皆のわがまま
凛視点です。
今日は一気に2話更新しましたが、どちらも同じ時間軸で会話も同じなのでどちらか一方だけ読んでも話は繋がります。
皆のわがままは凛視点、未来の予定って意外と大事は優維視点です。
「…………ゲホゲホッ」
『凛!』
『凛ちゃん!よかった~』
「ゲホッあたし寝てた?」
『いいや、少しだけじゃ。驚いたぞ。カパプが攻撃をやめたと思ったら、お主らが飛んできおったからのぅ』
くっそまじアイツムカつくわ~!
あんな至近距離で音の上級魔法打ちやがって!おかげで一瞬意識飛んだわ、全く!
当の本人は静観してるし、何なのアイツ!!
待って、お主”ら”?
『優維、起きろ!優維!』
「優維!?」
少し離れたところに優維が倒れていた。
クロが結界越しに呼びかけているが、一向に起きる気配がない。
急いで駆け寄って、状態を確認する。
「優維、優維!」
『だめね~。さっきから呼びかけてるけど、返事がないのよ~』
意識はない。
口元に頬を近づけて呼吸の確認。よかった、呼吸はしてる。脈もある。
『目視で目立った外傷はなさそうだけど、何か強い力で吹き飛ばされてきたから、服をめくって上半身を確認してくれるかしら?』
「わかったわ」
言われた通り服をまくる。もちろんクロ達には後ろを向いてもらっている。というか自主的に皆後ろを向いた。そうしないと後が怖いからね。
思わず眉をしかめてしまった。
腹部が全体的に赤みを帯びていた。
「スルク先生、お腹全体が赤くなってて、熱も持ってる」
『内出血と熱感ね~。”抗炎症”は使える?』
「ええ、あまり強くはできないけど……」
『それでいいわ~。最初はできる範囲で強く、徐々に弱めていってね~』
「わかったわ。”抗炎症”」
治療魔法はあまり得意じゃない。制御が繊細過ぎて、なかなか使用者が増えない。だからこそ、薬は画期的だった。今まで一部の限られた人にしか行き渡らなかったものが、今では田舎でもある程度の治療が受けられるようになった。
話が逸れたわ。
赤みが徐々に薄れてきた。魔法が効いているみたい。あとは少しずつ威力を弱めて、完全に止める。赤みも熱もなくなったみたい。
「ゲホッ……うーん」
『「優維!」』
「あー、凛さん、クロさん………うーなんかまだ頭がぐわんぐわんする~」
『優維ちゃん、立ち上がれそうかしら~?』
「んー、うわっ!」
「あぶなっぐえ」
「わっ凛さんごめん!」
「大丈夫~」
優維が立ち上がろうとしたら、すぐ転びそうだったので咄嗟に下に入った。案の定、つぶされて蛙みたいな声が出た。とりあえずこれ以上怪我しなくてよかった。
『ちょっと三半規管が狂ってるかもしれないわね~』
「ええ!?」
「…………音魔法ね」
『そうね~。少し休めばよくなると思うわ~』
「…………優維、ありがとう」
「……え?」
優維は本当によくやってくれた。でも、これ以上あたしの我が儘に付き合わせるわけにはいかない。
「もう休んでて。優維は自分を守ることだけに専念、あたしがアイツを引き付けておく」
「え、え?」
『凛さん?』
「ほら、皆も持ち場に戻った戻った」
『でもッ!』
「戻って」
皆、困惑しつつも作戦通りの場所に戻る。そう、それでいい。圧力かけてごめんね。
腕輪、いらないかな。まだ制御はできてないけど、奴を抑えるためには外すしかない。出し惜しみはしない、全力で!
腕輪に手をかけ、はず—————————
「ストップー!!」
「うわっ優維!?」
腕輪を外そうとしたら、優維がタックルをする勢いで抱き着いてきた。
「どうしたのよ!?」
「いや、なんか、何となく……」
「何となくって?」
「…………このままいかせたら凛さんがいなくなりそうな気がしたから」
ドキッとした。なんで分かっちゃうんだろ。
精霊も魔力がなくなれば消滅してしまう。
制御もできてなくて、加減もできない状態で魔法を連発すれば魔力が尽きる可能性は0ではない。
「大丈夫、あたしはいなくならないよ」
「本当?」
「…………」
返事ができなかった。
優維にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。たとえ、あたしが消滅したとしても。
「約束………」
「え?」
「約束、忘れたの?」
もちろん、覚えている。
”楔梛もあたしも一緒に、皆でお花見をする。”
そのあとに、指切りげんまんしたことも覚えている。嘘つきになっちゃうな。
「覚えてるよ」
「私は、楔梛様もだけど、凛さんもいなきゃ嫌だよ?」
「…………」
あたしを離さずに優維と向き合う形で抱きなおし、優維が語り掛けてくる。
あたしだって本当は嫌だよ、でも優維があたしの我が儘のせいでこれ以上傷つくのも嫌なの!
「あたしだって皆とお花見したいよ!でも!」
「私は、凛さんと楔梛様、私の家族、リコちゃん、ヒミちゃん、ディグ君、リーンヴォックさん、お世話になった皆とお花見がしたい!」
優維の声はそんなに大きくなかったのに、なぜかこの部屋全体に響いた気がした。
『ウッハッハ!楽しみだな、お花見!』
『フッ己も食事を頼まれている』
『ボクも!ボクも行っていい?』
『あら~私もいいかしら~?』
『あっしもいいでやすか?』
「喜んで!」
『ん、ん!』
『ハハッ楽しみだな!』
『ホッホッホッ』
クロが笑い出したのを皮切りに、皆楽しみだと話し始めた。さっきまでの緊迫した空気が嘘のようだ。
いいの?
封印の元凶になったあたしが、皆の未来にあたしがいてもいいの?
「ほら、皆もお花見したいって」
「…………いいの?」
皆一瞬キョトンとしたもののすぐに笑顔になる。
「いいに決まってんじゃん!」
『ウッハッハ!もちろんだ!』
『無論だ』
『うん!』
『そうね~お酒でも持っていこうかしら~』
『じゃああっしは細々した物品を持っていきまさぁ』
『ん!(グッb)』
『おう!(グッb)』
『ホウホウ、ええんじゃよ』
どうして私の周りの人は、こんなにも優しいんだろう。
あれ?こんなに視界悪かったっけ?
いつの間にか目から流れていた雫を、優維が指で拭ってくれた。
「ねえ、凛さん」
「グスッ……何?」
「私たちのお願い、叶えてくれますか?」
我が儘姫にわがまま言うなんてね。
「叶えてやろうじゃないの!でも、その前に—————」
「うん、楔梛様助けて、一緒に逃げよう!」
あたしは我が儘姫、自分のわがままもみんなのわがままも叶える!
凛さんがやっと前向きになりました。