第一陣、出発!
「「いってきます!」」
「「「いってらっしゃい!」」」
ロジーさん達3人に行ってきますをして、集合場所へ向かう。
セージ君は玄関から出て、私たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。
「そういえばセージからお守りは貰ったか?」
「うん、ついさっき」
「そうか、オレは昨日の夜に貰ってな~。セージが初めてくれたお守りを思い出しちまった」
「へ~。どんなのだったんですか?」
魔法を練習し始めたのが最近だから、魔力のこもっていない普通のお守りなんだろうな~。
「セージが物心ついてすぐの頃だったかな、オレが少し仕事で怪我をしたことがあってな。怪我が治ってから始めて森にいこうとしたとき呼び止められてな」
『おとうさん!』
『おう、どうしたセージ』
『これ!もうけがしないように!』
「まじないの模様が書いてある折り紙の熊をオレにくれたんだ。今も持ってるぞ」
ほれ、とクロさんはポーチの中から巾着を取り出すとその中から熊の折り紙が出てきた。熊の後ろには私やクロさんの羽織についているような模様が描かれていたが、線が歪んでいて頑張って書いたんだろうなって感じが出ていた。数年前のものにしては全く劣化していなかった。
「小さい頃からセージ君は優しかったんだね」
「おう!これ貰った時はそりゃもー嬉しくてな!耐水魔法とこれ専用の巾着をシューマに作ってもらったくらいだ!」
「そっそうなんだ。シューマさん呆れてなかった?」
「ウッハッハ!クッソ呆れた顔してたな!だが、巾着はオレの注文以上のモンを作ってくれたぜ?入れたものの劣化を遅らせて、尚且つ耐火耐水耐衝撃バツグンだ!オレもさすがにやりすぎだとは思ったけどな!」
クロさんはいつものように豪快に笑いながら、熊のお守りを大事そうに巾着袋にしまいポーチの中に入れた。
てかシューマさんヤバいな、もうあの人に作れないものはないんじゃないかな。
「セージはな、自分が大切だと思う奴にお守りを渡す。別にリーさん達がどうでもいいという訳じゃないぞ?セージなりに優先順位があるんだ」
「それは、何となく分かるよ」
「ウッハハハ、そうか」
クロさんは笑いながら、私の頭を大きな手で優しくなでてくる。時々肉球の硬いところがあたってちょっと痛いけど、手のひらから伝わる体温は心地よかった。
「「おはようございます!」」
「応、おはよう」
「おはよー!ゆっくり休んだ?」
「はい、絶好調です!」
「そっか!よかった!」
私たちの声に一番最初に気づいたリーンヴォックさんとカルヴァロさんと挨拶を交わす。
リコちゃん達はどこにいるかなときょろきょろすると、リーンヴォックさん達から少し離れたところにエクロクさんの馬車があった。その近くでリコちゃん、スルク先生、エクロクさん、シューマさん、土竜兄弟が何やら打ち合わせをしているのが見えた。
「俺が最後だったか。皆、おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
「「おはようございます!」」
「ホッホッホ、元気じゃのう。良いことじゃ」
楔梛様とココ爺も合流したので、そろって馬車の所まで移動をした。
あ、いっけねお守り楔梛様に渡さなくちゃいけないんだった。
「楔梛様、これ凛さんから渡してって頼まれました」
「ん?ああ、お守りか。ありがとう」
「いえいえ。後で凛さんにも直接お礼言ってくださいね?」
「ははっそうするよ」
楔梛様もらった勾玉を軽く握ってから懐にしまった。
「リーコちゃん!」
「うわっ急に何すんのよ!?」
「いたい、尻尾がいたい」
「痛くしてんのよ!」
後ろからリコちゃんに抱き着いたら尻尾でベシベシされたてござるの巻。
だんだんシリアスに耐えられなくなったんだよ。モフモフ尻尾で癒してよ~!
「ホッホッ元気じゃのう」
「緊張感がない…………」
「ウッハッハ!ま、いいじゃねえか!」
「あら~仲良しね~」
「ん、私、も、スルク先生、と、仲良し」
「あらもちろんよ~」
は~モフモフ癒される~。
大人組はいつも通りの反応ですね。んで、ヒミちゃんとスルク先生はギュッとしてる。あそこも仲いいよな~、ディグ君もピリカさんも微笑ましそうに見てるよ。
「そろそろ時間ですぜ?」
「そうじゃな、あまり遅くなってもいかんな」
「じゃあ最後に」
「はいはい」
リコちゃんをギュっとしたら、ギュっとし返してくれた。リコちゃんから離れると、リコちゃんの腕に獣形態のスルク先生が巻き付いて馬車に乗り込んでいく。
馬車の上には土竜兄弟、エクロクさんの隣には人間形態になったシューマさんが座る。人間形態になったシューマさんは少し赤みがかった茶髪で、シュッとした顔つきで目は細目なので瞳がちらっと見える位。因みに目の色は獣人形態と同じ蜂蜜色だ。
「エクロクの旦那、道案内頼みやすぜ」
「ああ」
シューマさん言葉は普通だけどちょっと言い方に棘があるな、まるで最初に会ったときのリコちゃんみたいだ。自分の娘誘拐しようとした犯人だもんね、むしろよく抑えてると思う。
『シューマ、ヨロシク』
「よろしくな、レタラ」
そう言ってシューマさんはレタラの鬣を撫でる。レタラに対しては打って変わって優しい口調だ。
「気をつけろよ」
「それはお互いさまでさぁ、クロの旦那」
「ウッハッハ、そうだな」
クロさんとシューマさんは笑いあい、拳同士をこつんと合わせた。
「精霊の加護のあらんことを」
「「ありがとうございます/ぜえやす」」
ココ爺が祝詞を言うと、リコちゃんとシューマさんは頭を下げた。ココ爺がエクロクさんを見て微笑むと、エクロクさんは一瞬目を見開いた後勢いよく頭を下げた。
『エクロク?』
「なんでもねぇよ。よし!レタラ、行くぞ!」
『オウ!』
レタラが最初はゆっくりと、だんだん早く足を動かして馬車を引っ張っていく。
馬車が完全に見えなくなる前に、今まで一言も発していない楔梛様が前にでる。
「ガォオオオオ!!!」
空気を割くような一吠え。彼なりの激励だろう。
リコちゃん達に届いただろうか。
「健闘を祈る」