ちょっとした違和感
前回の凛視点です。
ウェンカ王?こいつが?
フードを深く被っているせいで顔が見えないが、背格好と声は聞き覚えがある。でも、何かが違う。
クロが唸っている。気持ちはわかるけど、まだ抑えてて。こういう時こそ冷静に。
『凛ちゃん、優維ちゃん』
「カルヴァロさん?」
『すぐにそこから出るんだ』
カロは冷静だね。あたしも同意見だよ。
「そうだね。一時退却だよ」
「え?う、うん」
優維が駆け出すのを見てから、あたしも走る。あいつが何をしてくるかわからないから、注視しながら走る。何もしてこないのが、かえって不気味だ。
ちらっと優維を見ると同じように、あいつを警戒しながら走っていた。鬼ごっこの時の経験が生きてるね。
結界まであと数メートル。外に出たら計画を立て直そう。
ガンッ!
「っだぁ!!」
「えっ!?」
『どうしたッ!?』
何か硬いものにぶつかった音がしたと思ったら、優維が結界にぶつかっていた。
は?何でぶつかる?
優維も混乱しているようだ。とりあえず、ぶつけたところに回復魔法をかけてあげる。赤くなってはいるけど、大したことはなさそうだ。
カロの話では結界の条件が変わったのではと、魔法のことに関しては彼が一番察しがいい。
確かにリーのいう通り、リアルタイムで媒介を使った結界の条件を変えることはできない。しかし、術者がいるのなら話は別。そんなイレギュラーなことができるのは、この場で一人しかいない。
「何をしたの?」
「ククッなぁに、結界の条件を”すべての生き物の出入りを禁止”したまでだ」
『んなっ!?』
ほらね。
この嫌味なやり方、やっぱり何か引っかかる。ウェンカ王は頭が回る人だったけど、こんな嫌味なことはしなかったと思う。良くも悪くも馬鹿正直な人だったから、先に話すくらいのことはしただろう。
うーん、お城で似たような奴がいたようないないような。出てこない、喉に小骨が突っかかってるみたいな気持ち悪さ。
コンコンッ
音がした方を見てみると優維が改めて結界を確認して、orzみたいになってる。無理みたいだね。
「まあ、久方ぶりの客人だ。そうそう焦って帰ることはなかろう。
なあ、”我が儘姫”」
少しだけ動揺してしまったけど、すぐに平静を装う。
バレてる?いや、そんなはずはない。姿も違うし、今は精霊で種族も違う。
「……誰かと勘違いしてるんじゃないかしら?」
「とぼけるなッ!!姿形は変わろうとその魔力、称号、間違えるはずがない!」
いきなり奴が声を荒げる。自分が絶対、それを否定されるとすぐ声を荒げる、加えて鑑定、魔力探知。
ああ、何となく思い出してきた。似たような奴がいた。
ウェンカ王はこんな三流のような雰囲気じゃない。ただ、転移魔法が影響している可能性もあるから確定ではないけど。
「……ふー、いきなり声を上げてすまなんだ。別に隠さなくてもよい。この時代に相まみえるとは、何かの縁。今一度話をしようではないか」
「…………そうね。昔話でもしましょうか」
そうだ、現状出られないのなら話をして情報を引き出そう。
本当はしたくないけど、そうも言ってられないか。
「凛さん?」
「とりあえず時間稼ぎをするわ。ちょっと気になることもあるの」
優維は意図を理解してくれたのか、小声で通信を始めた。
キーンッ!!!
クロ、うっさい!!!ハウス!!
「う~、耳が痛い」
『クロ、もう少し声を抑えろ』
リー、そういうことはもうちょっと早く言ってよ。あたしの可愛いお耳が取れるかと思ったよ?
『わわ、悪かった。それで、大丈夫か?』
「うん、凛さんも私も特に何ともないよ」
「耳が痛いこと以外はね」
『う、すみませんでした』
「おい、何をしている」
クロ、ほんとに気を付けてよね。次やったら、やり返すから。
っと、あいつもちょっとお怒りだ。もう、本当にかまってちゃんだな~。ちゃんと待てない爺は嫌われるぞ?
「なんでもないわ。さて、何から話しましょうか?」
「では、我が貴様に追放された後、何があったか話そうか」
爺の口元が嗤っているのが見えた。
さあ、あんたの化けの皮引っぺがしてやるわ。