ライオンの鬣って実際どんなんだろう
「さて、次の議題に移る前に少し休憩しようかの」
「オレ手伝います」
「ん」
ココ爺の一声で一旦解散となったので、皆てんでんばらばらになる。
シューマさんは一度店に戻って様子を見てくると出て行った。土竜一家はお茶の準備、エクロクさんとレタラはエドガーさんが付き添って外に出ている。イセさんはリーンヴォックさんと何やら話した後、番所に戻ると帰っていった。
私はというとリコちゃんの尻尾をモフモフしていた。
「何してんのよ」
「いやー疲れたなーと思って」
「だからって何でアタシの尻尾を触ってんのよ!」
「ああ、癒しが!」
「ウッハッハ、オレでもいいぞ」
「ごめん、今はふわふわがいい」
「………そうか」
クロさんごめんよ。今はちょっと硬めの毛並みよりモフモフふわふわがいいんだよ。
リコちゃんがダメとなると、凛さんに頼もっかな~。
「で、では俺のはどうだろうか?」
「ふぇ?」
突然聞こえた上擦った声の方を向くと、楔梛様がしゃがみこんでこちらに鬣を向けていた。
………………うええええ!?楔梛様!?
なんで!?願ったりかなったりですが、まだ心の準備ができてないんですよ!?モフモフするのに心の準備が必要かと問われるとそうではないけど、相手元だけど王様だからね!
「やはり俺ではだめだろうか?(シュン)」
「あああ、違います違います!断じてそんなことはないです!むしろバッチコイです!願ったりかなったりです!ただ恐れ多いというかなんというか!」
自分でも何言ってるかわかんないけど、そんなお耳ヘタって寂しそうな顔しないで!罪悪感がすごい!
「遠慮しなくてもいいよ~。今朝もすごく毛並み気にしてたしね。これで大丈夫かって何回もあたしに聞いてきたし~?」
「え?」
「お、おばあ様!ゆ、優維にはまだお礼をしていなかったし、モっモフモフしたいと言っていたからただ気にしていただけだ!決して楽しみにしていたわけでは!」
「あれれ~、あたしは楽しみにしてるとは言ってないよ~?(ニヤニヤ)」
うっわ凛さんめっちゃ楽しそう、楔梛様固まっちゃったよ!てか私もなんか顔あっつい!
もうそこまで言われちゃモフモフしないわけにはいかないよね?据え膳食わぬは何とやらってね。
「ウゥ~」
「楔梛様」
「優維?」
「その、モフモフいいですか?」
「………い、いいぞ」
私が上りやすいように背中を丸めてこちらに差し出してくる。
私が背中の服に手をかけると耳がピンっと立って、鬣に近づくたびにピコピコと小刻みに動いてる。
鬣の前までたどり着き、触る前にまじまじと鬣を見つめる。近くで見ると真っ白で、光の当たり方によってはキラキラと銀色にも見える綺麗な毛。
これは私みたいな人類が触れてもいいものなのか?神様とかの上位の人しか触れちゃいけないものでは?と思うほどに綺麗で神々しかった。
「優維、触らないのか?」
「じゃ、じゃあ失礼します」
私が一向に触ろうとしないので、楔梛様が心配そうに声をかけてきた。心なしか耳も少しヘタってる気がする。
ああ、心配させるつもりはなかったのに!これ以上待たせてはいけないと思い、意を決して鬣に触れる。
ファサァ
「おお………!」
思わず感嘆の声が漏れる。毛の一本一本は太くて強そうなのに、全然そんなことはなくとても繊細で柔らかい。指通りもとても滑らかで、かなりちゃんとブラッシングしたことがわかる。
しばらくゆっくりと手だけで撫でていたけど、この感触を頬でも感じたくなった。さすがにセージ君たちにするようにスリスリとはできないので、頬を近づけて触れるだけにする。
「ほあぁ~」
「優維?」
なんだこれ?気持ち良すぎる!今までこんなにも癒される、安心できる毛並みがあっただろうか、否ない!ヤバい、これ溶けるわ~。
————————————楔梛視点——————————————
優維が俺の鬣を最初は優しくなでていたが、ほわ~っと変な声が聞こえたあたりで手ではない感触がした。
優維と呼びかけても返事はない。ただ手で撫でられている感覚と、彼女の心地よい体温が伝わる。
「あら~優維ったらよっぽど気持ちいいみたいね」
「そうなのか?」
「ええ、この顔、楔梛にも見せてあげたいわ~」
そんなに幸せそうな顔をしているのか?見て見たい気もするが、そうすれば優維を振り落としてしまうので今はできない。
「ふへ~」
「いや~溶けてるわ~。面白いわ~」
「…………超アホ面してるわね」
「羨ましい?」
「別に」
凛おばあ様と親しげに話している狐獣人の子供、確か名前をリコといったか。シューマの娘だというが、なるほど、見た目はシューマ似だが気が強そうなところはオリヴィア似だな。
「楔梛様、実際に会うのは初めましてでしょうか?」
「そうだな。敬語はなくてもいいぞ、シューマの娘だろう?」
「じゃあ敬語はなしね。そうよ、シューマはアタシのパパ。アタシはリコ、よろしく」
「楔梛だ、よろしくな」
優維を落とさないようにゆっくりと手を差し出すと、リコはその手を握って挨拶してくれた。
「君は優維の友達か?」
「そうよ。何か?」
「いや、優維は普段どんな子なんだ?」
優維に聞こえないよう声を潜める。
リコは眉を顰めつつも、ひそひそ声で答えてくれた。
「このバカは自分が傷ついても他人の心配をするし、なのに怖がりですぐ逃げる。かと思ったら自分から危険な所に行くし、怪我して帰ってくんなって言ったのにそれ破るし、でも最終的には人助けして帰ってくるし。ほんとバカなヒーローみたい」
終始呆れ顔でしゃべっていたが、声色は優しくて本当に好きなんだなって伝わってくる。
「君は優維が大切なんだな」
「な、何言ってんの!?んなわけないじゃない!」
「んおっ!?」
リコが大きな声を出したので、優維が驚いてしまったようで撫でる手が止まった。
「あれ、リコちゃんと楔梛様?なんの話してたの?」
「な、何でもないわよ!」
リコは顔を赤くして、お茶の準備が終わったらしいダイモン達の所に行ってしまった。
「楔梛様、何の話してたんですか?」
「ふはっ内緒だ。それより俺の鬣はどうだった?」
「はい!もうすっごく気持ちよくって癒されました!ありがとうございました!」
俄然元気になったようで何よりだ。