過信は禁物
「じゃあ、今日は次で最後にしよう」
「ん、そろそろ、夕ご飯」
「あははっロジーさんのご飯、楽しみだね!」
「ん!」
休憩中にそんな会話をしていた二人。私はまたずぶ濡れなので、セージ君に乾かしてもらっている。
水もしたたるいい女とかそんなことはない。
「うおー、せーじくーん、あーりーがーとー」
「ユイ姉はお風呂で暖まってから、ご飯ね」
「うっす」
最近セージ君がおかんに見える。
「そろそろいい?」
「はい!」
「がんばろ!」
「うん!」
「よーい、始め」
最初は様子見で距離を取る。今回は珍しく凜さん達も、最初から仕掛けては来ない。
距離を取りながらも、二人から目を離さない。
セージ君が先に動く。水の玉を投げてくる。玉はピンポン球よりは少し大きくなっていた。
だけど、これくらいなら少し横にずれるだけで――――――
「―っ!」
「おー」
「・・・」
――――躱せる。
動きは最小限、なるべく体力を使わないように。1日に何回も鬼ごっこすると、さすがに疲れる。だからこそ終盤当たりは、すぐに集中力が切れて負けてしまっていた。
でも、それはあっちも同じ。今日の凜さんは、なぜかいつもより大技を多く使ってくる。何日かやって分かったけど、終盤になるにつれて凜さんも自然と手数が少なくなる。疲れてる証拠だと思う。
私の体力と集中力が5分持てば勝ちだ。
「ふむ、避けるね~」
「どうする、凜ちゃん」
「う~ん、ちょっと待ってね」
水魔法が一旦やんで、凜さんが何か腕輪をいじっていた。
――――凜視点――――
うんうん、相手をよく観察し、策を講じる。基本だけど一番大事なことだね。
成長してくれて嬉しいよ。
だけどね、油断しちゃ駄目だよ。
腕輪のダイヤルをEASYからNORMALに回す。因みに低い順からEASY、NORMAL、HARD、EXとなっている。
なんでゲームの難易度設定みたいなのかは、精霊王の趣味だそうなので気にしない。
なんか魔力が戻ってきた気がする。これはちゃんと込める魔力量を考えなければいけないな。
「じゃあ、行くよ」
あたしの魔力を感じたのか、優維が結界を張って防御態勢になる。
いいね、そうこなくっちゃ。
「”水鉄砲”!」
ゴウッ!!!
「「え?」」
「ありゃ?」
「あ・・・」
今までの比じゃないくらい大きな水の玉。それこそ鯨くらいあるんじゃないかってくらいの大きさ。
「ええええええええええええ!!」
「凜ちゃんナニコレ!?」
「ゴメン!魔力の量見誤った!!」
「謝罪、後!ユイ、危ない!」
「そっそうだね!とりあえず優維に結界をッ!」
だめだ!さっきの魔法の影になって、優維の姿が捉えられない!
これじゃあ、上手く結界を張れない!
魔法が当たる前になんとか優維の所に!
「クッソ!」
「凜ちゃん!?」
「セージ君はありったけの火魔法ぶつけて!ヒミちゃんは地魔法!」
「分かった!」
「ん!」
自分に身体強化を掛けて、優維に向かって全力で走る。
間に合え、間に合え!
優維ッ!
―――――優維視点――――――
さすがにこれは無理だって、こんなの防ぎきれないよ。
逃げようにも、腰が抜けてしまって立ち上がれない。
「・・・あははっ・・・」
死ぬのかな。
「・・・ははっ・・・」
いやだなぁ。
「・・・っ・・・」
セージ君とヒミちゃんが魔法の威力を削ごうとしてしているのか、水の塊に向かって火と土を撃っている。
凜さんが必死の形相でこちらに向かってくる。
ああ、この威力は予想外だったんだ。必死になって助けに来ようとしてる。
でも、間に合わないよ。
いやだ。
「・・・ゃ・・・!」
まだ、死にたくない。
もう、死にたくない。
また、家族を、友達を、悲しませるの?
「優維ッ!!!」
そんなの――――――
「ヤダァアアアァァアアァアアア!!!!」
ドバシャアァァアアアアンッ!!!!!
場内に爆音が響いた。