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第20話 「白銀の聖少女」が唯一惚れた男、それが俺!(その2)

 村の男たちが去った後、私は小屋に戻る気にもなれず、雪の中を歩いていました。

 やがて霧氷で飾られた森まで来た時、私は思わずを膝を着いていました。


 ……私には、あんな風に心配してくれる人は、誰もいない……


 そう思うと悲しくて涙が溢れてくるのです。

 誰もいない雪の上で、霧氷の木々だけ取り囲む世界で、私は一人で声を殺して泣いていました。


「どうかしたのか?」


 不意に背後から掛けられたその声に、私は驚いて振り向きました。

 そこには背中に刀を背負った鋭さと逞しさを感じさせる少年が立っていました。


「あなたは?」


 すると少年はちょっと不満そうな目で「先に聞いたのは俺なんだがな」と言いました。

 私は慌てて両目をこすると立ち上がりました。


「な、なんでもないです。ちょっと寒くて、目が痛んだだけです」


「そうは見えなかったけどな」


 そのぶっきらぼうな言い方に、私はちょっと不満を感じました。


「アナタこそ誰なんですか?一人でこんな森の奥まで入ってきて」


「俺はこの地に居る『魔辺境伯』について調べに来たんだ」


「あなたが?魔辺境伯を?」


 私はもう一度少年の姿をまじまじと見てしまいました。

 少年は茶色のマントを羽織っており、持ち物から確かに冒険者の格好をしていましたが、それでも魔辺境伯を相手に出来るような人間には見えなかったからです。


「そうだ。おかしいか?」


 そう言った少年に、私は呆れ返りました。


「魔辺境伯の恐ろしさを知らないんですか?アナタは『調べに来た』と言いましたが、魔辺境伯の城に近づいただけで、配下の魔物やオーク兵に八つ裂きにされてしまいます。自殺志望者ですか?それともバカなんですか?」


「俺はバカかもしれないが、自殺する気はないな」


 私は小さくため息をつきました。

 たまに『有名な魔族やモンスターを倒して、名を上げよう』と考えている無鉄砲な冒険者がいると聞いてましたが、こんな子供が来るなんて……

 少年が周囲を見渡しました。


「もうすぐ日が暮れるな。ここからじゃ一番近くの村までけっこう距離がある。今すぐに帰らないと夜になるまでに戻れないぞ。送ってやるよ」


 そのいかにも上からの発言に私はムッとしました。


「ご心配なく!この森については私は熟知してますから。アナタこそ送ってあげますから、暗くなる前に帰った方がいいですよ」


「俺の方も心配はいらないよ。今日はこの森で野宿するつもりだから」


 事も無くそう言った少年を、私は驚きの目で見ました。

 森で野宿?しかも冬の森で?


「と、ともかくここは離れましょう。少しでも村の近くへ。私に付いて来て下さい」


 私は少年に向かってそう言いました。

 私と少年は夕暮れの森の中を二人で歩いていました。


 ……誰かと一緒に森を歩くなんて、初めてかもしれない……


 私は何となく弾んだ気持ちになっていましたが、それを出来るだけ態度に出さないようにしていました。

 少年は周囲を見渡しながら、時々なにかに目を止めており、まるで猟師みたいに森を歩いていました。


 ……彼は、何者なんだろう?……


「アンタ、名前は?」


「え、私ですか?」


 突然の問いかけに、少しビックリしたかもしれません。


「私はシータ、シータ・ムーンライトです。白魔術師をやっています」


「そうか、アンタが白魔術師のシータか?」


 彼のその言い方は気になります。


「なんですか?私について、まるで含む所があるみたいな!」


「いや、付近の村で『森には凄腕の白魔術師がいるが、本当は魔辺境伯の手下の魔女らしい。名前はシータ』と聞いたんでな」


「なんですって!」


 私は振り返ると、彼に食って掛かりました。


「私は魔辺境伯の手下なんかじゃありません!それから魔女でもありません!私はちゃんと勉強して白魔術師の資格を得たんです!ウソだと思うなら、タガマヤの州都にでも問い合わせてください!」


「すまなかった。だけど俺は別にアンタを疑っていた訳じゃないよ。そういう風に村で聞いたってだけの話さ。それに……」


「それに?」


「俺はそこまで魔女が悪い存在だとは思わない」


 私は改めて彼の顔を見つめました。


『魔女が悪い存在だと思わない』


 そんな言葉、生まれて初めて聞きました。

 だって魔女って言ったら『伝説の魔女、グレート・ウィッチ』のように世界を支配し、文明を破壊して、一時は世界が滅びるかと思うほどの恐怖の存在なのに。


「なんだ?そんなに俺の顔が珍しいか?」


「い、いえ、そんな事ないです。あの、その、あ、アナタこそ、名前は何とおっしゃるんですか?」


 私は慌てて、そんな事を口走りました。


「俺に名前はない。特に他人に呼ばれるような名前はな」


 彼は不機嫌そうでした。

 確かに名前を知られると言う事は、相手の魔術に掛かりやすいと言う事なので、名前を名乗る事を嫌う人もいますが。


「でも名前がないと話しにくいです。じゃあ周囲の人はアナタを何て呼んでいるんですか?」


 彼は言いたくなさそうに。


「回りの連中は『ブレイブ』って呼んでいる」


 失礼でしたが私はそれを聞いて、小さく吹き出してしまったのです。

 彼はそれを気にしてないようでしたが。


「『ブレイブ』……勇者さんですか?勇ましい名前ですね」


「俺は自分でそう名乗ってはいないけどな。回りが勝手にそう名づけたんだ」


 私と同じ年頃の少年、それが『ブレイブ』。


 確かに鋭さと逞しさを感じましたが、それも『少年にしては』という意味です。

 大人に混じって『勇者』と呼ばれるほどとは、とてもとても……


 でもその時の私はとっても楽しかった。

 だって私はそんな風に他の人と話した事は無かったし、ましてや同じ年頃の男の子とこんな風に会話する事なんて無かったから。


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