魔法使いは接近戦が苦手って誰が言ったんだろうね
優維視点で第一楽章終了のすぐあとから続きです。
「いやいやいやいや!!」
どう考えたって多すぎる!そして滅茶苦茶速いよ!何この鳥!
さっきかすったけど、それだけでビリビリしたよ!あんなんが直撃したら感電しちゃうよ!
「ふむ、よく避ける。ダンスは得意かね?」
「踊った、こと、はっないので、わかりません!」
ほんっと楽しそうだな、このローブおじ!!
しゃべっている間もバンバン鳥が突進してくる。1個でも直撃してしまえば、集中砲火にあうだろう。足を止めたらだめだ、まだ、だめだ。
「このやろッ」
「おっと、口が悪いな、我が儘姫。やはり貴様も獣の仲間だな」
凛さんが氷塊?を飛ばして攻撃するけど、簡単に防がれる。
意識は一瞬それたはずなのに、こちらの攻撃の勢いは全く落ちていない。
「あの子ばっかり狙って、やることが陰湿よ!」
「弱い者から狙うのは当たり前だろう?」
「それこそ獣の考え方じゃないの?」
「獣?違うな。これは戦術の基本というものだ」
ですよねー、弱そうな方から狙うよねー。私の見た目、ただの小娘だもんねーってやかましいわ!
そんでまた屁理屈言ってるよ、このローブおじ。弱肉強食は自然界のルールでしょうが。そこに人間も動物もないわ!
それにしても、こんだけ魔法連発してるのになんで疲れた様子一つないんだろう。
精神体って精神だけの存在ってことだよね?魔力を作るには精神力と体力が必要。凛さんは精霊だからよくわかんないけど、その法則はローブおじには当てはまらないのかな?
「わっと!」
「なんだ、考え事でもしていたのか?意外と余裕だな」
「色々考えるのはあと!今は避けることに集中して!」
私の足元を狙って鳥が飛んできていたのを、慌てて避ける。
危ない危ない。ちょっとだけ現実逃避という名の考え事をしてしまった。
「”水飛沫”!」
「”嘲笑う音”」
凛さんが無数の水を飛ばして攻撃をするも、ローブおじがすべて撃ち落とす。落ちた水がバチバチと結構な音を立てる。
「もうちょっと静かに聞けないのかね。あの娘のように」
「あら、拍手をしただけよ」
「まだ演奏中だ。曲の区切りがわからん獣め」
なんか二人でバトり始めた。
ローブおじの意識が、やっと少しだけ此方から逸れた。それでも攻撃は続いてるけど、最初よりは勢いが落ちた、気がする。
ふう、と少し気を抜いたのがいけなかった。
「演奏中は常に集中して聞くものだ」
「……え?」
さっきとは比べ物にならない速度で氷塊が飛んでくる。
咄嗟に結界でガードしたけど、そのせいで足が完全に止まってしまった。
ガガガガッ!!!
うるさっ!!てか威力つよっ!!
雨のように氷の鳥が降ってくる。いや、嵐に近いか。家の中にいて風がめっちゃ吹いてて、雨粒が容赦なく窓をたたいてる感じ。結界の周りもほこりやら、地面が削れた破片やらで煙幕みたいになっていて全然外の様子が分からない。
「——ッ!」
「—————————」
凛さんとローブおじが何か喋っているようだが、何を言っているのか全然わからない。
ていうか本当にガンガンとうるさい!それに、一つ一つの威力も高いからどこまで持つかわからない。
音が鳴りやまない。地面に汗が落ちる。正直結構キツイ。
『優維ちゃん、凛ちゃん、聞こえる?』
「なん、ですか!?」
『聞こえてるわ』
インカムからカルヴァロさんと凛さんの声が聞こえる。凛さんもどうやら無事みたいだ。
『こちらの準備は完了した。いつでもいける』
『優維ちゃん達はそのまま奴を引き付けてて。ボクが叫んだら要からできるだけ離れて』
「了っ解!」
『わかったわ』
リーンヴォックさんから準備完了の連絡と、カルヴァロさんから合図の連絡。勢いで了解って言ったけど、カルヴァロさんが叫んだらってどういうこと?雄たけびが聞こえたらッてことでいいのかな。
あれ?
いつの間にか音がやんでる。
どうしたんだろう?
まだ周りは攻撃でできた煙でよく見えない。
「”復讐のヘ短調”」
「ガウッ……!」
「りんさッ「”荒ぶる音”」ぐっ……!」
バリンッ
凛さんのうめき声が聞こえたと思ったら、いつの間にかローブおじがいた。
ローブおじが何かをつぶやくと、結界が割れていた。
この状況はまずい!早く張りなおさないと!
ローブおじが再度手をかざす、私の目の前に。
あ、これ、間に合わな————
「”哀しき音”」
「〰〰〰ッ!」
ウワァンという慟哭のような轟音が響く。
その音が何度も大きくなったり小さくなったりして、ぐわんぐわんと脳が揺さぶられる。
「”急速に弾く音”」
「ぁがッ!」
間髪入れず、お腹に強い衝撃。
たまらず空気と一緒に声を吐き出す。
意識がはっきりしない。
体に感じる風で吹き飛ばされているのは分かった。
受け身?取れるわけない。これ、このまま激突コースだぁ。
ガァンッ!!!
体が何かにぶつかって止まったと同時に、私の意識は落ちた。
優維が聞こえなかった所の会話は
「優維ッ!」
「我の演奏に集中せぬからだ」
でした。下記はいつもの魔法解説です。
水魔法
水飛沫:細かい水の粒を無数に打ち出す。
音魔法
復讐のヘ短調:対象者だけに音階も何もかもぐちゃぐちゃになった轟音と、強い衝撃波を浴びせる。音だけでもかなり不快で憂鬱になる音。
荒ぶる音:一部に強力な衝撃波と爆音を発生させる。
嘲笑う音:打ち出した音符が当たると、その当たったものは地面に落ちる。生物にあたると膝をつかせることができる。
哀しき音:対象者に何かが泣き叫んでいるような轟音を聞かせる。また、その音は数回リフレインするため頭を揺さぶれらているような感覚になり、平衡感覚が狂うことがある。
急速に弾く音:一部に瞬間的な衝撃波を発する。アジタートの音がないバージョン。