称号は万能じゃない
「ウェンカ、王……?」
「…嫌な予感、当たっちゃたね」
『グォォロ……』
『クロ、抑えろ』
ウェンカ王って、凛さんが革命を起こした時の王様の名前だよね。
本当に怨霊になって出てくるなんて。300年以上も恨むなんて、ネチネチを通り越してお風呂場の頑固なカビの如しだよ。
ウェンカ王と名乗った人を観察してみる。浮いている感じも透けている感じもない。実体はあるのか、地面にかすかだけど影も見える。幽霊とかではなさそうだけど、生きている感じもしない。なんだこれ?魔法でこんなことできるの?
『凛ちゃん、優維ちゃん』
「カルヴァロさん?」
『すぐにそこから出るんだ』
少し切羽詰まったようなカルヴァロさんの声が、通信石から聞こえた。
あれは相当やばい存在なんだろうか。
「そうだね。一時退却だよ」
「え?う、うん」
そういうと凛さんはあいつを横切らないようにするため、真横に向かって走り出す。幸い結界は
部屋全体に広がっているわけではなく、楔梛様を中心に円形に覆ってあって四方から出入りは可能だ。最も結界を通れることが前提条件だけど。
走っている間もあいつから目は離さない。でも、何かする素振りは全くない。何のために出てきたんだろ?
結界までもう少し。このまま走って抜ければ———————
ガンッ!
「っだぁ!!」
「えっ!?」
『どうしたッ!?』
いったー!おでこもろに打ったー!
てかガンっていった、ガンって!何で!?さっきまで普通に通れたのに!?
「結界を抜けられない!?」
『何だって!?』
『っ……………結界の条件が変わった?』
『これは昔の結界だろ!?今の今で変えることなどできるはずがない!』
「……媒介を使ったものは、最初に決めた条件を変えることはできない。けど、これを作った人なら変えることは可能よ。もっとも、今も生きていればの話だけど」
う~、私が痛がっている間に話が進んでるよ。
話している間も、凛さんがおでこに回復魔法をかけてくれている。だんだん痛みが引いてきたよ。
要するにこの結界を作った人なら、媒介を使った結界でも出入りする条件を変えることができると。そんなことできる人なんてここに———————
「……クククッ」
——————いたわ。
「何をしたの?」
「ククッなぁに、結界の条件を”すべての生き物の出入りを禁止”したまでだ」
『んなっ!?』
条件の範囲が広すぎる!そのせいで逃げ姫の効果でも出入りできなくなったの!?
落ち着け、私。もう一回確認してみよう。
ペタペタペタ
コンコンッ
うん!水みたいな感覚ないね!コンクリの壁叩いてるみたいだ。かったいね☆
…………ナンテコッタイ!
「まあ、久方ぶりの客人だ。そうそう焦って帰ることはなかろう。
なあ、”我が儘姫”」
「ッ!?」
「ッ……誰かと勘違いしてるんじゃないかしら?」
「とぼけるなッ!!姿形は変わろうとその魔力、称号、間違えるはずがない!」
ウェンカ王と名乗った人は、さっきまで笑いをこらえているような声で話していたのに、いきなり声を荒げた。そして、その人はこのヒグマを凛さんと断定した。
いや、合ってるんだけどそんな怒鳴ることなくない?
いきなり怒鳴ったことにはびっくりしたけど、そのせいでローブのおじさんの三流感が一気に増した気がする。
「……ふー、いきなり声を上げてすまなんだ。別に隠さなくてもよい。この時代に相まみえるとは、何かの縁。今一度話をしようではないか」
「…………そうね。昔話でもしましょうか」
「凛さん?」
「とりあえず時間稼ぎをするわ。ちょっと気になることもあるの」
凛さんが相手に聞こえないような大きさで、早口で話してきた。
時間稼ぎをしたところで何か打開策が浮かぶんだろうか。とりあえず現状報告、クロさん達と話してみよう。
「カルヴァロさん」
『どうしたの?』
「さっきもう一回結界を触ってみたんですけど、硬くてとても通り抜けられそうにないです」
『そっか……』
『優維!体は何ともないか!?』
キーンッ!
クロさん、声がでかい!耳キーンなった!
隣を見ると、凛さんも耳を抑えてうずくまっていた。
「う~、耳が痛い」
『クロ、もう少し声を抑えろ』
『わわ、悪かった。それで、大丈夫か?』
「うん、凛さんも私も特に何ともないよ」
「耳が痛いこと以外はね」
『う、すみませんでした』
「おい、何をしている」
あ、一瞬ローブおじのこと忘れてた。
こんな隙だらけだったのに、本当に何もしてこない。
何のために私たちを閉じ込めるようなことをしたんだろ?目的が全然わからない、気味が悪い。
「なんでもないわ。さて、何から話しましょうか?」
「では、我が貴様に追放された後、何があったか話そうか」
ローブおじはニヤッと嗤い、話し始めた。