第二幕 重屋の怒った顔はまるで、般若ともヘロデとも形容できない怒らせちゃいけない顔でした。
京聖学園の部活は、結構な種類が存在する。
説明した方がいいかもしれない。
京聖学園は基本的に帰宅部が存在せず、どんな生徒も必ず部活に入らないといけない。ただし、毎日部活があるという訳ではなく、毎日ある部活もあれば週一しか部活が無いのもある。
運動部はバスケ部、バレー部、野球部などなどよくある部活があるが、珍しいものとして、ボウリング部とか麻雀部、少林寺拳法部なんてものもある。
とはいえ、ボウリング部や麻雀部はほとんど活動してなくて、いわゆる「お遊びクラブ」ってやつだが。
文化部も、コスプレ部とか鉄道同好会だとかとにかく学校の運営が部活をやらせたいのか、本当に「これ部活かよ」なんてものも存在する。だから、先生が複数の部活の顧問を掛け持ちしてるなんて当たり前。
担任の小林先生なんて「微分積分部」とか「数検一級部」とか「複素方程式同好会」なんてのを作って掛け持ちしてる。後者ふたつに関しては一人しか部員しかいないらしい。
そして、一般的に「お遊びクラブ」と思われている家庭科部が凄い熱血クラブで、料理中に筋トレしてるとかいう噂が広まっている。野々原の体験談だが、
「家庭科部の部室を通ったらなんかめちゃくちゃガタイが良い先輩とぶつかりそうになってめっちゃ怖かった。」との事。恐らく筋トレしているのは本当である。
それと先生の癖が物凄い強い。古典の先生は皆顔が紫式部みたいな顔してるし、日本史の先生なんて戦国武将みたいな顔してる。音楽の先生はどっからどう見てもベートーヴェンだったし、美術の先生はミケランジェロの彫刻みたいな顔してて個性が強すぎる。
古典の先生に関しては本当に何言ってるのか分からない(現代語で話をしてくれない)。
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「なあ重屋」
「どしたの?」
「今日から演劇部ってあるんだよな?」
「そうらしいよね。俺は結構楽しみにしてる。」
「そういえばお前ってどれくらいやってたんだ?演劇。」
「十年とちょっとくらい。めちゃくちゃ頑張って、結構賞とか貰った。」
クラスがざわついた。
「もしかして、遅刻屋って凄い迫真の演技をしたアイツじゃね?」とか聞こえてきた。そうだよ。そういう設定で書いてるんだから。
野々原は言う
「お前凄いんだな...お前と同期ってなんか戦慄するわ(いい意味)」
「へへへへ」
重屋も満更でも無さそうである。
すると、江口が凄くやつれた顔をして、重屋の所に来た
「重屋ぁ野々原ぁ...助けてくれよぉ〜」
野々原は言う。
「どうした江口。江口っぽくないぞ。いつもの江口はポル○レフみたいだけど、今日の江口は水を失った魚みたいだぞ?」
なんか一言余計だがそれでいいのだろう。
江口は答える。
「家庭科部...めっちゃ皆厳ついんだよ...だけどよ...女子力めっちゃ高ぇんだよ...ムキムキの腕でチャーハンとか作ってるのかな?って思って見てみたらよぉ...」
「クッキー作ってたんだよ...。しかもよぉ、それが...型がよぉ、くまさんなんだよ...」
重屋も野々原も、クッキーの下りから話を聞いてた津山も情報が完結しなかった。
重屋と津山はもう忘れたが野々原はその日の授業がずっと頭の中が「厳つい男が作るくまさんクッキー」で埋め尽くされていた。しかし、それは演劇部の体験入部に重屋と一緒に来た時、忘れることになる。
HR終了後、重屋と野々原は演劇部が活動してるという教室まで来た。
見た感じ先輩が十人で、同級生だろうなって女子が一人いた。内訳男が八人(野々原、重屋含む)女子が五人だった。
「おじゃましまーs」
おじゃましますのすを言うよりも前にやけに元気な先輩が
「こーんにーちはー!!!」
とステップしながら駆け寄ってきた。
「初めまして!僕は演劇部の部長を務めてる、
日村 健っていう者ですっ!どうぞ、よろしくね。」
「君たちは体験入部でしょ?名前は何?」
「重屋 演二郎です。」
「野々原 蓮太郎です。」
「重屋くんに、野々原くんか。演劇は出来る?」
「俺は出来ます。でも野々原君は出来ません。」
「なーるほど〜?」
日村先輩はやけに陽気な人間であることを二人は本能的に察した。
「あの、日村先輩。あそこの一人で突っ立ってる女子って高一ですか?」
「あー、高一の子だよ。確か名前は...」
「言わないでっ!!!」
一人で突っ立ってる女子は叫ぶ。
「自分で言います...」
「あーっ」
「あー、あ、じ、自己紹介してくだ...さい、どうぞ。」
「広瀬 紗良。名前覚えたんだったらもう行って。君たちと同じで高一よ。」
「あ、うん。よろしくね広瀬さん。」
「俺が重屋 演二郎で、こっちのチャラチャラしてるのが野々原 蓮太郎。」
「分かった。もう向こう行って。」
広瀬はクールな感じだけど、なんか自分のことは知られたくないようなそんな態度を取った。
この演劇部、体験入部の人達に毎年公演をするらしい。高校レベルなんだろうなって重屋は物凄い目をキラキラさせて公演を楽しみにしている。
しかし、この時はまだ分からなかった。
重屋が凄いキレる事を。そして、この演劇部の実態を。
公演は「金の斧」だった。
ーぼろっちぃ斧を木こりが泉に落として、女神様が金色のと銀色のとを持って「おめぇどっちだよ落としたの」って言って「ぼろっちいの」って木こりが言ったら、「そっか、お前正直だね。どっちもあげる」って言って金色のと銀色のをあげた話。
結論から言うと、重屋からしてみれば最悪な出来だった。
金の折り紙と銀の折り紙で作ったような斧。折角の金色と銀色は、まるで丸めて捨てられるアルミホイルのようにクシャクシャである。
しかも、日村先輩含む全ての人が棒読み。
(重屋、野々原、広瀬は見る側の人。)
「あなたが落としたのはー、金の斧ですか。それとも銀の斧。」
「僕はー普通のを、落とした。」
「偉い。どっちもあげる。」
照明はー
主人公と女神にスポットを当てるものをあろう事か女神の持っているクシャクシャの金の斧だけにピントを合わせ、そこから動かすことは無かった。
公演が終わった時
野々原は拍手をした。広瀬はぼーっとしてた。
重屋はキレた。
彼はバァンっと机を叩き、立ち上がった。
そして、演者に対してものすごい形相で叫んだ。
「あなた達の演技はなんでこんなに酷いものなんですかッ!演技が棒読みなのは、まだ許せます。照明もピントが合わないのはしょうがないと思っているんでしょう!?皆さん?!」
「あ、あーうん。そうだね...」
「そんな事を思って演劇をしてるなんて。ふざけないでくださいよ!」
「大体、皆さんはどういう練習をしているんですか!?お互いに芝居の見直しとかしているんですか!?」
「ろくなアドバイスをきっとしていないんでしょうね。ここちゃんとやろ。って言って、あーごっめ〜んwなんて言っている絵面が目に見えます。」
「もしかして皆さん、大きなイベントでもそんなことしてるとか言わないですよね!?」
「してる...」
「ふざけるのも大概にしろッ!!」
机を更に叩く。更に声を荒らげ、初対面の先輩であろうとお構い無しに重屋は口が悪くなっていく。
「お前らがなぁ!やっているのはなぁ!芝居なんかじゃあねぇ!演劇ですらねぇ!幼稚園生の学芸会だ!
棒読みを訂正するどころか「しょうがない」で片付けるなんて!本当に頭に来るんだよ!自慢になってしまうけれども!中学の頃まで!青春という青春の殆どを演劇に捧げてきた俺からしてみれば!あなた達のやっている事は!名作を汚すような物だっ!とてもがっかりした!それはマレフィセントが白雪姫を毒殺するために毒リンゴを食べさせ、殺したと思ったら寝てただけだった時と同じ位がっかりした!あなた達の演劇部は演劇部じゃあない!!演劇部じゃなくて、演劇お遊びクラブだっ!!!」
重屋はそう叫んだ。そしたら、一人の先輩がここに来て、ドスの効いた声で重屋を問い詰めた。
「貴様よぉ、何ほざいてるんだ?俺らの演劇部のやり方によォ。」
「おめぇ、ここまで大口を叩くんならよぉ、出来ねぇとは言わせねぇからなぁ!?えぇ?」
「重屋とか言ったなぁお前。俺はお前の事は絶対に認めないからな。お前がどんなに優れた役者だとて、それが高校で出来るとは限らねぇんだ。いいな!?」
その先輩はバァンとドアを開け、バァンとドアを閉めてその場を離れた。
日村先輩がこちらにきてこう言った
「彼は武部 瀬亜美ってんだ。ちょっと怒りっぽいんだけど、良い奴なんだ。いきなりこんな悪態ついてしまって。許してやってくれ。」
「は、はぁ。」
野々原はぽかーんとしていた。広瀬はいなかった。
日村先輩は続けて言う。
「だけど、重屋くん。瀬亜美の言うことも間違いないんだよ。僕らの演劇部のやり方にケチつけるんなら、僕をその君の持つ演技力で納得させてくれないかい?」
「納得出来る演技力なら僕は君を認める。納得出来ないなら...どうなるか分かるよね?」
「ゴクリ」
重屋は固唾を飲んだ。
しかし、ここで引くのは重屋じゃない。
「分かりました。先輩。俺が「金の斧」の芝居で納得させましょう。」
重屋は言った。
それは重屋の決意の表れでもあった。高校レベルを期待した演劇部がとても酷かったから。自分の代でこの棒読み演劇部を終わらせようと。彼はそう決めたのだ。
かくして、重屋による演劇部にひとつの革命を起こす計画は始まった。
その計画が簡単ではないことを知らずに。
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その頃瀬亜美
「くそっ!くそっ!くそッッ!折角来た新入生を!怒っちまった...。俺らに非があるのにッ!認めねぇと言っちまったッ!俺は分かってんだ。アイツが天才であることをッ!それから逃れて、ケチをつけれねぇ様な感じにしてしまったッ!アイツが今どんな演技をするのか俺にゃ分からねぇ。でもあそこまで言うんなら、見てやろうじゃあないの。俺はあの演劇部のやり方には疑問を持ってる。あんなんじゃあダメだと思うッ!だけどその革命の悉くが消滅したッ!誰も口出せなくなったッ!俺は期待してるぜぇ!重屋 演二郎ッ!!」
コロナ対策はしっかりしましょうね。