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俺は何者?

 楔梛視点です。



「王様は50年封印されていやした。今はかつての王族が国を治めていやす。

 かつての仲間は散り散りになってしまいやした。それでもあの国に残っている者、このウパシであっしたちのように定住している者もいやす。これが大雑把な現状でさぁ」



 シューマに言われるがままついていっているが、道中シューマ以外何もしゃべらない。

 因みに凛おばあ様は泣き止んだ後に、地面に下ろして今は俺の隣を歩いている。


 数分歩いただろうか、開けた空間に出た。そこにはたくさんの剣を模した木が刺さっていた。



「ここは、墓場か?」

「ええ。だけどただの墓場じゃありやせん。

 我々と志を同じくし、精霊になった者たちの墓でさぁ」

「——————ッ!!」



 その言葉に驚き、あたりを見回す。よく見ると木で作られた剣だけではなく、刀や杖などの武器も突き刺さっていた。その刀や杖の中には見覚えがあるものもあった。

 あの国で俺が助けられなかった命の数が、ここにあった。



「ッガアアァァアアア!!!」



 俺の咆哮が、嫌に響いた。

 それが哀しいからなのか、怒りからなのか、はたまた別の感情か。とにかくいろんなものがグチャグチャに混じって、吠えずにはいられなかった。



「俺は、あの時、皆を助けることができなかった!王なのに!」

「……王は最後まで戦ってくれていたことを、皆知っております」

「それだけだ!父上やおじい様なら退けられた」

「あの軍勢に、未知の武器、先代でも退けられたかは分かりません」

「それでもッ可能性は、俺よりはあったはず……ッ!」

「……王様」

「やめろ。俺はもう王ではない。皆を守ることができなかった。俺は、王失格だ。

 俺がもっと強ければ、もっとちゃんと国を治めていれば……いっそ俺じゃなければよかった!!」

「……本当にそう思ってるんで?」

「ああ、俺はッ王失格だ!!!最初から、俺じゃなければよかったんだ!!」



 俺の情けない声が響いた。

 皆の顔を見ることができない。



「王「やめてよ、王様」カロさん?」

「昔の自分を否定するのは、やめてよ。それはここにいるみんなへの侮辱だよ?」

「ッでも!」

「でももだってもないよ。君はいつもそうだ。誰かと比べて自分を卑下する。傲慢になるよりいいけど、かといって過小評価すぎるのは悪い癖だ。

 そんな中でも、一生懸命国民のために努力していた君を知っている。もちろん全部いい結果になるとは限らなかってけど、失敗を糧にして良くしよう良くしようとしてくれた。

 ボクたちは君のおじい様のことはよく知らないし、君のお父様のこともボクたちが小さいころだったからよく覚えてない。すごい人たちだったのは文献に書いてあるから知ってるけど、実際どんな人たちだったか知らない。

 先人がどうだったかなんて知ったことか。ボクたちは楔梛様をずっとみてきて、この人の役に立ちたい、支えてあげたいと思ったんだ。君は紛れもなくボクたちの王様だった」



 カロがこんなに思ってくれていたことを初めて知った。クロやリー達もうんうんと頷いていたので、同じことを思ってくれていたらしい。



「だから、ね、王様。過去の自分を、ボクたちの王様をどうか否定しないで」

「……カロ……それでも、俺は……」



 そう言われても、俺は過去の自分を肯定することはできない。

 


「ふー、王様も意外と強情だよね。こんなにネガティブだとは思ってなかったけど」

「う、ごめん」

「わー謝らないでよ!ボクたちがちゃんと気持ちを伝えなかったことも悪いんだし!そんな泣きそうな顔しないで!」



 どうせ俺はネガティブだよ。そんな自分が嫌いだ。

 ダメだ、何でかわからないけどどんどん涙がたまってくる。



「やーい、カロさんが泣かしたー!」

「うむ、泣かしたな」

「そこうるさい!いつも君らの方が泣かしてたくせに!」

「む、己は見込みがあると思って少し厳しくしてしまっただけだ。実際強くなったしな」

「いや~だってからかいがいがあって可愛くてさ~。ほら、可愛い子ほどいじめたくなるっていうだろ?」

「だが泣かしたのは事実。王様、あの時はすまなかった」

「リーはいいけど、クロ!このいじめっ子!」

「あ、リーさんずりぃぞ!あの時は悪かったな、王様!」

「あはは…………」



 俺そっちのけで3人でガウガウやり始めてしまった。なんかこのやり取り、昔に戻ったみたいだ。

 いつの間にか涙も引っ込んでしまった。


 気持ちも少し落ち着いてきたので、ディグに気になっていたことを聞いてみた。



「なあ、今の国はあの頃より住みよいか?」

「…………実状を話しても?」

「許す」



 ディグが一呼吸おいて話し始める。



「当時より経済は徐々に上向き傾向です。住みよいかは、各々思うことはあるようですが悪くはないようです。それに、残念ながら人々は王のことを徐々に忘れていっています。50年という歳月は人間にとってはとても長く、獣人にとっても決して短い時間ではありませんでした」

「そうか…………」



 俺はもう必要とされていないのか。



「王様—————」

「よせ。俺はもう、王ではない」



 反論の声はなかった。



「じゃあ、ただの楔梛様?」

「優維?」

「俺は………」



 王ではない、俺はなんだ?



「王様じゃなくなっても、楔梛様は楔梛様でしょう?」



 俺は俺?



「…………ウッハッハ!そうだな、王様じゃなくなっても楔梛様は楔梛様だ!」

「うん、そうだね。ボクらが知っている楔梛様は、この世に一人しかいないよ!」

「うむ」

「あら~いいこと言うわね~」

「なんかいいとこ掻っ攫われた感じでさぁ」

「まっオレたちは王様だったころの楔梛様を知らねぇしな~」

「ん、楔梛様、これから、知ってく」

「ヴォッヴォッヴォッ」

「みんな…………」



 こんな俺でも、俺のままでいいのか?



「楔梛」

「凛おばあ様………」

「おかえり」



 やめろよ、また泣いちゃうよ。



「ああ、そういえば言ってなかったな!おかえり、楔梛様!」

「刹那様、おかえり」

「御帰り」

「おかえりなせぇ」

「おかえりな~い」

「「おかえり」」

「ホッホ、おかえりじゃ」



 ほら楔梛、と凛おばあ様がポンと足を叩く。

 涙を乱暴に拭って、大きく息を吸い込む。



「ただいま、みんな!!!」






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