寝起きで目の前に熊がいたら皆はどうする?
「…………ふっぬお~」
いや~、よく寝た~。
なんとも女の子らしくない声が出たけど、寝起きなんてこんなもんでしょ。おっさんっぽい?ほっとけ!
ん~?なんかお腹の辺りに重さが…………………クマー?
「く、くまぁあぅあ?!」
「むおうっ!?どしたどした!?」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
え、え、なんで小熊が私のお腹の上に!?
思わずハッキョウセットみたいな反応しちゃったよ!
「朝から元気だね。いいことだけどもうちょっと音量考えようか?」
「あ、はい、すいません……ではなくて!」
「もう、昨日の夜のこと忘れたの?(ぷくー)」
「…………………あ、あ~」
枕元を見ると、お母さんからの手紙が置いてあった。
あ~そういえば、あの後凜さんがあの腕輪をつけて外に出たらヒグマになったんだっけ。なんでも精霊は、上位になるとその土地の動物の姿になるんだそうだ。人型にもなれるけど、その時は魔力を使うから長時間は無理らしい。
それはいいとして、なんでここにいるんだ?
ドタドタドタッ!
ガチャ!
「ユイ姉どうしたの!?」
「不審者か!?」
「……………子グマ?」
私のハッキョウセットを聞いて、皆すっ飛んで来たらしい。
セージ君とクロさんは寝間着のまんま、ロジーさんはその二人の後ろにいたけどフライパンを持ったままだった。
なんか、ロジーさんだけ武装してる感じがする。ほら、大乱闘するやつで桃色の姫が持ってるじゃん。調理器具って武器としても優秀だよね。
「はい、上位精霊の凜です!よろしくね!(キャルン☆)」
「「…………………ガウゥウゥゥア!?!?」」
「はあ~」
うん、そうなるよね。
セージ君とクロさんの反応はもっともだ。ロジーさんはもう困惑半分、諦め半分って感じのため息だね。
なんか凜さんがすいません。
「んで、凜さんはなんで私のお腹の上にいたんですか?」
「あれ、言わなかったっけ?近くでサポートするから、会いに行くねって」
「それは、言ってましたけど…………こんなすぐ来るとは思ってませんでした」
会いに来るとは行ってたけど、もうちょっと、ほら、順番ってあるじゃん。
さすがに、人が寝てる布団の上にいるとは思わんでしょ。
「優維、話してるところ悪いがオレ達にも説明してくれないか?」
「あ~、はい」
かくかくしかじか、鹿肉は高タンパク、低脂質っと。
「――――っと言うことで」
「あ~うん、事情はわかった。わかったが、長にはなんと言ったものか………」
「ぼく、精霊さん初めて見た」
「あたしもさね。まさか生きてるうちに見られる日がくるなんてねぇ」
「そんなに珍しいの?」
「珍しいなんてもんじゃないさ!神様見ましたってくらいの話さね」
「へえ」
そんなに凄いことなんだ。こっちに来てから色々ありすぎて、もう驚きを通り越して、悟りの域に入りそうだよ。
でももう、精霊王にも会っちゃったしなんか感覚がバグってきてる気がする。
「常識なんてバグらせてなんぼだよ!(グッ)」
「一番現在進行形で、常識破壊している人に言われたくないです」
「なんと!(ガガントスッ)」
ヒグマの姿になっても表情豊か、面白い。
「よし!ここで考えても仕方ない!まずは飯だ!考えるのはそれからだ!」
「お父さん……そうだね。ぼく、お腹すいた!」
「そうだね。じゃあ皆、着替えてきな。その間に準備しとくから」
「「「はーい」」」
クロさんは一旦考えるのをやめた。セージ君が一瞬ジト目だったのは、この際伏せておこう。そうでないと、クロさんの精神にさらなるダメージが。
まあ、腹が減っては戦はできぬってね。糖分補給、大事。
「いい人達だね」
「うん。私の命の恩人であり、今の家族です」
「………うん」
「あ、凜さんも命の恩人ですよ?」
「…………え?」
あの時、そのまま死んでいたら何も伝えられずに逝く所だった。
理由はどうあれ、ただ死ぬ所だった私を選んだのは紛れもなく彼女だ。元の世界の私は死んだが、こちらの世界の私は生きている。
「その理由が、あたしのわがままだとしても?」
「何ででもです。私の2回目の命をくれたのは、凜さんということは変わりませんから。」
「………貴方の考えも大分バグってると思う」
「ははっ褒め言葉として受け取っておきます」
言葉は呆れた感じだけど、顔は困惑もありつつどこかほっとしてるように見えた。
素直じゃないな~。本当のことなのに。