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アタシの師匠はちょいおこ:奪還組



「お前さん、ウパシからか?」

「ええ、おばあさんもウパシから?」

「とんでもねぇ、あたしゃここ出身だよ!」



 え、これはどっちなの?



「スミ婆ちゃん、話をややこしくしないで。ごめんなさいね、少しボケてるの」



 奥からスミ婆ちゃんと呼ばれたカラス獣人と、カワウソの獣人が姿を現した。



「私はホロチロ、貴方は?」

「リコです」

「あら!貴方シューマさんとこのリコちゃん!?」

「そうですけど?」

「あらー!大きくなったのね!」



 どうやらアタシを知っているみたいだけど、アタシはこの人のことを知らない。

 アタシが怪訝な顔をしていると、ホロチロさんはハッとした顔をして話を続けた。


 

「いきなりごめんなさいね。私、ここに来る前は撫子商店の近所に住んでて、そこそこ付き合いがあったのよ。貴方は生まれたばかりだったから覚えてないかもしれないけど」

「すみません」

「いいのよー!ここで会ってしまったのはよくないことだけど………」



 ホロチロさんは嬉しそうな顔から一転して、悲しそうな表情をした。

 そうか、アタシが本当に捕まってしまったと思っているから。話すなら今?



「あのね、アタシ『待って』……?」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないです」

「そう?もしかして、ちょっと疲れちゃった?」

「……そうですね。少し気持ちを整理したいです」

「わかったわ。じゃああっちの隅っこが空いてるから、そこで休んで。後でまた話しましょう」



 相変わらず薄暗かったけど、移動するときに人数と性別、大体の年齢は把握できた。ここにいるのはアタシたちを抜かして15人で全員女性、種族は獣人がほとんどだけど人族も混じっている。人族もいるとは聞いていたけど、エルフの子供もいるのには驚いた。年齢はスミ婆ちゃんが最高齢で、他は成人したてかアタシとそう変わらない年の子、かなり若い人が多い。ウパシでは見たことがない子もいたので、恐らくそれ以外の所でも攫ってきているのだろう。


 ホロチロさんが指さした隅っこまで移動して腰を下ろす。隣はちょうどエルフの子供で、私が近くに来てもずっと俯いたままで何も反応がない。今はそっとしておこう。

 もうちょっとここを把握しておこうと壁に寄り掛かるふりをして耳を付けると、隣から低い声が聞こえた。どうやら隣に男性が収監されているみたい。子供特有の高めの声が多いので、あちらも子供が多いんだろう。


 大まかに確認し終わりふぅーと一息ついた後、未だにアタシの裾に隠れているスルク先生と音魔法で会話をする。



『スルク先生、さっきは何で止めたんですか?早く説明して協力を仰いだ方がいいんじゃないんですか?』

『ごめんなさいね~。でもあの子、私が知ってるホロチロじゃないのよね~』

『偽物ってことですか?』

『そうね~。というのもホロチロはカワウソじゃなくて、ラッコの獣人なのよ~』



 は?何それ、種類自体違うってこと?



『ホロチロがリコちゃんの近所に住んでたのも、リコちゃんが小さい頃にいなくなったのも事実よ~。でもね~?彼女はラッコ獣人で~、口調ももっとおっとり系なのよ~』

『詳しいですね』

『だってホロチロとは仲良かったもの~。だから~、私もちょ~っとおこよ~?』



 ここでホロチロと名乗った獣人は、カワウソで元気なお姉さんという感じでスルク先生が知っている彼女とは似ても似つかない。スルク先生、これちょっとじゃなくて怒ってるわ。ウフフフフって笑いが怖いのよ。

 話を戻そう。でも、彼女は何故わざわざ別人に成りすましてまでここにいるの?



『考えられるのは監視ね~』

『監視…………逃げ出さないように?』

『それもあるけど~、団結して反乱を起こさせないようにするって方が大きいかもしれないわ~』

『それって、あの人はカミアシ家側ってこと?』

『黒ね~。足の運びが傭兵のそれだもの~、雇われってとこね~』



 なるほどね、じゃあ猶更さっき計画のことを話さなくてよかったわ。

 ん?スルク先生、何で傭兵とかそういう人たちのこと知ってるの?医者になる前は、ハンターギルドに所属してたことは知ってるけど、それ関連で?



『スルク先生』

『何で傭兵とかのこと知ってるのってことでしょ~?ハンター時代に一緒に仕事したことがあるのよ~。因みにクロさんやシューマさんも元ハンター兼傭兵よ~』

『——————ッ!』



 パパは最近知ったけど、まさかクロのおじさんもだったなんて…………っと今は驚いている場合じゃないわね。監視がいるんじゃ、アタシが無暗に動いてバレる訳にはいかない。



『これからどうします?』

『仕方がないから私がパパっと診ちゃうわ~』

『さすがのスルク先生でもバレますよ』

『うふふ~こうするのよ~。”迷彩(ヌイナク)”』



 スルク先生が魔法を唱えた後、手の方に向かって這ってくる感覚がした。焦って隠そうとしたが、手には先生がのっている感覚がするのに姿が見えない。



「え………?」

『光と風魔法の一種よ~。光を広範囲に拡散させて~、さらに空気の流れを変えて~って今説明することじゃないわね~。私の姿、見えないでしょ~?』

『全っ然見えないです』



 手に先生がいる感覚はするのに、全く姿が見えない。正直原理は分からないけど、これならバレずに診察ができそうだわ。



『パパっとやってくるわ~』



 手からスルク先生の感覚がなくなったので、すでに下に降りて診察をしているのだろう。

 さて、アタシはどうしたら偽ホロチロを出し抜けるか考えようかしら。

 少し伸びをしてから、何気なく隣を見るとエルフの子供がじっとこちらを見ていた。



「えっと、どうしたの?」

「…ッ………ッ」



 何かしゃべろうとしているが、声が出ないのか掠れた息の音しか聞こえない。

 子供でもエルフだ。もしかしたら、音魔法でなら会話ができるかもしれない。



『これできる?』

『っできる』

『アンタ、喋れないの?』

『しゃべるなって言われた』

『誰に?』

『…………みんなに……』



 エルフの子供は最初見たときのように俯いてしまった。

 アタシは小さく息を吐き出し、尻尾で子供の背中を撫でた。


 

『今その皆はいないわ。それに、「喋るのはいつだって自由よ」

「………ぅ……グスッ……ッ!」



 エルフの子供は声を押し殺して泣いた。アタシは泣き止むまで尻尾で背中を撫でてあげた。

 




 カワウソとラッコは同じイタチ科です。 

 迷彩ヌイナクの原理としては光学迷彩と同じです。物理学は苦手で何となくでしか理解できなかったので説明はできません!

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