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第28話 「褐色の疾風」と呼ばれた女盗賊が子を生みたい男、それが俺!(その3)

 アジトに着くと、驚いた事に既に大勢の部下が戻ってきていた。


「おい、オマエ達。先に帰っていたのか?荷馬車隊の警備隊はどうした?」


 手近にいた一人に聞くと、その男は驚いたような顔をした。


「え、あ、お頭?ずいぶんとお早い到着で」


「早いのはオマエ達の方だろう?もう警備隊は撒いて来たと言うのか?」


「あ、いまネズミさんを呼んできますんで」


 別の男がすぐにネズミを呼びに行った。

 そして部下達は「予想外のヤツを見た」と言う目で、オレを見ている。


 ……なんだ、この違和感は?……


「お頭、ずっと走ってきたなら喉が渇いたでしょう。まずコレを」


 一人の部下がそう言って、近くの水瓶から水を汲んだコップを渡す。

 確かに喉は渇いていた。

 オレはその水を一息で飲み干した。

 すぐにネズミがやって来た。

 ゴラスも一緒だ。


「ネズミ、ゴラス。警備隊はどうしたんだ?」


 オレがそう聞くとネズミが答えた。


「どうしてか警備隊は足止めをしたイザルのチームに目を着けていまして。イザル達を追いかけて行っちまったんです。俺らは必死に警備隊の目を向けようと、攻撃したんですけどね」


「それにしてもオマエ達が警備兵を引き付ける役目なんだ。イザル達を放っておいて自分達だけ戻って来ていい訳がないだろう」


 そう言いながら、オレは喉の調子がおかしい事に気付いた。

 砂漠での戦闘は喉を痛めやすい。

 だから戻って来て早めに水を飲むのだが、なぜ今なのか?


「いや、俺らも頑張ってんですけどね。おそらく警備隊の連中、イザルのチームが本隊だと思ったんじゃないですかねぇ」


「そんないい加減な憶測で……」


 ゴラスがふて腐ったように言う。。


「警備隊が俺達より、イザルの方を追って行ったんだ。俺達にはどうしようもねぇだろう」


「オマエ……誰に向かって……」


 その時、見慣れない荷馬車が目に入った。

 そこからロープで縛られた人間が次々と出てくる。

 全員が女だ。


「おい、あの女たちは何だ?なぜここに無関係の女がいるんだ?」


 オレは頭がフラつくような妙な感じを受けながら、そう尋ねた。


「ああ、アイツラは奴隷だよ。この後で売り飛ばすんだ」


「奴隷だと?そんな事は許可した覚えはないぞ!」


 オレは怒鳴った。


 オレは奴隷制度が大嫌いだ。

 いや、許せないと言っていい。

 人間であれ、エルフであれ、獣人であれ、いや魔族であっても、人をモノ扱いしていいはずがない。

 よってオレは奴隷商人は積極的に攻撃したが、奴隷達は全員解放していた。


 それに「一般人に害は与えない」が、この盗賊団のモットーだ。

 人質だって取った事はない。


「ガナるなよ。もう連れて来ちまったんだ。どうしようもないだろ」


 ゴラスは乱暴に水瓶から柄杓で水を掬い、それを飲んだ。


「フザけるな!いますぐに彼女達を元の場所に戻してこい!」


 そこにネズミが割って入った。


「まあまぁお頭、落ち着いて下さい。今回は収穫が少なかったんですよ。積荷がみんな美術品の類でね。そんなモノ、俺らじゃ金に変えられないでしょう」


 確かにそうだ。

 盗賊団から美術品を買う金持ちなんていない。

 たとえ美術品が売れたとしても、それは何十年も経ってほとぼりが冷めて「新発見」となった場合だけだ。


 まずます目眩が酷くなる頭で、オレはそう思った。


「だから荷馬車隊にいた乗客の中で、高く売れそうな若い女だけを奴隷として連れて来たって訳ですよ」


「そうそう、もうアジトも知られちまったしな。ここで女達を帰す訳にはいかねぇ」


「オマ、エ、たち……そんな事を……オレが許すとでも……」


 だがオレはそれ以上、馬に乗っている事さえ困難に感じた。

 頭がクラクラする。

 身体全体が重い。


 ゴラスがニタニタと笑っているのが見える。

 ネズミが周囲の部下の方を向いた。


「水は飲ませたのか?」


 オレに水を渡した部下が頷くのが見えた。


 ……まさか、オレに毒を飲ませたのか?


 しかし同じ水瓶で、周囲にいたヤツラも水を飲んでいたはずだ。

 現にさっきだってゴラスは同じ水を飲んでいた。


……なぜオレだけ?


 それ以上、オレは馬に跨っている事が出来なかった。

 崩れるように地面に落ちる。


 朦朧とする意識の中で近づいて来たネズミが、オレの顔を覗き込むようにして言った。


「残念でしたね。水の中には『マタービの実』で出来た麻痺薬を入れておいたんですよ。コイツはネコ系の獣人には効くが、他の種族には何の影響も及ぼさないという不思議な実でね。ネコ系獣人のお頭には効果覿面でしたね」


 ネズミとゴラスの卑下た笑いが、徐々に視界から消えていった。


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