第4話 辺境一の勇者『ザ・ブレイブ』と呼ばれた男(その4)
俺は尾行に注意しながら、メインストリートから外れた古道具屋に入った。
「よお、ブレイブ。待ってたよ」
中にいたのは武器屋のハンスだ。
彼は本来はメインストリート中央に、武器屋と武器製造の工房を持っている。
「悪いな、いつも」
「いいって事よ。『ブレイブが冒険に出た日は、俺は古道具屋の店主として待つ』って契約だからな」
「これは今日の戦利品の一部だ」
俺はハンスの前に革の小袋を置いた。
中には大ムカデとメタルスライムの魔石が三個ずつ入っている。
俺たちのパーティは武器や装備を調達して貰う代償として、ハンスにその材料となる魔石を渡す事にしているのだ。
「おお、メタルスライムの魔石か!これが欲しかったんだよ。新しい剣を作るのに合金が必要なんでね。こっちは大ムカデの魔石か。これで軽くて丈夫な盾が作れるな」
俺は自分が身につけていたチェスト・プレート、篭手、冒険者用ベルト、レッグガード、頭部を保護する鉢金を外した。
それらをハンスが受け取り、店の奥にある鍵付きのクローゼットに仕舞う。
愛刀である『破神魔』と『モンスターを封印したカード』だけは、釣り竿ケースに入れた。
そしてハンスと一緒に店の裏口から出る。
そのまま裏口同士が顔を合わせている、反対側の店舗に入った。
そこは古本屋だ。
古本屋は反対側の裏通りに店が面している。
そこで俺はごく普通のワイシャツにネクタイを締め、上下のスーツを着た。
メガネをかけ、役人が良く被っているグレーの中折れハットを被った。
最後に刀の入った釣り竿ケースと共に、ごく普通の役人が持つ皮製のカバンを手に取る。
店にある全身鏡を見る。
どこからどう見ても、ごく普通の役人か勤め人の姿だ。
「じゃあ、これで」
俺はハンスに挨拶をすると、彼も笑って俺に返事を返した。
「あいよ、タダオさん」
そんなハンスの声を背中で聞き、俺は古本屋を後にした。
裏通りを抜けて、この街では割と高級な部類の住宅が立ち並ぶ『カウズ地区』に入る。
どの家も白い背の低い簡単な柵で区切られており、家々は白かベージュの塗装に赤い屋根の平屋建てだ。
土地の面積は大体が300から500平方メートルくらいだ。
庭に水を撒いていた老人が声を掛けてくる。
「お帰り、タダオさん。今日はもう図書館の仕事は終わったのかね?」
「はい、今日は僕は古い書籍の資料整理だけでしたから。上司も早く帰っていいと」
俺は先ほどまでの「ブレイブ」の時とは打って変わって、愛想のいい笑顔で答えた。
「タダオさんは若いのに大したもんだねぇ。十八歳で公立図書館の司書になって、このカウズ地区に一軒家まで買って」
「いえ、僕の場合は自分の力じゃないですから。祖父や父がちょっとお金を残してくれていたもので」
内心では「俺はまだ十六歳だし、親子共々売り飛ばされたんだけどな」と思っている。
「それでもこうやってキチンと働いて、生活を維持している。大したもんじゃよ」
俺は人の良さそうな笑顔を浮かべて頭を下げ、その場を立ち去った。
その後も通る人々、近所の主婦などに挨拶の声を掛けられる度に、俺は当たり障りの無い会話と挨拶を返した。
やがてこの地域でも広めな敷地に、可愛らしく建っている一軒の家が見えてきた。
それが俺の家だ。
腰の高さまでの白い木製のフェンスの前で、俺はカバンから一冊の重厚な本を取り出した。
周囲に人目が無いか確認すると、本を開き呪文を唱える。
「モードチェック、ガーディアン」
本の一ページが七色に輝き、そこに七つの文字が浮かび上がる。
俺はその一つ一つを確認した。
異常は無いようだ。
敷地の中に足を踏み入れる。
うん、この感じなら結界は破られていない。
俺は七重の結界を通り、玄関の前に行く。
再び手にした本を見る。
「モードチェック、シールド・バリヤー」
今度は本に四色の色が煌く。そして四つの文字が浮かび上がる。
この四つの結界と封印は相当に強力なものだ。
ダンジョン中層程度のボス・モンスターでは、まず破ることは出来ない。
玄関の封印を解き、鍵を開けて玄関の扉を開いた。
「タッ君!」
中からはマリンブルーの瞳と髪を持った、十七歳くらいの少女が飛び出して来た。
毎日見ているのに、俺は彼女のその姿に心を奪われる。
少女はそのまま俺の首にしがみつく。
「ただいま、レーコ」
俺は彼女の細い身体を抱きしめた。
身体は細いが胸は大きい。Gカップだ。
彼女と熱い口づけを交わす。
唇を離すと、彼女は輝くような笑顔で言った。
「窓の所からタッ君が来るのが見えたから、ここで待っていたんだよ!」
その笑顔を見ながら、俺は心から安らぐのを感じた。
俺が一日中「見たい」と思っていた笑顔だ。
レーコは俺から身体を離すと、少し身体をクネらせながら、頬に手を当てて言った。
「食事にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」
レーコはとびきりの美少女だ。
どんな名画家でも、名彫刻家でも、彼女の美しさは表現できない。
そして美しいだけでなく、とても可愛らしい。
美貌と愛らしさがバランス良く現れている。
スタイルも完璧だ。
さっきも言った通り、胸は大きいがウエストや手足などは細い。
ただ細いだけではなく、ヒップや太股などは男心をそそる適度な太さだ。
その完璧なボディを薄いワンピースとエプロンで覆っていた。
これだけで「帰ってきて良かった!」と思える。
「そりゃもちろん、レーコだよ!」
俺は顔の筋肉が緩むのを感じながら、そう口にした。
レーコは怪しく微笑みながら、再び俺に絡みつくように手を回して抱きついて来た。
こういう表情をするレーコは、まるで妖艶なサキュバスのようだ。
再びキスを交わす。
俺はレーコの身体と一体にならんばかりに強く抱きしめた。
彼女の豊かなバストの感触を胸に感じる。
俺はその引き締まったヒップに手を回した。
「アン!」
レーコが小さな声を上げる。
……もしかして、今日ならOK?……
俺はそのまま強く抱きしめて、レーコのヒップの感触を楽しむ。
そして右手を彼女の豊かなバストに手を伸ばした。
だがレーコは一回転してヒラリと身をかわす。
「もう、ダメだって言ってるでしょ!『ワタシ』はここまで!」
レーコは眉を吊り上げながらも、その目は笑っていた。
「でもレーコ、俺はもう……」
「我慢できないんでしょ?だからダメだって言ってるんじゃない。十八歳になるまで、そういう事はダメなんだから!」
「レーコは俺と一つになりたくないのか?」
俺はちょっとしょげたような様子で彼女を見つめる。
「それは私だってタッ君と一つになりたいよ。でも今はまだダメ。もうあと二年でしょ。それぐらい我慢してよ。私は600年以上も我慢してたんだから!」
それを言われると俺は何も言い返せない。
「さて、残りの選択肢は二つ。食事が先?それともお風呂?どちらになさいますか?ダンナ様」
レーコは再び少女の笑顔でそう言った。
「ダンジョンの汚れや臭いもあるから……風呂が先かな」
俺は「ハァ」というため息と共に答える。
「オッケー!お風呂も沸いてるから。今日の晩御飯はタッ君の好きなマーブル豚のヒレカツと、レンレン海老のグラタンだから。早く上がってきてね」