君は大脱走という映画を知っているか?
サブタイはセリフだけです。本編は見たことないです。
「……ねえ、ねえ。起きて、起きてよ」
「う~ん、あと5分」
「この状況で?」
「はぇえ?………えっとここは?」
「誘拐犯の馬車の中」
「ええ!?」
「シッ!声が大きい」
「ご、ごめん」
起きたら目の前に、呆れ顔のリコちゃんがいた。どうやら、あの後驚きすぎて気絶してしまったらしい。手首は縄で縛られていたけど、それだけだった。足が自由なら逃げられそうだけど・・・あ、走ってるわ、これあかんやつや。
「あ、リコちゃん怪我してない?」
「……ここで他人の心配できるの、大物なのかバカお人好しなのか。少し足を挫いてるけど、歩けないほどじゃないです」
「心配するよ、バカは余計だけど。でも、足挫いてるのか~、う~ん」
「今度は何ですか?」
「いや、どうしたら一緒に逃げれるかなって……」
「…………」
う~ん、リコちゃん抱えて逃げてもいいんだけど、この体だとちょっときついな。その前に、縄ほどかないと。え~と、ポーチは……よかった、盗られてなかった。羽織の下に巻いてたから気がつかなかったのか。あ、これポーチに手が届かない、てか腕回せない。
「縄取れないんですか?」
「うん、ポーチに手が届かなくて——っていつの間に抜けたの!?」
「獣形態になれば、てかうるさいです」
目の前に可愛い狐がいた。あ~、尻尾モフりたい!そういえばクロさんが、子供の時の獣形態は野生の魔獣と同じくらいの大きさにしかなれないって言ってたな。因みに野生の魔獣は元の世界の動物と同じくらいの大きさだ。
「あの、縄とってくれませんか?」
「なんでそこだけ敬語?まあ、いいですけど」
「ありがとう」
「逃げる算段ついたんですか?」
「いや、全く」
「ドヤって言わないでください」
セージ君と話してるときより、態度がトゲトゲしい感じだけどちゃんと縄を外してくれた。目が覚めたときから、呆れが入ってたしね、仕方ないよね。まあ、知り合い程度だもんね。うん、ちょっと寂しいとか思ってないからね!
さて、本当にどうしようか。このままではウパシから離れてしまう。その前に脱出して、クロさんと合流しないと。馬車を引いているのが馬なら、少し驚かせることができれば止まるかな?その間にこっそり抜け出せれば、でも方法がわからない。
「ねえ、リコちゃん」
「……なんですか?」
「これを引いてるのは馬?」
「そうですね、グラニに近い魔馬ですね。それがどうかしましたか?」
「グラニ……はわからないけど、その馬をびっくりさせられたら逃げる隙があるかなって」
「ふむ、やってみる価値はありますね。このままでは、いずれ王国に着いてしまうかも知れませんし」
そこからリコちゃんが考え込んでしまったので、脱出経路の確認をすることにした。といっても扉の構造を見るだけなんだけどね。あれ、これ鍵ついてない?閂とかもなさそう。防犯意識なさ過ぎじゃないですかね~、まあ今は好都合だけどね。
「よし、準備できました。ただ——」
「ただ?」
「脱出できたとしても、この足でたどり着けるか……」
「リコちゃんは私が抱えて行くよ?」
「は?」
「だから、獣形態のリコちゃんを私が抱えて行く。獣形態なら抱えられるくらいだからね。でも、道がわからないな~」
「……道なら私が案内します。クロさんの魔力を感知すればいいんですよね?」
「できるの?」
「感知は得意なんです」
「じゃあ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
脱出後の当てもできたところで、リコちゃんが作戦を話してくれた。まずは、小さな音を出して馬を警戒状態にさせる。少し速度が緩くなったところで、魔法で強風を起こす。すると馬が驚いて暴れるので、それをなだめている間に脱出し、素早くここを離れる。これが今のところ最善だろうと、私が居なければ他にもできたけどと最後に言われた。確かにリコちゃん1人なら、すぐに抜け出せただろう。でもさ、巻き込まれたんだもん。文句なら誘拐犯に言ってくれ。