一吠え
「結論から言おう、カパプの呪いはまだ消えておらん」
「え?あれが本体じゃなかったの?」
「お主らが戦ったのは彼奴の呪いの一部じゃ。本体はまだ現国王に付いたままじゃ」
なんてこったい、じゃあそれをどうにかしない限りまた楔梛様は狙われるってこと?
「幸いなことにあの封印にかなり呪いのリソースを割いていたみたいだから、今回ほど苦戦はしないと思う。ただ…………」
「ここからはオレ様が話そう」
凛さんから引き継ぐようにして、ダイモンさんが話始める。
「まず、現国王、ライル王についてから話そう。ライル王は前王が亡くなってから、10歳という若さで王になった。前王は45歳で亡くなった、衰弱死だった。余談だが、楔梛様を封印した王は35歳で亡くなっている。ウェンカ王が亡くなってから、一族で王になったものは皆王族としては短命だ。ここで、なぜ呪い爺が魔法を使えていたかについてだが簡単な話、呪いによって魔力を奪っていた、そうだな凛」
「ええ、本人が言うには体力だけだけど、魔力として両方奪っていたと思うわ」
なんと、呪いに魔力吸収の持続効果もつけるってどこのクソボスなんだ。
それじゃあ何か、アイツは何代にも渡って魔力を吸い続けてそれをこの封印のために使ったってこと?超陰湿野郎じゃん。
てか、王様わっか!今の私と同い年で王になったの!?全然王族としての教育とか終わってなかったんじゃないの!?
「ちまたじゃ暗殺だ何だという奴もいたが、実際はカパプによる魔力吸収だったってことだな。そして即位して10年、ライル王はかなり弱っている。今はまともに公務もできないほどで、ほとんど他の役人に任せっきり、御付きの執事も最近は王の看病に付きっ切りだ。即位したてから体調不良が多く、休みがちではあったが何とか公務はこなせていた。思えばそれも公務の疲れではなく、呪いによるものだったんだろうな」
なんだか今の王族が可愛そうに思えてきた。
もちろん楔梛様を封印したのは許せないけど、クソ爺の私怨のせいでなんでこんなに苦しまないといけないんだろう。末代まで呪うって言うことはあっても、本当に末代になるまで呪うバカがいるかって言ってやりたい。
「カパプは今も魔力を奪っていて、早くしないと手遅れになるぞって言ってたわ」
「それに関しては今朝がた、仲間から連絡がきた。さらにライル王の容体が悪くなったそうだ。もって2週間、だそうだ」
「え!?」
「なんだって!?」
「ホホゥ………」
「……ッ」
さっきの話からすると、まだ20歳になったばっかりだよね!?そんなに弱ってるの!?
私とクロさんは思わず大声をだしてしまった。他の皆も声は出さないものの、表情が険しくなっている。
「………………どうすればその呪いは解ける?」
楔梛様が低く唸るような声で問いかける。
「楔梛が、呪いに直接”獣の王”の咆哮を当てれば解除できる。カパプの言葉を丸のみするわけじゃないけど、あんなでも魔法バカだったからね、魔法について嘘は言わないわ」
「獣の王の咆哮?」
「そう。称号”獣の王”を持っている者だけが使える退魔の咆哮、呪いとかの状態異常は打ち消される。もちろんただの威嚇としても効果抜群」
ようは咆哮が聞こえる範囲の全デバフ解除ってことね。
ちらっと楔梛様の方を見ると、複雑そうな顔をしていた。
「だが、俺は今王では……」
「楔梛様、一度ついた称号は消えねぇ。今が何だろうと過去の自分は消せねぇ。それに、オレ様の王は今も昔も楔梛様だけだ」
ダイモンさんは灰色の目をまっすぐ楔梛様に向け、ニカっと笑う。
「楔梛、これは貴方にしかできないことなの。本当は、あたしたちが何とかすべきだったんだけどね」
凛さんは困ったような、悲しそうな笑顔で楔梛様を見つめる。
「…………凛おばあ様、そんな顔をしないでください」
「本当にごめんなさい」
「謝らないでください」
楔梛様はそういうと、大きく息を吸い込み—————————
「ガォ!!!!」
短く一吠え。
それだけなのに、この場の空気が一瞬で済んだ感じがする。
体が反射でブルっと震えたけど、怖かったわけじゃない。武者震いのようなものだ。
「この呪いは、ウェンカ王の代からあの王族を蝕んでいる。受け継ぐべきではない負の遺産だ。俺達に牙を向けたとて諸刃の剣。このままでは双方苦しみ続ける」
皆静かに楔梛様の言葉に耳を傾ける。
「ならば、俺がこの呪いを終わらせよう。それが、俺の王としての最後の責務だ」