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追放される「物真似士」


「アルビス……悪いんだけど、少し話があるんだ」


 パーティーリーダーで、幼馴染のノワルが声をかけてきた。

最近何故か、一人で夕飯を食べることが多くなった僕だから、優しさで声をかけてくれたのかな?


 僕は気軽な気持ちでノワルについて行く。

そしてパーティーメンバーが食事をしている焚き火の前へ立たされた。

 みんなが鋭い視線を一斉に向けてくる。

さすがの僕も、異様な雰囲気に息を呑んだ。


「な、なんだいみんな、そんな怖い顔をしてさ? そんな顔を向けられちゃ……自分、不安であります!」


 僕は、地元では有名人なレッドおじさんの物真似を披露してみせた。

似ている自信はある。

それにメンバーは全員、同じ東北の村出身だし、このネタがわからない筈がない。

だけど誰一人として笑ってはくれなかった。


「悪いけど今はみんな真剣なんだ。ふざけないで貰えるか?」


「ごめん……」


 なんだよノワルのやつ……幼馴染なんだから、愛想笑いくらいしてくれ。怖いじゃん……


「アルビス、悪いけどお前との旅はここまでだ。荷物がまとまり次第で構わないので、このパーティーから外れてくれ」


「は……? な、なんだい急に?」


「……」


「ははっ! そ、そうか! みんなで僕のことを揶揄ってるんでしょ!? そうなんでしょ!?」


 そう聞くと、ノワルやみんなは一斉に視線を外す。

どうやら揶揄われているんじゃないと、空気感から伝わる。


「なんだよ急に! 出てけってどういうことだよ!」


 僕は強い不安に駆られて思わず叫び声を上げた。

すると、戦士のブラックが睨んできた。


「いい加減自覚してくれ!……輪を乱すんだよ。お前の【物真似】の力は!」


 戦士のブラックの言葉を皮切りに、みんなが一斉に口を開き始める。


「後追い行動ばかりでズルいんだよ、お前は!」


 斥候のシュバルツがそう叫んだ。


 僕がこの旅を始める前に「物真似ものまね」という能力を村の御神木から授かった。

 これは直前の誰かの行動をそっくりそのまま真似て発動させるものだ。

上等な剣技や、強力な魔法でさえも、僕の直前にそれらを放ってくれれば同じ行動が可能となる。

逆を言えば、直前に行動をして貰わないと、何もできない。

そのためどうしても、みんなの後手に回ってしまう。


ちなみに「物真似」の能力を最後にこの力を授かった東北の村人は、僕の前だと500年前らしい。

いわゆる、レア能力というやつだ。


「アルビス君はいつもトドメを持ってくよね?……ずっと前から言いたかったんだけど、不愉快だったんだ……」


 魔法使いのネーロも非難の言葉を重ねてくる。

村にいた頃らずっと好きだった子にこんなことを言われて、強いショックを受けた。


 僕の物真似はその特性上、多くの場合迫撃になっていた。

だからネーロが指摘する通り、魔物へのトドメの一撃になることが多かった。


「正直、自分と同じ行動をされるとなんとなく気持ち悪いんだよね」


 神官のヘイスアのいうことは、もはや無茶苦茶だった。

そして最もショックを受ける言葉だったのは間違いない。


「お、おいみんな! 確かにちゃんとアルビスには今までの気持ちを伝えようってことになったけど、もう少し言い方ってものが……」


 すかさずノワルがフォローに回って、みんなを黙らせる。

そして愕然とする僕へ歩み寄って来た。


「ごめん、アルビス……」


「……」


「だけど俺もみんなと同じ気持ちなんだ。アルビスの能力はすごく強いのは分かっているし、仕方ないことだとも思う。でも、それだけじゃやっぱりみんな割り切れないんだよ。不満を抱えたままじゃ、俺たちのパーティーは、【漆黒の騎士団】はいつかとんでもない目にあうと思うんだよ」


 ノワルは悪い奴じゃない。だけど昔から人目を気にしすぎるきらいがある。

そんな奴がリーダーをやっているから、こんなことになったんだろう。


「これを持っていってくれ。この中にはできる限りたくさんのお金とアイテムが入ってる。これだけあれば東北の村へ余裕で帰れると思うから……」


 ノワルは僕の前へ、一方的に大きな道具袋を置いた。

 もはや僕には道具袋を担いで、この場を去ること以外の道はないらしい。


「……分かったよ、ノワル。出てくよ……」


「ごめんな、アルビス……」


「謝るなよ。てか、そういうのが一番傷つく……」


「あ、あ、いや……俺はアルビスの気持ちを……」


「じゃあな!」


 僕はノワルの言葉を半分も聞かずに立ち上がる。

そして道具袋を担いでその場から去っていった。


「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 悔しくて、悲しくて、僕は一人叫び声を上げながら森の中を駆け抜ける


 みんながそんな目で僕を見ていたのだと思うと、とても悲しくなった。

みんなから浴びせられた言葉が頭の中でぐるぐると回り続けて、とても辛かった。


――やがて虚無感が襲いかかってきた僕は、大樹に背を預けた。

そして自分を無益な石ころであると意識し始めた。


 どうやら物真似の力が発動したようで、僕は何の価値もない石ころを真似始めたらしい。

魔物や獣はまるで僕が存在しないように素通りして行く。


 それから僕はその場で三日三晩を過ごした。

 三日も経てばショックが和らいで来た。

そうして僕の中に湧き上がって来たのは……村を旅立った時の気持ちだった。


――僕はずっと誰かの役に立ちたいと思っていた。

それを成すために十分な「物真似」という能力を手に入れることができた。

だから故郷を離れて、ノワル達と旅に出た。

これはきっと僕に与えられた宿命。

だったらそれに従ってこれから生きて行きたい!


「……行くか!」


 僕は再び立ち上がる。そして道具袋を掲げて歩き出す。

例え一人になろうとも、僕は……いや、"俺"は、これからも自分をなすべきことのために旅を続けて行く。


 改めてそう決意をし、"俺"は広大なる大陸へ新たな一歩を踏み出した。

ちょうど今日は俺の16歳の誕生日で、村から旅立って一年が経っていたと思い出す。

新しい門出にはぴったりの日だと思った。



………そして、決意をした16歳の誕生日から更に2年の月日が流れた。



 俺は今、広大なる大陸の一国"東の山"にいる。


 そして東の山の人々は口を揃えて俺のことをこう評している――【銀髪のアルビスはなんでもできる凄い奴!】と。



*面白そう、続きが気になりましたら是非ブックマーク・評価などをお願いいたします!

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