思い上がるな
「それは、どういうことですか?」
「そのままの意味よ。あたしの我が儘姫の能力は、"願ったものを絶対実現させる"能力。偶然だろうがなんだろうが、どんなに時間がかかろうがあたしが願った結果になる。
それが制御できないってなったら、どうなると思う?」
なんというチート。
もしも、もしも、一つ国を消したいと願ったら過程はどうあれ絶対その通りになる。凜さんの言葉一つで国が、世界が壊れる可能性がある。
普段の凜さんはそんなこと思わないと思うけど、何かのたがが外れて願ってしまったら?
いつ暴発するかわからない分、時限爆弾よりたちが悪い。
「・・・っ・・・!」
「ね、最悪でしょ?」
「で、でも、生前は特に問題なかったんですよね?」
「そうね。あたしが強く願ったものにしか能力が干渉しなかったから、問題はなかった」
「じゃ、じゃあ!」
凜さんは無言で首を横に振った。
「精霊として力が強くなるにつれて、その言葉通りになるようになった。
そして、些細な願いも言葉にしたらその通りになるようになった。
例えば、誰か特定の人を助けたいと願う。結果、周りに何があろうとその特定の人は助かる。たとえ、どんな犠牲が出ようとも、ね」
そう言ってうつむいてしまった。
言葉が出なかった。かける言葉が見つからなかった。
「前に、貴方に楔梛を助けてほしいからこっちに呼んだって言ったよね。
その時にね、こうも思ったの。あわよくば、貴方がずっと楔梛と一緒にいてくれたらいいなって。その言葉は口にしなかったけど、もしかしたらあたしが覚えてないだけで、言ってたのかもしれない。
貴方が元の世界で死んだのが、あたしの"わがまま"だって知っても、あたしを助けるって言える?」
「・・・え・・・?」
あたしが死んだのは偶然じゃなくて、我が儘姫のせい?
一瞬、あたしの脳は完全にフリーズした。
思考が戻ってきたあと、私はちょっと違和感を感じた。
「・・・言えないよね。貴方の元の世界での日常を、あたしのわがままで奪ったんだから。」
「・・・凜さん、一つ質問してもいいですか?」
「なに?」
「我が儘姫の能力は、その願いを口にすることで実現するんですよね?」
「そうよ。思っただけじゃ、発動、しな、い・・・?」
そう、違和感はそこだ。
私が楔梛様と一緒にいるという願いは、口にしていない。すなわち、我が儘姫の能力の干渉を受けていない。
コンコン
「失礼する」
「え、誰?」
「精霊王っ!!?」
「うえ!?このでっかいひげおじさんが!?」
「お主、正直だのう」
「すみませんっ!!」
話の途中でかい髭もじゃのおじさん、もとい精霊王が普通に入ってきた。
もう自分の家か何かのように普通に入ってきた。神々しさのかけらもない、言うなら近所のおじさん的な。
「なぜここに?」
「何故って、お前さんがようやく人の話を聞くようになったからだ」
「・・・あたしは最初から聞いてました」
「いいや、この空間を作ってくれと頼んだときは絶望的に暗い顔をして、我らが何を言ってもあたしのせいと話にならんかった。その後何回か来て言っても、聞き流しておったろう?」
「・・・だって、その時は本当にそう思ってたんだもん」
はっとした顔をした後に、拗ねたようにしゃべった。
え~と、つまり凜さんの早とちりと思い込みだったってこと?
「はあ~、お前さんは本当にもう。
生物の生き死にが一精霊ごときが決められるなど、思い上がりも甚だしい」
「・・・・・・グスッ・・・ふぇ」
「あ、いや、えっと、どうしたらよいかの!?」
「私にふらないで!?」
「いえ、あたっしの、せいで、死んだ、んじゃなっくて、ひぐっ、よがっだど、思っで」
そっか、凜さんはずっと怖かったんだね。
自分が願ったせいで、私が死んだと、今後誰かを死なせるんじゃないかって。
「確かに姫や王がつく称号は珍しい故、能力が自分でもわからない。元の性格が影響しているものは、その人が当たり前だと思っていることだから尚更な。
だが、称号はその職業や性格を魔法でアシストするためのものに過ぎない。姫や王がつくものは、そのアシストが限定的で破格ではあるがな」
称号は万能じゃない、その人の行動ややる気次第で変わるものなんだ。
じゃあ、我が儘姫は凜さんだけの、凜さんにしか合わない称号だね。
凜さんは今までの不安を洗い流すかのように、泣いていた。
精霊王はずっと外でスタンバってました。