破天荒土竜、参上!
年内最後の投稿です。最初は楔梛視点です。
今年も一年ありがとうございました。来年も逃げ姫、他短編共々よろしくお願いいたします!
皆さま、良いお年を!
「カパプも言ってた。早くしないと手遅れになるぞって」
「なんと……!」
「ウェンカ王が亡くなってから、その家系で王となったものは皆短命だったそうです。あのクソ爺が魔力を奪っていたというなら、辻褄が合うってもんっす。それでも今の王は20代そこら、明らかに若すぎる」
魔力は命そのもの、なくなれば死んでしまう。
いくら前の王が俺達にひどいことをしたとはいえ、その子に罪はあるのか?
「次はあっしからいいでやすか?」
「いいわよ」
「王族とは関係ねぇんですが、楔梛様が封印されてから獣人の誘拐事件が増えたんでさぁ。ちょうど前の王が亡くなってからさらに増えて、最近あっしの娘が攫われやした」
「なんだと!?」
「落ち着いてくだせぇ。あっしの娘は、優雅ちゃんが助けてくださいやした」
「優雅も一緒に誘拐されかけてたんだがな。リコちゃんの知恵のおかげで助かったと本人は言っていたぞ?」
「あれ、リコからは優雅ちゃんが抱えて逃げてくれたからだと聞きやしたぜ?」
お互いに?を飛ばしていたが、急に二人で笑い出した。な、何があったんだ?
「ウッハッハ!優雅らしいな」
「ヘヘッ!まあ優雅ちゃんがいなかったら、リコは無事じゃなかったことは確かでやすよ」
「二人だったからってことでいいんじゃない?」
「カロの旦那……そうでやすね」
あの人間嫌いのシューマが、優雅に優しいのはそういうことか。
「話がそれやした。とにかく、雪崩以外での行方不明者が増えたのは確かでさぁ。誘拐後はおそらく奴隷やら、臓器売買やらやってると思いやす」
「ふむ………今でも奴隷は禁止ではないのか?」
「あたしの晩年から、それは変わってないわ。それでも、そういう輩はいつの時代もいるものよ」
「ただの隠蔽だけならまだ対処はできやすが、それに貴族やら権力者が関わってくるとギルドも迂闊に手を出せないんでさぁ」
魔族との戦争が落ち着いた後、中央のゼニスで奴隷制度は廃止、以後奴隷を雇っている者および関係者は見つかれば即逮捕、国によっては死刑となる。
誘拐ももちろん罪だ。それが黙認されているのか、あるいは国の治安が悪化しているのか。いずれにせよ、あまり良い状態ではないな。王が床に臥せているならなおさらだ。
「そういえば、そろそろディグのお父さん帰ってくるんじゃない?」
「そっすね。あとは父からの報告を待ちましょう」
ブオオオオオン!!
「ヒャッハー!!!」
急に外からけたたましい機械の音と、誰かの雄たけびが聞こえる。
その音と声が聞こえるとディグが頭を抱えた。
あ~うん、わかるぞ、その気持ち。お父様も破天荒だったからよくわかる。
バイクの音が家の前で止まり、バンッと扉が勢いよく開けられる。
「オレ様、参上!!」
「親父、もうちょっと静かにできないのか!?」
「ダーッハッハッ!無理だ!!」
「父ちゃん、母ちゃん、おかえり」
「おー!元気か、ヒミ!」
「ん!」
「ん、なら、良し」
やはりダイモンか。派手好きなのは変わっていないな。
その隣でヒミを撫でているのは、ピリカか。まさかあの二人が子を持つとは。付き合っていると言われた時以来の衝撃だ。
家族の再会を邪魔してはいけないと、声をかけなかったがダイモンが急に動きを止め、こちらを向く。
「その魔力、王、様?」
「今はもう王ではないがな。楔梛だ」
「本当に?」
「ああ」
よろよろと今まで見たことない弱弱しい足取りで、こちらにダイモンが向かってくる。
俺の前まで来ると、ガッと胸倉をつかまれる。
「この野郎!心配させやがって!」
「すまない」
「済まんじゃねぇよ!それでこっちの気が済むと思ってんのか!あ゛あ゛!?」
「…………」
「オレ様が、オレ様達がどんだけ!やれることは全部試したのにダメで!そんな時に誘拐が増えるしよ!でもオレができることって情報集めるしかねぇし……」
俺の胸倉をつかむ手が徐々に力をなくしていく。ダイモンは最終的に膝をついてしまった。
ダイモンと目線を合わせるためしゃがみこむ。
「よかった……本当によかった。おかえりなさい、楔梛様」
「ああ、ただいま」
ダイモンは涙目になっていたが、こぼれないように耐えていた。
「おかえり、王様」
「ピリカ、ただいま」
ピリカは元から言葉が少なく表情に乏しいが、感情は豊かだ。今だって顔は変わっていないが、音もなく涙が流れている。
ダイモンとピリカに、ヒミがすっとチリ紙とハンカチを差し出す。ダイモンはセンキューと言い、豪快に鼻をかみ始めた。ピリカは小さく頷き、ハンカチを目に押し当てる。
「グスッ……お前ら、どうやって楔梛様の封印を解いたんだ?」
「む、結界の要を壊した」
「いや、だからオレ様はどうやってやったのか聞いてんだよ!?」
簡潔すぎる。リーは相変わらず言葉が足りない。
「もうリー、ボクが説明するよ。実はね—————————」
カロが今までの経緯を説明する。
何というか奇跡だな。今まで何をしても通れなかった結界をすり抜けられる子が偶々ここに転移してきて、尚且つその子が全面協力してくれた。わざわざ危険があると知りながら、それを承知で協力してくれるなんて余程のお人よしか無謀か。凛おばあ様の助力があったとはいえだ。
「は~、そんなことがあったのか。それでここにいるヒグマは初代王妃の凛様と?」
「はい!今は精霊で、ただの凛ちゃんです!」
「ダッハッハッハ!そうかそうか!オレ様は土竜獣人のダイモンだ!よろしくな!凛でいいか?」
「同じく、土竜獣人のピリカ。以後よろしく」
「凛でいいよ~。ダイモンとピリカね、よろしく!」
一瞬で馴染んでしまった。この二人の適応力は見習いたいものがあるな。
「そんで、この作戦の要の奴は?」
「寝室に。今は疲れて寝ている」
「ああ、この変わった魔力はソイツのか。ディグ、お前が調査してたってのはこの子か?」
「そうだよ。大筋は報告した通りだが、起きたら話してみろよ。面白れぇぞ?」
「ん」
—————————————ダイモン視点———————————————
名前は神無呂優維、推定10歳、転移もとい転生した異世界人、姫付の称号持ち。
基本情報はこれくらいだった。ああ、あとヒミの友達か。最初聞いたときは驚いたもんだ。
『わたし、の、友達』
『ヒミのか!?』
『む、父ちゃん、驚き、すぎ』
『ダッハッハ!わりぃわりぃ!よかったな!』
『ん!』
あの人を避けていたヒミがだぞ?驚きもあったが、それ以上に嬉しかった。
それにだ、ディグが面白いと言ったし、あまつさえ王様を助けてくれただぁ?
起きるまでなんて待ってられねぇよ!
「よし!!」
「おい!ダイモン!?」
クロの静止の声が聞こえたが、構うもんか!
オレ様は誰にも止められねえぜ!
変わった魔力がする方へズカズカと向かい扉を開けると、スルク先生が呆れたようにため息をついたが特に止めようとはしてこなかった。
当の本人はすやすやと眠っていた。
こうしてっとどこにでもいそうなガキなんだがな~。鑑定すっと、異世界人、称号”逃げ姫”……………………レベル5!?
「あ゛あ゛!?!?」
「っほわぃ!?」
あ、やべ、起こしちまった。
スルク先生に殺されるかもしんねぇ…………オレ様ピーンチッ!!