2.
窓の外にソメイヨシノが満開に咲きそろっている。先ほど入学式が終わり教室の指定された席に座った私は、胸の高鳴りを多少なりとも落ち着かせようと外の景色に目を向けていた。真新しい制服と教室の新鮮な雰囲気に影響されて押し寄せてくる期待で、頭は一杯一杯になっていた。
「こんにちは」
後ろから声を掛けられて振り返る。
「何か見えるの?」
隣の席の女子生徒だった。はにかみながら桜が綺麗だったからと答える。
「本当綺麗だね。来るときもちらっと見たけどここからだとよく見える。あっ私、神田めいって言うの。これからよろしく」
そう言って女子生徒は微笑む。ロングストレートの黒髪に白い肌、二重瞼のぱっちりとした目にすらっとした頬。端正な顔立ちの彼女は俗に言う美少女だった。そんな彼女は何処かしら上品なお嬢様然とした気質も漂わせている。
「私は里内鈴乃。こちらこそよろしく」
彼女と友達になれると嬉しいのだけれど、と思う。
ホームルームが始まり担任の先生が自己紹介をする。40歳半ばのこの男性の先生は落ち着いた声で喋る。穏和な感じの人だ。
「それでは皆さんにも自己紹介をしてもらいましょうか」
先生の言葉でクラスメイトたちの自己紹介が始まる。窓際の一番前の席から始まり、同じく窓際の席の私にもすぐに順番が回ってきた。
「里内鈴乃です。よろしくお願いします」
静かな拍手と共に着席する。少しほっとして気が抜ける。そのせいで横の席の女子生徒が立ち上がったとき、びっくりしてしまった。
「神田めいです。よろしくお願いします」
クラスメイトの反応が他の生徒の自己紹介とは明らかに異なる。彼女の容姿は他とは一線を画していて、その上何かしら不思議なオーラを醸し出しているのだ。私もつい見とれてしまい振り向いた彼女と目が合う。彼女は小さな笑みを見せて椅子に座った。
入学してから一週間が過ぎた頃、殆ど散ってしまったソメイヨシノを眺めながら私は机にうつ伏せていた。今日は早めに学校に着いたのでまだ始業までに時間がある。と言っても特にすることがないのでこうして物思いに耽っているのだ。隣の席のめいは――既に下の名前で呼び合う仲になっていた――クラスの中心的人物でよくクラスメイト達に囲まれている。私もそれに巻き込まれることが多くて本来活動的では無いこの身体は、慣れない学校生活と相まって疲労していた。ゆいは事あるごとに私を誘ってくる。それ自体は喜ばしいことなのだが。
「おはよう鈴乃。もう来てたの、早いね」
「あ、おはよう。今日はちょっと早く家を出たの」
ゆいは鞄を机の上に置くと、前の席の椅子を借りて座る。
「なんだか疲れたような顔してるね」
顔には出さないようにしていたつもりだったのに彼女に心配されてしまう。
「大したことじゃないよ。ちょっと高校生活に慣れなくて」
私はそう返す。
今日も彼女はお昼ご飯を一緒に食べようと誘ってくれる。入学してから毎日欠かさずだ。お陰様で他の数人の女子生徒達とも普段会話する程度の仲にはなった。私の高校生活は案外順調に経過している様だ。




