失意の家路
レクスの家を出た後、俺はどこともつかず歩いていた。歩けど歩けど落ち着かない。整理がつかなかった。冒険者になって5年、自分の可能性を信じて進んできた。『十三番目の英雄』に入ってからはより危険なダンジョンに挑戦するようになり、それにつれてけがも増えた。それも自分の成長の糧になると思って奮闘してきた。しかし実際のところ、それも皆と足並みをそろえられなくなっていただけだった。
「...俺はもう、ここまでなのか。」
ひとり物思いにふけりながらあてどなく歩く。食べ物屋の屋台や小物を売る店の前を通り過ぎる。いつも感じていたはずの音が、いやに大きく聞こえる。いくつかの冒険者の集団が、街の外に向かっている。彼らに見つからぬよう、急いで道を曲がる。
それからしばらくして、気が付くと、ある店舗の前に立っていた。今使っている剣を打ってもらった鍛冶屋の前である。そういえば最近はダンジョンアタックが多かったせいか、自分で手入れするばかりでちゃんと見てもらっていなかったことを思い出す。
中から金属の音がする。俺は暖簾をくぐって店に入る。熱を感じて身震いをする。まだ昼過ぎだからだろうか、中に客の姿は見えなかった。
「すみません!」
俺は店の奥に呼びかけた。声に応じた店主が出てきた。ところどころに煤がつき、破れたつなぎを来ていた。髭はしばらく剃っていない様子で、だいぶ年季が入っているように見えた。
「いらっしゃい。おお、あんたか。久しぶりだな、どうした?」
「ああ、剣、しばらく見てもらってないと思ってな。」
店主が俺のことを覚えていることに少し驚いた。まだこっちに来てそれほど立っていない。少し戸惑いながら店主に剣を渡すと彼はそれを机に置き、あれこれとみていたが、しばらくして、
「手入れはしているようだが...これはまた随分とダメにしたもんだな。身の丈に合わない使い方でもしたか?」
「わかるのか。」
「当たり前だ。これまでどれだけ見てきたと思ってる。お前は確か...最近この街に来たパーティーのやつだったよな。おおかたレベルの合わないダンジョンに潜ってたってとこだろう。」
「...パーティーは、やめることになった。」
「それがいいさ。」
店主は俺の言葉に、間髪入れずに、こともなげに答えた。手に力が入る。認めたくはなかった。思わず俺は言い返してしまった。
「どういうことだ。俺にここは無理だってのか?」
「そうさ。お前にここでやっていく才能はない。」
「どうして、そんなこと」
「分かるさそんなもの、剣を見ればな。いいか、この街は多くの冒険者が集まる街だ。毎年多くの冒険者が集まっては消えていく。居つけるのは一握りだ。そういうやつらはたいてい、物をうまく使う。修繕にしても多くて月一度だ。得物にもよるがな。少なくとも剣でこれだけ短期間でダメにするやつに才能なんてあるわけがない。良かったな、死ぬ前に気づけてよ。」
拳から力が抜けた。何も言い返す気にもなれなかった。
明日の昼に来いと告げられて俺は店を出た。だいぶ暗くなっている。外の寒さが身に染みる。街の喧騒から身を隠すように、俺は足早に宿に戻った。