我が儘姫の願い
とりあえず、残念な称号ということはわかったかな。
「いや~、残念ではないんだなこれが。必ず逃げられるってあるだけで、対象が何かって決まっていないんだ」
「対象が決まっていない…それは敵からだけじゃないってこと?」
「そ。あらゆる事象、生き物、もしかしたら概念からも逃げられる可能性があるってこと」
それって対象次第では、最強なのでは?
「実際に結界の中にも入ることができたでしょ?あの結界の中には、どんな手を使っても入れなかったのに、よ」
「あれってそんなにすごい結界だったんだ………」
「………正直賭けだったよ。そもそも姫とか王がつく称号自体稀だし、効果もわからない」
凜さんは、はあ~っと大きく息を吐いた後、紅茶を一口飲んだ。
「そこでね、優維に改めてお願いしたいの。
あたしの孫を助けてください」
凜さんは深々と頭を下げて、言葉を発した。
その姿は一国の妃ではなく、家族を心配するただの人だった。
「……一つ聞いてもいいですか?」
「何でも」
「私は、元の世界に帰れますか?」
「ッ……………ごめん」
「そう、ですよね」
元の世界で死んだって言う話を聞いてから、そうじゃないかと思ってはいた。
魂しか持ってこれなかったと言ったとき、ごめんと謝られたときから。
「少し、考えさせてください」
「うん、1回頭ん中整理しないとだよね。気持ちが落ち着いたら、また来て。寝る前に、あたしのことを呼んでくれれば会えるから」
「はい、また後日」
「うん」
会話が終わると、扉を開けて外(といってもまだ夢の中だけど)に出た。
扉を閉めた後、すぐに目が覚めた。でも、その日はずっと上の空だった。
――優維が夢から覚めた後――
「いや~、あの子面白い子だったな。やっぱりあたしの目に狂いはなかった!」
ニコニコと自画自賛。しかし、すぐに表情を曇らせた。
「でも、もう一つ謝りたいことがあったんだ」
元の世界の貴方を、あたしが殺してしまったかもしれないとういこと。
少しだけ、あわよくば楔梛と友達になってほしいと願ってしまった。こんなのただのエゴなのに。
『上位の精霊に近づけば近づくほど、力は強くなる。それは元々持っていた称号が特殊であればあるほど、顕著に出てしまうことがある。
最高精霊になるには、称号の力を今まで以上にコントロールする必要があることを覚悟しておけ』
『それなんてムリゲーですか?』
精霊王、もう一度言います。それなんてムリゲー?
でも、実際にそうなってしまった。最初は偶然だと思った。
偶然ではないと思ったのは、この前の誘拐事件の時。
あの子達はその日たまたま森の中にいた。そしてたまたま事件に遭って、たまたまあたしが気がついてしまった。
狐の獣人を助けたい。そう口にしたとき、精霊達が勝手に動いた。優維が無意識に現場へ行くよう誘導していた。
あの後は、運が悪ければ優維は死んでいた。そうなっても、結果的に狐の獣人"は"助かっていた。
あたしの"わがまま"は確かに叶う。でも、それは犠牲を出してまで叶えてほしかったわけじゃない。
称号の力が強く出るというのはこういうこと?確かに叶う速度は今までより早かった。けど、それだけじゃだめ。
あたしの"わがまま"がねじ曲がって、その度に誰かが不幸になるの?
それに気がついたとき、自分の称号が初めて怖くなった。
だから、この空間を作ってもらって引きこもった。
あたしの"わがまま"が漏れないように。
「あたしの"我が儘"は、こんな力じゃなかったのに………」
あたしの"我が儘"が誰かを不幸にするなら、最高精霊になんかならなくていい。
ただ、あの子が、ううん、あの子達が幸せならそれでいい。
力なんかいらない。地位なんかいらない。
ここから出たくない。出なくていい。
でも、最後にもう一つだけ"わがまま"を言えるなら、
(孫を抱きしめて、ごめんとありがとうと伝えたい。)
これは誰にもしゃべらないし、叶わなくていい。
ああ、あたしは本当に"わがまま"だ。