元の世界では無いけれども、機械と魔法のハイブリットが可能となる、この世界ならば、その可能性は未知数なのに……何か、そう思わせてしまう原因があるのだろうか?
変に思われても仕方ないので、模範解答を僕も書き綴っていく。
まぁ、エルザも模範解答を書いてるだろう。
後で、合流した際には結構不満を聞かされそうな予感を感じてしまう。
「はいっ! ここまで! 答案を終えてください! 筆記類は机の横に置いてください!」
気付いたら時間が来たらしい。
ほとんど、自分は最初にパパっと解いてしまっていたので、ボンヤリとしていたのだが、うん……教師陣からはちょっと怪訝な目で見られていたのは勘弁願いたい。
「うーん……終わった終わった」
うん、結構退屈な時間だった気がする。
いや、退屈だった。
背伸びを大きくかましていると、盛大に次の実技試験へと向かう人達から変な目で見られていく。
若人よ……そんなに焦っても仕方なかろうて……。
って、自分も若いのだけれどもねぇ……。
それにしても、皆一様に緊張している。
まぁ、人生が掛かっているといっても過言では無いからだろう。
万が一にも落ちたら、貴族階級から除名されては絶縁される恐れもあるとは聞いていたから、まぁ、さもありなんだろう。
「って、一番最後になっちゃったか……移動するか、えっと場所は……」
あー……、これ結構歩くやつだ。
渡された資料に次の実技試験先の場所が案内されているけれども、学校自体が広いから、実技試験会場も必然的に遠くなっている。
まぁ、歩くしか無いか。
それにしても在校生が見掛けないと思っていたけれども、うん、一応居るようだ。
一番最後に出てきたからか、遠目でこちらへと向かってくる在校生の方が遠くに見える。
受験生と無用な接触が無いように学校側が取り計らっているのだろう。
「……そうなると、のんびりとしていたら迷惑になるか」
ちょっとだけ、歩く速度を気持ち的に早めて僕は実技試験会場へと向かう。
「へぇ……立派だな……」
立派だと言ったのは規模……もあるのだろう。
いや、ほとんどの受験生はその広さに驚いているけれども、僕が驚いたのは試験会場を覆うバリアの結界だ。
結構、強固な防御魔法と……回復魔法も織り混ぜてるみたいだ。
常時発現しているということは魔道具を用いているのと、その運用には魔力の人為的供給か、それかそれに見合う魔核で対応しているのだろうと容易に想像できた。
「全員揃ったか……!」
「いえ、後1人……あ! 来ました! 揃いました!」
「遅いぞ……!」
「あー……と、すみません」
うん、僕だ。
流石に今度の周囲の目は「何やってんだ、コイツ?」で共通しているのだけは分かる。
「では、改めて説明を始める! これから実技試験を始める! 内容は簡単だ! 己の出来る属性を的に向かって放って貰うのと、最後に自身の出来る魔法を披露することだ! 出来る属性魔法の方は初級のもので構わない! 魔法の発現のスムーズさ、魔力の運用の緻密さ、全てを見ていく! 最後の魔法の披露は単純に力量を見ていく! では、受験者番号の小さいものから始めろ! 後、遅れて来た……お前! 名前は……ん? コイツがそうなのか? ……あー、マコトは……そうだな加減して頼む。以上だ!!」
「「…………」」
今度の周囲の目は「えっ? 何コイツ? 何かあるの??」って、いう目だ。
流石に2回も短時間の間に見られると何ともいえないむず痒さを感じる。
「まぁ、加減ね。加減かー……」
どうやら、あの教師の人は僕の正体。
僕の容姿は分からなかったらしい。
きっと名前だけは通達はされていたのかな?
加減してと言っていたがうーん? 守護者になる手前、なめられても困るからな……。
それに何より、ある程度は自由にして良いと王族からも許可は頂いてるからな……。
「んー?」
「小さき炎よ 私の望む場所へと 爆ぜろ! ファイア!!」
「水よ 囲え ウォーター!!」
まぁ、魔法句はイメージの固定化の為だから、色々とだけれども。
確かに皆、最初は各々出来る属性魔法を用意された的に放っては当てたり、外したりしている。
「フンッ! ウィンド!!」
おー……。
力業のイメージで風を発生させてる受験生も居る。
けれども、イメージが大雑把なのか、的を含めて周囲に強い風が凪いでいる。
あれは……非効率的かもなぁ……。
「風よ…… 土よ…… 共鳴しあい 姿を現せ…… サンダー!!」
ビリビリと竜巻状に摩擦から電気を生み出してる魔法を披露している受験生が居た。
おぉ……あれは中々……。
ちゃんと発生のメカニズムを意識して魔法句で更にイメージを固めて魔法を発現させているのだろう。
見ている教師も何も言わずとも頷いてる教師陣が居るから、あれは中々評価が高そうだ。
「さて、マコト? 宜しく頼む」
「あー……って、そうですね。僕の番ですね。」
「ん? そうだぞ? どうした?」
「いえ、皆さんの見ていて、中々良いものだと思っただけですよ」
「ほぅ……」
「「…………」」
なんだか、周囲の目が刺さってくるような?
なんか、悪い風に言ったかな?
別に変な意味合いを持って発言した訳では無くて、素直に心から良いものだと思ったんだけれどもなぁ……。
なかなか、こう……伝わらないものだな。
「とりあえず、まずは使える魔法からですね」
「あ、あぁ……」
「土、水、火、風、光、闇……後は聖ッ」
「──全属性?!」
「いや、見間違えだろ?」
「全属性なんか、聞いたことあるか……?」
「いや、俺は無い」
「お前は?」
「いや、僕も……」
「私も……」
「「────」」
おお、おお……教師の目もギョッとした目でこっちを見てくる人が多いな。
それに良く周囲を見ると、遠くの建物からこちらを見ている人達も居たみたいだ。
まぁ、気になるよね。
うん、自分でも逆の立場なら見ちゃうもの。
後は……なんだっけ……使える中での審査に良いやつか……。
「なら、これかな? 触れないようにしてくださいねー」
よしよし、警告しつつやりますか。
まずは風を周囲を範囲を決めて……そして冷たい風を……そして、水蒸気を……うん、出来てきた。
パリパリ……ピキピキ……と周囲が凍り付いていく。
後は……光属性を周囲に……ライト。
そしてライトの魔法で周囲を照らすと広範囲のダイヤモンドダストが生まれる。
「綺麗……」
「これは魔法なのか……?」
「おいっ、触れたらヤバイって言ってただろ?」
「あー、つい……綺麗で」
見惚れてる人も居るのも確認出来る。
エルザの時も小さい範囲でやったけれども、結構目を惹いていたし、色んな魔法を効率良く運用しないと発現出来ないから、これほど試験向けも無いだろう。
まぁ、単純に周囲に広げれば殺傷能力も伴って来るのだけれども、見る分は綺麗で素敵だろう。
「解除します」
ブワッ──と、一気に柔らかくした冷気を一気に周囲に飛ばして魔法を解除する。
何名かが冷たい空気に「キャッ」と言っていたけれども、まぁ、サプライズだ。
「これで終わりです」
「あ、あぁ……」
先生もすっかり骨抜き……いや、見惚れてしまってたみたいだ。
「……ごほん。これで実技試験は終了だ。重ねて、本日の試験も終わりになる! 各自、本日は試験終了の為、帰宅を願う。道が分からない者が居るとは思わないが、万が一分からない際は近くの教師陣に聞いてくれ。それでは、お疲れ様」
そう言って、実技試験の試験官を担当していた教師は試験会場をあらかた見回しては整理に入っていっていた。
何名かは、そのまま試験の終わりの余韻に浸っていたが、ゾロゾロと帰宅へと足を向ける受験生に合わせるように会場を……学校を後にしていく。
「あっ! ……ま、マコト……」
「ん……? あぁ……ごめん、待たせた?」
「……ううん」
「とりあえず、馬車に乗ろうか?」
「そうして貰えると助かるかも」
「うん、了解」
学校の入り口……から少し逸れた馬車の停留所に近付いたら、僕を呼ぶエルザの声が……小さめに聞こえて来た。
うん、そうだった。
エルザは人見知りなのをついつい忘れていた。
僕もその声に気付いてはサッと近付いては少しだけ声を落として話しかけると、エルザはその気遣いに嬉しそうにしつつ、言葉を返して来てくれた。
とりあえず、馬車に人目が集まって来ていたので、乗り込む。
うん、まぁ……お姫様だからねぇ……。
それに最後まで公表の無かった守護者の枠の件で、噂が噂を呼んでる中で、僕が現れたのだ。
色々と好奇の視線が釘付けになるのは致し方ない事だろう。
それがエルザに良い影響があるかと言われたら、キッパリとNOなのだが。
「ありがとう、マコト。気遣ってくれて」
「ううん、僕の方こそ、ごめん。ついついエルザが人見知りだっていうのが抜け落ちていたよ。一緒に居ると忘れてしまいがちになっちゃうかも」
「でも……そうかも? 確かに私、マコトと居ると多少平気だったような?」
「あはは……なら、守護者としては合格なのかな?」
「もー、そういう話じゃないと思うのですけれども」
「あはは……ごめんごめん。えっと、今日はこのまま王城に?」
「うん、マコトの部屋も前回の客室を用意しているから大丈夫って、お母様が言っていたわ」
「そっか、何から何までありがとう」
「えっ! ううん! そんなこと無いよ?! 私の方こそ……色々と本当にありがとう。今こうやってマコトが居てくれて、私は本当に嬉しいから」
「なら、ちゃんと合格しておかないとね」
「あっ! 試験どうだったの?」
「筆記は……うん、程々かな。実技は……少し大袈裟になっちゃったかも」
「筆記は……なんだか、マコトから教わってるからなのか……。色々と考えさせられる内容が多かったかも。一応、ちゃんと模範的な解答にしたけれども、私は納得は言ってないかも……」
「あはは……」
うん、知ってた。
そうだろうと思ったよ。
元々、魔法を教わる時点で魔法句を揃えて、後は放つだけっていうのにも疑問を持っていたからなぁ。
僕の魔法を教わるなかでみるみると目の色を変えては楽しそうに学んでいたから、そっちの方が個人的にもしっくりと来ていたのだろう。
「ねぇ、マコト……? それで、実技のやり過ぎちゃったかもっていうのは……?」
「あー、大袈裟にってやつか……いや、うん。ちょっと見応えのあるやつにしようかなって。それにエルザの守護者としての建前もこれからあるだろうから。少しだけ……最初にエルザに見せたダイヤモンドダストって僕は呼んでるけれども、それの少し拡張版を披露してみせただけだよ」
「あの綺麗なやつね……!」
「うんうん、あの綺麗なやつ」
「そっかぁ……皆驚いていたかしら?」
「そうだねぇ……うん。皆固まっていたかなぁ……」
「あはは……それは想像が付くかも」
馬車の中の雑談は尽きなかった。
いや、試験の話だけではなく純粋に僕が講師を終えた後の試験までの期間の話も聞かしてくれた。
エルザの方は王様、王妃……両親共にしっかりと話は出来たみたいだ。
僕の方はというと、ゴードンから作って貰った装飾剣をエルザに見せたりもしていたら、あっという間に王城に着いてしまった。
「試験結果はマコトのも特別に早めに知らせが来るようにしてるって、お母様が言っていたわ」
「えっ? そうなの? 貴族の位が高い方からだと思ったけれども」
「うん、それはそうなのだけれども。マコトの場合は特別だから」
「あー……守護者の立場としてか」
「うん、朝方に連絡が来ると思うから王宮の方で朝食でも一緒にどうかな……?」
「それはイザベラ様の提案かな?」
「あはは……うん。でも、私も一緒に食べたいよ?」
「うん、分かったよ。そうなるとまた明日の朝に王宮の食堂で!」
「うん、じゃあねマコト」
「また、明日! エルザ」
そうして王城に着いた僕とエルザはメイドさんに案内されては別れていく。
案内された部屋は以前、王城に訪れた際に案内された部屋で……うん、やはり豪華だ。
このままベッドに埋もれたくなったけれども、メイドさんの目もある。
そっと、ベッドの誘惑から離れては着ていた服を脱いでは用意されている部屋着へと着替えて、寛ぐことにする。
メイドさんが一礼して去ってからは執事さんが来てくれて、その後の夕御飯や入浴の補助の有無を聞かれたりしたけれども、まぁ……程よくサービスして貰ってはベッドにやっと埋もれたら、あっという間に朝になっていた。
コンコン──。
「ん……」
コンコン──。
「あの、マコト様? よろしいでしょうか?」
「んー……って、朝か。いつの間に……、あっ、はい! どうぞ!」
「では、失礼致します」
そうして、入ってきたのは妙齢の美しきメイド長のアンヌさんだった。
「あ、アンヌさん……?」
「おはようございます、マコト様。そろそろ朝食の御時間ですので、失礼ながら私が来させて頂きました。……まずは朝の身支度を失礼致します」
「えっ、あっ……はい」
くるくるッとされたかと思ったら、どんどんと乱れた髪を整えられ、まだ寝顔に近い顔を張りのある顔にどこぞのアンパ○ンマン宜しく並に早業で変えられて、服は最低限は死守したが、上着類はパパッと着替えさせられていた……。
「えっ……」
「はい?」
「アンヌさん……僕はいったい全体……」
「メイドですので、このくらいは……」
「は、はぁ……」
いえ、普通のメイドはそんな凄い技は無いと思います。
はい、きっとアンヌさんの何かしらのパワァーなのだろう。
筋肉は……無さそうに見えるけれども、某あの人並に筋肉に愛されし人なのかも知れない。
「さて、今の時間帯でしたら丁度間に合いますね。行きましょう」
「は、はい!」
有無を言わさない逆エスコートをされては、またもやあっという間に王宮の食堂に案内されていた。
「あら、マコトさん。おはようございます」
「あー……はい。おはようございます。……遅くなってしまい、すみません」
「いえいえ、どうですか? 客室のベッドは気持ち良かったですか?」
「恥ずかしながら……とても良かったと思います。いつの間にか眠ってしまっていましたから……」
「あらあら……」
「……ゴホン。マコト、私からもおはよう。早速、エルザと共に試験結果が来ているが、どうするか? 先に確認するか?」
「そうですね……」
食堂には王様のクリストフさんと、王妃のイザベラさんが既に居て、その横では緊張した面持ちのエルザがちょこんと椅子に座ってはソワソワしている感じだった。
なんだか、そんなエルザを見ていると微笑ましくなると同時に遅れた事の焦りも落ち着いてくる。
「そうですね、エルザも良ければ先に合否の結果を確認したいです」
「エルザ? 確認しても良いか?」
「あっ、はい。お父様……私も気になっていたので……」
「うむ、では確認しよう」
「クリストフ様、こちらを……」
どうするか決めたら、即座に執事長のジャンさんが横から現れては合否の結果の書類を渡していた。
いや、ジャンさん……?! 老齢のあなたの動き……凄いな……。
とりあえず、ちょっと驚いていると王様が封を開けられた書類を取り出しては中を確認していく。
「うむ、エルザ……頑張ったな。しっかりと合格だ。それに首席合格だ」
「あら! エルザ……頑張ったわね」
「うん、うん……!」
おお、エルザ……! おめでとう。
首席合格か……。
本当に飲み込みも早いし、優秀なのは知っていたけれども、偉いな。
なんだか、エルザは本当に嬉しそうに笑ってはクリストフさんと、イザベラさんへと応えている。
「それで……マコトの方は……うん? ……あぁ、なるほど」
「……? どうしたのですか?」
「いや、試験結果は合格だが……。なんだ、答案に関して魔法以外の筆記は明らかに調整したような跡が見られ、魔法及び、魔法具に関しては筆記の方は逆に教師陣の方で確認したい者が居るらしい。後は実技の方は……うむ。こちらへの陳謝……とは言わないが、もう少し踏み込んで事情を説明して貰いたかったと書いてあるな……なるほど、少し教師陣でも話題になってるらしいな」
「えっと……」
「まぁ、余り気にしなくても良いわよマコトさん。どのみち、どんな言葉を並べようとも、私たちも実際を見て、肌で感じて分かった位なのだから、土台無理な話なのだから」
「そ、そうですか……」
「はっはっは。逆にこれで良かったかも知れぬな。マコトの事に関しては私も杞憂していたからな。ただ、あれだな……要請が入っているな」
「要請ですか?」
「うむ。魔法具サークルへの勧誘と言っても良いかも知れぬが……ふむ。参加するかはマコトに一存しよう。学校生活は学生主体なのだからな。私からはエルザを看て貰えたら、それで構わない」
「そうですか、ありがとうございます。そうですね、魔法具サークルですか……」
うん、めっさ興味ある。
この王都は魔法具の登録場所がある、唯一の場所だ。
ここで認められて、国に正式に販売もされていくし、手数料もしっかりと入ってくる。
めっさと言ってしまったが、凄く……興味があるということだ。
そんな頭だったからか、有ること無いことを楽しく一瞬考えてしまったのが、エルザに見られていたのだろう。
「マコトが気になるなら、私も一緒に入るよ? 私も魔法具は気になるから……」の一言で、魔法具サークルに関しては入学したら、挨拶に迎えたらと決まった。
エルザ……本当に良い子だ。
そして、僕の興味は図書館と魔法具へと向かっていくのも感じた。
「そうなると、首席挨拶……考えないとだわね」
「「あっ」」
「そうだな、エルザ……頑張れるか?」
「え、えっと……」
「大丈夫よ、卒業生代表でレイラが立ち会ってくれるから、サポートしてくれるはずよ」
「レイラ姉さん……」
レイラさんか。
第1王女の人だったな。
エルザの4つ上のお姉さん。
あれ? そうなると守護者のクラウスさん、執事長のジャンさんの一人息子さんも一緒に居るのかな?
……挨拶しないとかな。
僕の方も、何故か少し緊張してきた感じがした。
「まぁ、とりあえずはご飯にしましょう?」
「あぁ、そうだな。マコトも楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
「首席……挨拶……」
うーん、エルザ……トリップしている感じに。
いや、人見知りのエルザだ。
そうなるのは当たり前か。
何とか頑張って貰うしか無いけれども、お姉さんのレイラさんのサポートが要になりそうな予感がした。
「ご馳走さまでした」
「美味しかったかしら?」
「はい、とても」
「口に合ったようなら、良かったわ。それで……」
「それで……?」
「エルザが首席挨拶をするとなると、多分だけれどもマコトの守護者としての挨拶も求められると思うわ」
「「えっ?」」
あっ、トリップから一気にエルザが戻ってきた。
エルザと声がハモってしまった。
「そうだな、今回は守護者の御披露目や発表もしていないからな。学校側かもその要請はあるだろう」
「ですわね。マコトさん? すみませんが、挨拶の方お願い出来るかしら?」
「……!」
エルザの嬉しそうな目がこちらへと向けられてくる。
う、うん……分かってるさ。
「分かりました。その挨拶の件、承りましょう」
「ふふ、そう言ってくれると思ったわ」
「そうなると、マコトの挨拶の方も考えないとだな」
「そうね、腕が鳴るわね……!」
あら、イザベラさんとクリストフさん? 随分と乗り気なような?
これは……止められなさそうだ。
エルザの方を見ると、今度は安心したような顔で僕を見てきていた。
まったく……仕方ないな。
僕の方も安心させるように、笑ってエルザの視線に応えるのだった。
そんな感じで和やかに朝食と合否の確認は済んだ訳なのだけれども、そこから入学式までの期間は挨拶の練習や装飾剣を使っての守護者の振る舞いの挨拶の仕方を少しだけだけれども、教えて貰っていた。
その間は、あの客室を僕の部屋として住まわせて貰えたので、とても日々の睡眠は充実していた。
そんなこんなしていたら、あっという間に入学式の日が差し迫って来ていた。
「ねぇ、明日だね」
「そうだね」
「私……挨拶、しっかりと出来るかな?」
「……不安?」
「うん」
「そうだよね、何か考えてみておくよ」
「……?」
王宮のサロン。
あのイザベラさんと、宰相の妻のアナベルさんとお茶会に招かれて貰った場所で夜空を見つつ、僕とエルザは明日に控えた入学式に向けて話し合っていた。
気休めな言葉をいうのは簡単だろう。
けれども、それでは根本的にはエルザの問題は解決はしないのは僕にも、きっと……エルザにも分かっていた。
エルザは聡い子だから、尚更だろう。
なら、現実的に何か出来ないかと思案することにした。
幸か、不幸か。
僕もエルザと一緒の場所で守護者として挨拶しないといけないのだから。
あの後、王様と王妃様……クリストフさんとイザベラさんは学校側に僕への説明が足りない部分が有ったら申し訳無かったと返事をしたためていたけれども、まぁ……僕に関しては何かしらのお咎めや、注意は無かった。
そうということは、引き続き多少は幅を利かせても良いということだろう。
うん、そう思うことにする。
それに自分自身、その行為を抑えられるかと言われたら、エルザが困っていたら抑えられないだろう。
不思議そうな顔で僕を見てくるエルザが堪らなく、愛らしく感じては気付いたら、そっと頭を撫でてしまっていた。
エルザの方も嫌がる素振りはなく、頭を少し傾けては僕に預けて来てくれていた。
ただ、撫でる隙間から覗かせる顔は紅く染まっていて、見つめるのは野暮だろうと、僕の方は夜空を見上げることにした。
綺麗だな……。
そっか、緊張していて、空気が緊張していたら、それを上書きするくらいに何かしらを与えたら良いのかな?
うん、何か、この綺麗な夜空を眺めていたら発想を得られた気がした。
この世界の空は美しい。
夜空は星が綺麗に散りばめられている。
サッサッ──。
遠くから、わざと存在を知らせるようにこちらに歩いてくる人が居た。
「エルザ様、マコト様。今夜もだいぶ遅くなりました。明日は入学式です。休まれては如何でしょうか?」
「アンヌ……」
「アンヌさん……」
うん、アンヌさんだった。
ただ、そう声を掛けて来てはいたが、両手には温かい蒸気を発しているティーポットが載ったティーセットの盆を持って来てくれていた。
アンヌさんの気遣いに感謝しつつ、僕とエルザはアンヌさんの淹れてくれたお茶を飲んでから、お互いに別れの言葉を済まして、部屋に戻っては眠りに就くのだった。
「マコト様……マコト様……」
んー──。
「マコト様……」
ん? ……朝か。
どうやら、この部屋に生活させて頂いて気付いたけれども、質の良いベッドで眠ると僕は徹底的に朝が弱いらしい……気がする。
いや、認めたくないだけだ。
実態は見ての通り弱いのだろう。
「ごめんなさい、どうぞ……」
「失礼致します」
「起きるの遅かったですか?」
「いえ、そんなことは有りませんよ」
部屋に入ってきたのは……執事長のジャンさんだ。
背後にも何名か執事さんが居る。
「朝食はどうなさいますか?」
「食べた方が良いかな?」
「軽くでしたら、良いとは思いますが……」
「なら、軽くで」
「分かりました。マコト様に朝食の用意を」
「はいっ! 直ぐにご用意致します」
執事の1人が颯爽と消えていった……と思ったら、軽くサラダと小さなパンと飲み物を持ってきてくれた。
す、凄い……皆、優秀か?!
とりあえず、朝食を手早く済ませてはジャンさんを主導に僕の入学式への向けての着替えやセットが行われていく。
「ふむ、良く似合っておいでですよ」
「……誰?」
いや、分かる。
これは……僕だ。
執事さん達の総力の結晶が今、目の前の鏡に映っている僕だ。
いや、ナルシストとかではないよ?
でも、凄く美形に仕上げられている。
これが技術力というやつだろうか?
「ありがとうございます」
「いえ、私どもはそっと手を差し伸べただけで御座います。では、お嬢様……エルザ様もお待ちで御座います。案内致しますので、足元にお気をつけて着いて来てくださいませ」
「あっ、はい!」
そして、エルザが待つ馬車へとジャンさんが案内してくれる。
ジャンさんに着いて行きつつ、馬車が見えてくると、同じくこちらに向かってくる……エルザ……なのか?
エルザが居た。
「綺麗だ……」
「……!」
「あっ、ダメですよ。汗をかいたら、まだしっかりと肌にも化が……マコト様?」
「す、すみません!」
アンヌさんが手早く、エルザの身だしなみを整えていく。
対するエルザはやっと、落ち着いて来ていた。
僕は咄嗟にアンヌさんに謝ることしか出来ていなかった。
「お、おはよう……マコト……もその……かっこいい……よ?」
「う、うん……」
あー、これはアカン。
嬉しいやつだ。
なんだか、ちょっと口角が緩んでるのが分かる。
気付いたら、お互いに見つめてしまってるし……。
「マコト様……その、マコト様も落ち着いてくださいませ」
「……! あっ、すみません」
気付いたらジャンさんから釘を刺されていた。
いや、今まさにアンヌさんもエルザに注意していたばかりなのに。
これはこれで……眼福なのだけれども、エルザ……素敵だ。
とりあえず、そのまま王立学校へ向けて馬車に乗り込んで向かったのだが、お互いに変に気まずい……というよりは意識してしまって、言葉数が自然と少なくなってしまっていた。
「えー、それでは学長の挨拶になります」
「皆、姿勢を緩めて大丈夫ですよ。そして、席に着いてください。……大丈夫そうですね? では、改めて私が学長のパスカルと言います。これからあなた方入学生……そう生徒と共に4年間共に切磋琢磨する若輩者でもあります。……え? そうには見えないって? ふふふ、そうですね。私はエルフですからね。長く、色んな子達を見送って来ました。または教師として、今度は立場を変えて共に歩んだり、卒業生として訪問しては邂逅したりと色々ですね。さて、そんな中で皆様は初めて、この学校へ通うにあたり、共同生活を送ることになります。様々な出会いや気付き、または得難い経験を重ねていくでしょう。全てを大切に、貴重にして糧にしては培っていって貰えたらと心より思います。そんな体験や経験を私たちは共に歩んでいきたいと思っております。ここは全ての生徒に開かれた未来のある場所であります。己の心に常に問いかけては切磋琢磨していってください。……挨拶が長くなってしまいましたね。ふふふ、この時がいつも楽しみなのです。困ったことがあったら、教師陣へと相談もしてください。皆様、良き隣人であってください。では、私からの挨拶はここまでで。皆様、改めてご入学おめでとうございます」
パチパチパチパチ──。
と、拍手が鳴っている。
うん、エルザと僕は学長のパスカルさんの背を見る位置に居た。
そして、僕たちとは反対側へは優しくこちらを見てきている人達が居た。
あれが第一王女のレイラさんと、その横に居る青年がクラウスさんだろうか。
視線があったら、柔らかい表情でお辞儀をされたので、僕もそれに倣って返す。
エルザは……うん、緊張していて固まってしまっている。
少しだけ、手を取ってはプニプニと摘まんでみるが反応はない。
そして、パスカルさんか……学長さんと壇上で初めてお会いした際に初めてなのに関わらず、優しく挨拶された。
言葉だけでいうと、何が変なのかは分からないと思うが、第二王女のエルザを差し置いて、まず僕から挨拶してきたのだ。
「あの子を救ってくれてありがとう」と、ポツリと言われた。
エルフであの子? ……少し前の記憶が浮上するのを感じたが、今は式の挨拶の前で、僕の意識はすぐにそちらに切り替わっていた。
まぁ、大きな要因はガチガチに緊張してしまっていたエルザが僕の手を握っていたからなのだけれども。
パスカルさんはそんな僕とエルザの様子を見ては頬ましそうに柔らかく微笑んでは、エルザに深くお辞儀をしては壇上の挨拶に向かって行っていた。
うん、パスカルさんの挨拶……長くも短くもなく、上手いな。
すっかりざわつきも治まっては、会場の生徒の雰囲気も程よく弛緩している感じになっている。
「では、引き続き入学生代表……エルザさん。そして、それに伴いまして守護者のマコトさんの挨拶になります。お二方、前へお願い致します」
進行役の声が会場に響くと、先ほどの弛緩した雰囲気は一気に様相を変えて、ザワザワとしだす。
まー……うん、なるよねぇ。
ずっと謎だった守護者の挨拶、そして……第2王女の挨拶と来た。
特大イベントと言っても過言では無いだろうさ。
ほら、隣のエルザがガチガチになっちゃってる。
若干、目元に涙が浮かべそうになっているし……何よりも僕の手を握る力が強くなってるし、震えてるのが分かる。
チラッと反対側のレイラさんとクラウスさんを見てみるが、レイラさんは少しだけ、どうしようと焦った雰囲気を見せているが隣に並び立っているクラウスさんは僕を見ては頷いて来ていた。
……守護者して何とかしてみせろって、事かな?
言葉ではなく態度で伝わってくるものがあった。
それにエルザの手の震えが強くなっている。
これ以上震えたら近くの人からエルザが震えてるのが分かってしまうかも知れない。
それは困ることだ。
さて……昨夜の閃きを思い出す。
会場は大きなもので、採光がたっぷり取り入れられては会場を明るく照らし出している。
少しだけ、強めな防御魔法が掛けられてる?
いや、これは魔道具で供給されてるのかな?
けれども、問題は無いだろう。
それに多少の無理は……うん、何かあったら後で謝ろう。
ちょっとだけ、心の中で謝罪して行動に移す。
「大丈夫だよ」
ポンポンと、空いた手で公衆の目の前だけれども優しくエルザの頭を撫でてあげると、エルザがやっと震えが止まって僕を見上げてくる。
「夜よ……!」
「「えっ! なに?!」」
「急に真っ暗に……!」
僕が闇魔法を用いて、会場から光を奪う。
「光よ……!」
「……え?」
「……なに、これ?」
そっと、擬似的に綺麗な月を浮かべる。
そして、散りばめられた星々を再現していく。
「癒しよ……!」
「「暖かい……」」
「気持ちいい……」
月から星々へ、そして地上へ……。
まるで、天も地も星々が浮かぶ世界へとミルキーウェイの代わりに聖魔法を用いて、心を穏やかにする効果を交えて発言していく。
皆が……会場が教師陣も、パスカルさんも、レイラさん、クラウスさん……関係者全員の視線を、心を、奪っては穏やかにしていく。
外から見ると、急に会場が闇に覆われたように見えるから大惨事になってるかも知れないけれども……それは後で謝ろう。
誰にも入って来れないように空間転移の応用で、空間を切り取っては断絶して邪魔が入ってこないようにする。
「うん、こんな感じかな」
「マコト……凄い……」
「とっておきだよ」
ニコッと笑うと、エルザも少しだけ頬を染めて嬉しそうに、はにかんでくれた。
「挨拶……出来そう?」
「うん、頑張ってみる」
トントン……。
風の魔法を用いて……周囲へと声を届ける。
曰く、マイクと言っても差し支えは無いだろう。
エルザは「あ……、あ……」と声の調子を確認して挨拶を始める。
「マコトが……私の守護者の力です。皆様、大丈夫です。そして、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳御座いません。入学生代表のエルザと申します。この私たちの奇跡のような出会いにまずは感謝を。そして、学長のパスカル様が話しておられたように、私たちには未来が有ります。それは無数に存在しては絡み合っていると思います。それは縁や体験、経験のうえで何処までも、何処までも果てがなく未来へと続いていくと思います。4年間という短い期間になると思いますが、私からも皆様に貴重な得難い出会いや体験、経験を得ては、逆に与えていくと思います。どうか、私も含めて皆様に良い学校生活がありますように。そして、この貴重な挨拶の機会を頂きましてありがとうございます。私からの挨拶は以上になります。ありがとう御座いました」
エルザが頭を下げるタイミングで銀河の星を周囲に降らせると、エルザはとても綺麗に輝く。
会場はその美しさから拍手を忘れては感嘆の息を漏らしているのが聞こえてくる程だった。
そして、僕が今度は前に進み始めるのに合わせて外の空間の隔たりを、そして……聖魔法を、光魔法を、最後に闇魔法を解除していく。
「眩しッ!」
「やっぱり魔法だったの?!」
「えっ? でも、あんな魔法知らないよ?!」
「そう言えば試験の時もあの人、変な魔法、披露していたよ!」
「え? あれも綺麗だったじゃない!」
うんうん、見事にざわついている。
後ろに控えたエルザは元の状態に戻っては挨拶は無いから緊張は失えどオロオロしてしまっているし、レイラさんとクラウスさんも動揺からか少し焦っているのが手に取るように分かる。
学長のパスカルさんはどちらかというと、魔法に興味を示しているのか、分析に思考が走っているように見える。
他の教師陣は……うん、似たり寄ったりだ。
教師だけではなく、何名かは先の夢心地の体験から戻って来れて無い人も居そうだ。
まぁ、ヒーリング効果は凄いからなぁ……。
はは……まぁ、うん。
予想の範疇かな? と思っていると「バタンッ!」と扉を開かれては外の警備をしていた人が入って来た。
さて、役者は揃ったかな?
これ以上は変な騒ぎになっちゃうからな……、さて。
「踊れ、風よ。舞え、光と闇よ」
イメージを流し込んで魔法を発現させていく。
誰かが声をあげて、会場がパニックになる前に突風を僕を中心に集まるように吹かせては皆の注意を引く、そして、そこへ周囲へと発現させた光と闇の光源を生み出しては僕へと舞い集めさせると皆の視線を僕へと奪えた。
突然の事で、皆が何も意識せずに僕へと視線を釘付けにさせる。
「初めまして、皆様。ご紹介に預かりました。私、エルザ様の守護者のマコトと言います。数々の私のサプライズで皆様を驚かせてしまって、誠に申し訳御座いません。まぁ、マコトと誠に掛けて、申し訳ないってね?」
……サァー──。
と、周囲の動揺が一気に地に落ちては周囲の空気が凍ったのが伝わってきた。
何名かはツボに入ったのか、笑いを堪えてる人は居るけれども……うん、まぁ掴みは上々だろう。
「さて、改めて、挨拶をマコトと申します。守護者挨拶に入らせて頂きたく思います。私は元は平民で、または冒険者でも有ります。故あってエルザ様の守護者の任に預かった次第で御座います。色々と抜けている所は有りますが、仲良くして貰えましたら助かります。短い挨拶になりますが、これから皆様と同じく学校生活を遅れる事を嬉しく思います。よろしくお願い致します」
サッと頭を下げる。
周囲は毒気を抜かれたように呆けていたが、拍手は……うん、仕方ない。
顔を上げては僕は壇上から去っていく。
そのタイミングで進行役の人が意識が舞い戻って来たのか、慌てたような声でエルザと僕の挨拶を終えた事を伝えて、最後に卒業生代表として第1王女のレイラさんを呼んだ。
「卒業生代表のレイラと申します。改めて、皆様ご入学おめでとうございます。この王立学校の生活は皆様に色んな側面を覗かせては、皆様を成長させていかれると思います。可能性は無限です。そして、どうかそれを拒まないでいってください。限界は無いと思います。有るのは歩き続けるか、止まるか、または違った道を歩いて行くかだと思います。けれども、共通するのは生きていくということ。素敵な出会い、体験、経験がここには詰まっております。先ほどの光景もそうだと思います。ありがとう、私の素敵な想い出になりました。……それでは──」
レイラさんの感謝の言葉に頭を下げては、ふと思い至った。
ゴードンからの贈り物の装飾剣……ちゃんと守護者の挨拶で綺麗に使う予定があったけれども、使わず仕舞いだったと。
とりあえず、なんだか無性に申し訳無くなって、心の中でゴードンに謝罪するのだった。
「それでは──私からは以上になります。皆様、素敵な4年間になります事を心から願っております。」
パチパチパチパチ──!
うんうん、本来あるべき姿だろう。
レイラさんは戻りなからクラウスさんへと柔らかい表情を見せると、クラウスさんも柔らかい表情になり、レイラさんの手を受け取っていた。
確か……付き合っているんだったかな。
宰相さんの妻のアナベルさんの言葉が脳裏に思い出す。
「あの2人は付き合っていて、卒業後は神国にある魔法大学に留学予定──」
そうだ。
うん、見事に留学が決まったのだった。
それにクラウスさんも当たり前だけれども、正式にお付き合いが認められた。
魔法……魔法……あっ。
スッと確認でレイラさんを見たら、魔法が好きだというレイラさんの好奇の目が僕を捉えているのが見えるのは直ぐだった。
「では、入学式はこれにて終わりになります。入学生の皆様は、資料に有りました、各自の寮へと向かってください。部屋には皆様の入学案内等、取り揃えております。本日はそちらを確認頂けましたらと思います。それでは改めて、王立学校へご入学おめでとうございます!」
そして、教師陣の拍手を終えては各々、移動を開始する。
「僕たちも一旦、寮へ向かおうか?」
「……はい!」
うん、先ほどの緊張は抜け落ちたようにエルザは元気になっていた。
そして、資料に……も見なくても分かる王族の人専用の寮に近付いて行くと、早速人の姿が見える。
エルザの表情もその姿を見掛けると……緊張ではなく、表情は柔らかく緩んでいくのが手に取るように伝わってくる。
「入学おめでとう、エルザ」
「レイラお姉さん……!」
「よしよし……」
うんうん、仲良い感じで良かった。
兄妹、姉妹中は兄の第一王子のダニエル、目の前のレイラさんを見る限りは良好なようだ。
……で。
「「…………」」
お互いに沈黙で目が合ってしまったが、目の前の青年……彼が執事長のジャンさんの一人息子、レイラさんの恋人でもある、クラウスさんが居た。
「えっと……改めて、初めましてエルザの守護者のマコトです」
「……なかなか、良いものを見させて貰った。どう、現せば良いかと悩んでいたけれども、良いものを本当にありがとう。……クラウスだ。レイラの……守護者だった者だ」
「だった……ですね」
「……まぁ、な。可能性は開かれてるんだ。覚えておいて損は無いぞ?」
「……胸に留めておきます」
うん、クラウスさんが納得いったように目の前で頷いていた。
可能性か……その可能性は言葉にはされなかったけれども、まぁ、多分僕とエルザの可能性について示唆してくれたのだろう。
……良い人なのかもしれないな。
いや、良い人なのだろう。
目の前を改めて見ると、時折レイラさんを優しい目で見つめては頷きながらレイラさんとエルザさんのやり取りを見ている彼が居たのだから。
「さて、と……じゃあ、はい! エルザ? 失くしちゃダメだからね?」
「う、うん」
エルザの手に王族用の寮の鍵をレイラさんから、エルザに手渡される。
エルザもドキドキしながら、大切そうに手に取っていた。
「エルザ? 大変なことも多いかもだけれども、その時は守護者のマコトさんにも良く頼るのよ?」
「う、うん」
「マコトさん? 改めて、初めまして。エルザの姉のレイラと申します。挨拶が遅くなってしまい、ごめんなさい」
「い、いえ。僕の方こそ、初めまして」
「ふふ、本当は魔法について沢山聞きたい所だけれども……。今はエルザの事ね。なかなか、思慮深い子なのよ? 奥ゆかしい所が美点の子だけれども、どうか良く助け、支えてあげてくれませんか?」
「はい、任せてください。それにエルザからも沢山教わる事は共に居て多いのです」
「あら、……ふふふ、なら大丈夫そうね?」
「お、お姉ちゃん……!」
エルザもお姉さんからお姉ちゃんに言葉が変わっている。
これはなかなか……良いお姉さんなのだろう。
嬉しそうにレイラさんは微笑んでは優しくエルザの頭を撫でている。
エルザも満更では無さそうだ。
「じゃあ、一応、中の説明は大丈夫そうね?」
「うん」
「じゃあ、クラウス? 行きましょうか?」
「うん、そうだね。レイラ……はい、手を」
「ふふふ、いつもありがとう」
スッとクラウスさんはレイラさんに手を差し伸べては紳士的にその手を大切に引き寄せてはこちらへと体を向けてくる。
「では、マコト……エルザ様の事を頼む」
「分かりました」
うん、お互いに顔を見合っては頷く。
ここはお互いに守護者としての立ち位置の確認の頷きでもあるだろう。
「では、エルザ。マコトさんも、また機会があれば会いましょう。これからの生活が幸多からん事を願います」
「レイラ姉さんも気をつけて!」
「はい、また機会がございましたら」
僕たちの答えを満足そうに聞くと、レイラさんは1つ頷いてからクラウスさんと立ち去っていく。
クラウスさんは軽く手をこちらへと振って来たので、僕の方も軽く別れの挨拶の手を振り返すと、クラウスさんはどこか嬉しそうに微笑んでは視界から建物を曲がった事で消えていった。
「ふぅ……さて」
「さて……?」
「えっ? ほら、もうここは僕たちのこれから4年間の生活の場なんじゃないの?」
「……そうだけれども?」
「ほら、開けて中を確認してみよう? 色々と荷解きして部屋を整理すると時間掛かっちゃうよ?」
「た、確かに……! ごめんなさい、ちょっと余韻に浸っちゃって」
「あはは……。それは仕方ないよ」
「えっと、レイラ姉さんから貰った鍵は……うん、よしっ」
カチャ──と寮の部屋の鍵が解錠される音がする。
そして、エルザが玄関扉を開けると魔道具仕掛けなのだろう。
室内の明かりが灯っていく。
「やっぱり、凄いね」
「魔道具……?」
「うん、それもあるけれども。ここの王族用の寮はずっと改修や修繕をしては使われて来てるじゃない?」
「そうね、お父様の時も使われていたみたいだから」
「その中で、今も魔道具が時代毎に現れては活用されていって、それを汲み取っては、ちゃんと機能を不足なく持たしている。それがやっぱり、改めて凄いなって」
「そうね、他の所は取って付けたような形も多いのも確かだと思うわ」
「でしょ?」
うんうん……とお互いに頷いて、改めて寮の設備の魔道具を見ながら、脳裏にはゴードンのあの宿屋さんも思い出していた。
あそこも設備は凄かったけれども、建てる過程で、しっかりと設計して組み込んでいたから、ある意味型にハマった美しさだったと思う。
逆にここの寮の美しさは積み上げて来た美しさを損なわずに更に際立たせる為に組み込んだ形で、どんどん味を出している形だ。
「どちらも、それぞれの良さがあるって事かな?」
「んー? マコト? 何か言った……?」
「ん? あー……大丈夫! さて、とりあえず荷解きして整理始めようか?」
「うん!」
軽いものはエルザがテクテクと整理しては飾っていき、僕は僕で重いものを備え付けていく。
いや、ある程度はこちらに来る前に使用人の方が手伝ってくれているのだ。
後は最終調整みたいなものを自分達でしている感じだ。
「火よ……」
ポッ──と、火種を起こしては台所の火を起こす。
魔道具のもあるが、僕の場合は魔力で火加減を調整したい為に、自分の魔法を応用しては料理をしている。
すっかりと、気付いたら夜だ。
うん、初めての寮の二人っきりの生活の夜だ。
「美味しい……!」
「ふふ、味が合って良かったよ」
「ううん、マコトの料理……本当に美味しい」
うん、美味しいだろう。
まぁ、必然的な感じもする。
こちらの食文化は良くても、数段あの世界の食事事情というかレベルが落ちているのだ。
なんだろう……必要なものはあるのに、それらの組み合わせがない感じだ。
原因の1つには異人の影響もあるかも知れない。
本来は積み重ねの果てに料理のレベルが上がって行くのだろうけれども、異人の影響で無理やりレベルを上げたりしているから、その過程の工程や、派生する調理法をすっ飛ばしてる印象だ。
要はチグハグなのだ。
僕の場合は、そのチグハグの部分をフォローやカバーして調理している反面、美味しさというか料理のレベル……質自体が向上してるようなものだ。
目の前のエルザは本当に美味しそうに食べてくれている。
「えっと……それで、この後は……」
「ん? ……あー、えっと……エルザ先で大丈夫だよ」
「う、うん……」
「えっと……そっか……洗濯物もやるから……、その……」
「う、うん」
お風呂の話から洗濯物まで……。
エルザが顔を赤くさせると、僕の方も意識して移ってしまうのが分かる。
いや、2人で暮らすってそういうことだ。
スクッとエルザは立ち上がっては、トテトテと食器類を水場に置いてくれては浴室へと消えていった。
そう、お風呂は……自分のポケットマネーでゴードン頼りに例の宿屋と同じ浴室のセットを買ってしまっていた。
いや、あれだけは譲れなかったというか、唯一の僕の我が儘だったかも知れない。
唯一だからこそ、許可が降りたのかも知れない。
難色を示されるかと思ったけれども、すんなりと認可された。
ただ、費用は僕が出すと言って買わさせて貰った。
払ってくれそうだったけれども、我が儘分だ。
それにギルド活動で得られた資金は充分に有り余っている。
使わないといけないだろう。
「ふんふん~」
うん、そんな自分の我が儘のお風呂は最高の仕上がりだ。
ひと度、エルザも浴室に入ったら上機嫌な声が聞こえてきた。
「さて、その間に食後の片付けでもするかな……」
食器類を片付けては、エルザと入れ替わりにお風呂に入っては洗濯物もしていく。
食器類と洗濯物もそうだけれども、人目が無いのもあって、僕の場合は風魔法と水魔法を応用しつつ、洗濯物や食器類を洗っていく。
乾かすのも魔法を使えば……うん、簡単だ。
普通はそんな事は出来る人も居るのか、分からないけれども、僕の場合は出来るし、人目も気にしなくて良いのが大きい。
有効的に活用出来る場合は活用していくだけだ。
そして、寝室に戻っては横になろうとすると「トントン──」と、寝室のドアがノックされる。
「どうしたの?」
「ねぇ、マコトの方に行ってもいい……?」
「……? ん? 別に良いけれども……」
「う、うん……」
「「…………」」
うーん?
隣にはエルザが眠っている。
うん、盛大に緩い顔で安心しきった顔で眠っている。
イタズラとかなんてしないけれども、そんな気さえ起こさない位に緩んだ顔だ。
一人用……といっても、少し大きめのベッドだから、2人並んでも問題はない。
無いけれども──。
「寂しいのかね?」
それとも不安なのかな?
自分の疑問の声はエルザのスヤスヤとした寝息でかき消されていく。
ま、もしかしたら……エルザの方のベッドはそんなに使う機会は無いのかもと容易に予感は出来た。
「とりあえず、このまま眠るか」
ギュッと手を握られているので、変には動けない。
とりあえず、肩凝りとかしたら魔法で治そうと僕は判断しつつ、エルザの寝息を横に聞きつつ眠るのだった。
「明日から……学校……か──」
そう、明日から学校だ。
楽しみだ……。
魔道具サークル、図書館がメインだろう……。
うん、とりあえず4年もあるんだ気長に行こう。
そう、考えていたら僕の意識は沈んでいくのだった。
無事に物語は王都の王立学校へ。
無事に引っ越し……ならぬ、新たな活動の場も得られたようですね?
これから、どんな学校生活が待っているのでしょうか?
学校生活……それは青春の味。
良き友、良き縁がありますように。
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亀さんモードですか、少しずつ少しずつ、いきますので引き続きよろしくお願い致します。