望まないアンコール
楔梛視点続きます。
「すぅ……すぅ……」
「あれ?優維寝てる?」
「ああ、さっきのは寝言だったみたいだ」
「寝言……?」
あんなにはっきりした寝言があるのか。だが、現に今寝てるしな。
…………小さいな。クロが肩車をしたままだが、頭の上に優維の頭が乗っていてクロが帽子をかぶっているみたいになっている。
さらに観察すると、短いながらもサラサラの黒髪、柔らかそうなほっぺ。服は煤や埃で汚れていて、俺の封印を解くために戦闘でもしたのだろうということが分かった。
「めごいな……」
「俺の娘だぞ」
「ハハッそうだったな」
そんなドヤ顔して言うことか?と思ったが、その顔がとても自身に満ちていたので少し笑ってしまった。
「何かお礼をしないとな」
「じゃあ、一緒にお花見してあげて。優維楽しみにしてるから、もちろんあたしも」
「そんなことでいいのか?もっと豪華なものでも……」
「ホッホッ、わしが褒美を聞いても籠いっぱいのリンゴという子じゃよ?」
「え、リンゴだけ!?」
「ああ、そういや家に大きな籠に入ったリンゴが届いていたな。そのまま食べても、アップルパイにしてもうまかったな。さすがに多かったから、残りはロジーがジャムにしてくれてたな」
褒美で籠いっぱいのリンゴだけ?なんて無欲な…………。
「ココ爺に気を使って、とかではなく?」
「そうじゃと思って再度聞いたんじゃが、それがいいとな」
「そうなのか……」
「優維はすごく嬉しそうだったぞ?もし尻尾があったら、千切れるんじゃないかってくらい振っていたと思うぞ」
それは少し見てみたかったな。
「あ、もう一つあったわ。楔梛の鬣をモフモフさせてあげて」
「モ、モフモフ?」
「あー、そういえば言ってたな」
「至極真面目な時に大声で言ってやしたね……」
「モフモフは正義なんだよ?あたしも陽翠のをよくモフモフさせてもらってたからね!(フンスッ)」
「おじい様……」
そういえば、おじい様がそんなことを言っていた気がする。
『凛は俺の鬣が好きでな。よく触ったり、顔をうずめたりしていたぞ。あの頃から鬣の手入れだけは欠かしたことがなかった。まあ凛は、どんな鬣でも俺のは特別なんだと言ってくれたがな』
思い返すと、さらっと惚気てたな。似たもの夫婦だったのか。
「では、それも叶えよう」
「楔梛様、先に言っとくけど優維はストップって言うまでやり続けるからな」
「そ、そうなのか?」
「あら~ストップかけないのも面白そうね~」
「………限界だったら、あっしが止めやすぜ」
「う、うむ」
覚悟はしておこう。
「イッヒッヒッ!何やら遅いと思うて来てみれば、これはこれは楔梛様」
「……その笑い方、変わってないんですね。鳥ばあ、ご無沙汰しております」
「イッヒッヒッ、50年ぶりじゃのう」
鳥ばあは俺が小さいころから変わらない姿で、笑い方で悠々と歩いてきた。
そういえば、最初はあの笑い方が怖かったが今はもう平気だ。ただ、今みたいに急に来られると驚きはするが。
「まあ、積もる話もあるじゃろう。ひとまず皆わしの家にきんしゃい」
ずっとここで話しているわけにもいかないので、皆その言葉に頷きココ爺の家に行くことになった。
「ここじゃよ」
「木、大きくなりましたね」
「ホッホッ、まだまだ序の口じゃよ」
以前来たときも見上げるくらいあったが、今は離れていても首が痛くなるくらい上を向かなければならないくらいの丈になっていた。それくらい時が流れたのだと、少し悲しくなった。
「楔梛様、どうした、の?」
「いや、何でもない」
「ん。なら、行こ」
「行きましょう。長がお茶を用意してくれてます」
ココ爺のお茶、久しぶりだな。
ディグとヒミに連れられて中に入ると、ちょうどお菓子をテーブルの上に準備している最中だった。スルク先生が準備していたので、すぐにヒミが手伝いに行ってしまった。
「長、ベッドを借りても?」
「よいぞ」
「ちょっと優維を寝かせてくる」
「あら~、じゃあ優雅ちゃんは私がみてるわ~。ヒミは皆とお茶飲んでていいわよ~」
「ありがとう、スルク先生」
「んーん。お茶とお菓子、持って、スルク先生と、一緒、いる」
「あら~ありがと~」
まだ優雅は寝ているのか。あの砦の中で五月蠅くしても寝てたから、心配になってきた。
「なあ、スルク先生。優雅は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ~。ちょっと疲れて寝ちゃってるだけだから~」
「そうか」
楔梛様も無理はしないで、今はゆっくりしないさ~いと有無を言わせない感じで言われたので、少し後ろ髪をひかれながらもお茶の準備がしてある所へ戻った。
「楔梛様、こちらへ」
「リー、ありがとう」
リーに促された席へ座る。俺が座ったのを見てから、各々自由に座り始めた。
「まずはお茶と菓子を頂こう。お茶はわしのスペシャルブレンドじゃ」
「いただきます」
カップを口に近づけるとフワッとハーブのいい香りがした。口に含むとほのかな甘みとミントのような爽やかさを感じる。すっきりと頭が冴えるような感じがした。
お菓子は色々な形のクッキーだった。甘さは控えめだったのでこのお茶によく合う。
ひとしきりお茶を楽しんだあと、凛おばあ様が話を切り出した。
「楔梛、起きたてで悪いんだけど、今回のことはまだ終わってないの」
「…………」
俺の封印だけでは終わらないだろうとは思っていた。
「カパプは、王族に転移する魔法、呪いをかけていたの。そして、その転移によって魔力を蓄えて、今回の封印を作った。この呪いの元を絶たない限りは、今後も楔梛は狙われ続ける」
「その呪いは、今も王族に?」
「ええ」
「はい」
急にディグが手を挙げて、話を遮る。
「話を中断してしまい、申し訳ありません」
「構わないわ。ここは王宮でもなんでもないもの。好きに発言して頂戴。それで何か情報があるの?」
「ありがとうございます。まず呪いが代々続いている、これは事実ですか?」
「ええ、カパプが嘘を言っていないなら。それに奴が魔法を使えていたのは、今の王族から体力を奪っているからだとも言っていた。それに嘘はないと思う」
「そうですか……」
ディグは考えるような素振りをすると、言いにくそうに言葉をつづける。
「呪いのせいだと思われますが、現在の王、ライル王は前王が亡くなってから、ずっと床に臥せております。現在の容態も芳しくないようです」
めごい、めんこいは方言で可愛いって意味です。