長への報告
クロさん視点です。
「行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
3人に見送られ少しほっこりしながら、オレは長の家に向かった。長の家は商店街から少し外れたところにあるから、小さい子が雪が降っている中歩くのはちときついだろう。ザフッザフっと雪を踏み固めながら歩いていると、前から見知った顔が歩いてきた。
「おはよう」
「カロさん、おはよう」
「クロがこの時間にいるのは珍しいね」
「おう、今日の仕事は休みだ。これから長の家に行くんだ」
「あ、あの子目が覚めたんだ!よかった~!怪我とか大丈夫そう?」
「少しぎこちないが日常生活は問題ないみたいだ」
午前中は狩りに行っていていないことが多いからな、珍しいと言われるのも無理はない。オレに声をかけてきたのはカロさん、本名はカルヴァロさんというパンダの獣人だ。
「ボク、今度挨拶に行ってもいいかな?あ、でも怖がられちゃうかな?」
「そこは問題ないぞ。オレがこのままでも構わず抱きついてきた」
「え!?すごいね~、最初は怖がる子が多いのに」
「ウハハッ。それに、初代王妃と同じようなことも言っていた」
「へえ~、不思議な子だね~」
怪我がよくなったら、いろいろと町を見てもらおう。そして、色んな人に合わせてやりたいな。それには、まず長への報告か。また今度と、カロさんと別れて一直線に長の家へ向かった。
長の家は家の中から太い木が1本生えている。その木は屋根をぶち抜き、葉が第二の屋根のようになっている。長が一晩で生やしたと言われているが、真偽のほどは不明だ。
コンコンッ
「長、クロです!ご報告があって参りました!」
「ホッホッ開いておるぞ」
「不用心ですよ、長」
「ホッホッホッまだまだ若いもんには負けんよ」
「全く、失礼します。」
長の名はココロといい、梟の獣人だ。あんまり本名で呼ぶ者はおらず、ココ爺や長と呼んでいる。
家に入ると珍しい兄妹がいた。
「あれ、ヒミとディグがいるのは珍しいな」
「おはよ、クロさん」
「……はよ」
片手をあげて挨拶をしてくれたのがディグ、眠そうに目をこすっていたのがヒミ、どちらも土竜の獣人だ。彼らは基本夜行性なので、この時間帯は寝ていることが多い。
「ということは調査は終わったのか?」
「うん、その報告で朝から来てたんだ。」
「……ディー兄、早く終わらす、眠い」
「というわけだ。早速、ご報告いたします、長」
「うむ」
調査というのは優維ちゃんが出てきたのであろう場所の調査だ。もし本当に異世界人というのなら、何らかの痕跡が残っているはずだ。
「結果からして、あの子が異世界から来ているのは確定です。それらしい魔力と時空の歪みが残っていました。ただ——」
「文献の歪みと一致しない」
「……どういうことじゃ?」
「普通、残っている魔力量と時空の歪みは比例するのは長も知ってますよね。それなのに、残っている魔力量が極端に大きかったんです。あの魔力量であれば、もっと大きい物質や2,3人は一緒に通れるくらい。それなのに、時空の歪みはあの子が通れるくらいの小ささしかなかったんです」
「ホウ」
時空を開くのには相当な魔力がいる。それこそオレたちが開こうとしても、何人犠牲になるかはわからない。それほど膨大な魔力が必要だ。だが、魔力量に伴って時空の歪みは大きくなる。土竜の獣人たちは視力はほぼないが、代わりに魔力の感知や視力以外の感覚がべらぼうに鋭い。この兄妹がそう言うのであれば、間違いはないだろう。
「じゃが、あの子以外に何かがいた痕跡もなかったのだろう?」
「はい、他の動物や物質があったような痕跡もありませんでした」
「ホウホウホウ、不思議だの~」
「……長、楽しんでません?」
「ホウホウ、そったらこどねぇど?」
「いや、方言出てます」
いつもは好好爺っぽい口調で話しているが、気が抜けたり楽しくなると北の方言が出てしまうのだ。あまり聞き取れないが、ニュアンスは伝わる。
と、話がそれてしまった。楽しそうな長はこの際置いておいて、それほど莫大な魔力が使われたのに、なぜ優維ちゃん1人しか来なかったのだろうか。
「…仮説…ある……」
「どんなの?」
「……死んだ人を蘇生させて送った」
「「ッ!?!!?」」
「あくまで仮説」
いや、あり得なくはない。実際、異世界転移についてはわからないことが多い。こちらに来る者が、あちらの世界で生きたままだったかは定かではない。生きたままであれば、神隠しのような感じで転移することが大半らしい。それに、蘇生は禁忌の魔法だ。これを行おうとした者が必要な魔力計算をしたが何千、何万もの生き物を犠牲にするほどの莫大な魔力を使うとわかり、断念したとの記録が残っている。一カ所にその生き物を集めるなんて物理的に不可能だし、成功率が非常に低いので博打に近い。それができるのは神か何かか。
「クロさん?」
「……お、おう。あくまで仮説だしな。実際にそうだったかはわからないしな」
「そう、あくまで仮説。でも、その子、異世界人、確定」
「そうだな、それは確定事項だ。それ以上のことは、残念ながらわかりませんでした」
「ホッホッホ。それだけでも十分じゃ、疲れたじゃろう?今日はゆっくり休むといい。ご苦労じゃったな」
「はい、そうします。ヒミもそろそろ限界みたいだし」
「…ん……にい、だっこ…」
「はいはい、じゃあこれでお暇します」
「ホッホッよい夢を」
「まだ雪降ってるから、気をつけて帰れよ」
2人を見送ったあと、長に優維ちゃんのことを報告した。
「名前は神無呂優維、ディグとヒミの言うとおり異世界人で間違いないです」
「ホウホウ、して怪我の状態はどうじゃ?」
「最初見たときは全治2週間程度、1週間は歩くのが難しいとは思っていましたが、今朝ぎこちないながらも自力で歩いていて、日常生活くらいなら問題ない程度まで回復していました」
「ホウ、回復が異常に早いのぅ。何かの能力かの?」
「いえ、それはわかりません。後で、ヒミに鑑定してもらおうとは思っています」
「それがよいじゃろう。ひとまずは、元気になってよかったのう。お主、自分の子供のように心配しとったからの」
「ハハッ。セージに年が近いので、どうしても守らなくてはと思ってしまって」
「そういえば、ババアを探しておったかの?」
「ええ。鳥婆、もう帰ってきてるんですか?」
「昨日の夜に、リーンヴォックが連れて帰ってきとったよ。今朝方、お主の家に行くと言って出て行ったがの」
「リーさん、また押しつけられたんですね。って、今朝出て行った?道中合わなかったから、行き違いになったか」
「リーンヴォックも一緒じゃったぞ。頼まれた物もついでに届けると」
「それじゃあ、2人が居るうちに帰るかな。報告は以上です」
「ホウホウ、早めにいかんとまたすれ違うぞ?」
「はい、失礼します」
長の家を出てからは、少し早足で家に向かった。鳥婆は回復魔法が得意だが、見た目のせいで闇魔術をやっているんじゃないかと勘違いされる。そもそも、獣人や魔族に闇魔術は必要ないので扱える者はいない。鳥婆はああ見えて、光魔法が得意だ。でも、言動も変わってるから何ともいえない。
「困ったことになってないといいがな」
「ただいま」
家に帰ってきたが、返事がない。珍しいな、いつもはどちらかが気がついて出迎えてくれるのに。やはり何かあったのか?と思ったら、子供部屋の前でリーさんが正座していて、セージとロジーが仁王立ちしていた。
「これは、どういう状況だ?」
「あら、お帰り。長への報告は終わったんだね」
「ただいま。まあ、簡単な報告だけだったからな。ところでこれは?」
「グルルルル!」
「いや、事故だったんだ。本当にすまない」
「ああ、こいつが優維ちゃんのパンツを見たんだよ」
「じ、事故だ!鳥婆が勝手に部屋に入っていたから、咎めようとしたら、その……」
「よし、とりあえずリーさんを殴ればいいんだな?」
「「コクッ」」
「どうしてそうなる!?」
ボガンッ
大きな音が廊下に響いた。嫁入り前の子のパンツを見るなど言語道断!!
色んな住人が出てきたので、後で人物だけの簡易的なまとめを作ります。魔法や能力については出そろった時点で、まとめようと思います。