我が儘姫と例の場所
凜視点です。
「くあ~っと」
朝、今日は優維が起きる前に起きた。
昨日は最高やらかしてしまった。
自分の修行よりも優維のことを優先した、当時の自分をぶん殴ってやりたい。
まさかあれほど魔力が上がっているとは思わなかった。精霊になってから、どれだけ時間が過ぎたのかは覚えていないが、孫が王様になっていたくらいだ。相当な時間がたっているだろう。
「・・・ふぬーっと」
「おはー」
「おはようございます。今日は早いんですね」
「うん、なんか目が覚めちゃった」
「じゃあ、身支度するのでちょっと待っててください」
「うん」
優維が身支度をしている間、やることがないのでぼーっとしていた。
なにせ、人間の時のように服を着ることもなければ、ブラッシングをする必要もない。
精霊になってから汚れることも少なくなったが、お風呂や水浴びは毎日している。必要はないが、これは気分的にやったほうが気持ちいいからだ。
そろそろ、優維の身支度が終わりそうだ。
「じゃあ、いきましょう」
「うん。今日の朝ご飯何かな?」
「また、あのソーセージ出てこないかなー」
「あれはおいしかったね」
朝ご飯は何かと話しながらリビングに入ると、クロがすでに席に座っていた。
「おう、おはよう」
「「おはー(よう)」」
「今日はセージが一番最後か」
「おはーよー」
「「「おはよう」」」
眠そうに目を擦りながらセージ君が入ってきた。相変わらず、朝は弱いみたいだ。
今日の朝ご飯はスクランブルエッグ、昨日の残りのパン、ホットミルク、野菜のマリネ、ボイルしたソーセージだった。
またソーセージが出てきたのが嬉しい。昨日のは焼き目がついていて香ばしかったが、ボイルしたものはパリッとしていて焼いたものより重くはなかった。朝にぴったりだ。
「さて、そろそろ長のところに行きますか?」
「そうね」
朝食を済ませて少しまったりした後、さっそくココ爺のところに行くことにした。
「優維は今日1日お休みね。少しくらいなら魔法の練習してもいいけど、しっかり休むこと」
「え~、昨日お家でできるくらいならいいって言ったじゃないですか~」
「休むことも大事。魔法を使わないなら、外で遊んできてもいいよ?」
「う~む」
「ユイ姉、今日はお散歩しながらリコちゃんに会いに行こうよ」
「・・・そうだね。最近リコちゃんに会ってなかったしね」
よしよし、気分転換も休むことも大事だぞ。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、二人分のお弁当」
「え、あたしの分も?」
「食事は心の栄養にもなるんだよ」
「・・・ありがとう。行ってきます」
「はいよ!いってらっしゃい」
「「いってらっしゃーい」」
3人に見送られて家を出た。
ココ爺の家までは距離があるけど、今日はゆっくり歩いていった。
人がいるところでは話せなかったので、商店街は無言で歩いた。途中、クロが何回か声を掛けられていた。話を聞いていると、クロはかなり町の人に慕われているらしい。
郊外に出て人気がなくなくなってきた。
「クロは人気者だね」
「ええ?そうでもないですよ」
「皆クロと話すとき楽しそうだし、道行く人に挨拶されてたじゃない」
「ウパシの人達が優しいんですよ」
「それはクロが優しいからだよ」
「ウッハッハ!」
クロは笑って誤魔化していたが、嬉しそうだった。
その後も他愛ない話をしながら、ココ爺の家まで歩いた。
コンコンッ
「長、おはようございます」
「ホッホ、おはよう。おや、今日は凜さんも一緒かい?」
「おはよう、ココ爺」
「今日は凜さんの魔力の測定をしたいんです」
「ホウ?」
斯く斯く云々、四角いあんパンっと。
「・・・ということなんです」
「ホウホウ、それは大変じゃったのう」
「だから、今の自分の魔力量を把握しておきたいんだ」
「ホウ・・・ちょっと待っておれ」
ココ爺が何かを思い出したように、奥に行って何かを探し始めた。
少しして、水晶のようなものを持って戻ってきた。
「古いものじゃがな」
「これ、魔力測定の魔石じゃないの」
「・・・なんで本来教会にあるものがここにあるんですか?」
「ホッホッホッ」
あ、誤魔化した。
魔力測定の魔石は精霊教会が基本的に管理している。他にあるとしても学校や許可された領主の家、王城くらいなものだ。
ウパシにも小さいながら教会はある。司祭もちゃんといて、あそこにも魔力測定の魔石があったはず。
だからこそ、個人で持っているのは謎だ。
「まあまあ、これで教会から借りてこんでも良くなったじゃろう?」
「そりゃあ、そうですけど・・・」
「・・・そうね。借りるのも面倒だし、この際なんでもいいわ」
あまり深く追求しないことにした。
昔からココロさんは何かと謎だったし。
「して、わしの所に来たのは理由があるんじゃろ?」
「ああ、そうでした。測定の際に、王のあの場所を使わせてもらえないでしょうか?」
「・・・ホウ、あの結界の中なら魔力は漏れないじゃろし、何かあったとしても外部に漏れることはないしのう」
「はい。まあ、魔石を持っているのは予想外でしたが・・・」
「ホッホッホッ!・・・・・・・フム、ええじゃろう。じゃが、わしも立ち会っても良いかの?」
「もちろん」
使用許可は意外とあっさりくれた。
しかし、あの場所か。クロから事前に聞かされていたものの、実際に行くとなると少し尻込みしてしまう。
「凜さん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。むしろぶっつけ本番にならなくてよかったよ」
「・・・そうですか。無理はなさらないで下さいね」
「うん、ありがとう」
何度も他の精霊を通して見たことはあったが、実際に行くことは今までなかった。そこを守っている結界を超えることもしなかった。その結界は超えることができたのに。
勇気がなかった。
実際に見たくないというのもあったが、あたしが罪悪感に耐えられなくなるというのが大きな理由だ。その結界の中に入ることすら、あたしには許されない気がしていた。
でも、今は違うでしょ?
「大丈夫だよ。ちゃんと自分の魔力把握して、コントロールしないとね」
「そうじゃの。では行くかの」
「「うん(はい)」」
もうちっとだけ続くんじゃよ。