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目を開けたらもふもふパラダイスパート2

 今回も視点がころころ変わります。



――スルク先生視点――


「スルク先生、ありがとうございやした」

「いいえ~」

「あ、ケヒト先生にもありがとうって伝えておいてください」

「わかったわ~。お大事に~」


 シューマさんは相変わらず女性の尻に敷かれるタイプね~。可愛いわね~。



 ドタドタドタッ ガラッ


 廊下を走る音が聞こえたと思ったら、勢いよく戸が開いて大きな白熊が入ってきた。

 あらあら、騒々しいわね~。



「スルク先生!優維ちゃんは!?」

「クロさん、病院ではお静かに」

「そうだよ、あんた、ちょっとは落ち着きな」

「す、すまない」

「んあ?お父さん、お母さん?あれ、リコちゃんは?」

「おはよ~、セージ君。リコちゃんはさっきお父さんが来て、おうちに帰ったわ~」



 こっちはこっちで相変わらず賑やかね~、面白いわ~。



「それで、優維ちゃんの容態はどうですか?」

「命に別状はないわ~。傷口の消毒、止血、簡易的な縫合もしたわ。銃弾が貫通していて、なおかつ大きい血管が破れていなかったのよ、奇跡的にね~。ただ……」

「ただ?」

「魔力が極端に減っているの。それと、撃たれた後もそのまま逃げていたのかしら?」

「跳んできたときに、リコちゃんの尻尾が巻き付いていた以外は、傷口はそのままだった」

「だったら、感染症にかかっている可能性もあるわ。一応抗生剤は投与したけど、これから発熱する可能性が十分にあるの。体力もかなり減っているしね。経過観察もかねて、1週間くらいは入院した方がいいかもしれないわ」

「……お父さん、お姉ちゃん大丈夫なの?」

「スルク先生……」

「大丈夫よ~。ちょっとお熱が出るかも知れないけど、死ぬことはないわ」



 私の患者だもの、最善を尽くすわ。

 血管と神経はつないだから、ほとんど障害は残らないはず。ただ、縫合は本当に簡単なもの。貫通した肉や脂肪の再生は、本人の回復力に頼るしかない。鳥婆の魔法でも、なくなった肉の再生はできないのよね。



「元気になる?」

「ええ、きっとね」

「よし。ロジー、セージと先に帰って優維ちゃんの着替えを取ってきてくれないか?」

「はいよ。あ、今日はアタシが病院に泊まるから、着替え持ってきたらあんたは帰んな?」

「だがッ———おう、すまないな」

「………スルク先生」

「セージ君、どうしたの?」

「お姉ちゃんをよろしくお願いします」

「!ふふっ任せて~」

「うん!また明日来ます!」

「は~い、また明日ね~」


 セージ君は賢い子ね~。やっぱりクロさんに似てるわ~。

 さて、今できる最善の処置はしたわ。後は、優維ちゃん次第ね~。前は異常に回復が早かったけど、今回はどうかしらね~。






「スルク先生!」

「あら~、どうしたの?」


 あの後、仮眠室で休んでいたら鹿獣人のナラが走ってきた。やっぱり熱が出たのかしら?


「お休み中すいません。優維さんが熱を出しました」

「あらあら、やっぱりね~。今行くわ~」



 病室に着くとロジーさんが額に濡れタオルをのせているところだった。



「はっはっはっ……っ………」

「スルク先生」

「体温は?」

「……41度!?」

「解熱魔法をかけます。あと青と緑のポーションの用意をお願いします」

「わかりました!」

「”解熱(フィバゼン)”」



 解熱魔法は水魔法の鎮静の性質を利用している。体温はあまり下げすぎると抵抗力が弱まり、かえって菌が活性化する可能性がある。かといって、高熱が続くと正常な組織が熱によって壊されてしまう可能性がある。解熱魔法は薬よりも体温調節がしやすいし、即効性がある。

 青のポーションは精神安定、緑のポーションは体力回復の効果がある。緊急の栄養剤代わりだ。



「先生、用意できました」

「今の体温は?」

「……37度5分です」

「……すう…すう…………」

「さっきより呼吸音も安定したけど、また熱が上がるかも知れないわ。とりあえず汗拭いて着替えさせた後、ポーションを点滴しましょう」

「着替えはアタシがやるよ」

「ついでに包帯を変えても?」

「お願いするわ~」


 

 傷口を見たときに、ロジーさんの顔が歪んだ。やっぱりそういう顔になるわよね~。



「傷、残りそうかい?」

「少しだけ残るかもしれないわ」

「……そうかい」


 それからは無言で着替えさせた後、朝まで見守った。



「スルク先生、交代しますよ」

「あら~、もうそんな時間?」

「おはようございます。少し休んできてください」

「そうするわ~。ケヒト先生、お願いね~」

「はい。ロジーさんも———」

「おはようございます!」

「ちょうど迎えが来ましたね」

「ロジー、交代だ」

「ん、じゃあちょっと休んでくるかね」


 さあ、今回は目覚めるまで何日かかるかしらね~。




――???視点――



 ごめんなさい。

  


 私は願っただけなのに、前はこんなんじゃなかったのに。



 私の”わがまま”はこんなはずじゃなかった。



 ごめんなさい。ごめんなさい。 





――優維視点――


「ん……?」

「あ、起きたね」

「「!お姉ちゃん(ユイ)!!」」

「あ、セージ君、リコちゃん、おはよう」

「おはよう!お姉ちゃん、よかったよー!」

「何日も寝てたくせに、のんきなもんね。おはよう」

「ボク、先生呼んでくるね!」


 目を開けたら目一杯にセージ君とリコちゃんの顔があった。起きたら熊と狐のもふもふ、最高ですねうへへ。そしてリコちゃんはすぐ離れて言葉はいつも通りだけど、尻尾がパタパタしてる、可愛い。

 2人の顔を順番に見たら、涙目になっていた。心配かけちゃったな、あれから何日くらいたっているのかな?



「てか、ここどこ?」

「病院よ~、お寝坊さん」

「スルク先生!お、おはようございます」

「ふふっおはよ~」

「目が覚めてよかったね。君、5日くらい寝てたんだよ」

「い、5日……」

「あ、ボク、クロの友達のカルヴァロ。よろしくね、優維ちゃん」

「あ、はい、よろしくお願いします」



 いろいろ混乱してるよ。え~と、リコちゃんと逃げてる途中で撃たれて、滅茶苦茶跳んでクロさんにダイブして…………その後の記憶がないぞ?

 本当に5日も寝てたのか。あと、起きるときに見た夢は何だったんだろう。何回も謝ってたけど、何に対して謝ってたんだろう。うう~ん、考えてもわからない。とりあえず今は、パンダのカルヴァロさんのお手々と肉球を堪能しよう。



「はははっそんなにプニプニされるとくすぐったいよ~」

「はっ!すいません、つい……」

「いいよいいよ~。(本当に怖がらないんだね。)」

「?」

「お姉ちゃん!!ぼくの手も触っていいよ!!」

「うぇえい?!」


 カルヴァロさんの肉球を堪能していたら、セージ君が対抗してきた。クロさん以外に対抗してるの、珍しいな~。そんなにプニプニしてほしいのかな?では、お言葉に甘えて。白い毛の中に黒い小さい肉球が埋まっている。

 ふにもふ、ふにもふ、ふにもふ。


「面白い?」

「うん、面白い。カルヴァロさんとは違う感じで」


 肉球を触るたびにもふもふの毛も一緒に触れるから、ダブルで堪能できるとは。白熊のお手々、恐るべし!



「堪能中の所悪いけど、診察してもいいかしらぁ?」

「はっ!ご、ごめんなさい。セージ君、ありがとう」

「えへへ~」

「先生、私たちは一旦部屋から出た方がいいですか?」

「ええ、怪我の状態も見るからお願いできるかしら?」

「「はい」」

「またね~」


 そうだよ、怪我してて今起きたばっかりだったよ。2人の肉球で忘れてたよ。

 皆が出て行ったので、血圧や心拍数などの簡単な診察をしてから、傷の状態を診ることになった。上の病衣を脱いでみると左肩に包帯が巻いてあった。傷、どんな感じになってるか見るの怖いな。


「さて、傷の状態を診てみるわね~」

「は、はい………」


 ゆっくりと包帯が解かれていった。恐る恐る見ると、アスタリスクみたいな形の小さい傷痕があった。


「!………ちゃんと塞がってるわ、明日にも抜糸できそうね~。でも、残念だけど傷痕残っちゃうかもしれないわ、ごめんなさい」

「あ~、やっぱりそうですか」

「意外とあっけらかんとしてるわね~」

「まあ、少しは残るかなとは思っていたので」


 まあ、そんなに大きい傷にならなくてよかった位に思っておこう。


「じゃあ、動きに問題ないか試すわね。これは大丈夫?」

「大丈夫です、少し引きつった感じはありますが」

「そう……次は自分で腕を上げてみてくれる?」

「こう、ですか?」

「………うん、問題なさそうね。すごいわ~」

「……スルク先生、こんなに早く治るものなんですか?」

「う~んそうね~、いくらちゃんと手当てしたとしても、早くて全治1ヶ月くらいの怪我だったわ」

「はえ~」

「まあ、称号によってはそういう能力がある人はいるから気にしなくてもいいと思うわ~」


 やっぱりそうか。もともと怪我は治りやすい体質ではあったけど、これは異常じゃないかな。異世界に来たことが関係してるのかな?まず、称号って何だ?

 まあ、おいおい考えていこう。



 本当は銃に撃たれると出血に加えて、骨折も高確率で起こるんですがそこまで書くとリアルすぎるかと思ってやめました。あと、銃創の治療は止血、消毒の他にデブリードマン(感染創など壊死した組織を除去する)処置が必要ですがこれも没に。あくまでファンタジーなので、そこは緩くしました。

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