理由はそれだけ
凛視点です。人によっては胸糞悪いと思うのでご注意ください。
こいつは今なんて言った?エラムを黒魔術の糧に?
いくらクソ爺でもそこまではしないと思ってた。本当に?
「あんたの弟子でしょ?」
「そうだな」
「エラムはあんたを父親のように思ってたって、恩人だって」
「我が育てたからな」
「そんな人を、あんたは————」
「黒魔術の生贄にした。それがどうした」
ぶわっと全身の毛が逆立った感じがした。
こいつは自分の弟子を殺して、あまつさえ黒魔術の贄にした。
「あんったは人の命を何だと思ってる!?」
「何を怒ることがある。我の所有物を、何に使おうと我の勝手であろう」
「は?所有物……?」
意味が分からない、分かりたくもない。
こいつは人を人と思っていないのか。
「そうだ、我より下級の存在はすべて我の所有物。部下もメイドも、王族も民も!我の願いを叶えるために自分の所有物を使って何が悪い?すべては我のためにいればいい、壊れたのなら捨てれば良い」
「イカれてる……」
「我を認めぬすべてが憎い!一番憎いのはあの獣と貴様だがなぁ!貴様らは我からすべてを奪った!貴様らを苦しめるのが我の願い!」
本当にイカれてる。人はモノじゃない、誰かのものでもない!
「だったら……だったら!あたしたちに復讐すればよかったじゃない!貴方たちなら監視を搔い潜ってでも、すぐに牙を向けられたはず!でも何もしなかった!
その怨みはあたしたちの代で終わらせるべきだった。受け継ぐべきじゃなかった。あたしたちにぶつけるべきだった!」
あたしの声が嫌に響いた。
一瞬の静寂のあと、静かにクソ爺が話始める。
「…………そのままぶつけるのでは芸がない。我は貴様らが憎い、だが我はいずれ死ぬ。我は貴様らが、未来永劫苦しむような呪いが欲しかった。そこで我は考えた。
転移の魔術を使えばいい、と。我が王に乗り移り、それを代々続けて貴様らをずっと苦しませる。だが、エラムはいち早くその計画に気が付き、止めようとしてきた。まあ、我が王に黒魔術をかけ続けていたから、ずっと疑ってはいただろうからな」
「待って、王に黒魔術をかけ続けていた?それじゃあ、王がおかしくなったのは……」
「ふんっ我を認めぬウェンカが悪いのだ。我を認めてさえいれば、操り人形になることはなかっただろう。馬鹿な奴だ」
これでなぜ王が急に暴君となったのかが分かった。
”我は悪い夢を見ていた”
あの時、ウェンカ王の黒魔術は解けかかっていた。あの言葉は本当だった。
現実なのか夢なのか訳が分からなくなっていた。恐らく精神掌握系の黒魔術をかけ続けていたのだろう。
「我は数年かけて準備をした。エラムに邪魔されぬよう秘密裏にな。だが、あやつは執事にもそのことを伝えた。忌々しい、王のガードが固く、結局実行できたのは死ぬ間際だった。
我の魔力、エラムの魔力すべてを使い転移した。程なくして王は亡くなったが、すぐ王子に乗り映ることができた。ウェンカ王を継ぐ者に転移するという条件を付けたから当然だ。
何代かは魔力の回復に費やさねばならなかったが、それも終わった。貴様はすでに亡くなっていたが、もうどうでもいい。この獣を苦しめることさえできれば—————」
「子孫は関係ないでしょ!」
「そんなことはない。貴様らの血が混じっているというだけで、怨みの対象だ」
「そんなの理不尽よ!」
「貴様がそれを言うのか!”理不尽姫”よ!」
「————っ!」
言葉に詰まる。
我が儘姫の能力で理不尽なことはしてきていないと、反論できなかった。自分では理不尽と思っていなくても、相手がどう思っていたかなんてわからない。
「ハッ!言い返せぬか、自覚はあるようだな。
まあよい、これはあくまで復讐の第一歩だ。最後は獣人を、我を認めなかった者どもをすべて根絶やしにすることが目的。我の転移はそのためのもの。
これからも王族達には復讐の道具として働いてもらう、さぞ光栄なことだろうな」
「あんたは自分が何を言ってるかわかってるの!?」
「分かっているとも」
『グルルルァア!!!』
突然結界の外から、獣の咆哮と爆音が聞こえた。
『獣人を根絶やしにするだぁ!?オレたちが何をした!!お前らは何をしたァッ!!!』
『クロッ!落ち着け!!』
『クロの旦那ァ!』
今まであたしもはらわたが煮えくりかえっていたが、クロの言葉で急速に冷えていく。
そうだ、クロたちは何も悪くない。あたしたちの過ちの被害者だ。もう起こってしまったこと、どうすることもできない。あたしがすべての元凶…………。
「何も?」
『…………は?』
「貴様らは何もしていない。しいて言えば、奴と同じ獣人であっただけだ」
絶句した。
さも当然のように答えるあいつが、同じ人間だと思いたくはなかった。
書いてるときもでしたが、読み返しても腹立ちますね。