仕事帰りにバッセン行く人ってMVとか再現映像でしか見たことない
番屋とは、江戸の町々にあった防犯のための施設のことです。自警団なので交番ではないと思い、こちらにしました。機能的には現代の交番と同じものと思ってください。
ただいま自警団のところに連行されております。
別に悪いことはしてません。でも、気分は同じです。
「ここが、自警団の人達がいるところだよ。皆番屋って呼んでる」
「ついちゃった~」
「諦めも肝心よ?」
「ちょっと黙っててもらえますか?」
「言い方ぁ!でも、今は言わざる(ハブッ)」
凜さんは言わざるって感じに手で口を覆った。
まったく、ここに来なきゃ行けなくなった提案をした人が何を言うか。
実際、今はしゃべってもらっては困る。というのも、凜さんの見た目はヒグマでも、獣人ではないからバレると色々面倒なのだ。
獣人族は同族は見ただけで分かるので、獣人じゃないのにしゃべっているとなるとこいつなんだって警戒されてしまう。この世界でも、魔獣など野生動物に近い生き物はしゃべらないらしい。
それに凜さんは精霊だ。それがバレると、信仰心が強い人達から崇められる可能性が高い。そうじゃなくても大事になるから隠したほうがいいと、報告の時にクロさんとココ爺から忠告されたばかりだ。
「こんにちは!」
「おう、セージ君と優維ちゃん。どうしたんだ?」
番屋の中に入ると、タカの獣人さんが座ったまま挨拶をしてくれた。
「あの、魔法の練習をしたいので演習場を貸していただきたいのですが」
「ああ、自由に使っていいぞ。ただ、何かあったらすぐに壁にあるボタンを押すんだぞ?」
「「はーい」」
「おや?そのヒグマも一緒にいくのか?」
タカの獣人さんが、凜さんを手で指しながら言った。
「あ、はい。だめですか?」
「だめじゃないけど、危なくないか?」
「えっと…………」
「この子、魔法が使えるので大丈夫です!ね?」
「ガウッ!」
「そうか、ならいいぞ」
あれ、いいんだ。
凜さんが元気よく前足をあげて返事をすると、あっさりと承諾してくれた。
あとから聞くと、魔獣でも魔法を使えることがあるらしい。そういった場合、多くは障壁や身体強化を使えるそうだ。
「どれ、初めてだから一応案内してやろう」
「あ、お願いします」
「こっちだ」
番屋から外に出て、すぐそばのアーチ状の屋根がついた、大人二人がすれ違えるくらいの通路をまっすぐ進んだ。番屋の裏まで出たがまだ少し距離があるみたいだ。
もう少し歩くと、体育館ほどの建物が見えてきた。小学校の体育館くらいの大きさだった。
「外観はさほど大きくはないが、中は空間魔法を使ってかなり広くしてある。あとは四隅に結界の媒介になる石を埋め込んでいるから、ちょっとやそっとじゃ壊れない」
「へ~」
「すごいですね」
「この町には冒険者ギルドがないから、あまり使われないがな。今使うのは、ほとんど自警団の奴らだ。あとは魔法好きのやつくらいだな。」
「立派な作りなのに、勿体ないですね」
「そうでもないさ。仕事帰りにストレス解消で魔法ぶっぱしていくやつもいるしな」
そんな仕事帰りのバッティングセンターみたいな使い方…………確かにすっきりしそう。
中は外観からは予想できないほど広かった。空間魔法を使えば、この世界で匠はいらないね。
下には土が敷き詰められていて、所々雑草が生えていた。壁は白いトタンのようなものが全面に打ち付けられていて、壁だけ見ると研究施設のようだ。
奥には的があったり、今はしまわれているが色々なトレーニング器具や練習用の武器があったりと、ここで訓練もできるようになっていると説明してくれた。
「何かあったら、ここの非常ボタンを押すんだ。番屋にいるやつがすぐ駆けつけてくれる。まず、怪我しない程度にな」
「はーい」
「ありがとうございました」
「おう」
気をつけてなと再度念を押すと、タカ獣人さんは元来た道を戻っていった。
「さてと、じゃあ鬼ごっこのルールをもう1回説明しようか」
「やっぱりやるんですね」
「そりゃそうさ。これで、優維の生存率もぐっと上がること間違いなし!」
「そんな場面には遭遇したくないですけど、やっちゃります!」
こうなりゃやけくそだ!
それに、もう1回死にたくはないしね。
「その意気だよ!ルールは簡単、セージ君と私の攻撃に五分間当たらなければ優維の勝ち。んで、使う魔法は水魔法だけ」
「水魔法だけ?」
「うん、水鉄砲で遊ぶくらいの感覚で当たっても濡れるだけ。それなら安全でしょ?」
「うん、それなら…………」
ヒュンッ!
ドッバシャア!
「「え?」」
「ね?」
いきなり水の塊が飛んできたと思ったら、後ろに当たってどう考えても濡れるだけじゃすまないような音がした。
恐る恐る当たった場所を見ると、壁がちょっと凹んでいた。
「さあ、始めようか?」
「……………………ワァーオ」
今からでもクーリングオフできませんか?