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道中、王都到着まで:奪還組

 ここから解呪組、奪還組に分かれて話が進みます。分かりやすいようタイトルに記載していきます。

 今回はエクロク視点です。

 





「ガォオオオオ!!!」



「うおっなんだ?」

『オォ』



 突然後ろから獣の咆哮が聞こえた。だけど不思議と怖くない。レタラも感嘆の声を上げたが怯えている様子は全くない。



「獣の王の咆哮だ」

「え?」

「癪だが、てめぇも祝福されたみてぇだ」



 シューマはこちらを向くことなく淡々と説明してくれた。



『獣ノ王?アノライオンノコトカ?』

「そうでさぁ。やっぱりレタラは分かりやしたか?」

『ウン。アノ獣人ハキットカナリ上位ノ存在ダト思ッタ』

「さすがでさぁ」



 そうなのか。確かにあの白いライオンは強そうだったが、オレにはそれ以上のことは分からなかった。オレは魔力感知も苦手なのでそういうことにめっぽう疎い。いつもレタラの野生の勘頼みだ。

 そんなことを考えていると、後ろからぬっと狐娘たちが顔を出した。



「パパ、さっきのは?」

「獣の王の咆哮でさぁ。スルク先生は聞いたことありやすよね?」

「私も久々に聞いたわ~。やっぱりカッコいいわね~」

「確かに…………それに、なんか心がポカポカしたわ」



 怖くはなかったがそんなに温かいものだったか?やはりオレ達と獣人の感覚は違うのか?



「ああ、楔梛様は世界一優しい獣の王でさぁ」

「うん、何となくわかるわ」

「ふふっ」

 


 その後も三人(二人と一匹?)の会話は続いていたが、オレは黙々と馬車を走らせた。オレがその会話に混ざる資格は、未来永劫ないだろう。








「そろそろ門番から見えるようになる場所です。シューマさん、土竜さん方は隠れてついてきてください」

「わかった/ん」

「リコ、スルク先生、気を付けて下せぇ」

「パパもね」

「了解よ~」



 門の監視役から見えないギリギリの位置で指示を出す。シューマは木の上に上ったと思ったら、すぐに姿が見えなくなった。土竜さん達は地面にもぐってついてくるみたいだ。



『エクロク、イツモ通リダ』

「ああ、わかってる」

『レタラガツイテル』



 手綱から緊張が伝わってしまったのか、レタラに励まされてしまった。

 そこからは無言で馬車を進める。いつもなら安心して短く感じてしまうのに、今日は嫌に長く感じた。



「おじさん」

「ど、どうした?具合でも悪いか?」

「おじさんにそっくりそのまま返してあげるわ」



 そこまで顔色が悪くなっていたのだろうか。

 彼女は、ハァーと盛大にため息をつき、呆れたような声で語りかけてきた。



「あのさおじさん、そんなんだからアイツらにも舐められんのよ。例え商売でも強く出るところはでなきゃ。譲れないもんがあるなら猶更よ?」



 ……………どうして今、オレは子供に説教されているのだろうか。



「アンタの一番大事なものは何?」

「え?」

「アンタが命かけても譲れないものよ」



 オレの……………………。

 ——————————————そんなの決まっている。



「レタラと、この馬車だ」

『レタラモエクロク大事!』



 そうだ、これはレタラも馬車も失わないための現状できる最善手段(最後の綱)

 まだ誘拐しようとしたという罪悪感はぬぐえないが、これはオレがレタラと一緒にいるためにやらなきゃいけないことだ。



「なんだ、できんじゃないの。商売は虚勢も武器になるんだから、今は堂々としてりゃいいのよ」

「…………ああ、ありがとう」



 最後にバシッと背中を尻尾で強めに叩かれ、彼女は馬車の奥へ戻っていった。

 

 さあ、もうすぐ王都だ。気を引き締めねえと!





 



「馬飼いのエクロクだな。申請に不備はないな?」

「へい」

「よし、通れ」



 門番から特に中を調べられることもなく、問題なく王都に入ることができた。

 空を見るとまだ日が昇ったばかりで、街も市場の準備をする人が数人出ているくらいの時間帯だった。ふむ、いつも通りだな。

 この雪で普通の馬だと朝早くに出たとしても早くて9時ころ、普通は昼前に着くくらいの道のりだが、レタラはそんじょそこらの馬とは違う。雪でもお構いなしにウパシから王都まで速度を下げることなく走れるので、かなり早く着くことができる。



「おう、エクロク!今日は早いな!」

「お、おう、まあな」

「今日はいい牧草が入ってるぞ!」

「おう、後で寄るよ」



 驚いた、こんな時間から準備していたのか。この時間帯なら知り合いに会うこともないだろうと思っていたが迂闊だった。

 ジャゼンはオレが贔屓にしている店の店主で、牧草などの家畜飼料を扱っている。ここの店は品質が良く、この街で家畜を扱っている者なら知らない者はいないくらい有名だ。

 知り合いに会ったのには驚いたが、幸い何も聞かれなかったので内心かなりほっとしている。



 その後は知り合いに会うこともなく、カミアシ家の屋敷付近まで来る事が出来た。

 妙に緊張してきてしまい、レタラを止めて少しぼーっとしていた。



『おじさん』

「———ッ!」



 突然耳元で喋られたと思ったが、振り返っても狐娘が顔を出しているわけではなかった。不思議に思っていると、今度はエクロクの声が聞こえた。



『エクロク、安心シロ。レタラト同ジ魔法』

『音魔法よ。おじさん、一応確認ね』

「………おう」



 オレは地魔法と生活魔法しか使えないので、この耳元から聞こえる声が音魔法と言われてもさっぱりだった。まあ、レタラが頷いているのでそうなのだろう。


 確認事項はこうだ。狐娘と先生を降ろしたらオレはすぐに退散、もし残るように言われたときはそのまま待機。その際、どんなに促されようと中には絶対入らない、特にこの点で念を押された。中で戦闘が起こったとき、というかあのシロクマたちが起こすんだが、その時に騒ぎに乗じてすくに逃げれるようにしておけと。



『いいかしら~?絶対無理しちゃだめよ~?』

『死んだら一生怨むから』

「それはオレのセリフでは?」

『軽口が叩けるなら十分ね。レタラも頼んだわよ』

『オウ!エクロクト一緒ニニゲル!』



 ずっと考えていたが、オレの馬車で救出した者を運ぶのは駄目なのだろうか?作戦を聴いている時に何度も思ったが、その案が出ることはなかった。



「なあ、オレが救出した奴らを馬車で運ばなくてもいいのか?」

『いらない。アタシ、まだアンタを信用してないから』

『リコちゃん、言葉がたりないわ~。それも理由の一つだけど、一番は地上だと狙われやすいっていうのがあるのよ~。せっかく安全なルートがあるのにそれを利用しないで、わざわざ危険なルートを選ぶメリットがないもの』

「確かに…………」

 


 そのルートが気になったが、極秘よ♪と言われてしまったのでそれ以上聞かなかった。今はそれよりもレタラと自分の安全の方が大事だ。



『行きましょ。あまり遅くなってもよくないわ』

「わかった」



 一度深呼吸をして、レタラの手綱に力を込める。



「レタラ」

「ヒヒィン」



 カミアシ家まで速歩で進む。

 カッポカッポと心地よい音が響く、オレの心臓も同じリズムで動いていた。






 家畜飼料の店主ジャぜん(のう)→JA全農です。

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