この傷跡を勲章と言えるほど人はできちゃいないけど
あの会話からずっと無言だ、どうしよう、気まずい。
あと、リコちゃんがずっと手と多分頭かな?背中にくっつけたまんまだから下手に動けない。
「えっと、リコちゃん?」
「…………」
「リコちゃーん」
「……………………何よ」
たっぷり間があったけど、とりあえず返事があってよかった。
「えっと、そろそろ体洗い終わってお風呂入りたいかな~って」
「……そうね」
そう言ってリコちゃんは背中を洗うのを再開してくれた。さすがに寒いので早めに湯船に入りたかったから助かった。
ザバァ
「はい終わり」
「ありがとう」
あー、さっぱりした。さて湯船に入ってあったまろう。
因みに元の世界の浴槽よりは幾分か大きめなので、子供2、3人くらいなら余裕で入る。まあ、クロさんが大きいからね。普通のお風呂に2m以上ある白熊は入らないよ。
「あ゛~」
「おっさんみたい」
「気持ちいいからしょうがない」
お風呂に入るとき、あ゛~って言いたくなるよね。疲れた時とか特にさ。もうそれは人の性なんです、知らんけど。
「それで、その傷だらけなのに対しての謝罪は?」
「ごめんなさい」
「よし、許さん」
「なんでさ!?」
ちゃんとごめんなさいしたのに!?
「嘘よ」
「も~、からかわないでよ~」
「…………謝るのはアタシの方よ」
「え?」
小さくて聞き取りにくかったけど、お風呂だったからかやけに反響して聞こえた。
なんでリコちゃんが謝ることがあるの?
「その左肩の傷、アタシを助けたときのでしょう?」
「あー、そんなこともあったねー」
「ッなんで、そんな軽いの!?ずっと残るんでしょ!?」
おおう、この回答はお気に召さなかったようだ。リコちゃんの怒りが再燃してしまったよ。
まあ、残ったとしてもしょうがないかなーとは思ってたけど、私が気にしなくても周りが気にするんだよね。だから見せたくはなかったんだけどさ。
「どうどうリコちゃん、一旦落ち着こう?」
「できないわよ!アタシがいなければそんな傷ができることはなかったのに!なんで、誰もアタシのせいだって言ってくれないのよ!」
最期は吐き捨てるようだった。大声で一息に話したからか、息が上がっていた。
そういうことか。
悪いのは攫ったやつだし、誰もリコちゃんが悪いだなんて思っていない。でも、リコちゃんはそうじゃなかったんだろうね。優しい子だしね。
自分があの場にいなければ、攫われていなければ、逃げようとしなければ等々、所詮は過去のたらればだ。逆にあの場に私がいなければ、一緒に逃げなかったから、もっと大変なことになっていたかもしれない。リコちゃんには、もう会えなかったかもしれない。
「リコちゃん」
「………何よ」
「まず、この傷はリコちゃんのせいじゃない」
「だからッ「最期まで聞いて?」………わかったわ」
リコちゃんは大人しく話を聞いてくれるモードに入ってくれた。
よかったー、正直ちょっと怖かったからね。
「あの時、リコちゃんと私がいたのは偶然、攫われたのも偶然。でもね、逃げきれたのはリコちゃんがいたからなんだよ。リコちゃんがいたから早く逃げようって思えたし、隙を作ることもできた。私一人だけだったら、逃げたとしても多分すぐ捕まってたよ」
あの時は称号のことなんて知らなかったし、逃げ切れる自信なんてなかった。でも、リコちゃんが震えてる、怖がってるって思ったらそんなこと吹っ飛んだ。一人だったらあのまま走り続けるなんて無理だったもん。
「でも、それでアンタが傷ついた……」
「こんなんへっちゃらだよ。私とリコちゃんが生きて帰ってこれた。リコちゃんの”せい”じゃない、リコちゃんの”おかげ”なんだよ」
痛いのは嫌だし、人に心配をかけるのも極力したくはないよ。傷も全く気にしていないわけじゃない。
でも、自分が助けられるならものなら助けたいじゃん。多少痛い思いしてもその人を助けられるなら、私は今後も同じことをすると思うよ。もちろんそれで死ぬ気はないし、死ぬつもりもない。
矛盾してるって?人なんて矛盾だらけでしょう。