楔梛様は感情豊か:解呪組
「…………………」
あれ?楔梛様が何も言ってくれない。
結構沈黙が長いよ?気まずいよ?もしかして「偉そうなこと言ってんじゃねぇ!」って思われてる!?不敬罪!?不敬罪ですか!?
内心一人でアワアワしていると、不意にふっと息を吐くような小さな音が聞こえた。
「ありがとう」
「ごめんなさっ……ありがとう?」
「ああ、弱気になっている俺を励ましてくれたんだろう?なぜ優維が謝るんだ?」
「えっと、沈黙が長かったから不安になったからといいますか……」
「あー楔梛様、優維がしゃべった後に30秒くらい動き止まってたからな。オレも少し不安になったぞ?」
「すっすまない!」
「わざとじゃないんだ!」と今度は楔梛様がアワアワし始めた。尻尾も上の部分だけピコピコと手の動きに連動して動いている。その様子が何だか可愛くて、少し笑ってしまった。
「すまない!」
「もう、そんなに謝らなくて大丈夫ですよ」
「そ、そうか?」
「ふふっはい!」
「すまない、以後気を付ける」
今度はほっとした様子で話していたけど、尻尾は垂れさがってちょっと内巻きになっていた。そんなに気にしなくてもいいのにな。でもそれ以上なんて言ったらいいのかもわからないし、喋ったとしても追い打ちをかけてしまう気がしたので、この話はもう終わりにしよう。
「ウッハッハ!もう気にするなって楔梛様!」
「……クロはもう少し気にしてもいいと思うが?」
「うっリ、リーさんには言われたくねぇな~」
「はぁ」
あ、リーンヴォックさんが呆れてる。
クロさんは明後日の方向を向いて口笛を吹いている。あからさますぎるよ、クロさん。
「ねえ~、本当にそろそろ出発しないと日が暮れるよ~?」
「ああ、すまない。では、行ってくる」
「行ってきます」
「む、気をつけてな」
「無理すんなよ!」
クロさんがサムズアップをしてきたので、無言でそれを返す。ちらっと横を見ると楔梛様もそれを返していたので、クロさんが前から良くしていたポーズなのだろう。
「精霊の加護があらんことを」
最後のココ爺の一言に頷き、カルヴァロさんがルラとニンパに合図を送る。2体はヒヒィイン!と鳴いた後走り始め、雪をものともせずずんずん進んでいく。数分後にはもうクロさん達の姿は見えなくなっていた。
「…………………」
「…………………」
出発からさらに数分後、さっきからずっと楔梛様と無言の時間が続いている。
よくよく考えれば、いや考えなくても楔梛様とは数日前に会ったばかりだし、何なら元でも王様だし、それ以外のこと全然知らない!今までは誰かがいたから話せてたけど、いきなり二人だけというのはハードルが高い!カルヴァロさんに助けを求めようにもルラとニンパと楽しそうにしているし、そもそも距離が離れてるから話しかけても聞こえないだろう。
最近色々ありすぎて、自分が人見知りだってことを忘れてたよ~!
「…………なぁ」
「うぇっはい!」
一人でグダグダ考えているところに楔梛様が声をかけてきたので、変な声出しちゃったよ!恥ずかし!いと恥ずかし!
「すまない、驚かせてしまったな」
「いえいえ!私が勝手に驚いてしまっただけなので、楔梛様は全然1ミリたりとも悪くありませんです!はい!」
日本語!いやここでも日本語なのか!?いやそもそもここの言語とか知らんし!とりあえず読み書きも今まで通りで通じてるからヨシ!って何考えてるんだろう私!意味わからんぞ!?
「………ふはっ」
「ふぇぃ?」
「ククッいやすまない。優維は面白いな。クロやディグたちが言っていた通りだ」
笑われた!いや、それよりクロさんやディグ君たちは何を言ったんだ!?変なこと吹き込んでたら後で鼻先にパンチをお見舞いしてやる!
「クロやディグたちは悪いことは言っていない。むしろ頑張り屋だと褒めていたぞ?」
「何で私が思ってることが分かるんですか!?」
「顔に書いてあった」
私の顔はモニターかなんかですか?確かに分かりやすいとはよく言われるけど、会って数日の人にも言われるとか!どんだけ分かりやすいんだ、私!
「感情や思っていることが顔に出やすいんだろう。いいことだ」
「う~あんまり良い事とは思えませんが?」
「分かりにくくて誤解されるよりずっといいさ」
軽く笑いながら、楔梛様に頭を撫でられる。
仕方ない、この肉球プニプニとモフモフお手々に免じて(?)許してやろう。
「俺は王になってから、あまり感情を出さないようにしていたんだ」
「え?」
楔梛様は今までより少しトーンを落として話し続けた。
「国民が不安になってしまうから弱いところは見せてはいけない、そう自分に言い聞かせていた。俺が王位を継いで少したってから、親父たちは亡くなってしまったからな。俺がこの国を守るしかなかった。クロやリー、カロの前だけは気を緩めていたがそれも段々とできなくなっていってな。一部では”氷の王”などと言われていたよ」
顔は少し笑っていたけど、耳はペタンと垂れ下がって、尻尾もお腹部分に巻き付いてベルトのようになっていた。確かに顔の表情はあまり豊かなじゃないかもしれないけど、尻尾や耳はとても表情豊かだ。
「楔梛様を”氷の王”って言ってた人たちは、全然楔梛様のこと見てないですね」
「え?」
「確かに表情は分かりずらいかもしれませんが、声も尻尾も耳も雰囲気もとっても感情豊かです!」
今だって少し目を見開いて、耳も尻尾もピンと立っている。あ、今のは私が大声を出したからかもしれない。それだったらごめんなさい。
「そ、そうか?」
「そうです!」
「………そうか」
つぶやいた声は嬉しそうで、耳も横に寝かせて、尻尾もゆらゆらと機嫌よさそうに揺れていた。