酸っぱいブドウ
シューマ視点です。優維は寝てます。
手の届かない場所においしそうなブドウがあった。もう少しで届きそうなのに、何をやってもとれなかった。だから、あっしはそのブドウを酸っぱいブドウと決めつけた。
ガチャ バタンッ
「ふう」
あれから自警団に挨拶だけをして、何も聞かずに帰ってきてしまった。まさかリコがあんなことを言うなんて。
カタッ
「どうしたんでさぁ、オリヴィア」
壁に掛けていた、妻が大事にしていたペンダントが揺れた。まるであっしに話しかけるみたいに。
「あっしは過保護過ぎたかぃ?ヒトだけじゃなく、周りを疑うのは悪いことかぃ?」
返事はない。
「いや、疑り深くなったリコが、信じたいと思える人ができたことを喜ぶべきかぃ」
チャラッ
「……そうかい。リコはオリヴィアに似たんでさぁな」
あっしなんかを信じてくれた変わったヒト。
カタン
その音は肯定にも否定にも聞こえた。
「さて、そろそろリコを迎えに行かねぇと」
カタッ
「へいっ、行ってきやす」
「まいど、リコはどこにいやすか?」
「あら、シューマさん。今は処置室にいますよ」
「へい、ありがとうごぜぇやす」
処置室にはベットで眠っているヒトと、セージ君とリコ、スルク先生がいた。リコはセージ君にもたれて寝ていた。
「スルク先生」
「シューマさん、こんばんは~。リコちゃん疲れて眠っちゃったみたい。どうする、このまま抱えてく~?」
「いや、1回起こしてからにしやす。今日はこの子のそばにいたいかも知れやせんし」
「あらあら~」
意味深に微笑んでるスルク先生は無視しやす。相変わらず食えない人でさぁ。
「リコ、リコ、迎えに来やしたぜ」
「ん、む~………あ、パパ。おはよう」
「おはようごぜぇやす。今日はうちに帰りやすか?」
「?うん、帰るわ。ユイ、今日は目覚まさなさそうだし。それに………」
「それに?」
「……今日はパパの誕生日でしょ?」
「あ……」
「もう!忘れてたの?」
「すっかり忘れてやした」
「お仕事も大事だけど、たまには自分のことも気遣ってよ」
「す、すいやせん」
す、すっかり忘れてやした。怒り方もオリヴィアに似てたから、思わずたじろいでしまった。
「さ、パパ、おうち帰ろ」
「へい。スルク先生、ありがとうございやした」
「いいえ~」
「あ、ケヒト先生にもありがとうって伝えておいてください」
「わかったわ~。お大事に~」
家までの帰り道、あっしは何も話せなかった。
「ねえ、パパ」
「な、なんでさ?」
「何でどもったの?まあ、いいわ…………今日は勝手に1人で森に行ってごめんなさい」
「どうして森に、それも1人で行ったんでさぁ?」
「……パパに内緒でブドウを採ってきたかったの」
「?八百屋じゃだめだったんでさ?」
「アタシが自分で採ったものを誕生日に渡したかったの。でも、こんなことに巻き込まれるなんて……」
ポンッポンッ
リコの頭を優しくなでる。
あっしのためと森に行ったと言われたら、もう怒れやせんよ。
「パパ?」
「……その気持ちだけで十分でさぁ。でも、もう危険なことはしねぇでくだせぇ」
「うん、ごめんなさい」
「次はあっしも連れて行ってくれやすか?」
「!うん、一緒に!」
「へい、約束でさぁ」
家に着いてからは、リコと一緒に夕食を作った。あっしが1人で作ろうとしたら、パパと一緒に作るって聞かないんでさぁ。今日は野菜スープと魔鳥のソテー、サラダ、帰りに買った白パン。
食事が終わって、片付けをして戻るとリコが立っていた。
「パパ、誕生日おめでとう!」
「これは!立派なブドウでさぁ!」
「まだ採ったのはあるけど、これは一番最初にあげるって決めてたの。まだ少し凍ってるのは、パパがくれた時間停止がかかったバックに入れてたから」
「まだブドウがあるんで!?ありがとうごぜえやす、リコ!」
「ふふっパパ、子供みたい。改めて、おめでとう」
やっぱり、リコはオリヴィアに似てまさぁ。
やっと手に入れたブドウは酸っぱさもあったが、ほんのり甘かった。