伝えたいことはちゃんと言葉にしよう
「…………うぅ……」
「王様!」
「……その声、カロか?」
「オレもいるぞ!」
「王様、お加減は?」
「クロ?リー?俺は……」
楔梛様が目を覚ましたみたい。クロさんたちが代わる代わる声をかけているけど、まだぼんやりしているみたいで反応がよろしくない。
「あらあら、ちょっと行ってくるわね」
「あ、私も……」
「ユイ、飲んで、から」
「そうね~。ヒミ、飲みきるまで見ててくれる?」
「らじゃ」
スルク先生はそういうと足早に楔梛様の所に向かった。
ヒミちゃんがずっとこっち見てる。見てなくてもちゃんと飲みますよ?さっきは早く行きたいな~って気持ちが出ただけだから。
「ぷはっ飲んだよ!」
「ん、オッケー。立てる?」
「うん、ありがとう」
ヒミちゃんが瓶が空になったのを確認してから、手を差し出したのでそれに掴まって立ち上がる。
うん、さっきよりはだるくない。さて、楔梛様の所に急ごう!
「まだ、走る、だめ」
「う、分かりました」
歩いていきます。
「うん、魔力は減っているけど数日ゆっくり休めば問題ないわ~。あとは、目立つ傷の手当てもしちゃうわね~」
「スルク先生、手伝う」
「あら、お願いするわ~」
「ん」
「すまない。ありがとう」
楔梛様の所に着くなり、ヒミちゃんはさっさとスルク先生の手伝いをしにいってしまった。
せっかくなので、おとなしく治療を受けている楔梛様を観察してみた。
ほわ~やっぱり綺麗な白い体毛をお持ちで。目を引くのは立派な鬣と、黄緑の目。いや、光の当たり具合によって赤にも黄色にも見える。元の世界で、たまたま自分の誕生石を調べたときにあったスフェーンという宝石みたいだと思った。
「優維〰〰〰〰!!!」
「クロさん!?」
ガバっといきなり後ろからクロさんが私を抱き上げ、どこぞの獅子王のワンシーンのごとく上に持ち上げられる。私は子ライオンじゃないんですが!?
「優維~!無事でよかった~!!」
「あの!うれしいのはわかったから、おろして!恥ずかしい!」
「ウッハッハ、すまんすまん」
といいつつ、クロさんが肩車してくる。あ、下におろしてはくれないんだね。
まあ、クロさんの毛並みも好きなので許そう。
「クロ、その子はお前の子供か?」
「おう!娘の優維だぞ、王様!」
「は、初めまして」
「優維ちゃんが王様の封印を解いてくれたんだよ」
「へ?いやいや!私ができたことなんてほんの少しで、ほとんどクロさんたちのおかげですよ!?」
私がしたことなんて時間稼ぎと、壊れかけの要の剣を砕いただけだ。
カルヴァロさんは要の剣をボロボロにしたし、リーンヴォックさんはローブおじを無力化したし、クロさんなんて外の結界を壊してなおかつ楔梛様の防護壁と氷を壊した。他のみんなも私が知らないだけで色々と作戦のために尽力していた。私よりも貢献している。
「いや、優維がいなければできなかった」
「え?」
「ホウホウ、お主がいなければわしらも諦めておった」
「うん、優維がいなかったから王様はずっとこのままだったかもしれない」
「おう。オレもずっと結界殴り続けてたかもしれねぇ」
「それはロジーの姐さんが心配するんでやめてくだせぇ」
「君がボクらに希望をくれたんだ」
「それに、優維がいなかったら、あたしは今ここにいなかった」
「凛さん…………」
「……凛…おばあ様……?」
凛さんは以前夢の中で見た姿、人間の少女の姿でゆっくりと後ろから歩いてきた。
「優維、楔梛を助けてくれて、あたしの我が儘をきいてくれてありがとう」
「……私がやりたかったからやっただけ。お礼を言われるようなことはしてないよ」
「もう、こういう時くらい素直に受け取ってよ」
「あはは、どういたしまして」
凛さんは満足げに笑うと、楔梛様に向き直る。
するとすぐにいつもの子熊の姿に戻ってしまった。楔梛様はそれに目を見開きつつも、まっすぐ凛さんを見つめていた。
「今はこんな姿だけど、貴方のおばあちゃんの凛よ。楔梛、貴方にはあたしのせいで辛い思いをさせてしまった。本当にごめんなさい」
「おばあ様………」
「あたしたちの甘さのせいで、呪いにかかった王族が貴方を封印してしまった。あたしは貴方の大事な時間を奪ってしまった。謝っても謝り切れない。
楔梛、あたしは貴方に怨まれて怒鳴られてしかるべきだと思う。
でもね、陽翠は怨まないであげて。怨むならあたしだけを怨んで」
「………………」
言い終わると凛さんは首を垂れる。楔梛様は黙ったままだった。
——————————————楔梛視点——————————————
目の前の子熊が凛おばあ様だということに驚きはしているが、なぜかすんなり受け入れて話を聞いている。魔力のせいか、はたまたその口調のせいか、本能的にこの人は凛おばあ様なのだと。
まだ現状をはっきりと理解しているわけではないが、俺は長いこと封印されていたらしい。クロに子供ができているし、他のみんなも年を取っている気がする。
おばあ様はしきりに謝罪の言葉を発する。
その姿が、いつかのおじい様の姿と重なった。
『俺は彼らの怨みをかった。当然だ。
彼らを追放し、監視をつけたがそれも甘いのだろう。だが、凛も俺も悩んだ末の決断だ。ウェンカ王には正気に戻ってほしかったんだ。この先、俺達の決断のせいで怨みをかうこともあるだろう。その時は、怨んでくれ。
だが、お前のおばあちゃん、凛は怨まないでほしい。怒りや怨みは俺だけにぶつけろ、いいな?』
どうして、おじい様もおばあ様も同じことを言うんだ。
俺はこの襲撃や封印が、その呪いのせいであったとしても二人を怨むことは一生ない。むしろ、こんな双方思いやれる人たちをどうして怨むことができようか。
「頭を、あげてください」
「(フルフル)」
「あげてください」
おばあ様は再度首を振って、頑なに上げようとしない。
おばあ様なのに今は小さい子供みたいだ。
仕方ないな、ゆっくり立ち上がり凛おばあ様のもとに近づく。一歩近づくごとにおばあ様が緊張していっているのが分かった。少し申し訳なさを感じながらも、歩みは止めない。
これだけは、目を見て伝えなきゃいけないんだ。
凛おばあ様の前までつくと、その場でしゃがみおばあ様を優しく両手で目線の高さまで持ち上げる。
目が合うと一瞬怯えがみえたが、次には決意のこもった強い目で見つめ返してきた。
「凛おばあ様、俺は今までもこの先何があろうと、貴方を怨んだこと、怨むことはありません」
「…………ぇ?」
「もちろん、おじい様もです。だって、二人は俺にとって最高のおじいちゃんとおばあちゃんですから」
だから、泣きそうな顔しないで笑ってください。