手加減なんてしてほしくない!
それから一週間は午前はお休み、午後はヒミちゃんとディグ君がかわりばんこに来て鬼ごっこを監督のようにみて、アドバイスをくれた。
「そこまで」
「やったねユイ姉!」
「ん、5分、耐えた」
「あっちゃ~、やられちゃったな~。おめでとう、これで免許皆伝だ!」
「・・・あ~、うん」
「どうしたの?」
今日は鬼ごっこ最終日。明日は、いよいよ楔梛様の救出作戦決行の日。
うん、最後の最後で初めて凜さんに勝ったんだけどなんか微妙だ。そう思うのは、凜さんが手加減したのではと思っているから。
「凜さん、最後手加減しました?」
「え!?」
「・・・おやおや、どうしてそう思うんだい?」
「うーん、今日はやけに時間を気にしていたし、最後に何も仕掛けてこなかったから、なんとなく」
勘違いだったなら申し訳ないけど、多分そうじゃないかなって。
―――――凜視点――――――
これはこれは、よもやよもやだ。
バレないようにやったつもりなんだけどな~。
実際ちょっとだけ手加減した。でも最後以外はいつも通り本気だったし、自信をつけさせるためにやったことがご不満だったらしい。
「バレたか(てへっ)」
「やっぱり・・・・・・」
「よくわかったね」
「全然気がつかなかった」
「う~ん、なんとなくだったけどね」
なんとなくでも察せるのは、何度も繰り返しているからか、優維自身の能力が上がったからか。
「自信つけさせようと思ったんだけどね~」
「気遣いは嬉しいけど、この結果は嬉しくないかな?」
「ごめんね?」
「いいよ?」
いつもの軽い会話。
とりあえず許されたらしい。
「私は、本気の凜さんから勝ちたいんです」
「・・・そっか・・・」
本当に成長したね。
いや、元からこうだったのかな。
「また鬼ごっこしてください。次は、ちゃんと最後まで、本気で」
「・・・わかった。ま、あたしは今後も負けるつもりはないけどね」
「望むところです」
うん、いい顔してる。これなら心配ないね。
君は本当に優しいね、優維。
――――――優維視点――――――
ちょっと生意気なこと言っちゃったな。
とりあえず、凜さんが怒ってないからヨシとしよう。
「じゃあ、今日はここまで。明日に備えてよく食べ、よく寝ること」
「「ありがとうございました!」」
「したー」
「うん!」
今日はいつもより早めに切り上げて、後はゆっくり休むことになった。
ヒミちゃんもいつもはご飯を食べていくが、今日は用事があるからとさっさと家に帰ってしまった。
「「「ただいま!」」」
「おかえり。今日はクロより早いね」
「うん。今日はもう終わり、後はゆっくり休もうと思って」
「そうかい」
「クロさんは森?」
「いや、長のところで最終確認っていってたさね」
家に帰るとロジーさんがお茶を飲んでいた。クロさんはココ爺のところで、まだ帰ってきていないらしい。
「ロジ~、あたしにもお茶ちょうだい」
「はいはい、あんた達もいるかい?」
「「いる!」」
「じゃあ、手を洗ってきな」
「「「はーい」」」
皆で手を洗って、うがいをして戻るとちょうどティーポットからお茶を注いでいるところだった。それとさっきまでなかったアップルパイが、3人分お皿に盛り付けられていた。
ロジーさんのアップルパイおいしいんだよね。
「やった」
「ははっ第一声がそれかい」
「ユイ姉、お母さんのアップルパイ大好きだもんね」
「うん!」
「お茶入れ終わったらね」
ちゃんと待つよー、超待つよー。
コトっと目の前にカップとアップルパイが置かれる。
「はい、どうぞ」
「「「いただきます」」」
うん、やっぱりおいしいね!
ちゃんとリンゴの酸味が残りつつ、ほどよい甘さもある。それがサックサクのパイ生地に包まれて、バターの香りも相まってめっちゃおいしい。
リンゴとバターの相性抜群だね。最強コンビと言っても過言ではないと思う。
ちょっとだけ苦みがあるハーブティーもこのパイに合う。この2つだけで無限ループできるわ。
でも1個だけにする!夕ご飯をおいしく食べられないのも、それはそれでいやだからね。
「「「ごちそうさま」」」
「おいしかった~」
「うんうん」
「そんなに嬉しそうに言われると、作ったかいがあるってもんだよ。いいリンゴが入ったらまた作って上げるさね」
「「「わーい!」」」
お、凜さんも一緒にわーいした、珍しい。おいしかったもんね、しょうがないね。
お茶の片付けを手伝ってから、再度まったりしているとロジーさんに呼ばれた。何だろ?
「はい、あんた達にプレゼントだよ」
「ありがとう。最近作ってたやつだね」
「あ、ありがとう?」
「何で疑問形なんだい」
「いや、だって今日なんかあったかな~って・・・」
渡されたのは、今のものより少し大きめの羽織。その羽織には襟や袖口、裾周りに渦巻きやとげのような文様が刺繍してあった。それも今着ているものより細かく、よく見ると凜さんの腕輪に書いてある文字のようなものもあった。
私が忘れてるだけでなんかあったかな?いや、そもそもこの世界の行事とか全然知らないぞ、私。
私がうんうん唸っていると、二人は顔を見合わせて笑っていた。
「特に何にもないよ」
「別に何もなくてもいいじゃないか。セージも大きくなってきたし、そろそろ服を新調しようと思っていた所だったんだよ」
「でも、2着作るの大変じゃなかった?」
「1着も2着も変わりないさ」
「でも・・・」
私は貰ってばかりで、本当にいいんだろうか?
「あたしがあげたいからあげる。それにね、娘に羽織を作ってあげることが夢だったのさ」
「え・・・?」
「え~、ぼくは~?」
「もちろん、自分の子供に作るのも夢だったさ。だから、二人はあたしの夢を叶えてくれた。私の夢、受け取ってくれないかい?」
「・・・・・・・・・うん!ありがとう!」
ロジーさんの夢、大事に着るよ。ありがとう。