何かがおかしい
今回も凛視点です。
「我は貴様らに追放された後、用意されていた屋敷へは向かわずに、別邸へ行き生活をしていた。それはそれは質素な生活だったぞ?
「それなりの物資は届いていたでしょう?」
「そうだな。定期的に物資が届いてはいたが、獣人どもが持ってきたものに関しては我は手を付けていない。使用人たちに処分させていた」
ああ~、せっかく用意したのに使わなかったんだ。そういえば密偵の話でも、そんなこと言ってたな。その屋敷、王族とまではいかないにも、そこらの上流貴族くらいの生活はできるような設備は整えてたんだけどね。
別邸に行ったならしょうがないってことでスルーしてたわ。
といっても完全にスルーしていたわけではない。たまに密偵をとばして監視は続けていた、ウェンカ王が亡くなってからやめたけど。
物資は国費とは別で定期的に運ぶよう手配をして、貴族らしい生活をできるようにはしていた。王族からしたら質素だったかもしれない。だけど、王族と同じような物資を送ることはできなかった。そのころは国も人も不安定だったから、支援は最低限にしないと国民から反感を買うのは避けられなかっただろう。それでも十分な支援はしたつもりだ。
でも、獣人族が配達したものに関してはそんなことをしていたとは。恨む気持ちはわかるけど、そこまでだったなんて。
「別邸で生活している間、最初は放心していた。なぜこんなことに、何が悪かったと考えていた。妻も息子も使用人たちも慰めてくれたが、気持ちは晴れなかった。それどころか、どんどん自分が惨めにみえた。それと同時に、貴様らへの恨みも募っていった」
あの時の王は確かに心ここに非ずだった。でも、去り際は一瞬だけ当時の頼もしい王だった気がする。
追放したとき、数人の使用人やそれ以外の王宮にいた人が王についていった。皆、ウェンカ王を心配してのことだ。最近の王はおかしかっただけ、恩人なのだ、私達がお守りしなければと各々自分の意志でついていった。
家族の言葉もそんな従者の言葉も王には届かなかったのか…………
本当に?
ウェンカ王は何より家族を大事にしていた、それは従者の人たちに対してもそうだった。だからこそ、従者からも国民からも慕われていた。
あたしが来る前から、国民のためにと色々尽くしてきていた。あたしが最初に町の改善をしようとしたときに、皆口々に王が認めているなら安心だと言っていた。水路を作るときも、土木作業の人たちがあんないい王におれ達も協力しないと罰が当たると、大声で笑いながら快諾してくれた。
まあ、悪性を敷くようになってからは不満が多かったけど、それでも昔の優しい王に戻ってくれると信じていた人はいた。そうなる前に、国民の方が爆発しちゃったけどね。
”我は悪夢をみていたようだ、しばらく頭を冷やしてくる。すまなかった。国民を頼む”
あの別れ際の言葉に嘘はないと思う。だからこそ、目の前にいる奴の言葉が信じられない。
あたしが考えている間も、奴は話し続ける。
「なぜ、我がこんな思いをしなければならないのか、我は今まで国民に尽くしてきたのは無意味だったのか、恩知らずな奴らめと様々な負の感情が浮かんだ。
そして、一つの結論に至った」
奴は一度大きく息を吸い込み、次の言葉を発する。
「嗚呼、すべて、貴様のせいだと」
「―ッ!!」
言葉と同時に殺気を感じる。あたしでもちょっとブルっとくるくらい。
優維は顔色がよくない。殺気に充てられたか、それ以上の何かを感じ取ったか。
「優維、大丈夫?」
「う、うん。ちょっと気分が悪いだけ」
微かに声が震えている。
もうあんまり話は伸ばさない方がいいかな。優維が動けなくなるのは困る。
『大丈夫か!?くそっオレがそっちにいけないのがもどかしい!今すぐ全力で抱きしめたい!』
『クロ、うるさい!優維ちゃん、もっと気分悪くなっちゃうよ!』
『う、さっきよりは声抑えたぞ?』
『さっきより、な。だが、大差ないぞ』
「あはは、ありがとう、クロさん。でも全力はやめてね、私つぶれちゃうよ」
『お、おう』
こういう時のクロの空気を読まない感じはありがたい。
ほら、ちょっとだけ優維の顔色もよくなった。でもまだ足りないか。
しょうがない、ここは一肌脱ぎますか。
「ほら、優維、カモン!(フンスッ)」
「え……モフっていいの?」
「いえーす」
優維にゆっくりと抱き上げられて、ギュっとされる。
やっぱりまだ震えてた。クロほどの包容力はないけど、可愛さとモフモフ感は負けないよ。
もふもふ もふもふ
ま、まだモフるか。全然やめる気配がない。
まあ優維が落ち着くなら、このまま話しちゃおう。
「で、何か策は思いついた?」
『「全然」』
「だよねー」
『もう少しでシューマも来ると思うが『来やしたぜ』お、話をすれば』
シューマってタイミングいいよね。
『で、どういう状況でさぁ』
『やあ、シューマ。んー、どうしよっかなーって』
『……なんでこんな緊迫感がないんでさ?』
『……すまん』
『いや、リーの旦那が謝ることじゃねぇでさぁ』
「深刻になりすぎるのもよくないかなーって」
『凛の姫さんの状況が一番わからないんですが!?』
うん、しょうがないんだよ。優維のメンタルのためよ。
決して優維のもふなでが気持ちいいからじゃない。本当よ?
「我を無視するなー!!!」
あ、今の叫びで思い出した。
こいつ王宮で最上級魔道士だった、カパプ爺さんだ。
アイヌ語でウェンは悪い、カパプは蝙蝠です。