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カミアシ家の地下:奪還組




「はあ~」

「大丈夫~?」

「ええ、大丈夫です」



 ため息、というか気合を入れるために大きく息を吐いただけというか。

 あんまりにもおじさんが頼りないから、思わず説教兼励ましをしてしまった。だってもう目前まで来てるのにうじうじとした空気を出してるから、鬱陶しいったらありゃしない。

 というか本来ならアタシの方が緊張してる場面じゃないの?なんかおじさんのこと見てたら逆に冷静になってきたわ。

 

 馬車が止まって、外から人の声が聞こえる。

 もう一度大きく息を吐く。ここからね、さあどこまで演技できるかしら。







「ほお、これはなかなか上玉だな」

「遅くなった件はこれでチャラにしてやるが、お前に預けた奴はどこに行った?」

「すんません。アイツは途中でどっかに行っちまいまして、それから」

「ああ、いいいい。アイツはどうせ使い捨てだ。それより、銃はあるか?」

「へい、ここに」

「よし」


 

 エクロクさんが持ってきていた銃を手渡したのだろう。銃のことを尋ねた男の満足そうな声が聞こえた。

 


「ほ~ら、お嬢ちゃん外に出ような~」

「嫌」

「元気でいいことだ。だが、もう少し利口になろうな?」

「ヒッ……!」



 使用人らしき男は、馬車の扉を開けて此方に気持ち悪い笑顔を浮かべながらアタシに近づいてきた。アタシが拒否をすると銃を構えて脅してきた。とりあえず怯えた演技をするけど、内心はすごく冷めている。どうしてこうも悪い人たちは短気なのかしら?



「ッそ、そこまでしなくても」

「うるさい!貴様はこいつが売れるまで、ここから出ることは許さん」

「そんな!」



 ここまでは想定内、おじさんも声は驚いているけど左程取り乱した様子はない。 

 

 

「お嬢ちゃん、降りろ」

「………」

「よし、いい子だ」



 馬や犬じゃないんだから、その褒め方はどうなの?今は素直に従うけど、後で殴ってやろうかしら。

 そして銃を持っていない方の男が身体検査と称して、服の上からお腹周り、尻尾を触ってくる。正直鳥肌が止まらない。男の手がスルク先生が潜んでいる袖口に触れる寸前、

 


「シュー!」

「うわっ!へ、ヘビ!?」

「この子、私のペットなの!一緒じゃなきゃヤダ!ヤダヤダヤダヤダヤダ!」

「わ、わかったわかった!一緒でいいから騒ぐな!」



 ふふん、どうよこの駄々っ子演技。これが効く相手でよかったわ。

 あの銃の男だったらもう少し合理的な理由をつけようと思ったけど、身体検査がこの男で正直助かったわ。いかにも流されやすそうだし、案の定そうだったし。



「怪しいものはなかったか?」

「ペットのヘビ以外は特に」

「ペット?………ほお、このヘビもなかなか綺麗だ。コレクターに高く売れそうだ」



 スルク先生だから獣形態でも美蛇なのは当然よ。当の本人は未だに胸を広げて頭をゆらゆらと揺らして威嚇している。どうやら男の誉め言葉はお気に召さなかったようね、アタシでも同じ反応するけど。



「一緒じゃないと騒ぐんですよ」

「別にいいだろ。取引先が決まるまでは一緒にいさせてやれ」



 ふーん、やっぱりそういう感じね。

 ホント下種、私たちを商品としか思ってないのね。

 


「そんじゃ、お嬢ちゃんはこっちにこような~」

「おじさん、これからどこ行くの?」

「あのお屋敷の中に入るんだよ~。しばらくしたら、ちょっと遠いところに行くことになるけどな?」



 そのニヤケ顔、反吐が出るわね。

 つまり、取引先が決まるまでは屋敷の他人が入れないような場所に隔離してその後国外に売っ払うと、そういうことね。ダイモンのおじさんの話だと、人身売買はされているけどほとんど屋敷で働かされてるっていってたわね。売る用と分けているって考える方が妥当ね。





 銃を持った男とカミアシ家のお屋敷の中に入った。因みにもう一人の方はおじさんと話があるそうでさっきの場所に残ったままだ。

 お屋敷の中はまさに貴族の館という感じの豪華なつくりになっていた。扉を開けた正面に大階段、左の客間らしき部屋、右側にはどこまで先があるのかわからない長い廊下に扉がポツリポツリとあった。

 男に連れられて右側の廊下を歩く。物置や台所などの表札が付いている部屋もあれば、何もついていない部屋もあった。しばらく歩くと、行き止まりに一つの鉄の扉があった。



「こっから地下に入る」

「暗い?」

「ああ。こっからはお前を担いでいく。転んで怪我でもされたら価値が落ちる」



 話している途中で突然小脇に抱えられる。

 アタシ荷物じゃないんだけど、全くレディの扱いがなってないわね。


 

「暴れねぇんだな」

「………」

「返す余裕もねぇか。まあ静かでいい」



 先がどうなっているか分からない場所で暴れてもどうしようもないわ。それに無駄に暴れて、こんなところで体力を使ってしまうのは愚の骨頂、バカのすることよ。


 男が鉄の扉の鍵を開けて、中に入っていく。

 扉を開けてすぐ階段があり、備え付けの魔石のランプはあるもののそれらは仕事を放棄したかのように全くつく気配がない。結局明かりは男の手元にあるランプのみなのでかなり暗い。それこそ数歩先が見える位。


 暫くはカツカツと男の足音のみが響いていたけど、次第に小さな話声が聞こえてきた。

 何段下がったか分からないが、かなり下まで来ていると思う。ようやく広いところに出てきた。私たちがそこにたどり着く前に小さな話し声はピタッと止んでいた。

 そこには大きな鉄格子がはまった空間が3つほどあった。ここも階段の所より明るいとはいえ、近くで互いの顔が認識できるくらいで大分薄暗い。



「新入りだ」



 男は私を手前の鉄格子のなかに入れすぐ鍵をかけ、一言だけ声をかけるとさっさと帰ってしまった。



「乱暴ね」

「…………お前さん、ウパシからか?」



 この場にいない男に向かって悪態をつくと、奥から一人の老婆が声をかけてきた。






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