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殴られる覚悟はあったよ?


 しばらくセージ君を抱きしめていたらなんか恥ずかしくなってきたので少し離れると、セージ君も同じタイミングで離れたので、二人して笑ってしまった。

 そうこうしているうちにシューマさんへの連絡が終わったのか、リコちゃんが戻ってきた。



「パパがここに来るっていうんですけど、いいですか?」

「おや、じゃあ今日は泊っていきな」

「おば様、いいんですか?」

「リコちゃんは優維の部屋でいいかね?「お母さん、ぼくも」はいはい、セージの布団も運んでおくよ」

「それじゃあ、シューマにはセージのベットを使ってもらってもいいか?」

「いいよ!」

「もう一度パパに連絡してきます」



 勝手に話が進んだけど、今日リコちゃん泊ってくんだ。

 これは本当に殴られる覚悟を決めるべきか。



「さて、ちょいと遅いけどお腹すいてるだろ?」

「そういえば………」



 朝ごはん食べてから何も食べてなかった。お腹も今それを思い出したかのように、ぐーとなる。

 クロさんのお腹も同じように鳴ったけど、グロロロって獣の唸り声視ないな感じで私のお腹の音はかき消された。 



「アッハッハッハ!リクエスト通り、魔猪のシチューだよ!」

「やったー!」

「それと明日の朝、また長の所にいくんだろ?その時、凛にオムレツ届けてくれないかい?」

「ウハハ、わかった。きっと喜ぶぞ」

「シューマの分もあるから、早く来なっていっとくれ」

「わかりました」



 風魔法で連絡中のリコちゃんに向かってそう呼びかけると、すぐに返答が聞こえてきた。



「パパも着替え持ってすぐ来るそうです」

「そうかい。じゃあ先に食べてようかね」

「おう!」

「うん!」



 シチューだ、シチュー!

 席に着くと、ロジーさんがすぐに熱々のシチューとパンを出してくれた。

 


「「いただきます!」」

「たんとお食べ」


 

 一口食べると、魔猪の力強いお肉の味とブラウンシチューの優しい味が広がる。でも前に食べたものより、スパイスが強めで体の芯から温まる感じがした。

 パンは野菜が練りこまれていて、カボチャとホウレンソウ、コーンの3種類があった。どれもシチューにあう。むしろこのシチューに合わないパンなんてあるんだろうかってくらい。

 

 夢中で食べているとシューマさんも合流して一緒に食べた。

 シューマさんは食べている間、ずっと尻尾が機嫌よく揺れていた。それだけでおいしいって思っているのが丸わかりで、ロジーさんがそれを見て笑っていた。

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

「はい、お粗末様」



 食べ終わってまったりしていたけど、リコちゃんが話しかけてくることはなかった。

 タイミングを見計らっているのか、はたまたそれ以上に怒っているのか、これが分からない。

 シューマさん達は普通に談笑しているが、なんか気まずかったのでお風呂に入ることにした。



「ちょっとお風呂に「待ちなさい」リコちゃん?」

「一緒に入るわ」

「え゛」

「何よ、文句ある?」

「………イイエアリマセン」



 ずっと黙っていたリコちゃんが口を開いたと思ったら、意外なことを言ってきた。

 傷を見られるからご遠慮願いたかったけど、有無を言わせぬ圧に負けたよ。


 ロジーさんはいってきなっていつも通り、セージ君はがんばってねとエールを送ってくれた。

 うん、もう覚悟は決めたよ。それでも嫌なもんは嫌だけど!







「とっとと脱ぎなさいよ」

「いや、あの、ほら、心の準備というものが……」

「はぁ、寒いから先に入ってるわ。言っとくけど、逃げんじゃないわよ」



 念を押してから、リコちゃんは浴室に入っていった。



「はぁ〰〰〰〰」



 我ながら長いため息が出た。

 よし、早く脱いでちゃちゃっと入っちゃおう。うん、そうしよう。

 っとその前に、一応怪我の確認をしておこう。最後の悪あがきという奴だ。



「うわぁ……」



 洗面台の鏡に映る自分の姿を見て、何とも言えない声がでた。

 スルク先生と鳥ばあのおかげで細かい傷はなかったが、腕や足の少し深めに出来た擦り傷は新しい皮膚ができている途中で不自然にピンク色だった。

 あとは、この肩の傷跡だよね。左肩の歪な星形の傷跡、銃で撃たれた時のだ。これだけはリコちゃんに一番見せたくないんだよね~。髪でギリ隠れないかな?

 そう思い、髪を前の方に垂らしてみると少し隠れた。いけ、ないかな~?


 

「さっむ」



 脱衣所は温めているとはいえ、裸は寒い。リコちゃんにバレる前にさっさと入ってあがろう、そうしよう。



「遅いんだけど」

「ごめんごめん」



 浴室に入ると、リコちゃんはすでにお風呂に入ってあったまっていた。

 私もちゃっちゃと体洗って入っちゃおう。

 

 頭を洗っている間、リコちゃんは何も言わなかった。

 このまま何も聞かないでと思い、体を洗おうとした。



「背中、流してあげる」

「え゛、いいよ!?自分でできるよ!?」

「だめ。やるから」



 圧が強いですぜ、姐さん。なんかシューマさんみたいな口調になってしまった。

 もう観念して、そのまま椅子に座った。


 リコちゃんが私の後ろに立つと、ため息が聞こえた。

 人の体見てため息つくって失礼じゃないかい?まあ、理由がそれじゃないことは分かってるんだけどね。



「あたし、怪我すんなって言ったわよね」

「……ハイ」

「怪我してたらぶん殴るって」

「……ハイ」



 あー、ぶん殴られる。

 私が覚悟を決めて、歯を食いしばってぎゅっと目を閉じる。


 あれ?何もない?

 そう思っていると、背中にトンっと軽く拳で叩かれた感触がした。

 そして、そのすぐ後に手のひらと肉球、毛や鼻先の感触。



「アンタ、そんなにあたしを心配させたいの?趣味なの?だとしたらめちゃくちゃ趣味悪いわよ」

「失礼な、そんな趣味はないよ」

「…………」

「えっと、殴ら、ないの?」

「さっきやった。それとも、もっと強くしてほしかった?」

「いえ、滅相もない!」


 





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