こういう報告は気分がいいもんじゃないね
「ここいらで現状を把握しておこうかの。ダイモン、調査結果の報告を」
「おう」
ダイモンさんは数十枚の紙の束2つ取り出した。
「本当はこれ以上あるんだが、この場で見せられるのはこれくらいだ。後で王様には全部目を通してもらうが、いいか?」
「ああ」
言い終わるとダイモンさんは途端に苦虫を嚙み潰したような顔をする。
あ、これよくない資料だ。ダイモンさんの顔がそう言ってるよ。
「これは、昨今のウパシ付近での誘拐事件の調査結果だ。もう一つは、現王都の有力貴族及び上層部の伝票だ」
「その伝票、見せてくれやすか?」
「いいぞ」
「そっちの報告書を見てもいいか?」
「…………ああ、ここで怒んなよ?クロ」
「……ちらっとだけ、後はカロさんに任せる」
「わかったよ。気は進まないけどさ~」
クロさんは本当に一瞬だけ報告書を見て、すぐにカルヴァロさんに渡した。クロさんの顔が一瞬野生の顔になってた。カルヴァロさんは苦笑いしつつ受け取り読み始めた。
カルヴァロさんが集中しているみたいなのでシューマさんの方に目を向けると、眉間にしわを寄せて大きくため息をついていた。
「収支が滅茶苦茶でさぁ。パーティーに大金貨100枚使ったと思えば、それ以上の大金貨を受け取っていらぁ。それも1週間に複数回、どんな割がいい商品だって通常ルートじゃこんなん不可能でさぁ」
「通常ルートじゃねぇからな」
「それに、この品…………」
「な、ヤベーだろ?」
「そんな軽く言えるのはおめぇだけでさぁ」
あきれた様子でシューマさんが資料を、カラカラと笑っているダイモンさんに返す。
二人の様子が対照的だけど、ダイモンさんの眉間にも微かにしわが寄っている。
「エクロク、アンタも見るか?」
「………いいのか?」
「いいも何も、アンタも作戦の協力者だろう?」
「ああ」
「じゃあ見る権利はある。酷かもしれねぇが、お仲間がどんなもん運んだか知っとけ」
「…………ああ」
エクロクさんも手渡された資料に目を通していたけど、すぐにシューマさんのように眉間にしわがよった。
「万華鏡、天使の氷もやべぇが、頭付きの毛皮、白い花は……」
「ああ、人の俗称だ」
エクロクさん達の会話、聞かなきゃよかった。いや、知る必要はあるんだろうけどいかんせん気分がいいものではない。やばい、ちょっとだけ気持ち悪い。
「大丈夫か?一旦外に出るか?」
「いえ、大丈夫、です」
「そうか、あまり無理はするなよ」
「はい」
楔梛様を心配させてしまった。ちょっと深呼吸をしよう。少し楽になるかもしれない。
深呼吸をしている間、楔梛様が尻尾でポンポンと優しく背中を叩いていてくれた。
うん、少し楽になった。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そうか?本当に無理はするな」
最後に私の背中を尻尾でポンっと叩いてから、楔梛様は前を向いた。
「資料を見て分かったと思うが、これは由々しき事態だ。今代の王に変わる前まではここまで派手じゃなかったが、代替わりした途端好き放題し始めた。現王がまだ若造だというのもあるが、一番は王の看病に付きっ切りで執事のマリウスが政治に関与できていないってとこだろうな」
「マリウスはまだ現役なのか?」
「アイツは悪魔と獣人のハーフだぞ?寿命なんてあってねぇようなもんだ」
「マリウスさんって誰なんですか?」
「ああ、マリウスは十三代目のラプス家からずっと仕えている悪魔と山羊獣人のハーフだ」
ダイモンさん曰く、マリウスさんはまだ人間が魔族と戦争している時代からずっとラプス家に仕えていて、その忠誠心は筋金入りらしい。また、代々仕えているだけあって宰相や他の侯爵からの信頼も厚く、たびたび商談や政治の相談をされたり、助言したりしていたらしい。あくまで王の補佐としての範囲内だが、結構な発言権があったそうだ。
「だが、同時に半分の貴族からは疎まれていてな。そいつらは王が嫌う不正をするような奴らだったから、今まではマリウスが牽制していたんだが王が弱っている今、それができていない。宰相や王派の侯爵達も他の問題や自分たちの領の対処で手が回っていないってんだから、最悪だろ?」
「許せんな」
「……………なあ、この問題は誘拐された人たちを解放しただけで変わるのか?」
楔梛様がいつもより低めの声で皆に問いかける。
そう、一つの誘拐事件が片付いたところで元を絶たないと今後も同じことが起こり続ける。
「変わらぬ」
「———ッ!」
「だからこそ、オレ様達は王様を待ってたんだ!この解放と、ライル王の呪いを解くこと、これを同時にやるんだ!ド派手にな!」
ガチで書いてる途中、気分悪くなりました。こういう話はあまり書きたくないけど、説明は大事ですから。
下記は話に出てきた香の効果です。頭付きの毛皮、白い花は獣人と○○の未成年っていうニュアンスです。
万華鏡:幻覚作用が強い香の俗称。嗅ぐとサイケデリックな視界になり、とても楽しくなる。その後酷い脱力感、筋弛緩が起こるため、中毒者は涎を誑していることが多い。
天使の氷:精神依存性が高い。吸うとまるで頭から氷水をかけられたかのような爽快感、続いて心地よい高揚感が得られる。切れてもすぐに不快感が出るわけではないが、作用時間が短いため続けて使用してしまい結果的に大量摂取してしまう。切れると被害妄想や全身に虫が這っているという妄想から体をかきむしることが多い。過剰摂取することで、最悪心臓発作で死亡することがある。