12歳!春……それは入学の合図ッ。王立学校の準備に勤しみますッ!えっ?専属商人はあの人ですか?ウェレギュアの冒険者ギルドへもちょっこっと挨拶。そんなに驚かないで貰いたいね。そして、エルザへの魔法教育。
舞台は王都ウェレギュアへ。
王城を中心に城壁がぐるりと展開されていく。
人口の増加に伴い、周囲へ周囲へと城壁は出来ていき。
今は王城、貴族街、平民街、貧民街とそれぞれの城壁の外側、外側へと城壁を隔てて出来上がっている。
そして、帝国唯一の王立学校も存在している。
「王宮……これが……」
「ふふふ、自慢の王宮よ。サロンも自慢の1つね」
「まぁ、イザベラの趣味みたいなものよね」
「あら、アナベルも一緒に取り組んで作ったじゃない」
「興が乗っただけよ」
「またまた……」
「エルザはここに住んでいるの?」
「う、うん」
「凄いな……」
いや、本当に凄い。
王城を抜けた先は王宮への道になっていて、少し進むと落ち着いている感じに仕上げてるが、しっかりと気品さを感じさせる王宮がそこには存在していた。
でも、エルザの話を思い出すと……ここで家庭教師から教わったりしており、外には滅多に出れなかったようだから、彼女からすると鳥籠に近いのかもと思うと、少しだけ……少しだけ陰りが見えちゃったのは仕方ない事なのだろう。
「お待ちしておりました、皆様」
「アンヌ、どう? もう少し掛かりそうかしら?」
「いえ、順次お出し出来るとの事です。その、お話ですが食堂でする予定ですか? それともサロンでお茶をしながらになりますでしょうか?」
「あら! そうなるとサロンが良いわね」
「分かりましたイザベラ様。では、合わせて、食後のサロンの準備もしておきます」
「いつも、ありがとうね」
「いえ……では、失礼致します」
ペコリと綺麗に頭を下げてはアンヌさんは下がっていく。
うーん、優秀。
そして、綺麗。
ちょっとだけ目を奪われていたのに気付いたのだろうか、エルザからジトッとした目を感じて、即座に思考を切り替える。
うん、そう、僕はこれからの事を確認するために来たのだ。
食堂は……うん、質素だけれども作りは非常に良く落ち着くように出来ている。
質素だけれども、上品で気高いがコンセプトなのだろうか?
うん、調度品1つ1つをとってもしっかりと磨かれていて綺麗だ。
いや、やっぱりここら辺は魔法を用いてピュリフィケーションの魔法具とかを贅沢に使っているのだろうか?
少しだけ気になったが、それは今聞く事でも無いだろう。
案内されて来ては食堂に着いた僕は席に案内されて着席しては、順次に食事が運ばれてくる。
「どうかしら? お口に合うかしら?」
「イザベラ様、ありがとうございます。大変美味しいです」
「まぁ、ここの料理が合わないようなら……大変な事になりますけれども、ね」
「もう、アナベル?」
「だって、そうじゃない。王宮の料理は美味しさが段違いですもの」
「まぁ、分かりますけれども」
「あっ、でもスイーツは別だわね。最近は色々と目新しいのが出てこないけれども、またスイーツのブームが来そうな気配はしてるのよね」
「あら、エルザもやっぱり気になるかしら?」
「あ、いえ……」
ピクッとエルザも女の子なのだろうか、しっかりと甘いものに関しては反応をしていて、イザベラさんはしっかりと目で見ていた。
「でも、改めて驚きだわ。母としてエルザはとても良い子なのだけれども、ずっと自分を抑えているような感じがして心配していたから」
「まぁ、こうやってちゃんと自分を持っていて、その成果が目の前にあるのなら良いじゃない」
「そうよね」
「そうよそうよ」
うん、イザベラさんとアナベルさんの距離感は近いんだろうな。
仲良く話ながらも手元は上品に食事を召し上がっていっている。
なかなか……身に付くものでも無さそうだけれども、うん、やっぱり慣れもあるのだろうか?
「ふぅ。ごちそう様でした」
「たまに食べたくなるのよね。私のところの食事も悪くは無いのだけれどもね」
「また、いつでも待ってるわよ」
「ええ、お邪魔するわ。それで……」
「そうね、王立学校の話をしないとですね。エルザ? 私達は先に支度で向かうから、食べ終えたらマコトさんと一緒に来なさい」
「はい、お母様」
「マコトさんも楽しんで食べて下さいね」
「ほら、イザベラ行くわよ! スイーツの選定しないと……!」
「アナベル……あなたはまったく……」
イザベラさんはアナベルさんに連れてかれてしまった。
もしや、アナベルさんは僕をダシにして実際はスイーツを目的に来ている……?
いや、そんなまさかね。
でも、大変なスイーツ好きには見えた。
「行っちゃった、ね」
「……は、はい。あの、マコト……」
「うん?」
「改めて、ごめんなさい。そして、ありがとう。私……どうしたら……」
「あー、うん。大丈夫。僕もほら、話した通り、少しだけ……うん、歴史とか気になるんだ」
「歴史が気になるの?」
「ちょっとだけ、ね」
「ふーん……?」
うん、歴史は気になる。
いや、気になる理由はしっかりしている。
今のご馳走さまもそうだけれども、混じっているのだ。
向こうの世界の言葉が。
そうなると考えられる可能性は広がるけれども、それには歴史を紐解く必要がある。
全知全能さんで全てを知れるとは思うけれども、情報量が多すぎて僕がその前にショートするのは手応えで感じている。
知りたい内容を精査して、ピンポイントで得る分はもしかしたら……って、所かも知れない。
まぁ、魔力量も∞から表示があれだけれども……確かに増えてる手応えはあるから、レベルアップとかは急務なのかも知れない。
いつ、いかなる時で必要になるのかは、分からないのだから。
とりあえず、エルザが物凄く気になってる風で僕を今も見てきているけれども、今は理由は話せない。
いつか、話せる時や話す時は来るかも知れないけれども、今じゃないと思うのだ。
「とりあえず、食べ終えたら案内お願い出来るかな?」
「うん、任せて」
エルザの返事を聞きつつ、料理に手を付けていく。
イザベラさんや、アナベルさんみたいに話ながらも丁寧には僕には食べることは出来ない。
それにこんな美味しい料理は噛み締めて食べたいものだ。
僕は良く味わいながら食べていくのだった。
「えっと、サロンはこっち側よ」
「本当に広いね」
「うん、そうみたい。外に出るまではそんなに意識した事無かったけれども、今だと分かるわ」
「そっか……でも、良く出ようと思ったね」
「うん、本当に嫌だったから……恐かったけれども、でも決めないといけなかったから」
「そっか……」
もしかしたら、エルザは外に出れないんじゃなくて、出ようと思わなかっただけかも知れない。
イザベラさん、アナベルさん。
それにクリストフ王や、パトリック宰相は閉じ込めるような雰囲気は一切感じられなかった。
むしろ、自由性を尊重しているようにすら見えた。
でも、そんなエルザも王立学校は避けれないものだったし、殊の外守護者は絶対だったのだろう。
その結果、外に出たのだろう。
なけなしの可能性でクリスさんを頼って……その結果、僕と出会った訳なのだけれども。
うん、運命とは面白いものだ。
「でも、その結果僕と出会えて、そして僕はエルザと出会えて良かったよ」
「……!」
パタッと隣で案内してくれていたエルザが立ち止まったと思ったら、顔を真っ赤にしていた。
「えっと、エルザ……?」
「ふ、不意打ちはダメです……!」
「あ、はい……」
いや、理不尽な。
まぁ、うん。
そうは突っ込まないけれども、とりあえず謝るのが正解だろう。
少し落ち着いたら、エルザが案内を再開してくれて、僕たちは王宮のイザベラさんとアナベルさんが待つサロンへと着いた。
「お待たせ致しました」
「いえいえ、こちらも丁度、用意が終わったから、どうぞ席に着いて下さいませ」
「えっと……では、失礼致します」
「紅茶は大丈夫かしら?」
「は、はい」
「良い茶葉が今年は出てるのよ」
そう言いながら、イザベラさんは紅茶を淹れてくれる。
そう言えば、同じ茶葉で工程の違いで色々とお茶は楽しめるのだけれども、まだ発見されていないのだろうか?
ルソーレでは見掛けなかったから、王都でも探ってみるべきかも知れないな。
折角、茶葉があるのだ。
楽しみ方は多い方が良いだろう。
「ほら、エルザ。見て見て、これが今は注目のスイーツよ。レシピ本が解読されて、作ってみたっていう、ホットケーキよ」
「わぁ……! 美味しそうですね!」
うん? レシピ本? なんだか、聞き捨てならない言葉が……。
いや、でも、今は突っ込んでも良いのか?
「さて、スイーツと紅茶は行き渡ったかしら? それでは王立学校の話をしましょうかしら?」
うん、突っ込めなかった。
まぁ、うん。
後で、自分でも調べてみよう。
「えっと、まずは王立学校について、どのくらいマコトは知っているかしら?」
「そうですね、実は恥ずかしながら、基礎的なものも怪しいかも知れません。迷惑じゃなければ、しっかりと教えて頂けましたら助かります」
「ふふ……それは話しがいがありそうね。分かったわ。お茶も美味しいスイーツも有りますし、しっかりと教えましょう」
「宜しくお願い致します、イザベラ様」
改めて、お願いすると嬉しそうにイザベラさんは笑っては説明を始めてくれる。
「まずは王立学校はこの帝国ウェレギュアきっての学校ね。基本的には学舎は教会が兼任しているけれども、残念ながら、それがしっかりと機能はまだ出来ていない状態なの」
「そうなのですね……」
「うーん、人材不足と教えられる人や必要性を感じている人。今を生活するので手一杯な為に学べる機会がないと言う人が多いわよね」
「結構、前途多難なんですね、アナベルさん」
「あっ、ごめんなさいね。横から話を入れちゃって、さ、イザベラどうぞ」
「いえ、フォローありがとう。まぁ、これは私達の問題だから、マコトはそういう状況だと理解して貰えれば良いわ。それで王立学校は帝国内の平民、商家、貴族、そして私達王族が通うところでもあるわね」
「なるほど、誰でも通うことは出来るのですか?」
「いえ、基本的には試験が課されるわね。歴史、読み書き、計算かしらね。魔法の種類や強さは入学後から、個人個人見ていく感じね」
「なるほど……」
「なるほど……って、マコトさんもこれから受験に向けて動かないとですよ? エルザは……うん、この子は優秀だから大丈夫でしょ」
「えっ? アナベルさん、そうなのですか?」
「一応、守護者といえど年齢的にも見て受けるべきでしょ? 基本的には守護者は同年齢の子が請け負って、共に学び切磋琢磨しては守護するっていう役目の立場なのよ? それにマコトは図書館が気になるのでしょう? 入れるのは学生や卒業生に基本的には限られているから、しっかりと入学して生徒になるのがお勧めよ?」
「な、なるほど……」
「確かに、アナベルのいう通りね。マコトさんは歴史は……学ぶ必要があるのよね? その他の読み書きや計算は大丈夫かしら?」
「あー、それは多分、大丈夫だと思いますよ?」
軽く、その後会話からアンヌさんがメイド能力を遺憾無く発揮して、過去の問題集を持ってきたのだが、読み書きや計算は……うん、あっちの世界で学んでた自分だ。
計算は問題無いし、読み書きは全知全能さんがある。
問題なく解けた。
まぁ、歴史もある程度はピンポイントなら全知全能さんがいれば大丈夫だろうけれども、それはあくまでも自分自身で学んでみたかった。
何も頼りきりが良いわけでは無いと思うのだ。
全知全能さんと言ってるが、最近は対等な関係を築けるように動けたら良いなと思っている。
全知全能さんも1から10まで伝えてこないで、必要なことを必要なだけ伝えて来るようになっているのだ。
自分の魔力量を気にしてくれているのか、はたまた他の思惑があるのか、なんだか、感情みたいな揺らぎも垣間見える時があるし、僕は自然とそう思って付き合うようになっていた。
まぁ、脱線したけれども、問題は歴史だけかも? それでも、そんなに難しそうには感じないから、軽く学べば大丈夫そうだ。
「凄いわね……。本当に歴史だけじゃないかしら? うーん……ふふ、エルザはもう試験勉強は大丈夫よね?」
「え? はい、アナベルおば様、大丈夫です」
「ふふふ、ならエルザがマコトさんの歴史の勉強の先生になれば良いんじゃないかしら?」
「えっ?!」
「嫌なの?」
「嫌、では無いですが……!」
「こら、アナベル……って、言いたいけれども、それは妙案ね」
「えっと、良いのでしょうか? 代わりに何かあれば良いのですが……」
「ふふ、あるわよ! 魔法の勉強がね」
「魔法……ですか?」
「あー、アナベル……あなた。マコトさん頼めないかしら? 魔法はこう……距離感が近くないと中々教えづらいものだから、今のところエルザが嫌がってしまっていて……」
「ふふふ、妙案でしょ? エルザもそれで大丈夫でしょ? それともマコトさんに魔法を教えて貰いたく無いかしら?」
「い、いえ……! お、お願い……致します! お願い……!」
「「あらあら……」」
イザベラさんと、アナベルさんがハモった。
そして、エルザの圧が……凄いッ!
「わ、分かりました……! 僕こそ、お願い致します」
「は、はい!」
「うんうん、これで歴史とエルザの魔法の問題も解決ね。イザベラ? どこまで話したかしら?」
「試験勉強の部分までは話したんじゃないかしら? そうよね、マコトさん?」
「は、はい。そこまで聞いています」
「そうね、それで王立学校は4年制になるわね。基本的に全寮制の制度になっているわね。ただ、王族だけは寮が別にある形で、マコトさんとエルザはそこで暮らして貰う形になるわね」
「最初は分からない事が多いだろうけれども……大丈夫そうよね?」
「まぁ、そこは実際に生活してみないと分からないですが、調度品とかは……どうなっているのですか?」
「今はエルザの姉のレイラが使っているから、そのまま使えるはずよ?」
「お姉さんですか……?」
「あら? マコトさん? もしかして、私達の家族構成知らないのかしら? 帝国民は知っていないといけないわよ?」
「あー……と、実は調べたら分かると思うのですが……僕は少しだけ記憶喪失の部分が有りまして……」
「記憶喪失……?」
アナベルさんが突っ込んで来るが、まぁ、嘘では……あるけれども、それでルソーレでは通して来ているので嘘では無いだろう。
イザベラさんがチラッとアンヌさんを見やれば「そのような情報は既にあがっております」と、難なく答えたので……僕はもしや、隠し事出来ないのでは?! と少しだけ身構えてしまった。
「あー、ごめんなさいね。少しだけ、私達の方でもマコトさんを調べてしまっていて、エルザを預ける男の子ですから、ね」
「何を言っているの、イザベラ? 預ける? レイラとクラウスは恋仲になっちゃってるじゃない。それにエルザも……そんな感じの気配よ?」
「……そ、それは……」
「お、おば様……!」
イザベラさん、エルザどちらも動揺したような反応になっている。
「えっと、ごめんなさい。クラウスさんとは……?」
「あー、マコトさんは何も知らないのよね。ふふ、ならイザベラとエルザは動揺しちゃってるから、私が教えてあげるわ」
チラッと横を見ると確かにイザベラさん、エルザともに母子だと分かりやすい位同じような反応で動揺していた。
とりあえず、先に話も聞きたいので僕はアナベルさんに頷いて応える。
「クラウスはレイラの守護者なのよ。レイラはエルザの姉ね。第1王女ね。まぁ、本人は王族の枠は嫌だと言っているし、卒業後はクラウスと神国の魔法大学に留学予定だけれども、ね」
「魔法大学ですか……」
「あの子は魔法が好きだからねぇ。だから、魔法を研究所するために大学進学を決めた感じね。それでクラウスだけれども、あの子はマコトは昨日会っているでしょうけれども、執事長のジャンの一人息子ね」
「あー……あの方ですね」
頭の中で老齢の執事長が思い浮かべた。
ん? そうなると晩婚だったのかな?
「あー、ふふふ。そうね、晩婚ね」
「そ、そうなのですね」
おー……心が読まれた。
「自然と……いえ、レイラの方がクラウスに気があったのかしら? 共同生活するなかで恋仲になるのは自然と言えば自然かも。ちなみにレイラはエルザの4個上ね。丁度、エルザが入学の時に卒業する形ね」
「あー、だから、調度品とかは問題は大丈夫そうだと……」
「まぁ、正確に言えばダニエルのお古のお古って所かしら?」
「ダニエル様?」
「第1王子のダニエルね。一応、あの子の場合は守護者が同性だったのもあり、楽しく気兼ね無く過ごしてたみたいだけれども、レイラが来るとの事で、多少は理不尽さを感じてたように見えたけれども……それはお互い様なのかも。実際にダニエルが卒業して、直ぐにレイラとクラウスは恋仲になったからね。そう見ると最初から同性するエルザとマコトさんはどうなるか気になるところね」
そう言ってアナベルさんはウィンクしてくるけれども、気が気では無いとはこの事だろう。
エルザはドキマギしてるのか顔を赤らめつつ、こちらを期待するような目で見てくるし、イザベラさんは少し品定めするような目に切り替わっている。
「ま、まぁ……そのまずは学校生活を送ってみないと分からないですから……」
「それはそうね。レイラに関してはエルザの4個上だけれども、ダニエルは6個上で、今はクリストフ……王様の執務の手伝いをしてるわね。先日は王様の代わりに執務していたから、会えなかったけれども、機会があれば会えると思うわ」
「なるほど……そうなのですね」
「まぁ、私からはこのくらいかしら? イザベラも復活したようだから、学校の説明お願いするわ」
「もう……アナベルが変なこと言うからよ」
「そうかしら? そんなに変なことでは無いと思うけれども」
「ま、まぁ……それは置いておいて、学校の事はどこまで話したかしら? 全寮制の部分は話して、4年制についても話したわね。後は制服があるけれども……それは見繕わないと行けないわね。後は試験に関しては……魔法に関してはエルザに教えて貰って……歴史はエルザからマコトさんへ教えて貰う感じね」
「は、はい」
「後はマコトさんの気になる図書館は生徒や卒業生、関係者は立ち入り出来るわね。うん、そんな感じかしらね。他にマコトさんからは気になる事はあるかしら?」
「そうですね……試験まで……いえ、入学までなのですが、どこか生活の場でお勧めな場所はありませんでしょうか?」
「確かにそうね……アナベル? 良いところは無いかしら?」
「え? うーん、そうね。なら私の知る宿でも紹介を書こうかしら? ご贔屓にしてくれると思うし、宿泊費は……」
「あっ、お金に関しては大丈夫です。余裕ありますので」
「いえ、流石にそれは申し訳……そうね、エルザの家庭教師代金として、宿泊費とするのはどうかしら?」
「イザベラさん、宜しいのですか?」
「えぇ、このくらいはさせて頂戴。それにもし、マコトさんに払わせるような対応を王族がしたなんて話になられても対応に困りますから」
「はぁ……貴族社会というのはかくも面倒なものなのですね」
「冒険者として居るとそう見えるのかしら? 時には護りにもなるし、時にはそれが刃にもなる。まぁ、その矛先は相手だったり、自身だったり、要は使いようね」
「そうなのですね」
「そうよ? マコトはエルザの守護者になるのでしょう? まぁ、嫌でも学ばなければならないでしょう。しきたりとしては王族、貴族、平民分け隔てなく学ぶ場として王立学校はあるけれども、その身はしっかりと線引きは見えるはずよ? ちゃんと護ってあげるのよ?」
「……ありがとうございます、アナベルさん。胸に留めておきます」
「ふふっ、良い顔ね。後は……はい、これ。ここが私のお勧めで懇意にもしてる宿ね。たまに使ったりしてるのよ? 私のサインと紋章の印も入れてあるから、渡せば分かるでしょう」
「ありがとうございます……!」
「それで……ええと? イザベラ? いつからマコトは王宮へ通うことになるのかしら?」
「マコトが良ければ、明日からでも大丈夫よね、エルザ?」
「は、はいっ!」
うん、黙って事の成り行きを見守っているのかと思っていたけれども、実際は緊張していたようだ。
それはそうだろう……大人に囲まれての今後の話だ。
僕も相応の歳だったら、それなりに空気に呑まれてしまっていただろう。
まぁ、僕の実際の年齢は……年齢は……?
「あら、マコトさん大丈夫かしら?」
「あら、疲れちゃったかしら?」
「マコト、大丈夫?」
「え?」
いや、少しよろけたというか、座りながら意識が遠退いたらしい。
いや、理由は自分の過去を知ろうとしたらだ。
全く、不用意過ぎた。
「い、いえ、大丈夫です」
「そう? 通うのは明後日からにする?」
「可能でしたら明日からでもお願いしたいです。色々と用意しないといけないものもあると思うので、それらの確認も重ねて出来ればと」
「真面目ね。冒険者って、もう少しそこつ者が多かったイメージがあるのですけれども……」
「いえ、まぁ……そのイメージでも問題は無いと思います」
うん、脳裏には冒険者の街ルソーレで無謀にも僕に沢山襲い掛かって来た冒険者のイメージが鮮明に思い出された。
まぁ、基本的には自由業なのだ。
人柄の幅も自由なのだ。
変に僕を基準に置いて冒険者のイメージを固めてしまうのは危ないだろう。
「じゃあ、この辺にしましょうか? パトリックも本日は早めに戻りたいとも言っていたし、私が居ないと拗ねちゃうかも知れませんね」
「あら……どちからと言えば、あなたの方が拗ねちゃうんじゃないかしら? アナベル?」
「そ、そんなことは無いわよ」
「あらあら……」
「じゃあ、僕もこの辺で。本日は改めて、ありがとうございました。エルザ? また明日」
「マコトさんも本日はありがとうございます。色々と決まってしまったけれども、改めて大丈夫かしら? って、野暮な話でしたわね。明日から宜しくお願い致しますね。城の者、王宮の者へはマコトさんの事は伝えておくから大丈夫よ」
「分かりました」
「マコト……また、明日!」
「はい。また、明日」
「マコト? 良かったら、私達の馬車に乗っていかない?」
「えっ? 良いのですか?」
「大丈夫よ。それに宿へ案内することも出来るし、パトリックの事だから、きっと話足りない事が多いでしょうから」
「そうですか……でしたら、お言葉に甘えます」
「ええ、では行きましょう! じゃあ、イザベラ、エルザ、また機会が会ったらサロンをしましょう」
「ええ、アナベル。いつでも待ってるわ。マコトさんは、また明日」
「はい、アナベル様もまた……!」
「じゃあ、マコト。こっちよ」
「は、はい」
そして、アナベルさんに引かれて僕は王宮のサロンからイザベラさんとエルザと分かれてはパトリックさんが居るという、執務室へと向かう。
王様……クリストフさんも居るとの事で、先ほどの話で政務を補佐している第1王子、ダニエルさんを思い出した僕が彼も居るのだろうか? と問い掛けたら、同じく働いているので、同室に居るかもとの事で、先ほどとは違った緊張感が僕の胸中に競り上がってくる。
コンコンコン────。
「パトリックー? 居るかしら? 入ってもいい?」
「アナベル?! あ、あぁ……大丈夫だ」
「そう! まぁ、ダメと言われても入るのだけれども、ね!」
「…………」
「何よ、そんなジト目で見てきて、私に何か付いてるかしら?」
「い、いや……君は変わらないなって思っただけさ」
「あら、変わらないわよ? パトリックも変わらず、かっこいいわよ」
「そ、そうか……」
お、おぉ……パトリックさん……強く出たと思ったら、あっさり丸め込められている……。
「アナベル様……! ……と、君は……」
「えっと……あなたは……」
「「…………」」
このイケメンなお兄さん……が、もしかして?
向こうも僕の身体的特徴を捉えてはもしかして? という反応を返して来ていた。
「おお、マコトじゃないか……! はて? アナベルもどうした? 何かあったのか?」
そんな僕たちへと王様が気付いては近付いて来た。
パトリックさんはアナベルさんと……うん、あれはイチャイチャだな。
パトリックさん……お堅いイメージ……いや、実際堅いのだろうけれども、アナベルさんが居るとその面影は見る影も無さそうだ。
「えっと……すまない、君はあのマコトくんかな?」
「あの……?」
「あー……と、申し訳ない。えっと……お父様や叔父様から、色々と聞かされていたものだから……」
「あー……気にしないでください。はい、大丈夫ですよ。私がそのマコトで、間違いないです」
「そ、そっか……君が……エルザと同い年なのだろう? 同い年……なんだよね?」
「えっと……そうですが……」
「そ、そうか……」
うーん? いや、釈然としないのだろう。
ふと、視線を感じたらクリストフさんからは申し訳無いというジェスチャーと、パトリックさんは深く頷いている。
まぁ、パトリックさんの場合は真相を確かめるために役職柄もあるだろうけれども、攻めてきてたからなぁ……。
「す、すまん。見すぎていたか? 申し訳ない」
「え?」
「いや、私が見すぎていたから、機嫌を損ねてしまったのかと」
「い、いえ? そんなに深くは考えて無かったから大丈夫ですよ」
「そ、そうか……」
うーん? 話下手? また、このパターンだ。
「もう! しっかりなさい! 第1王子でしょうに。ほら、最初は自己紹介でしょう!」
「は、はい! おば様!」
「よろしい」
おぉ、いつの間にかパトリックさんから離れたアナベルさんから、この空気感を変えるツッコミがしっかり入った……!
「も、申し訳ない! 私は……エルザの兄であり、この国ウェレギュアの第1王子のダニエルという、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。私は……そうですね、色々と聞かされていますでしょうがマコトと言います」
「それでその……気になった事があるのだが……」
「はい?」
「君は……マコトは迷い人だったりしないだろうか?」
「迷い人……ですか? なんでしょうか、それは?」
「あっ、いや……」
「ダニエル……それはまだ聞くべきではあるまいと先ほど話していたであろう」
「お父様……! ですが、気になりませんか? 叔父様もマコトはもしかしたらと気になっていたではありませんか」
アナベルさんも迷い人というワードを聞いたら目を細めて僕を見てきている。
パトリックさんは仕方ない……という顔をしているが、内心気になっていたのだろう、その表情を隠せる事はなく、僕を見てきていた。
クリストフ王だけは、どこか申し訳ない表情をしつつ、僕を見ている。
「えっと、皆さん……そのような表情をされても、僕にはその迷い人っていうのが分からなく……」
「そうだろうな……その表情からは読み取れる」
「はぁ……」
「マコトは女神様に会ったことがあるのかい?」
「女神様ですか?」
女神……?
女神……?
うーん?
……いや、あれは……なんて言っていたっけ?
なんだか、こっちに来た時の事が遠い昔に思える。
いや、実際に昔なのだが。
でも、女神様ねぇ……顔も、姿も分からないからなぁ……。
「うーん? そのような存在は分かりかねますね」
「そ、そっか……。 歴史には女神様に誘われて、異人が迷い込むと言われてるけれども……マコトは違うのかい?」
「異人……?」
「異人とは異世界人とも言える。こことは違う世界の知識を持ち、その見識からこの世界に様座な功績を遺していると言われている。そして、何より彼らのうち、誰かは分からないがこのウェレギュアの建国に携わったとも王族保管の資料には遺されている」
「パトリック様……そうなのですね。異人ですか……アナベルさんも知っているのですか?」
「えっ? えーと、そうね。知ってる人は知ってるわね。それに異人は定期的に世界に女神様に誘われて迷い込んでると言われてるわね」
そう、少しだけしどろもどろになりつつアナベルさんが教えてくれる。
「ですが、何故、僕が異人だと?」
「マコト……すまない。それはマコトの事を調べてる中で、最初のマコトの出会いのルソーレの街の衛兵の報告書にマコトが姓を名乗ったと記されていてな……」
「あー……」
「調べによると、アマガミ・マコトというのだろう? 姓とは我が国ならずとも、貴族の証しでもある。だが、我が国にはアマガミという貴族は居ない。それに私たちが知る範囲でも他国でその様な名の貴族も居ない。そうなると……と予想した訳だ」
「確かにクリストフさんの……王様の読みは理解出来ました。ただ
、私自身記憶が朧気なもので、アマガミというのも私が意識朦朧の中の発言だったので……」
「確かに、な。証言の掛かれた報告書にはそれも備考に載っていたな」
パトリックさん、ナイス。
まぁ、半神とステータスには載っているから……うん、多分僕は確実に異人というやつだろう。
それにやっと辻褄が合った。
先ほどのアナベルさんの言っていたレシピ本もそうだし、歪にもたらされている元居た世界の曖昧な知識の浸透性……そっか、異人か。
それに建国に携わった人が居る……?
うーん? 何か手がかりをと思って王立学校の図書館に興味を惹かれていたけれども……いや、それでも知りえるものは多いはずだろう。
それを思えば……エルザの事もあるし、うん……王立学校は決定だろう。
「どうした……? マコトくん?」
「い、いえ、すみません、ダニエル様。少しだけ考え事を」
「何か気になったのかい?」
「いえ、気になったというのは気になったのですが、異人とは世間一般的に皆が知ってるものなのでしょうか?」
「うーん? どうでしょう? お伽噺みたいな節に受け取られてるみたいな所もあるから」
「確かに、叔母様のいう通りですね。私も王族の資料を見たことで確信を得られましたから」
「そういうものなのですね。でも、定期的にというのは……?」
「いや、時期は分からぬ。ただ、目覚ましい者や、良く分からない単語を話す者や、知識を持っていたり、能力がある者を私たちは異人では無いかと見ている」
「随分とザックリなのですね……パトリックさん」
「まぁ、な。確証を持てるものが無いのだから仕方なかろう。たまに自身から異人だと言って存在していた者も居るらしい。ただ、虚言を吐く者も多かったともいう。未だに分からない事が多いのだ」
「まぁ、そう言われてしまうとそうですね」
「それで、すまないがマコトは本当に異人では無いのだな?」
「クリストフ王……改めて、聞かれてしまうと現状は分かりません。私には記憶が有りませんから」
「そっか、分かった。何かあれば、教えて貰いたい」
「分かりました」
「……それで、アナベル? いったい君はどうしてマコト殿と一緒にここに来たのだ?」
「あー……それは……マコトは寝食するところ無いじゃない?」
「うん? あー……そうだな」
「それで、イザベラと話していて、宿を紹介することになって、あそこを紹介しようと」
「あそこか……」
「ええ」
「それで、案内も兼ねて一緒に帰るのに、ここに寄ったのか?」
「あら! 流石パトリック! 私の事、ちゃんと分かってくれるじゃない!」
「あ、あぁ……」
デレッとパトリックさんは直ぐに表情を崩して……いや、決壊させていた。
うん、パトリックさん……アナベルさんにベタ惚れだな。
「それで、その宿というのは……あそこと言われると気になっちゃうのですが」
「あぁ、すまないな。怪しい所では無いぞ? いや、オーナーは怪しそうだが、しっかりとした商会が運営しているぞ?」
「商会ですか……?」
ん?
いや、なんか一瞬……あの、今でも怪しさ満点の笑顔が脳裏によぎったぞ?
「あぁ、ノルトメ商会が運営している宿だな」
「ノル……トメ……」
「聞いたことあるだろう? 帝国でも屈指の商会だぞ。まぁ、胡散臭く見えてしまうのが玉に瑕だが、それ以上の良さをあそこは持っているからな。マコト殿も気に入って貰えたら、より良くして貰えると……どうした?」
「い、いえ……。そうですか、楽しみです……」
「あ、あぁ……?」
パトリックさんの曖昧な返答を耳に流しつつ、脳裏には例の人が……ゴードンが居た。
僕の居るところにゴードン有りと言っていた……あの言葉が引っ掛かる。
まさか、ね。
「それで、あとどのくらいで終わりそうなの?」
「ん? あ、あぁ……今日の政務は一段落しているから、終わろうとしていた所だ」
「そう? なら、早く一緒に宿まで行きましょう?」
「そうだな。クリストフ……そして、ダニエル? 私は今日はこれで失礼させて貰うよ」
「あぁ、パトリックお疲れ様だ」
「お疲れ様でした、叔父様」
「ほら、マコトも行くわよ!」
「あ、はい! あの、失礼致しました」
「あぁ、また機会があればいつでも来ても良いからな」
「僕も同じ気持ちだよ」
「何2人とも言ってるの? マコトは明日から王宮でエルザに魔法を教えるのよ?」
「なにっ?」
「えっ?」
「ほら、マコト行くわよ!」
そして、そのままアナベルさんに引っ張られていく。
うん、閉まる扉の先でクリストフさんとダニエルさんの動揺の声が聞こえてくる。
けれども、それ以上にアナベルさんが早かった。
隣ではパトリックさんが同じスピードで着いてきていたが、若干動揺は隠せていない様子だった。
「ぱ、パトリック様」
「な、なんだね?」
「アナベル様はいつもこんな感じなんですか?」
「あ、あぁ……。まぁ、そこも素敵なところの1つさ」
「流石! パトリック! 更に好きになるわ!」
あっ、ダメだ。
またパトリックさんがデレッとなってる。
うーん、パトリックさんはアナベルさんには甘いのだろう。
明らかに緩い。
「パトリック様。本日もお勤めお疲れ様でした。行き先は……」
「あー……ごめんなさいね! 今日は真っ直ぐ帰る前に、ここへ案内をお願い!」
「アナベル奥様……分かりました」
「いつも、ごめんね。私からもお願いする」
「はい、それで……そちらの子供は?」
「あー、彼は……」
「マコトよ! これから度々一緒になるかも知れないから、顔を覚えておくように」
「分かりました。それではマコト様も本日はよろしくお願い致します」
そのまま、馬車の停留所まで来た僕たちはパトリック宰相の専用の馬車に乗り込んでいた。
御者の方は即座にアナベルさんの意図を汲み取っては馬車を進ませ始めていた。
そして、僕がこれから王立学校が始まるまで利用するであろう宿まで進んでいく。
「ほら、ここよ!」
「り、立派ですね……」
「あぁ、貴族とかの層の御用達で有り、お忍びで泊まったりとか、そういうのをコンセプトに作られたみたいだからね」
「なるほど……」
「ほら、行くわよマコト」
うん、立派な建物だった。
ちゃんと馬車の停留所もあって、王都の貴族街に建てられている宿だった。
キュピピィーン──とその時、脳裏に何かがよぎったけれども。
うん、いや、そんな第6感なんて無いだろう。
僕は気にせずにアナベルさんの後を追って、宿へと入っていく。
「ウヒヒ……」
……?
いや、この声は……ま、まさか……いや、でもルソーレの街では耳に馴染むまで聞いた、この特徴的な声は……!
「ようこそ、いらっしゃいませお客様……いえ、アナベル様、パトリック様──マコト様」
「あら? マコトの事は既に知っているのかしら?」
「イヒヒ、いえ、知っているも何もマコト様は私、ゴードン・ノルトメが専属になってますが故に」
「「えっ?!」」
あっ、驚いたアナベルさんとハモってしまった。
「ゴードン? いや、専属というのはルソーレの街での冗談……だよね?」
「いえいえ、私ゴードン。正真正銘のマコト様の専属にノルトメ商会内でなりました。正式にマコト様の在るところに、ゴードン在りでございます故に……ウヒ」
「……マジか」
「イヒヒ……本気と書いてマジと言います。ですよね? マコト様?」
「あ、あぁ……」
いや、今その教えた言葉を披露しないでくれ。
知らない言語=異人だとまた疑われてしまう。
そんな気持ちが届いたのか、ゴードンはそれ以上は触れてこなく、運が良かったのか、僕とゴードンの関係性に驚いたパトリックさんとアナベルさんは先ほどのゴードンのツッコミは聞き漏れていたようだった。
「それでは本日は改めて、どのような予定で……ウヒヒ」
「あ、あぁ……」
「もう、余り意味が無いのかも知れないけれども、マコト? 先ほどの案内書を渡してくれないかしら?」
「そうですね……」
「ほほぅ……ではではお預かり致します。読んでも大丈夫で?」
「ええ、構わないわ」
「ありがとうございます」
綺麗にお辞儀をして、丁寧に封を開けてはゴードンは読んでいく。
「なるほど、なるほど……王立学校へ……ふむ、宿泊……宿泊費は……エルザ様の……なるほど、なるほど」
「大丈夫かしら?」
「お任せくださいませ。何よりもマコト様のお部屋、万が一と思い、既に取っております」
「え?」
「このゴードン。まだまだ抜け目はありませんから……イヒ」
「いや、僕が泊まらない可能性も……」
「それはそれで良いので御座います」
「えー……」
ゴードン?
本気すぎない?
いや、怖いよ?
「ゴードン? そんなに良くされても僕は返せるものが無いよ?」
「そんなことはありません。マコト様は既に原石から輝き始めております。私はそれに立ち会えている、今この時もこの身が震えて止まないのです」
「あ、はい」
待て待て……そのムチムチボディの怪しさ満点の姿で身悶えないでくれ。
いや、だがゴードンの本気だけは伝わってきた。
「いや、返せるかは分からないけれども……僕は王立学校に必要な物は何も取り揃えてないんだ」
「ほぅ……」
あぁ、流石商人……一気に瞳が輝き始めている。
「でしたら、私めが用意致しましょう。それにエルザ様の魔法の授業ですか? 何かしら要りましょう。いつでも用意致します」
「あはは……話が早くて助かる……よ」
「イヒヒ……このゴードンにお任せを」
いや、ゴードンさんパネェ……。
凄すぎよ。
なに? いつでも用意する? 何が必要かも話してないのに?
商人からのそのような言葉は怖いを通り越して……いや、恐ろしい。
「ゴードン? 本気過ぎない?」
「本気でないと、ここには居りませんので」
「あ、はい」
いつもの怪しい笑い声は無く、ひた向きに訴えかけてくるように言われて、ちょっと驚いてしまった。
そ、そっか……なら、ゴードン……頼らないといけないだろうか?
「ええ、頼ってくださいませ……ウヒ」
「?! 思考を読んだのか?!」
「そんなことは出来ませんとも。ただ、私は商人故に、そのような空気には機敏なので御座います」
「そ、そっか……」
「えぇ」
「えっと、その……後はそうなると任せても大丈夫かしら?」
僕たちの会話が長かったのだろう。
いや、いつもゴードンと話すとこのような会話運びで長くなってしまう。
パトリックさんは既にアナベルさんに任せる姿勢みたいだ。
「あぁ……アナベル様。すみません。大丈夫で御座います。しっかりとマコト様の件はお任せくださいませ……ウヒ」
「そ、そう。パトリックは……そう言えば、マコトに話したい事とかはあったかしら?」
「いや、大丈夫だ。本日はマコト殿を知るのには充分な1日だったと思う。それに彼らの邪魔はしたくはない」
「そ、そうね」
いやいや、ただ、ゴードンと僕の絡みに巻き込まれたくないだけだろう。
アリアリと伝わってくるよ? っと、ジト目で見たけれども、サッとパトリックさんとアナベルさんは仲良く、僕の目を避けたのが分かった。
あー……これはちゃんと分かってやってますね。
「そうですか? 別に僕は……構わないのですが?」
「いえ、ほら。パトリック? 今日は料理長が頑張って夕食を作ってくれてると言ってたはずだわ」
「あー! 確かに! そうだったな? そうだよな! マコト殿……そう言うわけで申し訳ない」
「あっ……」
そして、サッとパトリックさんとアナベルさんは……そう、仲良く……今度は宿から去っていっていた。
心なしか閉まったドアの向こうから馬車の進む音が聞こえる気がする。
はぁ……──。
「ウヒヒ! 大丈夫で御座いますよ。私めがいらっしゃいますので」
「あ、うん。そうだね……」
後ろを振り返ると大変嬉しそうなゴードンが僕を待ち構えていた。
ゴードン……本当に嬉しいのだろうか……いや、嬉しいのだろうな。
今なら、ゴードンの怪しさ満点の笑みが本当に嬉しそうな笑みに感じる。
「ではでは、お疲れで御座いましょう。私めが部屋を案内致します」
「よろしくお願い致します……」
そこからのゴードンの動きは早く、サッと支度を済ませるとスマートに僕を宿の上層階の……明らかに高そうな部屋に案内してくれる。
「こちらがマコト様の為に誂えた部屋で御座います」
「えっ? 誂えた……?」
「えぇ、そうで御座いますが?」
「いやいやいや、わざわざ誂えたの?」
「これくらい朝飯前……と言うので御座いましょう? イヒヒ」
……はぁ、突っ込む気力はもう無いよ?
ゴードン……そうだ、ゴードンだから仕方ないんだ。
そう思うことにしたら、それが自然なのだと感覚が麻痺し始めていた僕は受け入れられそうな気がした。
「では……どうぞ……」
「ありがとうございます」
ガチャガチャと部屋の鍵を開けるとそのまま鍵を僕にゴードンは渡してくるので受け取る。
「さぁ、こちらがゴードン自慢の部屋で御座います」
「……ぉぉ──」
ジーザス……。
いや、僕も半分……神だった。
って、そのネタはもう良いだろう。
中は簡素に見えるがしっかりとした作りの部屋に仕上がっており、うん……好きな作りだ。
調度品も質素だけれども、素材は良いものだと肌触りで伝わってくる。
いや、久しぶりに全知全能さんが働いて、素材の良さをアピールしてくる説明文が浮かんでいる。
そっかそっか……全知全能さんのお墨付きという訳か……。
「さて、こちらがマコト様の為に取り入れた……浴室で御座います」
よ、浴室……!
「えっ? 本当?」
「本当にで御座います」
「えっ? でも、そんな好きだなんて……言ったこと……」
「えぇ、確かに話されたことはありませんが、商人の目はどこにでも有りますから。マコト様が定期的にお風呂を求めて、入っているのは私めは把握しておりました」
「えっ……と、そ、そうなんだね」
「はい」
いや、そこで真面目に「はい」と答えないでくれ。
真顔で言われると、これ以上詮索するのは危険なのが伝わって来るじゃないか。
いつもみたいな怪しさ満点のイヒヒ……とかはどこ行った?
「それは……セールストークの一環で御座います故に」
「読心術ッ?!」
「ははは、滅相も御座いません……イヒ」
ゴードン……こいつの底は未だに計り知れない……ッ!
全知全能さんも空気を読んで触れていない……。
ゴードン……でも、お風呂は本当に……。
「ありがとう……」
「イヒヒ……えっ?」
「いや、ありがとうゴードン。お風呂は有難い。僕がここまで来る過程でも一番欲してたものかも知れない」
「……ぉ、ぉぉ……」
「だから、本当にありがとう」
「ぉぉぉぉぉ……!!」
あっ、ゴードンが壊れた。
感極まってしまったのか、ゴードンの嬉しい悲鳴が小さくも聞こえてくる。
「ご、ゴードン……?」
「マコト様がお喜びになり、そして感謝を伝えてくるのは貴重なので御座います」
「え? いや、そんなことは……あるかも知れない」
確かに、ゴードンにしっかりと喜びと感謝を伝えた機会は滅多に無かったかも知れない。
いや、それがバネになって、こんなに喜びが開花するものなのか?!
「あーと……うん。本当にありがとう。後はまだ王族の方に確認しないといけないけれども、もし王立学校に関して準備に必要な物をこちらで取り揃えたりするのだったら……ゴードン? 力を貸してくれるかな?」
「あぁ……なんでもお申し付けくださいませ。このゴードン……ゴードン……身を粉にしても応えてみせます故に……ッ!」
ゴードン?!
どうした! お前のキャラは怪しさ満点じゃなかったのか?!
いや、怪しさはセールスポイントの一環だったのか……?
もしや、嬉しさで何かしら吹っ切れた今の状態が素なのか……?
ゴードン……凄い商人だ……。
「う、うん。よろしく……ね?」
「はい……!」
「とりあえず、僕は今日はこのまま休ませて貰うよ」
「夕食は……! 夕食はどう致しましょうか……!」
「もしかして……準備してる?」
「……」
「う、うん。頂こうかな?」
「では、マコト様がタイミング良い時に教えて貰えたら直ぐに部屋に運ばせるように致します」
「あー……うん。本当にありがとう」
「では、私めがこれで……ウヒ」
あー……やっと少しだけ落ち着いて来たのか……。
例の「ウヒ」が聞けたぞ。
ポイント高いぞ……ゴードン!
そして、ゴードンは気を利かせてか部屋からサッと立ち去っていく。
そして、1人になって改めて部屋を確かめてみるが部屋の調度品の1つ1つ、しっくりと手に馴染むし、うん……浴室は本当に素敵だ。
惜しいのはシャンプーやリンス……ボディーソープとかが無いことだろうか?
ここら辺は……そうだな。
もう少し落ち着いたら、広めてみても良いのかも知れない。
先駆者……いや、異人の先輩方が広めている可能性もあるし、失伝されている可能性もある。
後は広め方や、それらに伴うメリットとデメリットも分からないと行けないだろう。
そうなるとやっぱり……歴史を知りたい。
うん、王立学校の図書館に行きたい。
あそこには求めてる情報が眠っていそうなのだ。
後は地味にだが、魔道具も気になっている。
ここ王都には登録する場所も施設もある。
そして、そう言った施設や設備があると言うことは、ここ王都が魔道具の最先端でもあると言うことだ。
少しだけ考えるだけでも、胸のトキメキを感じる。
僕は……楽しみなのだ……。
グゥー──。
そんな事を考えていたら、お腹の虫が盛大に鳴ってきた。
そっか、お腹空く頃だよな。
とりあえず、部屋の入り口近くの呼び鈴を鳴らすと、下に伝わる仕様なのか、宿の従業員がやってくる。
夕食の旨を伝えると直ぐに運び込んでくれた。
そして、味は……うん、大変美味だった。
ただ、食べながらも呼び鈴の事も考えていた。
上手く風の魔法と空間転移を応用したら電話に近い物を作れるのでは無いかと。
まぁ、あくまでも食べながらフワッと考えた代物だけれども……でも、広めるのはメリットも大きいがデメリットが大きいだろう。
手紙を届ける冒険者の仕事を奪うことになるし、通信技術の拡大は飛躍的な文化の促進にも繋がるだろう。
この世界の均衡を崩す危険性を孕んでいるのは直ぐに分かった。
うん、まぁ……そこら辺も考えてさじ加減見つつ、検討してみるかな。
そんなことを考えつつ、お風呂を楽しみ……そして、ベッドに潜り込むと僕の意識は直ぐに途絶えるのだった。
「朝だ……朝が来た……!」
とりあえず、小鳥の鳴き声で……目覚めたのではない。
うん、第1の鐘の音で目が覚めた僕はノリで誰も居ない空間に言ってみるが、うん……何も起こるはずはない。
「とりあえず、お昼前には王宮に向かってみるか」
少しずつ本日のプランを練っていく。
そして、完全に目が覚めた僕は朝の市場はルソーレと比べて、どのくらい活気が違うのか。
それに貴族街と平民街……後は貧民街がどのような日常の顔をしているのか気になって、早速出掛ける事にする。
「マコト様、朝食は……」
「うん、今日は外で済ますよ。そのまま夜に掛けて出掛ける予定だから、夕食は遅めになると思います」
「分かりました。では、そのように準備しております」
「よろしくお願い致します」
「はい。では、お気をつけて言ってらっしゃいませ」
宿を出る前に、昨日の夜に呼び鈴で部屋まで来てくれた従業員に呼び止められたので会話をする。
確かに、マイナの宿亭と違って、ここは完全に宿泊者を優先して経営しているのだった。
ついつい、マイナの宿亭の印象が強くて、間に合わなかったら、ご飯は無しでも良いとか、そんな風に考えてしまっていた。
それにしても……マイナとニコラは元気にしてるだろうか?
少しだけ、ルソーレの街の面々を思い出してしまって、黄昏てしまった。
これがノスタルジーというやつなのだろうか?
今までは元の前の世界を思って懐かしむ事があったけれども、遂にこの世界で懐かしむ事が出来る場所が出来たことに僕は1人嬉しく思ってしまった。
「とりあえず、朝の市場は早めに行かないと……!」
うん、懐かしむのも良いけれども、今は王都を知りたい。
どこら辺が市場なのだろう? とか、考えてしまったら、少しだけ魔力を吸われた気がするけれども、脳裏に王都のMAPが浮かび上がる。
全知全能さんが空気を読んでマッピングを即座にしてくれたのだ。
ありがとう……! 全知全能さん……ッ!
そう、思うとまた少しだけ魔力を吸われたけれども、次はオススメっぽい感じで市場の場所が点在してる箇所を示しては行ってみた方が良いのだろうか? ドットが濃く出てる箇所が何ヵ所か出てきていた。
うーん? やっぱり全知全能さん……意志があるような?
まぁ、深く掘り下げるのは止めておこう。
今は感謝を伝えつつ、最寄りにマークされた貴族街の市場に繰り出してみる。
「市場……なのかな?」
あれから宿を出て、少しだけ駆けては辿り着いた貴族街の市場は……うん、大変落ち着いていた。
どちらかと言うと、カフェで食事を嗜んでいる風景が広がっていた。
あー……でも、良く見てみると使用人らしき人や小間使いの人が駆け巡っては魔法袋に商品を受け取っていたり、無い物は手で抱えては移動をしていた。
「なるほど……市場と言っても、貴族街は本人が動くわけでも無いのか……確かにそうか」
そうだ……確かに。
貴族はどちらかと言うと動くのではなく、動かす方だ。
うん、それが直接目の前に繰り広げられてるだけだ。
それに結構こう見てみると面白い物だ。
小間使いや使用人の買い取る量も、固定だったり、その都度買っては大きく買い取ってるのが商会の前で繰り広げられている。
それをカフェみたいな場所で貴族の方が横目で見ているのも分かる。
こうやって、貴族達は相手の動きとかも見てるのだろうか?
とりあえず、ある程度知りたい情報は得られたので、そのまま防壁の警備をしている衛兵に挨拶をしつつ、平民街へと向かう。
一瞬、衛兵に止められては目的とか身分を求められたが、自分のブラックのギルドカードを差し出したら、即座に許可が降りた。
うん。ブラックカード様々だね。
ブラックのランクまで行くと一代貴族の扱いにもなるから、貴族街に居てもおかしくは無いし、その行動範囲も幅広いから利便性が高いのに助けられた感じだ。
そして、次は平民街の市場に来てみたけれども……うん、これは僕の良く知る朝の市場の活気だった。
沢山のお店が立ち並んではその日の商品をお客を呼び込んでは売り捌いている。
「あー、これこれ。うん、これだ」
自然と口角が上がるのが分かった。
近場の串焼き屋さんから焼き串を買っては歩きながら頬張る。
うん、上手い!
ちょっと、嬉しくなって、そのまま食べ歩きをしていると、目の前に冒険者ギルドが見えてくる。
「あー、確か挨拶しないとかな?」
確か、冒険者は街を移動した時は挨拶が必要だった気がする。
転属届けみたいなものだろうか?
まぁ、してもしなくても良かった気がするけれども……丁度良いだろう。
僕は軽い気持ちで王都ウェレギュアの冒険者ギルドの扉を開け放っては中へ入っていく。
「なかなかの喧騒……良い感じかな?」
うんうん、五月蝿いことはよきかな?
いや、通常はアレだろうけれども、ここは荒くれ者が集いし我らが冒険者ギルドだ。
多少は騒がしくて活気があった方が良いだろう。
えっと、掲示板は……あったあった。
うーん? 初心者向けが多いな?
それに上級者向けは結構、放置されてるような?
いや、ギルド内に居る冒険者も新人や初心者が多そうな? 気のせいだろうか?
とりあえず、挨拶……挨拶か。
うん、受付で良いか?
「あのー?」
「あっ! はい! えっと、新規登録ですか?」
「いえ、違いますが……」
あー、やっぱりパッと見は少年だものなぁ……そう言う反応は新鮮だなぁ……。
ルソーレはこう……今やギョッとされるからなぁ……。
「いえ、活動拠点が移ったので報告しようかと」
「えっ? 移動ですか……? それにその年齢で?」
「えーと……?」
「あ、あの。すみません、ギルドカードを見せて貰っても良いですか?」
「あー、良いですよ?」
「……!!」
にこやかな笑顔だった受付嬢さんがギョッとなるのは一瞬だった。
うん、それに吊られて隣の方での受付嬢さんと冒険者さんもギョッとしていた。
はて? なんでだろう?
「あの……すみません、マコトさん? はその……狂犬の異名の方でしょうか?」
「狂犬? 良くは分かりませんが……マコトって名前で間違い無いですよ。冒険者の街ルソーレから、こちらへ用があったので移動してきました」
「おいッ! 狂犬だぞ……」
「えっ? ウソ? なんで、こんなところに?」
「おい、静かにしろ……! じゃないと、殴り飛ばされるぞ!」
「お、おい……マジかよ……」
「えーと……あの? どうしたんですか? 皆様……」
「す、直ぐにギルドマスターをよ、呼んで決まッ!」
「ダメよ! ギルドマスターは今日は出てるでしょう……!」
「えっ? あっ! あぁ……」
目の前の受付嬢さんの慌てぶりが凄いことに。
えっと? 僕はただ、活動拠点の移動の報告に来ただけなのですが?
「何があったの! 騒がしいわよ!」
「あっ! ジェニファーさん!」
「全く……どうしたのよ。今日はハンスが居ないから、ギルドマスターの業務が私が兼任しているのに……何かそんな大事があったの?」
「ジェ、ジェニファー……さんッ!」
「な、何よ……」
「こ、これ……これ……」
「コレコ○? 何か悪い噂でもあったの?」
「えっ? 何ですか、それは? ……って、いえ、違うのです! これですッ!」
「何よ、言葉で説明してくれないと人は何を言ってるか分からないのよ? その口は何のためにある……の……よ……?」
あっ、ジェニファーさんと言われてる人が僕のギルドカードを見ては固まっている。
「えっと、これは何の冗談かしら? ギルドでも壊しに? いえ、荒らしに来たのかしら? 狂犬よ? うちみたいな初心者というか、いえ、寂れたギルドにどうして……って、違うわ! 狂犬はどこに……、あっ……いえ、マコトさんはどこに居るの?!」
あのー……全部筒抜けなのですけれども……。
えっ、壊すって何を? 荒らし? えっと、それに僕は狂犬ではなくて……マコトですが……。
マコトです……周りが皆、僕を狂犬と言って有ること無いこと言って、慌てふためくとです……!
マコトです……マコトです……。
って、少し前の一風を巻き起こした例のお笑い芸人の芸風が脳裏によぎっちゃったじゃないか。
「あのー……ここに居るのですが?」
「だから、狂犬は……いえ、マコトはどこに……って、え? え?」
「「…………」」
「…………」
あー、空間が固まった。
ピシッと音がした気がした。
目の前の受付嬢さんなんて、震えて涙が目に溜まっちゃってるじゃん。
誰が泣かせたんだ……いや、僕だった。
「あの、僕がマコトですが? その活動拠点が移ったので報告しようかと来ただけなのですが……」
「……」
「もしもーし……聞こえますかー?」
胡蝶し○ぶ風に語りかけてしまった。
なにこれ、無視の呼吸……ッ! みたいなやつか?!
「あの……?」
「はっ! ……ここはいったい……」
「あっ、戻ってきましたか?」
「えぇ……悪い夢を見てたようだわ」
「いえ、それ現実ですよ。モンド……あなた疲れてるのよ」
「モンド……? 私はジェニファーですが……」
おお、しっかりとツッコミを入れてくれた。
なら、大丈夫だろうか?
「あの、すみません。活動拠点が移ったので報告へ」
「あら、そうなの? なら、ギルドカードを見せて貰えたら……」
「あの、その手のがそうです……」
「手……? あっ……」
「いえ、大丈夫ですよ。決してギルドを壊したり、荒らしたりしないですから。それに確かに初心者が多めで上級者の依頼が放置されてるような印象で寂れてると表現されていましたが、活気もあるし、騒がしさもあって、僕は好きですよ。何故か、今は沈黙が制してますが?」
「あっ……、あっ……」
あっ……カオ○シみたいに……ジ○ブの例の人みたいに……。
これ、暫くはダメかも知れないな……。
「とりあえず、ギルドカードを返して貰っても?」
「あっ……はい」
「ありがとうございます。また、機会を伺っては来ますから、その時に改めて、よろしくお願い致しますね?」
「「…………」」
なぁに、これぇ?
凄い……皆の顔が沈黙の中で僕を見てくる。
何プレイ? そんな趣味は無いのですが……。
と、とりあえず僕が居ても不都合らしい。
うん、貧民街も気になるし行くか。
「では、僕はこの辺で。失礼致しました」
「「…………」」
うん、別れの挨拶は気にしてないぜ……。
いや、気には出来ないが正しいが……。
とりあえず、僕は沈黙の冒険者ギルドから出ていく。
「なんだか、逃げるようになっちゃったけれども……しょうがないよね?」
誰も応えてくれる人は居ないが、全知全能さんが貧民街の市場を点滅してはMAP上で位置を指し示してくれる。
うーん? 慰めてくれてるのかな?
とりあえず、全知全能さんの優しさ? を感じつつ、僕は貧民街へと向かう。
また、防壁の衛兵に身分を確認されたが、最初は敢えて危険な貧民街へと行くことに心配そうな顔をしていた衛兵達だったが、僕がブラックランクの身分を証明すると、敬礼しては送り出してくれた。
「なんだか、本当にブラックランクは凄いんだな……」
染々と有り難みを感じる。
冒険者の街ルソーレのギルドマスター……アランさんの融通のお陰だろう。
本来の年齢だと、やっと冒険者に見習いから本格的になれる年齢なのだ。
本当に良くして貰ってたんだな……と感慨に耽ってしまう。
そんな事を考えつつも歩を進めていると、貧民街の市場に着いたが……。
「想像以上か……」
そこは食材とかの売り出しの活気ではない……光景が広がっていた。
日雇いの雇い入れの呼び掛けや斡旋。
盗品の売り出し、またはまだ朝なのに、怪しい色街のキャッチの人、水などの支給品や、それらを含めて売る人。
そこは今日という日を何とか生き延びようとしている、強い強い命の灯火が朝から強く輝き放っていた。
歩いてるだけでも財布を狙ってかスリが近寄っては手を出してくるが、そう言うのも自身だけではない。
全知全能さんも教えてくれるので片っ端から避けたり、手を払い除けたりして対処をしていると、僕から盗むのは無理だと諦めたのだろう。
気付いたら誰も近寄っては来ることは無くなった。
盗品の売り出しでは、盗まれた物を買い戻そうとしている小間使いや使用人の人が居た。
貴族から指示を受けて来てるのだろうか?
それに元締めに繋がるみたいな人達も背後にチラチラと見えては目を光らせているので、これがここ貧民街のルールになっているのだろう。
色街の方も僕へと年齢を関係なく、誘惑してくるお姉さんが見えたが……うん、少しだけ骨張った体つきや、全知全能さんが伝えてくる……薬物に侵された人もチラホラと見えた。
それに少しだけ、視覚的じゃなく、全知全能さんからの情報でMAP上では僕と変わらない年齢の子達も働いているようだった。
いや、僕より若いか……いや、ここは幼いというべきか。
うん……明らかにアウトだろう。
けれども、助ける術は今のところ僕にはない。
いや、助けたところで、その後を見切れないのだ。
とりあえず、そういう状況下だと今は知るしか出来なかった。
「教会が貧民街にもあったはずだけれども……」
そうだ、教会だ。
教育の学舎としての機能の側面と役者的な側面もある……残念ながら信仰は……絶望的だろうけれども、それでも教会だ。
王都でも、各エリア……貴族街、平民街、貧民街にあるはずだ。
とりあえず、探してみるか。
この現状……流石に教会も手をこまねいて……いるはず。
「あー……なるほど、ね」
教会はあった。
うん、教会の体裁を保っている存在はあった。
でも、うん……これは……。
色街があるということは、望まない妊娠もある。
そして、妊娠が有るということは望まれない子も居るということだ。
そして、そんな子は教会に集められる……そして、行き場もない子達はまた色街や奴隷として……悪循環がそこにはあった。
神父やシスターの存在は……いや、居たけれども、あれはもう堕ちてる存在だ。
率先して売り捌いている。
教会という隠れ蓑を使った人身売買の場所がそこにはあった。
これは……ダメだ。
それに王都のお膝元だ。
……これが真実か。
とりあえず、王都の雰囲気は分かった。
いや、まだ側面かも知れない。
綺麗な美しい面もあるかも知れない。
少なからず活気はあった。
けれども、闇もそれ相応に深いということだろう。
僕は第2の鐘が鳴る前に王宮のエルザに会うために王城へと足を進める。
「マコト様、お待ちしておりました。通達は来ております」
「分かりました」
うん、急ぎ足で王城へと向かう過程で城壁へと来たのだけれども、近衛兵の方々の対応が凄く紳士的になっていた。
いや、まぁ……若干の恐れを孕んだ目をしているのは気になったけれども、仕方ないだろう。
「マコト様ですね……。お話は伺っております。どうぞお通りください。必要でしたら案内を寄越しますが、如何致しましょうか?」
「いえ、徒歩で大丈夫です」
「そうですか……。何かありましたら、近くのメイドや執事、私たち近衛兵に尋ねれば大丈夫ですので」
「いえ、ありがとうございます。もしもの時はよろしくお願い致します」
礼儀は大切だろう。
彼らにしっかりと頭を下げては城門の先へ進んでいく。
まぁ、道に迷うことは無いだろう。
脳裏にMAPはしっかりと出ているし、目的の場所も分かる。
今日は……うん、流石にもう自分を見張る人は居なさそうだ。
全知全能さんのお墨付きだから、本当に居ないのだろう。
「それにしても、王城へ通うとは……」
冒険者の街ルソーレから、ここまで来るとはジョブアップならぬ、人生としてのレベルアップし過ぎでは?
それに行く先が王宮のお姫様の下と来た。
冷静に考えてもかなり凄いのでは?
「いやぁ、まぁ、運に寄るところが大きいか」
「何が大きいのですか?」
「えっ?」
「おはようございます、マコト様」
「えっと、おはようございます……カトリーヌさん」
「何故、こんなところに?」
「いえ、これからパトリック宰相に報告があっての通りすがりにマコト様を見掛けただけです」
「な、なるほど」
まぁ、確かに通りすがりの雰囲気はある。
それに監視していた訳ではないのは、先ほど確認した時に分かっている。
「僕は王宮へ……エルザの下へ向かうところですね」
「ええ、話は伺っております。良いですね、魔法の勉強……」
「そうですか? カトリーヌさんはなかなか使えるのでは無いのですか?」
「そう言うのも分かるのですか?」
「……えっと、冒険者の勘でしょうか?」
「なるほど……」
いや、嘘です。
全知全能さんのお陰でステータスが分かろうと思えば、丸分かりなだけです。
「私の魔法はなかなか使い手も少なくて、いつも試行錯誤しながらしてるものだから」
「あー……そう言うのもあるかもですね」
「分かりますか?」
「まぁ、なんとなくですが」
固定された魔法ではなくて、イメージしてのオリジナル魔法に近いのだろう。
それにカトリーヌさんは闇魔法が主にベースとして強いのも分かる。
闇魔法かぁ……まぁ、うん。
確かに使い手が少ないイメージもあるし、使い方も難しそうだ。
「ですから、魔法を教えて貰えるというのはとても羨ましく思います」
「まぁ、自分で教えられる範囲に限るのですけれどもね」
「マコト様は何もかも出来るのでは?」
「いや、もうそれは神様なのでは?」
「確かに……私は何を言ってるのかしら」
「本当ですよ」
うん、本当ですよ。
だって、言い得て妙なり、確かに僕は全知全能さんの恩恵を使うとすべての魔法は使えるだろう。
それに半分神様だ。
なかなか……こう、核心を突いてくるものだ。
「では、マコト様。私はここで」
「あー、ここは王様方の執務室ですね」
「分かるのですか?」
「昨日、アナベル様に連れられて来ましたから」
「あー……なるほど」
あー……ということは、アナベルさんの、あの雰囲気は容易に想像出来るということか。
うん、脳裏にちょっと破天荒なアナベルさんが出てくる。
パトリックさん……お堅いイメージだけれども、存外振り回されるのが好きなのかも知れないな……。
とりあえず、僕の目的の場所はここよりもう少し奥の王宮、王族の生活スペースだ。
「また、会いましょうカトリーヌさん」
「はい、マコト様も良い1日を」
カトリーヌさんと別れて、僕は更に先に進んでいく。
「さて、エルザは……と」
首を少しだけ捻りつつ、エルザの場所を探そうとしたら、背後から気配を感じて振り返る。
「……!」
「あ、すみません。驚かせてしまいましたね。アンヌさん、おはようございます」
「い、いえ。大丈夫です。それよりも良く分かりましたね……」
「一応、冒険者なので」
「冒険者だからと、こんなに人の気配に機敏だとは思えませんが……分かりました」
「それで、僕にどんな用が?」
「いえ、エルザ様の場所へ案内をしようかと」
「あ、なるほど。お願い出来ますでしょうか?」
「はい、こちらになります」
メイド長のアンヌさんが居た。
多少驚いた表情をしていたが、うーん……やはり身のこなしが洗練されている。
下手したら、カトリーヌさんよりお強いのでは……。
と、想像させるには十分な強さを感じられる背中を追いつつ、僕はエルザの場所へと案内される。
「こちらになります」
「ありがとうございます」
「一応、こちらが講義室になりますので、場所を覚えて貰えましたら助かります」
「はい、分かりました」
うんうん、脳裏のマップにも講義室と追加されていく。
全知全能さん……本当に優秀です。
「では、私はこちらで失礼致します」
「ありがとうございました」
綺麗にお辞儀をしてアンヌさんは立ち去っていく。
うん、美人さんだ。
さて、と……。
コンコン──。
「あの、マコトです」
「……! は、はい! エルザです!」
「あはは……中に入っても大丈夫かな?」
「よ、よろしくお願い致します!」
扉を開いて中に入ると緊張気味にこちらを見てくるエルザが居た。
「どうして、そんなに緊張してるの?」
「えっ? だって、ほら……なんだか、改めて……教えて貰うと思っちゃったら緊張しちゃって」
「あはは……そういうものかな?」
「もう……そういうものですよ?」
お互いに改めて顔を見合わせてしまうと笑ってしまった。
さてと、とりあえず……知識の擦り合わせからしないとかな?
「そう言えば、魔法の勉強ってひと括りにされちゃってるけれども、エルザはどのくらい……うーん? 魔法について知ってたり、使えるのかな?」
「そ、そうね……。どう説明したら良いのかしら? 一応、光魔法の適性が高いみたいで……他の魔法も使えるけれども、やっぱり一般的に言われてるのと同じくて、パッとしない感じになっちゃうかも」
「なるほど……光魔法か……。ちなみに少しだけ使って貰うことは出来る?」
「えっ? う、うん。 えっと、この手に集え……優しい光……辺りを照らせ……ライト!」
ポワンとエルザが唱えるとエルザの手のひらに優しい光のライトの光魔法が発現していた。
「うん、確かにスムーズに発現しているし……魔力の消費も特に負担が掛かっていそうでは無さそうだね」
「そうね。ただ、やっぱり……他の属性になると発現が鈍かったり、魔力の消費は大きいかも」
「それは今の魔法学でも良く言われてるやつだね。でも、本当はどうなんだろうね?」
「えっ? どういうこと?」
「僕的にはイメージの問題も大きそうなイメージがあるけれどもね。それの補完の為に魔力の消費が大きいイメージがあるかも」
「えーと……それはどうなのかしら? 確かにイメージの固定化は大切と言われてるけれども……」
「今のライトの魔法も詠唱をしていたけれども、それぞれの句でイメージの固定化を計っているよね? 逆にいうと固定化を既にイメージ出来ているならば、詠唱を飛ばして魔法を発現出来るということ。もし、そのイメージが足りない場合は詠唱句に合わせて魔力で無理やり補完したり、発現出来なかったり、極端に威力が落ちるんだと思う」
「えっ? そうなると属性の向き、不向きの問題はどうなるの?」
「属性の向き、不向きというよりは僕はイメージのし易さ……うん、その人の個性だと思っているけれどもね」
「うーん? そういうものなのかしら?」
「まぁ、どこの魔法学でもそんなことは書かれていないけれどもね。でも、逆にイメージと魔法の関係が紐付けられるなら、オリジナル魔法を保持してる人は明確なイメージを持つことが出来たのだと思うよ」
「オリジナル魔法……! それ……! マコトも出来るの!?」
「……ぉ、ぉぅ」
オリジナル魔法のエルザの食い付きが凄くて驚いてしまった。
そんなに憧れるものなのだろうか?
「そうだね……うーん……なら……ライト」
ポヨンとライトの魔法が僕の手のひらの上に発現する。
「後は……ミスト……ウィンド……うん、こんな感じかな」
「綺麗……!」
冷たい水蒸気に風を与えてダイヤモンドダストみたいにしてみる。
「あっ、手はそれ以上はダメだよ。凄く冷たいから」
「えっ? あっ、うん。分かった」
手を伸ばして触れようとしていたエルザを押し止める。
うん、本当に冷たいからね……。
凍傷になっちゃうから、注意だ。
「これって、なんていう魔法なの?」
「うーん、魔法名は無いかな。今……考えたやつだから」
「そうなの?!」
「え? そうだよ……? ほら、だってオリジナル魔法だからね?」
「……そんなに簡単に出来るものだったかしら?」
「それを言われると困るよ」
「そ、そうよね……。でも、良くこんなに簡単に……」
「自然の環境の変化や現象を理解したら出来るかもね?」
「自然現象?」
「うん。魔法はあくまでも、そう言ったものを発生させるものに近いと思ってるから。しっかりと成り立ちとか、働き方を分かれば、イメージが固定化されて魔法の発現の魔力消費量も抑えられるのと、効果も期待出来るかもね」
「そうなのね? なんだか、魔法の勉強て他の先生は……こう、少しだけ体験で教わったりとかあったけれども、どの先生も詠唱句を覚えたり、その組み合わせが大切だと教えて貰っていたから……ちょっとマコトのは衝撃が大きいかも」
「あー……でも、詠唱句も大切かもしれないよ? イメージを更に強固にするのは意味があると思うから、それに多分詠唱句自体に魔力へ直接働きかける術式みたいなのが組み込まれてると思うから、そこにイメージが固まって無くても魔力を通せば、形になろうとするから……うん、一応覚えておいても損はないと思うよ」
「でも、マコトは……全て使えるのよね?」
「全て……と言われちゃうと困っちゃうけれども、余り困ったことは無いかな」
「そうなるとマコトみたいになると覚えなくても良いのかもと思っちゃうわね」
「あはは……」
まぁ、僕の場合は全知全能さんも居るから。
話しは全く変わってくるのだろう。
とりあえず、エルザへの魔法の指導の方向性が出来た気がした。
詠唱句を教えると言うより、魔法の効果の成り立ちや働きかけの仕方、仕組みを教える方面で行こうと案がしっかりと出来た。
「あっ……もう、こんな時間……今日はこのくらいかしら?」
「そうだね、ありがとう」
「ううん……って、忘れるところでした。お母様が帰る前にサロンに寄って貰いたいと言っていました」
「サロンに?」
「うん。なんだか、学校の準備するもので相談が有るとか無いとかって言っていたかも」
「それなら、寄らないとだね」
「私も一緒に行くわ」
「あはは……それは助かるかも。まだ、全然慣れてないからね」
「だって、まだ2日目でしょう? それで分かったら、マコト凄いよ?」
「あはは……確かに」
確かに……脳内ではしっかりとMAPが出来てる。
うん、秘密の抜け道的なのも筒抜けだ。
とりあえず、曖昧に笑いつつエルザに案内して貰い王宮のサロンへと向かう。
「マコトさん、お疲れ様」
「イザベラ様、お邪魔しています」
「翌日から来てくれてありがとうね。なかなか、魔法って教えられる人が……いえ、相性が良い人じゃないと難しいから」
「あー……まぁ、そうですね」
確かに、先ほどエルザに話してたのはイメージの話であり、魔力自体の話になると別だ。
おへそ辺りに魔力を練り上げる器官……自体は無いのだけれども、魔力の核の部分が人にはある。
人が死を迎えた際に魔核が発生する際の場所でもある。
そこで魔力を生み出しては練り上げたり、高めたり、調整したり、増幅するのだけれども。
これがなかなか言葉では難しい、感覚的な部分が大きく依るのだ。
だから、魔法を教える際は通常は詠唱句とその意味や、後は魔核の存在の認識と、魔力を練り上げ方とかを教えるのが通説だ。
その際はお互いに触れ合うし、魔力を感知させるために、相手に魔力を通したりもする。
触れ合うのも相性の問題があるけれども、魔力を通すのはもっと感覚的な相性がある。
そもそも、合わない場合は気持ち悪くなったり、不快感が凄いらしいのだ。
その逆も然りで……ハマる人はハマってしまうらしいけれども……うーん、まだそこは……と言いたいけれども。
実はイメージの話の後にしていたのだ。
そのせいであっという間に時間が流れたのだけれども……気持ち良くやろうとしたら、本当に気持ち良くし過ぎたみたいでエルザの目がトロンと蕩けては甘えられてしまったのだ。
うん、僕には拒絶することは出来なかった。
「…………」
「あら、エルザ? 顔を真っ赤にしちゃって、どうしたの?」
「あっ、いえ! な、何でも……ないです!」
「そ、そう……?」
うん、思い出しちゃったか……。
まぁ、思い出すよなぁ……。
結局、エルザからの歴史のお勉強は明日に遠退いた訳だけれども、うん、大丈夫だろう。
「あー……と、それでごめんなさい、用事があると聞いたのですが……」
「そうだったわ! 王立学校の準備の件でお話があって……マコト? あのノルトメ商会に御贔屓にされていたなんて私は驚きでしたわ。今朝方に商会の会長自らが、謁見の依頼をしてきて、内容がマコトさんに関わる事らしく、急遽お会いしたら、マコトさんの専属として、商会としてサポートしたいと打診して来たのだもの」
「えっ?」
……ゴードン?
まさか、ゴードンなのか……?
いや、待て……会長……?
奴隷商の人じゃなかったのか……?
いや、思い出せ……確か……「本当はそんな立場でも無いだろうに……」的な事をアランさんが初めて自分がゴードンと会った日に言っていた気がするぞ……。
まさか、ゴードン……いや、そんな……、けれども、今朝方から確かに早々に居なかったよな。
普通だったら会いに来ていてもおかしく無いようなテンションぶりだったが……。
「あの、もしかして……その会長という方はゴードンという方では有りませんか?」
「えぇ、そうよ? あら、やっぱりマコトさんと知己だったのね」
「い、いえ……その……成り行きで良くなっただけと言いますか……」
「えっ? なら、余り親しくは無いのかしら?」
「…………いえ、親しい間柄です」
「そうよね! 良かったわぁ。ノルトメ商会なら、あのアナベルも安心して使っているから、怪しさはあるだろうけれども、背景は大丈夫なはずよ。怪しいですけれども」
うん、やっぱり怪しいよね。
それよりもイザベラさんのアナベルさんへの信頼が厚いな。
まぁ、うん、なんとなくアナベルさんはそういう嗅覚はしっかりしていそうだから、分かるには分かるけれども。
「それにしてもマコトの繋がりは凄いわね。ゴードン・ノルトメと言えば、代表から降りて会長になってからは後人の教育に力を入れては表舞台から去っていたと言うのに。それに彼自身は結構人を見る目が確かで、お眼鏡にかなう人は一生現れないだろうと噂されていた位なのに……いったいどこであったのかしら?」
「まぁ、色々と縁があっただけですよ」
「ま、そう多くは語れないわよね」
追求が終わったようだ。
まぁ、そんなエルフの里付近からの人身売買の賊と出会って、そこからの縁とは話すにしても話しづらい内容だからな。
それにそれを話すとしたら闇組織ジャハトの話になってしまう。
賊は懐に4大貴族の内の1つの貴族の紋章が書かれたワッペンを持っていたのだ。
うん、今は話をスルーして貰える方が助かる。
話すにしても変に嘘を交えたくも無かったからだ。
「それで、すみません。ゴードンはなんと……」
「あー……それね。ゴードンさんの方でマコトさんに確認しつつ、揃えると言っていたわ。後はマコト様の為ならと、エルザとの生活場所の寮での不足している物も見繕ってくれるらしいわ」
「ゴードン……本気なのか」
「えっと……マコト? 親しい間柄なのよね?」
「え? まぁ、はい。親しいですが、そんは気さくという感じでは……」
「まぁ、ゴードンさんは根っからの商人でしょうからね。そのくらいの距離感になるのかしら?」
「そ、そうですね」
いえ、違います。
あの怪しさ満点の雰囲気が苦手なだけです。
……とは言えないので、大人しく頷いておく。
「そうなると、今日の話は……」
「それくらいかしらね。エルザの用意は出来ているから、マコトさん? 用意、頑張ってくださいね」
「わ、分かりました」
「後は、言伝があるわね。一応、宿の方でお待ちしていると言っていたわね」
「イザベラ様、言伝ありがとうございます」
「マコトさんの為だもの、問題はないわ」
「そうなると、本日は僕はここまでで。またね、エルザ」
「は、はい! また、明日ですねマコト!」
「マコトさん、本日はありがとうございました。明日もよろしくお願い致しますね」
そして、僕はエルザとイザベラさんに別れの挨拶をしつつ、王宮から立ち去る。
そして、そのまま僕を待っているであろうゴードンの下へと宿へ向かう。
「イヒヒ……マコト様、お帰りなさいませ」
「ゴードン……」
宿に入って即座にゴードンは居た。
いや、丁寧に出迎えてくれた。
「おや、そのお顔は……どうなされたのですか?」
「はぁ……分かってるだろうに」
「いえいえ、言葉が無いと伝わらないことばかりですよ。人というのは、いつでもそう思います故に」
「急に哲学的になるな……」
「テツガクですか……?」
「あぁ……その概念は……あれか難しいのか」
「ウヒヒ……やはりマコト様は面白い」
「まったく、一緒に居てもつまらないだけだよ?」
「いえいえ、そんなことは有りません。それにこれからはマコト様の王立学校の用意をしないといけませんので、このゴードンにお任せください」
「それだよ、それ……。ゴードン……偉い人だと思ってはいたけれども、まさかただの奴隷商ではなく……」
「マコト様、ここは人の目があります故に」
「……そうだったね、すまない」
「いえいえ……構いませんよ。ですが、その通りなので、これからはマコト様の為に尽くしていきます故に」
「はぁ……」
何がこのゴードンの琴線に僕という存在が触れたのか分からないけれども、まぁ、もうここまで来るならば、僕からも行くとこまで付き合うべきだろう。
「分かった。なら、僕も行ける所まで、ゴードン……? 頼らせて貰うよ」
「ウヒ……! それは大変名誉であります!」
おぉ……ゴードン……嬉しそうだ。
そして、そのまま夕食を食べる前に僕は採寸をして制服の作製をお願いする。
「一応、こちら側が必要だと思われる物の一覧ですが、どうでしょう?」
「うーん、僕にはどれも必要に思えてしまうからな……」
「では、このゴードンにお任せくださいませ。何か有りましたら都度、マコト様に確認します故に」
「うん、なら、頼らせて貰うよ」
一覧を見通しても、どれも本当に必要に感じてしまうのだ。
なら、いっそプロに任せた方が早い。
僕はお願いしつつ、夕食を食べては今日はこのまま眠りに落ちるのだった。
そこからの入学試験までの期間は1月あったがあっという間だった。
起きてはエルザの下へ行き、魔法の講義と、逆に歴史をエルザに教わり。
時には王族の方と食事の席を一緒になっては王立学校に向けての話をしたり、エルザとも2人で住む寮なのだ、必要な物をゴードン交えて話したりもした。
その際は王城へとゴードンが赴くのだが、驚いた事に、正装していても、ゴードンの怪しさは打ち消せていなかった。
やはり、ゴードンの怪しさは生粋のものなのかもしれない。
ただ、気がかりというか、忘れていたことが冒険者ギルドの事だった。
また行くような事を行ったっきり、僕は時間を見つけられなく、ついぞ入学試験の時まで、その存在を忘れてしまっていたのだった。
まぁ、後から気付いたが、また機会があれば立ち寄ろうと思うのだった。
その他、色々とゴードンから調味料など、変わったものも含めて集めて貰っては魔法袋へと収納していった。
うん、この色んな物を集めてしまうのは、これからの開発の為もあるかも知れないけれども、個人的にコレクター性の衝動もありそうな気がした。
とりあえず、そんな日々を過ごしていたら、あっという間に入学試験の日がすぐ目の前まで迫っていくのだった。
入学試験ですか……。
試験って緊張しますよね?
人って言う時を書いて、呑み込むと良いらしいですよ?
それか人をジャガイモに例えて…………。
えっ? 効果が無いですって? そんなまさか、ね。
それよりも入学出来たら、卒業のタイミングの噂の第1王女と会えるのでしょうか?
楽しみですね。
さて、なんだか新たなお知り合い様も出来そうな予感。
楽しみですね!
っと、楽しみを挟んでみました。
ふふふ、美味しさたっぷり召し上がれ。
ではでは、また次回にて。
※書き漏れです。
高評価、ブックマークありがとうございます。
とても嬉しくて励みになります。
まだの方も気に入って頂けましたら是非。
では、次の物語で会いましょう。