カパプの独白
またの名をクソ爺の逆恨み、興味がない方は飛ばしても問題ありません。
我はカパプ、偉大なる魔道士だ。
幼いころから魔法が好きで研鑽を続けていたら、いつの間にか天才、稀代の大魔道士と呼ばれていた。
長年王宮魔道士として王に尽くしてきた。王からも民からも尊敬され、我は認められていた。
王族にも幾度となく力を貸してきた。そして、ついに我は最上級魔道士となった。
それからというもの、政治の会議にも参加し意見を述べるようになった。占いのようなこともして、助言をしたりもした。それでも、長引く魔族との戦いで国は徐々に疲弊していった。
そんな中で一つの提案をした。
思えばこれが一番の失態だった。
「王、異世界から人を呼んでみるのはいかがでしょう?」
「ほう、理由を申してみよ」
「異世界人は我らにはない知識を持っていると聞いています。何か好転するやもしれません」
「ふむ………しかし、それには莫大な魔力が必要で成功確率も低いと聞いておる」
「さようでございます。ですがリスクは承知の上、この情勢を変えるにはこれに賭けてみるほかないと思われます」
「むぅ………」
王は三日三晩考え込んだ末、承諾した。
そこからは早かった。民たちに魔法石に一定の魔力を込めるよう通達し、それを回収。我は他の王宮魔道士らと転移魔法の魔法陣の準備。すべてが滞りなく進んだ。
そして、召喚の儀当日。
「え?え?ここどこ!?」
召喚されたのは小娘一人、しかも十代そこらの若造。
失敗だと思った。多くのリソースを割いてまで、この結果はないと思った。
しかし、王は違った。
「急にお呼び建てしてすまない。我はウェンカ・ラプス、この国の王だ。貴殿は何という、異世界の少女よ」
「あ、はい、千崎凛です」
「リンか、良い名だ。だが今後は名だけ名乗るがよい。名字がない者も多いでな」
「わ、かりました」
王は努めて優しく問いかけた。そのような小娘に礼など要らぬというのに。
「して早速だが、貴殿を呼んだのはほかでもない。この国を救ってはくれぬか?」
「…………はえ!?あたしそんな大層なことできません!」
ほら見たことか。
「王、こう言ってはなんですが、召喚は失敗でした」
「カパプよ、それは早計というものだ。この子はまだ混乱しておるだけだ。まずは休ませよう。貴殿に用意した部屋がある。今日はもう休まれよ。明日また話そう」
「はい…………あの、」
「なんだ?」
「お心遣い感謝いたします」
「……すまない、此方の都合で呼んでしまったのだ。これくらいして当然だ。さぁ、この者を部屋へ案内してやってくれ」
「はい。お嬢様、こちらへ」
小娘は再度一礼して、メイドについていった。
礼儀は一応わきまえているらしいが、所詮は小娘。役に立つとは思えん。
「王、どうするおつもりで?」
「まずはよく話してみんことにはわからん。カパプ、此度はご苦労であった。貴殿らもご苦労であった。今日はもう休むがよい」
『はっ』
数日後、小娘はこの国を救うことができるかわからないが、自分が知っていることで役立つことがあれば協力すると申し出た。
それから、メキメキと頭角を現してきた。
まずは水路の整備、国中に水路を張り巡らし循環させ清潔にするというシステムを考え実行した。するとどうだろう、原因不明の病で倒れる民は減り、畑などの生産性も上がった。
民からの支持を得るには十分な功績だった。その後も様々な改革を進めていき、国自体もリホクで二番目に大きな国となった。
我は不思議に思い小娘を鑑定した。案の定、称号持ち、しかも姫が付いている極めて稀で固有のもの。名称は”我が儘姫”、なるほどそれでどんな提案でも通るのか。
称号のことを王に話し、忠告した。
「このままではどんな要求がでるか分かりません。早めに対処した方がよいかと」
「ふむ……だがな、我もすべて通しているわけではない。また多くの要求は民のためになるもの。他国から聞いていたほど自分の要求は多くはない、そして質素なものだ。他国の姫や異世界人のほうがよっぽどわがままにみえる」
「しかし——————」
「くどいぞ、カパプ。貴殿の魔法は素晴らしいが、民のために何かしたことはあったか?」
「っ……!」
我は今まで王族のために尽くしてきた。
それが今、ガラガラと音を立て崩れた。我のプライドは小娘によって、ズタズタに引き裂かれた。
それからは小娘をどう陥れるか、亡き者にするかそればかり考えた。
そこで黒魔術にたどり着いた。もともと興味はあった、研究をしている時は楽しかった。だがひとたびその時間が終わると、再度憎しみが心を支配した。
なぜ、王は言うことを聞いてくれなくなった?(小娘がいるから)
なぜ、民は我を尊敬しない?(小娘がいるから)
なぜ、我を誰も認めてくれない?
————————小娘がいるから。
小娘を認めた王が憎い、民が憎い、すべてが憎い。
そこから王には練習台として、精神操作の黒魔術を毎日かけた。次第に王は弱っていったが、小娘だけは守ろうとしたのか離れに移動させ、あまつさえ獣人の護衛を付けた。
獣人どもは魔法はできなくとも、魔法体制があり頑丈で力も強いので並大抵の奴は返り討ちにされてしまう。また、小娘自身も我ほどではないが魔法ができたため容易に手は出せなかった。
そして、恐れていたことが起きた。
「民のため!そして、俺達と同じ、人のため!!」
『オオオオオオォオォォオオオ!!!!!』
ライオンの獣を筆頭とした、民、貴族、兵士による反乱が起こった。その中には王宮魔道士や近衛兵も混じっていた。そして、当然のようにあの小娘も。
「カパプ爺ちゃん、何でこうなったと思う?」
「知ったことかァ!!なぜ反乱など起こした!?」
「あまりにも皆が不当な扱いを受けていたから。皆同じ、人でしょう?」
「獣人どものことか!?ただの獣だ!人間とは違う!」
「獣人だけじゃない。同じ人間のこともよ」
「下等な人間のことなど知るか!」
「…………そう」
小娘はそういうと手を前に出した。
「話は通じないみたいだね」
「貴様がいなければ、我はっ……!!」
「”虎鯨の波”」
意識を失う前に見たものは、巨大なシャチだった。
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「この国からの永久追放を言い渡す」
元王とともに獣から告げられたものは、我にとって屈辱的だった。
国を去るとき、元王は心ここにあらずという感じで放心していた。
我も弟子が何か言っていた気がするが、何も覚えていない。
奴らが用意した屋敷にはいかず、ウェンカの別邸で過ごした。
食料などは生活に必要なものはそろっていた。
月日が過ぎるごとに憎しみが増していく。
ウェンカは妻や息子、従者様々な者が慰め徐々に以前の王に戻りつつあった。
報復を持ち掛けても、
「復讐する気はない。我はそれほどひどいことをしたのだ、こうなって当然だ。処刑されてもおかしくなかったはずだ。だが、我は生かされた。その慈悲を仇で返すなど我にはできん」
と突っぱねられた。
王は臆病者だ。憎くはないのか?
当然の報いだ?そんなことあるわけがない。
すべての元凶はあいつだ。それに加担した奴らも同罪だ。
だが、ただ報復にいったところで面白くはない。我の心は晴れない。
我のこの憎しみを後世に残すにはどうしたらいい?
奴らを未来永劫、苦しめるにはどうしたらいい?
嗚呼、あるじゃないか、ここに。
虎鯨の波:大量の水で作られたシャチを、津波のように思いっきりぶつける水魔法