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10/27

ダンジョン! そして、白き髪のエルフの女の子

ダンジョン! ワクワクしますよね!

きっと出会いとかあるのでしょ?

えっ? 無いのですか?

おはようございます……。


だいぶ、ポヤポヤと脳がしている感じがする。

思考は重たいけれども、木窓から入る陽の明かりが僕を目覚めさせていく。


うん、目が覚めてきた。


昨日は色々とあったな……。

あれ……? アイクさんにベッドに降ろして貰って……そのまま寝ちゃったのかな?

自分の服装を見ると、昨日のシャツのままで、そう気付いてくるとベタッとした汗の感じが肌を纏わりついてる感じがしてきた。


「水でも浴びようかな……」


マイナの宿亭の裏手側には少し行くと上水道が流れている。

この街ルソーレにはなんと、しっかりと上下水道が完備されていた。

正確には上水道は魔石から魔道具を用いて水を生み出してるみたいで、下水道の方もピュリフィケーションの魔道具を用いて浄化して、そのまま川へと流しているみたいだ。


異世界ならではだよね。


そーと降りていくと1階はまだ誰も居なかった。

第1の鐘も鳴っていないから、まだ誰も起きていないのだろうか?


「あら? マコト? おはよう! どこに行くのかしら?」

「わっ!? スーザンさん、おはようございます」


そんな風に思いながら、入り口まで近付いて居たら、外からスーザンさんが宿亭に入って来た。


「なに、驚いてるの? 失礼ねー!」

「いえ、急に……現れたから。それにまだ皆さん寝てるかと」

「え? 何言ってるの。アイクはもう朝の市場に買い付けに行っているし、私はこれから洗濯に行くところよ!」

「えっ、そんなに早かったのですか?!」

「そうよ、じゃないと第1の鐘のお客さんの朝食には間に合わないでしょ?」

「た、確かに……」


そう言われるとそうだ。

盲点だった……。

いつも第1の鐘辺りでのんびりと起きてきていたから、すっかり気付いてなかった。


「それでマコトはどうしんだい?」

「えっと……水を浴びに行こうと思って」

「あぁ……! 昨日はそのまま寝ちゃってたものね」


そう言ってスーザンさんは笑う。


「それだったら、着替えも持っていきなさい! 今着てるのも洗ってあげるから!」

「あっ、はい!」


そうして、再び部屋に戻って着替えを取っては僕はスーザンさんと上水道の流れる水路まで一緒に歩いていく。


「私はここで洗濯しているから、マコトは……分かってるようね」

「う、うん。アイクさんに教えて貰ってたから」

「なら、問題ないわね! 終わったら、洗濯物持ってきなさい!」

「は、はい!」


そのままスーザンさんとは別れる。

水浴びの文化はあるみたいで、上水道の水路付近には男女に分かれて水浴びが出来るような簡易的な施設が出来ていた。


お風呂に入りたい所はあるけれども。

貴族の娯楽的要素が強いようだ。

人によっては逆に疲れると入るのを躊躇ったり、アフターケアの労力が大変だからと忌避している人も居るようだ。

正直勿体ないと思う。

これもまた機会があれば、自分が住み心地が良いように改善したいと心のメモに留めておくことにした。


「ふぅ……」


そして、水浴び場へ来て服をポンポンと木籠に入れていく。

軽く気にする人用に仕切りはあるけれども、皆思い思いに水浴びをしている。


「冷たっ!」


まぁ、うん、慣れだろう。

けれども、心地よいし、気持ちいい。

慣れたところでしっかりと水浴びをする。

この世界では香り付け等はあるけれども、基本的には流すだけだ。

石鹸とかあれば良いけれども、見つけることは出来なかった。

もしかしたら、まだ文化的には無いのかも知れない。


海に接しているところはもしかしたら?

確か苛性ソーダが必要だったような?

海水を何かして生み出してたような……思い出せない。

けれども、原始的な石鹸とかもあったような?


……。

もう少し、全知全能さんを使えるようになったら分かるかも知れない。

その時には試してみると良いかも知れない。


「ふぅ、さっぱりした!」


でも、とりあえず現状でも満足だ。

さっぱりした僕は水洗いした手拭いで顔を拭く。

でも、石油? とかもこの世界にはあるのだろうか?

いや、でも、環境汚染になってしまうのか?


なまじ、この世界では魔法があるからそれで何とかなっているのも多いのかも知れない。


ほら、目の前の人も水浴びとピュリフィケーションの魔道具を用いて浄化している。


今思えば、洗濯物もそうかも知れない。


魔法の無い世界では発展したものは、魔法がある世界では余り重要性を得られずに伸びなかったものもあるのかも知れない。

お湯もシャンプーや石鹸も偶然とか試行錯誤、より良く生きやすいように文化が発展した来た叡知だろう。

逆に言うとピュリフィケーションなど、魔法を発展させて、または生み出して来たのが、この世界の当然の叡知なのかも知れない。

そう考えると、普通に面白い。

逆に自分の感覚が少し異端なのかも知れない。


「ま、それでも……求めてやまないのだけれども、ね。ピュリフィケーション」


自分にも魔法を軽く発動させて、汚れをさっぱりさせる。

水浴びをしなくても、ピュリフィケーションである程度というよりは綺麗にはなるだろう。

でも、多分頭では分かってても、実際に水浴びとか洗濯とかの行いが人としてする事で安心感を生み出しているのかも知れない。


そう思うと、石鹸やお風呂も安定させれば需要と供給を満たせれば浸透しそうだな。

小麦の件、柔らかいパンとか、それ以外の食べ物の可能性もそうだ。


今は自分自身の事で手一杯だけれども、少しずつ落ち着いてくれば取り掛かってみたい。


「とりあえずは、スーザンさんの所に戻るかな」


木籠から先ほど着ていた服を抱えてはスーザンさんの所へ戻るのだった。


「あら、さっぱりした?」

「うん、気持ちいいよ」

「それは良かった。はい、マコトの服も頂戴」

「お願いします」

「任されました」


少しだけ嬉しそうに笑ってはスーザンさんは僕の服を受け取って水洗いをしていく。

多分、干す前とかに一気に魔道具でピュリフィケーションを使うのかな?


「よし! こんなところね!」

「お疲れ様です」

「うむ!」


そんな感じでスーザンさんはまだちょっと何かを演じているようだ。


「今日は冒険者ギルドに行くのでしょう?」

「うん、その予定です」

「アイクもそろそろ朝食を作っていると思うから、お弁当も作って貰って食べていきなさいね?」

「うん! ありがとうございます」

「それにしても、朝がこんなに気持ちいいなんて……。前までは朝は苦手で少し経ってから洗濯もしていたから新鮮ね!」

「それは本当に良かったです」

「ふふ、マコトのお陰ね」


そう、顔を近付けて小声でスーザンさんは言ってきた。


「ほら、行きましょ! そっちの方の洗濯持って貰えると助かるわ!」

「は、はい!」


そうして、スーザンさんと僕はマイナの宿亭に戻ってはアイクさんの朝食を美味しく食べては僕は冒険者ギルドに顔を出しに出掛ける事にする。


「マコト! おはようございます」

「おはようございます」


ギルドの裏手側、解体小屋の方から冒険者ギルドに入ってはケイトさんを呼んで貰って、合流した僕たちはケイトさんの案内で専用の部屋に案内して貰っていた。


「うーん、一応昨日のうちに色々と考えていたのだけれども……」


そう言って、ケイトさんは手元に幾つかの資料とかを取り出しては広げて見せてくれる。


「こっちは共通のクエストね。それで、こっちはダンジョン関連で……こっちは……クエストと言うよりは依頼になるのかしら?」


クエストと言っても採取や討伐、その他ダンジョンに因んだものはダンジョンでの魔石目当てのものや、その他護衛とか近辺での何か不穏な事があった際の見回りの依頼とかも、改めて見渡すとレパートリーは多い。


「ダンジョン……はやっぱり気になりますね」

「あっ! やっぱり?」

「は、はい。ですが、余りダンジョンには詳しくなくて……」

「そうね。ここら辺とか分からない事が沢山質問してみて、多分この辺が一般常識とかの学び? 教える部分になると思うから」

「すみません、よろしくお願い致します」

「ふふふ! でも、言葉遣いとか後は……筆跡も綺麗だったわよね? 計算とかも出来るの?」

「い、一応は多分……?」

「普通は貴族様や商家の者とかじゃないと教養は身に付けるのは大変なのに、改めてマコトくんは不思議な子よねぇ……。でも、一般常識は欠けてるとか?」

「え、えっと……。あはは……」

「って、私ったら。また気になって、色々と突っ込んじゃった! ごめんなさいね! えっと、ダンジョンよね」


そして、ケイトさんは詫びを入れつつダンジョンの説明をしてくれる。

一度全知全能さんにダンジョンに関しては軽く触れて貰っていたが再認識の時間みたいなものだ。

真剣に耳を傾けて聞く事にする。


「まずはダンジョンと言っても完全には分かっていない事が多いの」

「どういう事ですか?」

「ある日突然出来たり、自然に発生したりとかダンジョンが産まれるパターンは多岐に渡るのよ」

「なるほど?」

「まぁ、分からないわよね。ただ、通説としてはどれも魔素や瘴気が溜まりやすい所に出来ているというパターンね。だから、自然に発生した場合はそこが溜まり場だったり、突然既存の建物とかがダンジョン化したとも情報があるから、何かしらの起因があって、魔素や瘴気が溜まったとも考えられているわ」

「その魔素や瘴気というのは……?」

「魔素は魔法の元になる空気中に含まれているまだ属性の無い力と言われてるわね。瘴気は魔王国から流れ込んで来ていると一般では言われてるわね」

「魔王国……」

「うーん、魔王国に関しては分からない事が多いのよ。そもそも魔の森自体が良く分かっていないし、人と魔を隔てる大峡谷なんて、もっともっと分からないものだから。あっ、話を戻しても大丈夫かしら?」

「あ、はい」

「えっと、ダンジョンの仕組みは……まだだったよね。ダンジョンはその性質上、不思議な場所なのよ。人によっては異空間なんじゃないか? 色んな物議が出てるけれども、どれも決定的な根拠が無いというのが今の現段階の見解ね。 ただ、ダンジョンの魔素や瘴気の規模によってか分からないけれども、その深さや広さは変わってくるみたいで、最下層のダンジョンボスと言われてる存在を倒せれば、暫くの間だけれども、また魔素や瘴気が溜まるまでは沈静化されると言われてるわね」

「ダンジョンボスですか?」

「そう、ダンジョンボス。後はダンジョンによってはフロアボスという言われる下層へと続くダンジョンを守るその階のボスと言われる存在を伴っているダンジョンもあるわね。ダンジョンボスとフロアボスは時には報酬と読んでいるけれども、魔石と共にレアドロップを落とす事があるみたい」

「へぇ……」


報酬……レアドロップ。

気になるな。


「気になるでしょ? そんな顔してるわよ?」

「え?」

「まぁ、冒険者皆気になる存在だものね。レアドロップは武器だったりアクセサリーだったり、マコトくんのそのマジックバックもそうなのよ? そういうのが本当に稀にドロップするみたいなの」

「な、なるほど」

「後は、ここからはお仕事の話になっちゃうのだけれども。魔石の回収や買い取りをしてるのは単純に魔道具への供給の為なのだけれども。もっと重要なのはスタンピードを未然に防ぐ為なの」

「えっと、スタンピードって?」

「魔物の大量発生の事ね。ダンジョン内の魔物って、倒しても魔石だけを残して消えるのだけれども。それは魔石を通して仮初の肉体を得られてるからって言われてるのだけれども、そんな仮初の肉体も外に出ることによって、原因は多量の魔素なんじゃないか? と言われてるけれども、受肉をするのよ。ダンジョンは定期的に討伐する事によって、コントロール化に置いてるんだけれども、まだ見付かっていないダンジョンや、放置をしているダンジョンがあれば、いずれは魔物の飽和が起こって、ダンジョンの外側に外側にと魔物が大量に発生していくという図ね」

「え? それって結構、危ないんじゃ?」

「そうなのよ。もしかしたら、今この時もまだ把握していないダンジョンがあれば危ないし。この不穏な空気を感じての依頼と言うのも、体裁よく言えば未知のダンジョンがあるかも知れないから調査の側面があるのよ。もし、ダンジョンを見つけたら、優先的に攻略をしても良いとか、特別報奨とか色々とサービスを付けてでもやって貰ってるって事ね」

「ダンジョンって、結構ワクワクな感じがしてましたが、蓋を開けてみると危険極まり無いですね」

「そう! そうなのよ! 冒険者だって、年がら年中、多い訳じゃ無いし、強いダンジョンがあれば、駆り出せる能力のある冒険者がいつでも居る訳じゃない。本当に結構大変な事なのよ。でも、冒険者を求める人は、比較的、自由とか金銭とかが目的の人も多いわけであって、帝国も実力主義と通して、色々と融通してるけれども、実際は実力をある人程、ダンジョンとかのコントロールの維持に努めて貰いたかったりとかだと思うのよね……。って、今のは帝国に関してのアレだから、忘れて頂戴! オホホホ……」

「は、はぁ……」


いやいや、思いっきり帝国の思惑とか悪口というか、愚痴みたいなものじゃないですか……。

けど、ケイトさん……そう言いながらも、自由を愛してるアランさんが好きなんだよなぁ……と思って見てみたが、よくよく思えばアランさんも自由を愛してるけれども、自ずと棘の道を行っているタイプだから……もしかして、そういうところも好きなのだろうか? と、関係ないことに思考が傾いてしまった。


「えっと、大丈夫かしら……?」

「え? あー、はい、大丈夫です」


おっと、変に考えていたらポカンとしていたようだ。


「そうなると、僕はダンジョンの攻略に興味が有りますね」

「ええ、助かるわ。正直、ダンジョンの攻略に関しては実力を伴わないと難しい側面が多くて……ただ」

「ん? ただ……?」

「1人でも……大丈夫よね? いえ、もうかなり凄い子なのは分かってるけれども、基本的にダンジョンってパーティー推奨だから……」

「あー、はい。うん、多分1人で大丈夫です。っと、いうよりも1人じゃないと逆に困るかもです?」

「そ、そうよね……」


ちょっと微妙な空気が流れてしまった。


「そうなると……これとかどうかしら? ちょっと、厄介なダンジョンがあって……」

「スライムですか?」


そう言って、ケイトさんが数あるダンジョンのクエストから渡して貰ったのはスライムのダンジョンの討伐及び、魔石の報告だった。


「あれ? 魔石は報告なんですね」

「んー、自身で使い人や、他で買い取りとかお願いとかする人も居るから、強制はしていないって感じね。まぁ、本当は売って貰いたいのだけれどもね」

「あはは……でも、魔石の報告でスライムの討伐数を見る感じですか?」

「一応、そんな所ね」

「誤魔化された時とかは?」

「うーん、そこは一応信用しての上での依頼って感じかしら。でも、何かあれば、その冒険者はどこにも居場所は無くなると思うわよ? だって、スタンピードの要因を生み出してるようなものだもの、ね」

「あ、はい」


ケイトさんが黒い微笑みを浮かべた所で、脊椎反射で受け答えをしてしまっていた。


「でも、どうしてスライムなんですか?」

「地味に厄介なのよ。スライムは核を壊さないと倒せないし、魔法が効きにくい個体も居るし、特殊個体だと毒や麻痺、睡眠とかを持っている個体も居るのよ」

「地味というよりはただただ厄介なだけですよね?」

「え、ええ……。スライムって、外とかで見ると弱いイメージが先行しちゃうけれども、ダンジョンのスライムはまた別物だと考えた方がよいわね。だからこそ、バランスの良いパーティーが求められるのだけれども、そうそうバランスの良いパーティーが居るわけでも無いから……」

「だから、僕に勧めてみたということですね」

「ごめんなさいね? 嫌だったら、別のものでも……」

「いえ、受けさせて頂きます。ビジネスライクな感じは嫌いじゃないので」

「ビジネスライク……?」

「あー、いえ、なんでしょうか仕事に頑張っている感じは好きなので問題は無いです。それに僕の方こそ、これからご迷惑お掛けすると思いますので……」

「そ、そうかしら? なら、良いのだけれども……?」


ビジネスライクって何かしら?

って、ボソッとケイトさんの声が聞こえる。

そっかぁ……なんだか、全部が全部言葉が伝わると思ったけれども、向こう特有の言葉とかあるのかも知れない。

一瞬、全知全能さんが反応して、教えてくれようとしたみたいだけれども、その情報量は多かったのか、自然と教えるのを止めてくれたみたいだった。

ただ、それでもある程度魔力を消費されちゃったけれども、今の魔力量だったら微々たるものだ。


「えっと、ではこれで受理が完了ね。これがダンジョンまでの地図になるわ」

「ありがとうございます」

「あっ! 地図は結構高価な扱いになるから、取り扱いは気を付けてね?」

「あー、確かに。そんな気がしました。分かりました、気を付けます」

「うん、宜しい」


確かに地図って、この世界には余り見掛けないかも知れない。

こうやって、ちゃんと明記されてるやつというのは貴重なのだろう。

まぁ、脳内というかMAPでは然り気無くスライムダンジョンが追加されたようだけれども、全知全能さん様々だね。

最近はMAPの範囲が広がった。

それは単純に魔力量が増えたことと、全知全能さんのフィルター機能が高性能になったお陰だと思う。

全てを知ろうとすると、魔力切れ直行便だと思うけれども、こうやって、必要な情報のみに焦点を当てると結構融通が効きやすいと気付いたのだ。


「とりあえず、まだ今日は早いので様子見に行ってみようと思います」

「そうなのね。じゃあ、気を付けて行ってくるのよ?」

「はい!」


そして、僕は冒険者ギルドでケイトさんと分かれてはスライムダンジョンへと向けて冒険者の街ルソーレから旅立つ。


「あっ、ボブさん」

「おお! 坊主! 朝から仕事か! 精が出るな!」

「ボブさんこそ、お疲れ様です!」

「いやいや、そんなこと無いさ。もう少ししたら忙しくなるからな……そしたら、交代してもらってゆっくりするのさ」

「さ、流石ボブさん?!」

「ふっ! 楽に生きるのは大切な事なのよ」

「……」

「ん? どうした坊主?」

「よーボブ? 交代は大丈夫だよな? 俺と一緒にもう少しやりたいよな?」

「あ、あれ……? え、エリックさん? あはは、ヤダなー! あったり前じゃないっすか」

「そうだろ、そうだろ? 真面目な部下を持てて、俺は幸せだ」

「あはは……」

「よっ! マコト! 気を付けて行ってこいよ!」

「は、はい!」


ボブさんの何とも言えない顔を振り切るように僕はルソーレの城門から飛び出した。


ボブさん……強く生きて……!


って、思ってたのは少し前で今は魔の森の中。

地図だと、こっち側の魔の森に入って直ぐなのだけれども……いや、MAPの方を見るべきだったか。

全知全能さんが先ほどからMAPをチラチラさせてはアピールしていたみたいだ。


もう少し奥なのか。


結構手前側っぽく書かれてるけれども、それよりはもう少し奥まった所にあるらしい。

とりあえずは周囲を警戒しつつ、魔の森を掻き分けて進むと、ポッカリと穴が空いた洞窟みたいなものが見えてきた。


「これがスライムダンジョンか」


人を誘い込むようなフォルムだ。

雨宿りとかの気分で入れそうだし、うん、本当にダンジョンとは不思議な存在みたいだ。

レアドロップすらも人を招き入れる為のトラップとか言われてるみたいだし。


「とりあえず、お邪魔しまーす……」


そーと入ると、中は打って変わって明るい。

壁際の岩肌が仄かに光を放っているみたいだ。


「これは……魔素が仄かに光っているのか?」


岩肌……壁という要素なのだろうか? 仄かに魔素が流れ込んでいるみたいで、ザラザラとした質感の岩壁を撫でながら精査しているとピョヨヨンピョヨヨンと音が聞こえてくる。


「ん? あー……あれがスライムか」


スライム

※ただのスライム


うん、見た目のままだ。

少しだけ青みがかってるけれども、半透明に近くて、核が赤く見える。


「早速試してみるか……」


スライムはこちらに気付いてる様子は無い。

ただ移動してるだけのようだ。

ソッと岩影に隠れてはマジックバックから短剣を取り出すと僕は真っ直ぐに構える。


「もう少し……もう少し……今だっ!」


ピョヨヨンと跳び跳ねては降り立った瞬間に躍り出ては最短距離で魔核を貫いてはスライムを討伐する。


魔核は壊されたのだが……スライムからは綺麗に魔石が落ちた。


「んー? スライムの場合は魔核と魔石の相互関係はまた別なのかな?」


変に考察してしまうが良しとしよう。

ただ、スライムダンジョンはその全貌に関しては分からない事が多いらしい。


「まぁ、未踏破ダンジョンだものな……」


ケイトさんは厄介極まりないと言っていたけれども、如実に示すのは未踏破の部分だろう。

他のダンジョンは細々とだが、踏破してはダンジョンの活性化を沈静化したりもしているらしいが、未踏破のダンジョンの方がまだ多いらしい。

まぁ、ダンジョン都市ロマレンみたいにダンジョンを基礎に成り立ってる場所は逆にコントロールするみたいだけれども……ロマレンはそもそも未踏破ならぬ、踏破出来るのかさえ危ぶまれてるらしい。


「まぁ、とりあえず……この階層は普通のスライムなのかな?」


うん。

普通だ。

とりあえず、全知全能さんの力を借りつつマッピングしながら進む。

いや、知ろうと思えば知れるかも知れないが……多分、結構な魔力が吸われるのだろう。

全知全能さんが敢えて触れないということは非推奨なのだろう。


とりあえず、サクサクとスライムを倒しつつ、1階層のマッピングを敢行する。


「ふぅ……このくらいかな?」


先に下層への入り口を見つけては、後は全体の規模を考えて回り込むようにマッピングをしてしまったら意外と時間が掛かってしまったような気がする。

でも、その達成感は結構気持ち良いものだ。


「これって時計とか無いと……時間感覚が狂いそうだな……」


10:30


おお、全知全能さん……優秀すぎる。

まぁ、けれども有難いけれどもソロの時ようかも知れないな。

誰かと一緒に居たら、どうやって分かるのか怪しまれてしまいそうだ。


あっ……時計表示が薄くなった……。


うーん? やっぱり、ちょっとだけ感情がありそうな全知全能さんだな。

自分のこの質問も敢えてスルーしてそうな感じもするし、まぁ……気にしたらそこで試合は終了かも知れないから、うん、今は流されておこう。


「とりあえず、意外と時間が掛かっていないと分かったからもう少し探索してみるかな?」


そう、思うとワクワクしてきた。

そうだ、これが冒険っていうやつかも知れない。

あぁ、僕はこういうのが好きなのかもと自分発見をしつつ、下層へと降りていく。


「少しだけビリッと?」

「少しだけポヤッと?」

「少しだけピリピリ?」


麻痺の個性を持つスライムなのだろう、あれは……多分、睡眠の個性? そうなると、今受けたのは毒かも知れないな。


「うーん? 自分には効きが良くないのかな?」


まぁ、種族はなんやかんや言ったとしても半神だからなぁ……。

なんか、すみません。

そう言いながら、スパスパと斬って行っていたら問題が発生した。


「ちょ?! おまっ?! えっ?!」


プリンっ! と断ち斬ったスライムが魔石になるのはいつも通りだったのだが、斬った短剣は刃先から少しずつ溶け出していた。


「あぁ……ラルフさん御自慢の短剣が……誠に申し訳ございません……!」


本人は居ないが、居ると思ってあの星特有の腰曲げ謝罪を自然としてしまっていた。


「えぇ……酸性? か? 溶かすタイプか……。まぁ、確かに言われてみれば定番のタイプか……でも、このタイプは聞いていないから、もしかしたら、ここまで到達してる人が居ないのか?」


んー、でも短剣が溶かされたのは痛い。

むしろ、短剣を溶かす酸性のスライムってどうなのよ?

あの星の薄い本だったら、服だけ溶かすとか、なんだかエッなのが当たり前じゃないのか?

流石、ダンジョン……格が違うということか……。


「って、ピリッとするぅ?!」


シュバババって手を動かすと手に付いた酸性液を払い落とす。


「ん? 酸性液?」


あぁ……自分の警戒心の無さに嫌気が差す。

むしろ、全知全能さんの何故気付かない? と言いたげにマッピングの先ほど攻撃してきたスライムさんの位置をこれでもかと強調してきている。


「いや、むしろ自分溶けないのか?! って、スーザンさんが選んで買ってくれた洋服が溶けてる?! まさか、エッな機能な僕だけの仕様なのか?! いや、そうじゃない! お前何やってる! いや、短剣より溶けない自分の身体もどうなってる! いや、半神だったか!」


こんなスライムだらけのダンジョンに1人っきり、いや、少しだけ愉快になってしまうのも仕方ないだろう。

むしろ、哀れな攻撃してきたスライムは溶けない僕に対して驚いては恐れおののいてる風で、スライム状の身体を小刻みに揺らしている。


「可愛いと思わせてるのか! ざーんねん! サヤカちゃんでし……たじゃない! うぉぉ! そんな風にアピールしてももう遅いぞ!」


ジュワッとスライムの核を破壊して、酸性スライム……いや、某ゲームだとバブルスライムっぽいのは倒せた。


「ラルフさん……本当にすみませんでした」


そして、再度の居ないのに腰を曲げて、少し遠くに居る冒険者の街ルソーレのラルフの武具屋のラルフさんへ謝罪を送る。

うん、短剣はもう見る影もない……完全にやっちゃったテヘペロ案件だ。


「参ったな……」


そうなると、魔法? でも、良いけれども、それはそれで処理していくのが面倒くさい。

近寄って来たところや、近付いた所を倒した方が魔石の回収が用意なのだ。


「うーん……ん? 試してみるか?」


ふと、思い全知全能さんに問い掛けてみると手応えがあった。

ゴッソリと魔力が吸われた気がするけれども、うん体感は大丈夫だろう。

多分、この階層に来るまでの間でレベルアップを何度かしていた感覚はあったから余裕は生まれたのだろう。


「とりあえず……やってみるか?」


ソッと手を床に押し付けて錬金術を発動してみる。

いや、本当は紙に複雑な術式を書いたり、刻んだり、それらに意味を持たせて、魔力を注ぎ込んだりすることでその真価が発揮されて、現実に現象が生じるのだが、自分の場合は結構イメージと力業の部分が大きいのかも知れない。

何よりも、素材にしようとしているのがダンジョンを構成している岩壁や床なのだから。


ベキベキベキ……と嫌な音を響かせながら手元に素材が集約されてくる。


「量はこのくらいかな? 後は形を……イメージしたのを確かこんな感じだったよな?」


ぐにゃぐにゃ、グニグニと弄りながら形に仕上げて行くと一振の忍者刀が出来上がる。


「おお……完璧!」


シュシュ……シュ!

おお!

カッコいい!

色合いはこのダンジョンの岩肌と同じくすんだ色合いだけれども、魔素が通る事で仄かに光を放ちつつもそれに応じて硬くなるみたいだ。


「これは壊れても手頃で使えやすそうだな……」


太刀とかも憧れはあったけれども、あれは長すぎる。

刀も同じだ。

それなら、隠密に長けており、取り回しが用意で、まだ子供の自分でも扱いやすい、それに……カッコいい忍者刀が良い。

まぁ、ぶっちゃけロマンでもある。


「でも、ダンジョンの素材って基本的には壊れにくいのか」


確か、ケイトさんがそう言っていたような?

自己修復機能もあったような?

そうなると、この忍者刀もあるのだろうか?


忍者刀

※ダンジョン構成素材より錬成。

※自動修復機能あり。


へぇー……いいじゃん。

予備でもう1本同じく作っておく。


ベリベリベリ……と、素材が剥がされる時にダンジョンの悲鳴が聴こえたような気がしたが気のせいだ。

うん、きっと半神の自分だから出来る芸当のはずではないはずだ。


まぁ、うん、良い感じに使おう。

そう、決めて手頃に現れたくれたバブルスライムくん(仮)を試しに斬ってみるとスパンと断ち斬れた……。


「わぉ! これは驚きの斬れ味ッ!」


ギーゴギコしなくても斬れるんですよー?

ほら? ギーゴギコしなくてもスーと斬れるんですよ?

ほら? ギーゴギコ……ギーゴギコ……してませんよ?

いや、あれは……ギーゴギコしていたような……いや、これ以上はトップシークレットだ。


とりあえず、うん、これはいい。


そして、またラルフさんへ向けて頭を下げる。


「ラルフさん……もしかしたら、もう武器……買わないかも知れません……オリジナルの方が……」


ラルフさんの短剣……短い相棒だった。

忘れないぜ……お前のことは……。

そう、思いながら防具も見直そうと思ったが、まぁ……それはおいおい考えようと思考を切り替える。


13:00


なるほど、良い時間だ。

それに小腹が空いたと思ったら、思いの外時間が断っていた。

いや、むしろ、こんなに早くダンジョンの攻略が通常は出来るのかと不思議でもあった。


休みたいと思ったけれども、良い場所はない。

通常はフロアボスの所とかは倒したら一定の時間は再出現はしないようなので、待機として利用してる人や、ダンジョンの機能によっては転移機能を兼ね備えてる、便利なダンジョン……いや、明らかに誘い込むのに全力を出してるダンジョンもあるらしいので、ことさら休む場所は色々とあるらしいのだが……このスライムダンジョンに限っては今のところ下層への入り口は見つかっては降りてるのだがフロアボスが現れる機会には巡りあっていなかった。


「っと、言ってもある程度は余裕だから、ここら辺で休憩しようかな」


うん、自分にはMAP機能が……全知全能さんが居る。

近場に今のところスライムは居なさそうだ。

信頼全振りで良いのかと疑問には思われるのだろうが、うん、良いのだ。

そこはそこ、これはこれ。

ちょっとだけ、信じてみたいお年頃なのさ。


そう言いながら、アイクさんの手作り弁当を取り出しつつ、念のためステータスを確認してみる。


《名前》天神アマガミ マコト

《種族》人(半神)

《年齢》8

《レベル》6→10

《extraskill》全知全能 Lv5→6

《体力》200000→∞(error)

《魔力》200000→∞(error)

《魔力コントロール》Lv5→6

《身体強化》Lv5→6

《思考加速》Lv5→6

《土魔法》Lv10★

《水魔法》Lv10★

《火魔法》Lv10★

《風魔法》Lv10★

《光魔法》Lv10★

《闇魔法》Lv10★

《聖魔法》Lv10★

《無属性魔法》Lv5→6

《剣技》Lv3→10★

《槍技》Lv1

《弓技》Lv1

《斧技》Lv1

《鎚技》Lv1

《盾術》Lv1

《体術》Lv3→10★

《体力回復上昇》Lv5→6

《魔力回復上昇》Lv5→6

《攻撃力上昇》──→Lv2→3

《防御力上昇》──→Lv2→3

《鑑定/解析》Lv10★

《空間転移》──

《隠蔽》Lv10★

《収納》Lv2→3

《付与術》──

《錬金術》Lv10★


んー? あれー? 俺? なんか、やっちゃいました?

って、言っても良いんだよね?

錬金術はうん、そんな予感はしていたよ。

結構な情報が得られたから。

情報があるだけで、引っ張り出すのに苦労しそうだけれども、そこら辺は全知全能さんも補助してくれるだろう。


体術と剣術は……そうなの?

途中からただ倒すだけでは飽きて来たから、色々と試行錯誤しながら倒してたけれども……そっかぁ……。

他の武器とか……今度、気になったら試してみようかな……。

とりあえず、今の体格的には忍者刀で充分だ。


それ以上に……あれだ。

体力と魔力はどうしたの?


「なぁにこれー? 数値がないなった?」


ちょっとだけ、おどけて見ても事実は変わらない。

なるほど、自分は新たなステージというか、うん極みのステージに行ったらしい。


「なるほどなぁ……通りで、常に余裕があるわけだ。あっ、これ美味しい……流石、アイクさん……」


アイクさんのお手製のサンドイッチは美味しい。

パンが硬いけれども、これはこれでアリだと思う。

塩味が濃いのもアクセントになっていて美味しい。


「でも、今も常に体力と魔力は増えてる感じはするんだよな……」


うーん? 数値化が出来ないだけで、伸びてるのだろうか?

まぁ、体感で感じてるのだから、そうなのだと思う。

うん、そこら辺の切磋琢磨は忘れないで行こうと心に誓いつつ、アイクさんのお手製サンドイッチを食べていく。


「よし、そろそろ行くかな」


水魔法で飲料水を生み出してはしっかりと喉を潤して、忍者刀も取り出す。

お弁当を片付けつつ、目を少し先に向けるとMAPに反応があった先からスライム達が現れて来ていた。


「ここまで来たのなら、踏破してみたいよね」


うん、先ほどステータスを見たのもそう思う要因になったのは否めない。

結局のところ、腕試しをしてみたいのだろう。


「なら、サクッとやりつつ最下層目指してみるかな……」


そう、決めたら後は簡単だったら最下層まで真っ直ぐに下層への入り口を見つけてたら降って行っては最下層を目指す。


「やーと着いた。いや、フロアボス居ないとか、普通のパーティーだったら、本当に厄介極まりないダンジョンじゃないのかな? んー? ここら辺もケイトさんに報告するべきかな?」


そう、首を捻りつつ前を見てみると大きな大きな……色を様々に変えては堂々とそびえている巨大なスライムが居られたような……。


「って、大きすぎやろっ?!」


いやいや、口調が変わってしまった。

ボケてる暇なんて無いさかい!

いや、ボケてる暇なんて無い!


それに色が様々に変わっているのは何故だ?


「ッ! ピリッとした! いや、ビリビリ?! いや、あー……なるほど……」


ちょっと、大きさに驚いてる隙に攻撃されてしまって分かった。

いや、普通なら普通なら……普通に致命傷の一撃だ。

全知全能さんが呆れたようにダンジョンボスのスライムを指し示すように視野にダンジョンボスの詳細を出してきていた。


ダンジョンボス《スライム》

※全てを内包せし、巨大なスライム。


うーん? 名前が決まってないんだろうなぁ……。

ほら、あっち側の世界の言葉もこっちに無いと「ん?」って、反応される時がちょこちょこあるものなぁ。

多分、このスライムというか、未発見で名前の付いていない存在はそういう仕様に収まるのだろう。

うん、そう思おう。

難しくと考えるとキリがない気がするし、全知全能さんが張り切っちゃったらブラックアウト行きになりそうな気配が一瞬だけしたのだ。


自分の危険へのスメールセンサーは日々成長途上なのだ。


「……!!」


そんな事を考えていると、うん、巨大なスライムが哀れにも打ち震えていた。

まぁ、分かる。

全てを内包していたとしても、全てが効かないのなら意味が無いだろう。

いや、逆に言おう。


「君はボーナスキャラだ」


ニチャッァとしたとは言わないぞ。

なんだか、ダンジョンボスのスライムが哀れにも逃げようとしても、ここが最下層で逃げれなくて絶望の果てに全てを投げ出してるように見えることなんて……無いんだからね? ね?


「うん、君は頑張ったよ。うん、お疲れ様」


スパンッ!

わぉ! 驚きの切断力! 奥様お買い得ですよっ! 売りませんけどね!


ダンジョン素材の忍者刀の斬れ味は僕の魔力を通して斬ると凄いらしい件について。

なんだか、僕書けそうな気がする。


そんな風に思っていると哀れにもダンジョンボスのスライムは消えていってはレアドロップを落として逝ったようだった。


「ん? これがレアドロップって、こと?」


大きな魔石は……ダンジョンボスのやつだろう。

その横にちょこんと何かがドロップしていた。


スライムゼリー

※ダンジョンボスのスライムの特別製のゼリー。

※大変、美味。


へ、へぇー……。


嬉しいような、なんだか、うーん?

とりあえず、ちょこっとだけ、ピュリフィケーションで綺麗にしてから指先にすくって食べてみる。


「ん!? これ、美味しいぞ?!」


いや、大変、美味。

このワードをなめていた。

舐めていただけに……! って、いや、本当に美味しい。

とりあえず、何か特別な時に少しずつ食べようと思ってマジックバックにそそくさと魔石と一緒にしまいこむ。


「よし、こんなところかな?」


15:00


んー?

急げば……ワンチャン間に合うかな?

とりあえず、第3の鐘には間に合うように城門に辿り着こうと決めて、水魔法で飲料水を生み出しては飲んでから僕はダンジョンを駆け出す。


カーン……カーン……カーン……


「おーーい! そろそろ、城門を閉めるぞーー!!」

「い、今行きまーーーす!」


ま、間に合った。

滑り込みというやつだろうか、うん。

ギリギリアウトっぽい気もするけれども、衛兵のお兄さんもサムズアップしていたのでセーフだろう。

異論は認める。


とりあえず、そのまま疲れることを知らない僕の身体は駆け出したまま冒険者ギルドの裏側を目指す。


それにしても、本当に疲れないな……。

いや、ステータスの表記から容易にその事は連想出来るのだけれども、自分自身の事なのに、自身で驚きだ。


そのまま、冒険者ギルドの裏手側に辿り着いてはケイトさんを呼んで貰うと……うん、めっちゃ帰る支度をしていた……。

いや、そうだろう。

第3の鐘が鳴ったのだ、基本的には業務の終わりを示すような意味合いが強いのだ……。


いや、だけれども冒険者ギルドは基本的には24時間体制だ……。

僕が悪いわけでない……。


「どうしたの? マコト? そんな浮かれた様子で何かあったの? 私はもう今日は終わりの予定なのだけれども……」

「あ、いえ、すみません……」


いえ、本当にすみません。

浮かれてました。

ケイトさんの事を考えていたか? いやぁ、頭の片隅には少しはあったんだよ?

けれども、踏破した嬉しさもあって報告に来ちゃったというのは否定出来ない。

うん、まぁ……とりあえずは機嫌がこれ以上悪くなる前に報告だ。


「えっと、そうですね……実物を見せた方が良いのかな……」

「ん? えっと、どういう……え? え? ……」


あれ? とりあえず、インパクトが大事なのかな? とか、思ってダンジョンボスの魔石を取り出して、机の上にゴトッ──と置いたのだけれども、ケイトさんの目は魔石に釘付けになってから動かなくなっちゃったぞ?

あれれー?


……


「えっと、これは……何かしら?」

「スライムダンジョンのボスの魔石です」

「そう、そうなのね……。まずは分かったわ」

「それは良かったです」

「でも、マコト? あなた、最初ここを出る際にどんな風に言っていたか思い出せる?」

「えっ? 確か様子見も含めて……」

「そうよね? それが普通よね? ねぇ、私の心臓止めたいの? これからアランと幸せ一杯な生活が確約されているのに?」

「い、いやぁ……あはは。そ、そんなことは……」

「そうよね? そうよね? こんなポンポンと普通はしないわよね?」

「えっ? いや、このくらいだったらいくらでも……あっ」

「……マコトくん?」

「いえ、なんでも有りません。心臓に悪いことをしてしまい申し訳ございませんでした」


恐いんですけど!

恐いんですけど!

恐怖体験ケイトリンバボーなんですけど!

えっ? 褒められる系じゃないの?! とか思っていたけれども、いや、踏破って滅多にというか、難しい事らしい。

流石にある程度、僕の事を分かっていたとしてもケイトさんも人の子だ。

驚いてしまった結果、あんな感じになってしまったらしい。

うん、謝られた。

問題を一緒にプレゼントされながら。


「ねぇ、マコト?」

「は、はい」

「このくらいだったら、いくらでもと言ったわよね?」

「あー、言ったような? 言ってないような?」

「言ったわよ、ね?」

「はい、言いました」

「少し、待ってて頂戴。アランに相談して、少しまとめてくるから」


そう、言ってからケイトさんが立ち去ってからギルドマスター室からガタゴトと揉めるような音が聴こえたような気がしたが僕は知らない。

「お、おい……分かった、俺が、俺の判断が間違っていた」とか、ギルドマスターの声とギャァーという声の後の沈黙があったような気がしたのも、気のせいだ。

そうに違いない。


Don't touch me──。

触れてはならない。

そういう、事だ。

うん、アランさんごめんなさい。

アランさんの事は忘れない。


そう思っているとバタバタとケイトさんが部屋に戻ってきた。


「ごめんなさいね! 色々と情報の擦り合わせとかに時間が掛かっちゃって」

「い、いえ。何も問題は無いですよ」

「……? 何か聞こえてたかしら?」

「……? さ、さぁ? なんの事でしょうか?」

「……そうね、何も分からないなら問題ないわ」


せ、セーフ。

何、これ。

黒○げ危機一髪位の緊張感。

何? どの選択がアウトなの?!

とりあえず、危機は脱したみたいだがケイトさんが取り出して、並べたクエストを見ては僕の目はそちらに釘付けになる。


「えっと、これ全部ダンジョンの討伐とかの依頼ですよね?」

「そうね、なかなかやり手が居ない。面倒なものばかりね」

「へ、へぇー……これまた大量に」

「……ニコッ」

「え?」

「……ニコッ」

「は、はい」

「好きなものからやって貰って構わないわ。報酬は弾むようにアランには言っているし、今回のスライムダンジョンの踏破は公には出来ないけれども、一応冒険者ギルド感の情報では共有することになったわ」

「公には出来ないのは……やっぱり僕の保護ですか?」

「それも大きいわね。後は、変に露呈して貴族間に突け入れられるのも癪というのもあるかしら? ある程度のランクに行くと私兵として引っこ抜いたり、そんなことが良くも悪くも横行してるから冒険者ギルドとしても遺憾だったりするのよね」

「な、なるほど……」


結構、冒険者ギルド側の私情も入っていた。

でも、渡りに船だ。

そうなるとしたら、幾つか踏破してもある程度は守って貰えるということだろう。

それに、それを見越して見繕ってくれてるクエストだと思いたい。


「それにしても、耐性が無いと辛いダンジョンが多いですね……」

「仕方ないのよ。そもそも聖魔法の使い手が少ないのもあるもの。それに使えたとしても十全に全ての聖魔法が使えるとは限らないのだから」

「確かに」


クエストを見ると蛇関連のダンジョンもあった。

まぁ、毒の典型的なダンジョンだろうな。

後は色んな魔物な混成だったり、飛行するタイプの魔物が居るダンジョンだったり。

とりあえず、癖のあるやつが多かった。

けれども、癖がある分、遣り甲斐も大きそうだった。


「とりあえず、分かりました。やりたいのからやってみます」

「うんうん。それでその……魔石はどうするの?」

「えっと……自分で保持してるのはダメでしょうか?」


ドンッと置かれてる魔石へ目を向けて、ケイトさんは尋ねて来たので僕の希望が真っ直ぐに言ってみる。


「まぁ、規定通りなら。クエストや踏破をした冒険者の自由だから、特に強制は無いわね」

「良かった……。なら、この魔石は僕が自分で持っています」


思いの外、アッサリと許可を貰えて拍子抜けしてしまった。


「あっ、だけれども……。小振りの普通の魔石なら沢山売って貰えたら……。魔石の供給量はその街の冒険者ギルドの権威と職員の査定に響くから……」

「あはは……。分かりました」

「ありがとう、マコト」


そう言ってケイトさんは申し訳なさと、嬉しさが勝ったような何とも言えない表情を醸し出していた。


「え? え? え?」

「ど、どうしました……?」

「ちょっと、待っててね。マジックバックの方を持ってくるから……」


けれども、僕が普通のスライムの魔石を取り出し始めるとある程度、量が出てきた所からその表情は驚きに変わり、更に動揺、終着点は焦りになっていた。

そして、ニッコリとマジックバックを持ってきたケイトさんはニッコニコになっていたのだった。


それから、幾つか案内して貰ったダンジョンを討伐、調査、踏破をしている中で、いつも通りに第1の鐘が鳴ってマイナの宿亭で朝食を食べて、お昼のお弁当をアイクさんに作って貰って冒険者ギルドの裏手側……そのままケイトさんに会ったら少しだけ深刻そうな表情で迎えられて僕は少しだけ警戒を残しつつ部屋に入室した。


「おはよう、マコト」

「はい、おはようございます、ケイトさん。……何かあったのですか?」


そう、尋ねると少しだけ眉をピクピクさせてから逡巡するような動作をしてから、おもむろにケイトさんは口を開く。


「ちょっと、不穏な動きを感じたらしいのよ」

「ん? それは調査依頼的なやつですか?」

「んー、そうなのだけれども。場所が厄介なのよね……」


そう言って、ケイトさんは指を机の上に広げた地図の1点をコンコンと指先でつつく。


「そこに何かあるのですか?」

「えっ? 何も知らないの?」

「ん?」

「……そうだったわね。一般教養が……そうだったわね。盲点だったわ」

「何かとんでもない事を知らないんですか、僕?」

「そうね、ここら辺というよりも帝国の人は少なからず知ってるわね」

「えっと?」

「ここにはエルフの里があると言われてるのよ」

「え? 魔の森の中ですよ?」

「そうよ?」

「そうよ? って、ケイトさん、それって危なくないんですか?」

「いえ、普通なら危ないわよ。けれども、住んでる人はエルフよ? 私たちには分からないのだけれども、何かしらの結界が張ってあって、基本は人属は近寄れないらしいのよね」

「ふむふむ?」

「ふむふむって、ちゃんと聞いてるの?」

「え、あー、はい。すみません」

「本当にマコトはたまに年寄りみたいになるわよね。最近、私も気付いて来たわ」

「そんな感じですかね?」

「うん、その返しがまんまそうよ」

「あー、はい、うん。……はい?」

「まぁ、分かってくれているのなら、何でも良いわ。とりあえず、この付近で不穏な気配を感じというのよ」

「そうなると、少し聞いてるだけでも面倒そうですよね。こちらからエルフ側には接触は計れないのですか?」

「……無理ね。基本的にエルフは排他的だから。人属は近寄れないと思うわよ」

「えっ? けれども、街中ではエルフの人が結構居ますよね?」

「そ、そうね。けれども、余り詮索したら失礼かもだから、気を付けないといけないのだけれども。一重に外の世界に興味があったエルフが出てきていたり、エルフと人のハーフだったりと耳が長いから皆エルフ! みたいな認識はご法度よ?」

「あっ、そ、そうですよね……」


ごめんなさい……。

一番最初に見掛けた時にエロ……フなんて、言ってしまってごめんなさい。

結構、大変なヘヴィーな境遇のエルフさんとかハーフエルフさんとか変わり者のエルフさんが多かったのですね。


「それにエルフ間でも、エルフとハーフエルフで線引きしていたり、エルフの間でもその属性の種類の多さと強さで優劣をつけてるとか、そこら辺はもう噂話になっちゃうけれども、あるらしいわよ……?」

「へ、へぇー……」


な、なにそれ?! エルフ社会、怖い!


「後は致命的に両者の間を分け隔ててしまってるのが人身売買ね」

「え? 人身売買ですか……?」


ここ冒険者の街ルソーレに居ても見掛けることはある。

通りの裏手側とかで売買されていたり、見世物小屋で売られていたり、まぁ……自分の見ているのは正規の奴隷商のルートの方だけれども、多分、ケイトさんが言っているのは、非正規の方だろう。


「エルフや獣人は基本的には人身売買は認可されていないのよ。いえ、流石に犯罪を犯した犯罪奴隷とかは別よ? けれども、高位の貴族向けに暗躍して、密猟と言っているらしいけれども、拉致しては強制的に隷属の首輪を嵌めて、そのまま……というのも横行しているらしいの、最悪なことに、今現在も」

「え?」

「だから、彼らは変わり者のエルフが里から出てきた所を良い人風に偽って拉致監禁したりとか一時期は酷くて、帝国の王家とエルフの里の族長とで密約が取り決めされたとか聞いたわ」

「結構、深刻なのですね……」

「そうなのよ、だから、ここら辺と言われると渋い顔に嫌でもなっちゃうのよ」

「はぁ……」

「はぁ……、って、そんなことで良いの? これから調査に向かって貰うのに」

「え?」

「え?」

「調査に向かっても大丈夫なんですか?」

「そ、そうよ? むしろ、逆に一番臨機応変に対応出来るのがマコトしか居ないとアランとも話し合ってお願いしてるのよ?」

「な、なるほど……」

「しっかりして頂戴。……いえ、違うわね。お願いします」

「あ、は、はい」

「マコトは今じゃ、うちの中の隠れた大エース様なのよ?」

「あぁ……なるほど」

「なるほどって?」

「いえ、最近変なやっかみの視線があるような気がして」

「え、そうなの?」


ケイトさんが少しだけ驚いた表情をしているが、その通りなのだ。

流石に誰でも気付いてくるだろう。

冒険者ギルドの職員が僕に対して一目置いたように接しているのだ。

子供の僕に、だ。

いつも裏手側からだけ冒険者ギルドに入っては表へは来ない。

怪しまれる要素しかない。

いや、感の鋭いやつは冒険者ギルドの年間の魔石提供量とか僕の代から急激に伸びてるから、粗探ししては当たりを付けてる人も居そうだ。


「まぁ、ある程度は諦めてはいるんですけどね」

「……そう、なの?」

「はい、元々隠し通せるとは思っていなかったので。ただ、こうやって守って貰っていると事実だけでも嬉しいのです」

「そう言って貰えるなら、冒険者ギルド冥利に尽きるのだけれども……。調査依頼は受けて貰えるのかしら?」

「もちろん。エルフの里の話を聞いたら多少なりとも興味が沸いてきましたので」

「そこら辺は本当に根っからの冒険者っぽいわよね。うん、ずっと変わらない部分よね」

「あはは……。興味が尽きないので……。あ、後、すみません」

「ん? どうしたの?」

「もし、これから先ですが。変に僕に強制的に接触してこようとして来た者が来たら、やり返していく予定です」

「まぁ、そうよね。それが無難よね」

「まぁ、僕は良いのですが。スーザンさんがおめでたになりまして……」

「ん? え? なんですって……? お、め、で……た?」

「あれ? まだ、聞いてませんでした?」

「……いえ、怪しい気配は感じてたのよ……。あぁ、私へのプレッシャーになるかもだからと、避けていたのかしら? 残念ね、私も既におめでたよ」

「え?」

「え? 言ってなかった、かしら?」

「は、はい。おめでとうございます?」

「なんで、疑問系なのかしら?」

「い、いえ。余りのことに動揺してしまって……」

「でも、分かったわ。あれね、自分の事は自分で対応出来るけれども、宿泊しているマイナの宿亭が狙われないか不安なのね?」

「そうなります」

「ふーん、ちゃんと考えられてて偉いじゃない」

「いえ、そんなことは……」

「まぁ、あそこは元々冒険者達の御用達の宿泊場所でもあるから、変にいざこざを起こすものなら……報復が怖そうだけれども。うん、ギルドの方でも少しは注意を向けるようにするわね。ただ、それだけ心配しているなら、仕掛けてくる馬鹿どもは自業自得だから、徹底的に反抗心を奪うようにしちゃえば良いんじゃないかしら?」

「ヒエッ」


久しぶりにケイトさんのブラックスマイルを見た気がした。

けれども、ケイトさんの言う通りでもあるのか。

徹底的に牙を抜いておくのも手か。

参考にしておこう。


「では、そこら辺の対処はもう少し考えておきます」

「えぇ、冒険者ギルドの方も今後のマコトへの対応も考えておくわね。……さて、スーザンの所へ行くわよ?」

「え? 今からですか?」

「当たり前じゃない」

「わ、分かりました……」


それから、ケイトさんが早上がりをして、一緒にマイナの宿亭へ突撃して、お互いにおめでた報告をして、その場に居た宿泊客達含めて、お祝いフィーバーをしたのは割愛しよう。

ただ、アイクさんが嬉しさの果てに腕を振るって料理をしてくれるようだったので、僕からも素材を提供したりして、その祝いの席の料理は歴代稀に見る美味しいものになったのだった。


「えっと、行ってきます!」

「あぁ、行ってらっしゃい。お弁当と、念のために夜食と、明日の朝食のお弁当だよ?」

「あ、ありがとうございます。えっと、スーザンさんは……」

「あぁ、ケイトと一緒に仲良く今も眠っているよ。僕もだけれども、恥ずかしいけれども、羽を伸ばしすぎたみたいだ」


確かに、今もテーブルの上では机に突っ伏しては船を漕いでる冒険者さんもチラホラ居る。

スーザンさんが元気を取り戻して、活気に溢れたマイナの宿亭は以前以上に冒険者達の御用達の宿泊施設としては大成功を納めていた。

いや、元々ポテンシャルは有り余っていたのだ。

パーティー用の部屋とソロの部屋、立地、アイクさんの手料理の美味しさにスーザンさんの接客力。

色々な足枷から解放された2人はそれを遺憾無く発揮して、今の成功を手繰り寄せたようなものだ。


「あはは……。色々とありがとうございます。距離的にはそうでもないんですが、調査ですからね。念を入れて行ってきます」

「うん、気を付けて」

「では、行ってきます!」


そうして、アイクさんに見送られつつ、僕は駆け出しては魔の森……エルフの里の近くの噂の調査依頼になった場所へとひとっ走り向かう。


「うーん、やっぱり随分と身体が……あれだよな。馬車要らず? 馬要らず? 自分が怖い!」


《名前》天神アマガミ マコト

《種族》人(半神)

《年齢》8→10

《レベル》10→25

《extraskill》全知全能 Lv6→7

《体力》∞→∞(error)

《魔力》∞→∞(error)

《魔力コントロール》Lv6→7

《身体強化》Lv6→7

《思考加速》Lv6→7

《土魔法》Lv10★

《水魔法》Lv10★

《火魔法》Lv10★

《風魔法》Lv10★

《光魔法》Lv10★

《闇魔法》Lv10★

《聖魔法》Lv10★

《無属性魔法》Lv6→7

《剣技》Lv10★

《槍技》Lv1

《弓技》Lv1

《斧技》Lv1

《鎚技》Lv1

《盾術》Lv1

《体術》Lv10★

《体力回復上昇》Lv6→7

《魔力回復上昇》Lv6→7

《攻撃力上昇》──→Lv3→5

《防御力上昇》──→Lv3→5

《鑑定/解析》Lv10★

《空間転移》──

《隠蔽》Lv10★

《収納》Lv3→6

《付与術》──

《錬金術》Lv10★


うーん、あれから何だかんだ2年経っていた。

だいぶ……だいぶ伸びたような気がする。

体力、魔力に関してもやはり増えてるようだと思う。

あの感覚は間違えていなかったのだ。

レベルもダンジョンを踏破したりして、この辺の魔物ではダンジョンボスと同じくらいに高くなっているような気がする。

まぁ、向こうからしてみたら、僕がダンジョンボスなのだろう……。

いや、半分神なのだけれども、ね。

とりあえず、後2年経つと当初予定していた成人年齢扱い部分になると思うと感慨深い。

2年前は同じような魔の森の草原部分に放り出されていたのだものね。

うーん、人生とは分からないものだ。

それがまた奥深い。


そんな感じで歩きながら悠長に魔の森へと入って掻き分けて進んでいると何かしらの音を僕の耳は拾う。


ハッハッ……──タスケ──

おーい、そっちだ!

上物だ!


「うん、ハッキリと聴こえた」


ちょっと、独り言を吐いてしまったのは割愛して貰おう。

これは、あれか?

イベント的な感じなやつだろうか?

そんな能天気の事を少なからず一瞬脳裏によぎった事は否定出来ない。


助けてッ──!


けれども、そんなどうでも良い思考は女の子? 男の子? どちらとも聞き取れる声がしっかりと聞こえた事で僕は思考するよりも身体をバネのように動かしては一気に音の発生源へと錯綜していた。


「おい、大人しくしやがれ、ガキが!」

「ほら、もう諦めな! おお、これは上物だ」

「こいつは女か? 男か? まぁ、いいや、エルフのガキは一定の層には大人気だからな! 可愛がって貰えるぞ! ぐははは!」

「あっ……やっ……め……」

「おいおい、反抗するなっ……グハッ」


ピュッと血飛沫が舞ってしまうのは許して欲しい。

余り出ないようにトンッと首もとをひと刺し、忍者刀で貫いてるのは僕だ。


「な、なにもんだ?! が、ガキ?」

「おい! 警戒を解くな! こいつがヤったんだ!」

「ッ!」

「君、大丈夫?」

「……」


これはダメだな。

驚きか、恐怖か分からないけれども、反応が全く無い。


「とりあえず、君たちは……うん、逃がさないよ」

「ちっ、何だその覚悟は既に決めてるって目はヨォ?!」

「おい、取り乱すな! ……グハッ」

「お、おい! お……い……え?」


動きが素人同然だ。

一気に近付いて同じように首をひと刺ししては、もう1人も始末する。

そのまま、生物しては機能しなくなったモノをマジックバックに収納していく僕を男の子? は途中からジッと見てきていた。


「ま、魔法?」

「え?」

「今のは、魔法?」

「魔法? ん? あー、さっきの動き?」


周囲の確認をして、人が居ないのを確認して、血飛沫の後は魔物が寄り付いたら悪いのでピュリフィケーションを施して、綺麗にして男の子? のもとに近付いて来たら、質問されていた。


「あれは単純な技術だよ。魔法でも何でもない……いや、そっか。早く動くのには要所要所で無属性の魔法で身体強化をしていたかな? コツは全体じゃなくて、人体の筋肉の構造を意識して、効率的に働きかける……事なんだけれども、って難しいよね」

「す、すごい……! すごいすごい!」

「えーと?」


懐かれた?

良く、分からないが今のこの子の瞳には先ほど映っていた絶望や恐怖の色合いは取れているようだった。

逆に羨望の色が濃いのが気になったけれども。


「えっと、君はどうしてこんなところに? お父さん、お母さんは?」

「えっ? お父さん、お母さん? んー? エルフは皆で家族みたいな扱いだから……あっ、でも、人間は違うって習ったような?」

「ん? エルフ?」

「うん?」


そう、コテンと首を傾げるとその子の白い髪から、ちょこんと長い耳が見え隠れしている。


「君はエルフだったのか。いや、あいつらはエルフって言ってたものな……、そ、そっか」

「エルフだと、何かあるの?」

「う、うーん」


いや、そんなこんな子供に人身売買の恐怖とか教えるのも良心が苦しかった。


「と、とりあえずはエルフだから……って、いうのは置いておいて、人には悪い人が多いから、気を付けないといけないよ」

「え、でも、……えっと……は悪い人じゃないよね?」

「ん? 僕の名前か?」


コクコクと高速に頷いている。


「僕は……マコト。 マコト アマガミ。マコトって呼んでいいよ」

「マコト……マコト……マコト」


おおぅ。

ちょっと呪詛のように呟くのは止めて貰いたい。

そっ……と、ずっと呟かれそうだったので口を止めさせて貰う。


「むぐっ?! ……うまぁぁぁ~い!!」

「おお! 効果てきめん」

「なにこれ! なにこれ!」

「これはね、特別なスライムゼリーなんだよ」

「スライム? あれのゼリーなの?!」

「あ、ああ……でも、特別なのはこれだけだから、普通のは食べれないからね?!」

「そうなの?! えー……」

「……はぁ。食べてもいいよ。けれども、ゆっくり食べるんだよ?」

「う、うん」


ゆっくり、ちゃんと言うことを聞いて食べているこの子を観察してみる。

結構歩いた? 走ったのか足は結構擦りむいてるのか、痛そうに見える。

それに涙跡もあるし、うーん……。


「とりあえず、ピュリフィケーション」

「わぁ! 綺麗! さっきも見たけれども、こんな綺麗な魔法、里でも見たこと無いよ!」

「そうなの?」

「うん!」


まぁ、僕の魔法は魔力が桁違いだからな……。

同じ魔法でも効果や見た目が変わるのも分かる。

それに今は人目もある訳じゃないし、うん、まぁ、良いだろう。


「さてと、後は所々を……ヒール」

「わぁ……」

「後は、サイズが合えば良いけれども……これ、靴ね」

「え? いいの? それにどこから……」

「ん? マジックバックは知らないの?」

「ううん、知らない。聞いたことはあるけれども、里では使ってる人を見たこと無いよ?」

「そういうものなんだね」

「うん」


どうやら、本当に排他的なようだ。

でも、一般知識としては教えてる? そんな感じがする。

後は里のもの全員が家族という認識なのだろうか?

ここら辺も少しだけ認識が違うのかも知れない。


「えっと……そうなると後は君は……」

「私はリリー……リリーだよ?」

「ん? うん、リリーね。 えっと……ん?」

「ん?」


私?


「えっと、リリー……は男の子だよ、ね?」

「……」

「あ、あれ?」

「……」


あぁ……これはやっちゃった。

究極の2択を間違えたやつだ。

御愁傷様ですって、どこかから聴こえて気がする。

いや、むしろ今さらになって全知全能さんが性別を教えてくれてる。

……最近、全知全能さんもスキルレベルが上がるほどに……こう、試すというか、有能になっていくというか、うん。

まぁ、僕が悪いんだけどさ。


「ほ、ほら……えーと、見て!」

「……──わぁ」


おっ!

取っ掛かりは上々。

手のひらの上で各属性の光球を生み出してはジャグリングのようにしてみたのだけれども、これは効果ありそうだ。


「す、すごい! 本当にすごい! 綺麗! 師匠!」

「そうだろう、そうだろう、綺麗だろう……ん? 師匠?」

「うん!」

「師匠って、僕の事?」

「うん!」

「リリーは弟子になりたいの?」

「はい!」

「えっと、どうして……?」

「え? 魔法とかって、憧れる人とか好きな人とか時間を掛けて学ぶものじゃないの?」

「んー? 僕も余り常識が有るわけでは無いけれども、余り聞いたことはないかな?」

「……? エルフだけなのかな?」

「じゃないかなぁ? それに人ってエルフみたいに魔力が極端に高かったり複数属性使える訳でも無いからねぇ」

「え、でも……マコトは、師匠は使えるでしょ? なんで? どうして?」

「あー……とりあえず、師匠は置いておこうか?」

「う、うん」

「……まぁ、企業秘密ということで」

「キギョウヒミツ……?」

「そうそう」

「うーん?」


子供って純粋だなぁ……。

って、違うか。

当初の目的を忘れそうになってた。


「時間も良い感じか」

「え? 時間? 分かるの? どうして?」

「企業秘密」

「またそれ! キギョウヒミツってなに?」

「ふふふ、ほら、食べれないものはあるかな?」

「なにこれ! ご飯! 美味しそう! うん、全部食べれるよ!」


近くにはMAPを見る限りは脅威は無さそうだ。

とりあえずはリリーもお腹が空いてそうだし、時間も鐘は聞こえないけれども第2の鐘、12時を回った位だから、丁度良いだろう。


カップを2つ錬金術で手早く用意して、ピュリフィケーションを施す。

そのまま空中に魔法で水を作って、軽く火の玉を当てることでお湯にして、そのまま綺麗にしたカップに茶葉を入れてはお湯をそっと、魔力コントロールを利かせながら注ぐ。


「す、すごい……え? え? それってま、ほ、う……?」

「うーん? 魔法だけれども、イメージしたものを形作ってる貰ってるだけかなぁ……。このカップは錬金術だけれども」

「錬金術? マコトは何が出来ないの?」

「え? 出来ない事か……んー? なんだろう?」


何だかリリーの羨望の視線が痛い。

うーん、憧れを持って貰っては嬉しいけれども、世界には僕以上に素敵な人も多いはずだ。

どちらかというと、僕は人から外れてる異端に近いからなぁ……。


「ねぇ、リリーはどうして、こんなところに?」


美味しそうに食べてはご飯も食べ終えて、お腹を休ませてる時に軽く本題に触れてみることにする。


「髪色を馬鹿にされて……ううん、気味悪がられてるから、嫌になって飛び出して来ちゃったの」

「髪色?」

「真っ白でしょ? エルフは金色なんだって、白は変だって」

「うーん?」


別に綺麗だけれども、遺伝的な問題なのかな?

そう、思うと多少魔力が吸われた感覚と久しぶりにナイスアシストなのか全知全能さんが情報を提供してきてくれた。


エルフの白髪

※先祖返り。

※その白さは魔力の変換効率の高さを示すもので、大変貴重な存在。


あぁー、なるほど。

確かに遺伝的な問題だ。

それにもう白い髪の事を知っている世代が居ないという事なのだろうか。

……ちょっと、これは可哀想だな。


「うーん、これは受け売りなんだけれども。髪の白さは魔力変換の効率が良い証拠みたいだよ?」

「魔力……変換?」

「うん、魔素と魔力を通して魔法を発動させやすくするパスって感じかな。だから、とっても特別で綺麗なものなんだよ。怖くもないし気味悪がられるものでもないし、大事にするものであって、そんな変なこと何かじゃないよ」

「そう、な……の?」

「うん」

「……ねぇ、マコトが師匠になってくれないの?」

「え?」

「私、皆から変な目や、奇異の目で見られるの。お家なのにお家じゃないみたい」

「……」

「ねぇ、成人したら……里を出てマコトのもとで魔法を教えてくれる? 師匠になってくれる?」


う、うーん?

ちょっとばかし重いぞ。

いや、結構重いような。

それに自分のフォローの発言が絶大な効果をあげたのか、リリーの目がちょっと……色味掛かってるような気もする。

いや、でも、子供の約束だし、大人になると自然と忘れるものだよね。

そうだ、うん。

想い出という記念という意味合いも込めて。


「なら、リリーが成人して、その時でもまだ僕のことが忘れられなかったら、その時会えたら。うん、僕はリリーの師匠になってあげるよ」

「本当!! 約束! 約束だよ! 私、成人したら会いにいくから! マコトを探すから! 約束だよ!!」

「あ、う、うん」


圧ッ!

圧がスゴいんじゃ!

なぁに、その目?!

スゴいんですけど……あれ、想い出じゃないの?

何か、すごい選択をしてしまったような気がするけれども後の祭りだ。

と、とりあえず今はこの場を納めよう。

うん、いや、問題の先送りとか言わせないよ?

いや、嘘。

言わせて貰いたい。

無理だよ、僕もまだ男の子だよ?

それにちょっと良く見たらリリーは女の子だと意識したら結構……ボーイッシュだけれども、可愛いような……いやいやいや。

思春期か! いや、思春期の年齢だった!


「あー、うん。よし!」

「ふぇ?!」

「あ、ごめん。驚かせちゃったね、こっちの話……」

「んー?」


いや、何気にそう思うと傾げる動作も無駄に可愛いな、おい!


「あー、僕はこの辺を調査に来たんだ。冒険者ギルドの依頼で」

「マコトは冒険者なの?」

「冒険者ギルドは知ってるの?」

「うん、習った。色々なお手伝いとかやってるんだよね?」

「うーん、その認識で間違えては無いかな?」

「へぇー、マコトは1人だやれてるんだ! やっぱり、スゴいんだ!」


その変にうなぎ登りに評価上がるのはどうにかならないのだろうか?!

いや、悪い気はしないんだけれどね。


「うーん、まぁ、そんな感じ。だから、この辺を調査するんだけれども、それと合わせてリリーをお家まで送り届けるよ」

「……いいの?」

「じゃないと、帰れないでしょ?」

「う、うん」

「よしっ、なら行こっか」


座っていた足をパンパンと叩きながら、身体全体を伸ばす。


「え、えっと、マコト……」

「うん?」

「ごめん、私、まだ……」

「あー……まぁ、あんなことがあったばかりだし、知らない所だものね。いいよ、ほら手繋ごう。片方空いていたら、大丈夫だから」

「う、うん!」


まだまだ、やっぱり恐怖は残っていたらしい。

リリーの手を引いては立たせてあげて、周囲を警戒しつつ、僕は歩き出す。

遠くにMAPから魔物や野生の動物が居るとしても、そこを狙い済まして、軽く威嚇の魔法を放つと、どれもここら一体の魔物は遠くへ逃げていってくれる。


「森が静か……こんな静かなの不思議」

「そうだね、魔物も居ないからかな?」

「マコトが何かしてるの?」

「んー? 企業秘密~」

「あっ! また出た! キギョウヒミツ!」

「ははは!」


リリーのやきもきした顔が可愛くて笑ってしまう。

でも、ちゃんと全知全能さんを用いて周囲の情報の精査は忘れない。


どうやら、不穏な気配は先ほどの人身売買している拉致犯のグループらしいと、ほぼほぼ僕と全知全能さんの中では固まっていた。


そして、今は絶賛何となく歩いている風を装って絶賛エルフの結界だろう反応がある場所へと歩いている最中だった。


「止まれッ!」


おや、アタリみたいだ。


「えっ?!」

「むっ? リリーか? それに隣は子供?」

「す、すみません! 発言の許可を貰っても良いでしょうか?」

「……許そう」


ガサガサ──と、近くから他のエルフの人も出てくる。

特に驚くこともない。

彼らの気配を捉えて、そこ目掛けて歩いてきたのだから。


「ん? 驚かないのだな?」

「まぁ、こういうものですから……」

「冒険者カードか……ブラック? ん? お前、まだ子供だよな?」

「まぁ、一応見た目通りです」

「そんな一流の冒険者が何をしに来た」

「いえ、不穏な気配があるからと調査依頼でここら一体の調査に来たんです。何かあると困るからと臨機応変に動ける私が選抜されました。そして、魔の森に入ったところで、不届き者が、隣に居ますリリーさんを拉致しようとしていた現場に遭遇し、それを捉え、そして、リリーさんを送り届けようとここまで歩いて来た次第です」


そうして命が絶たれた男達をマジックバックから放り投げる。


「むっ、こいつらがその拉致犯なのか?」

「はい。身柄はこのまま譲って貰えたら助かります。グループの可能性がありますので、しっかりと人側の方で調査したいと思います」

「……実害は……無いのだな。リリー、無事か? 里の皆が心配していたぞ」

「……はい」


……少しだけ、視線を反らしてはリリーを確認したエルフはリリーの言葉を聞くと頷いて僕を見てくる。


うーん?

確かにこれは嫌われてると言うよりは忌避されてるような?

確かに、居心地は悪そうだというか……。

これはちょっと深刻なのでは? と思ったけれども、でもそれでも他族の事だ。

口を簡単には出せるものではない。


「分かった、お前の……言葉を信じよう。リリーはそのままこちら側へ歩いて来なさい。後で族長からお叱りの言葉があると思うがしっかりと聞くように。お前はこのまま反対へと立ち去って森から出ていくといい。大人しく出ていけばそれ以上は何もしないのと何かあったとしても、それは不問にしよう」

「寛大な処置、ありがとうございます」


そう言って頭を綺麗に下げると、何名かのエルフは不思議な者を見る目をする。

そっか、余り腰から綺麗に頭を下げるのはしてる人居ないのか。

ま、いいか。


「リリー、それでは元気で」

「約束!! ……ッ!」


リリーはそれ以上は言わなかった。

周りの大人のエルフの有無を言わせない雰囲気が彼女の口を塞いだのだ。

ニッコリと微笑んでは僕はリリーに応えて、僕は手早く魔の森から離れては森から出たら急ぎ、周囲の状況をMAPで確認して追手がもう立ち去ったのを確認してから駆け出しては冒険者の街ルソーレの冒険者ギルドへと向かうのだった。

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排他的っていうのは良いところも悪いところもありそうですね。

きっとリリーにとっては、マコトとの出会いは衝撃的だったのでしょう。

リリーはまたマコトに会える日が来るのでしょうか?

とりあえず、マコトは急ぎ報告をしないと行けなさそうですね。

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