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Noisy Energy ノイジー・エナジー  作者: 小鳥乃きいろ
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#2 ファースト・コーナー #完敗

ノイジー・エナジー #2 ファースト・コーナー


#完敗


 梅雨の晴れ間というのはホントに貴重なモノで、しかもバイトの入っていない休日であれば尚更だ。アタシは朝からNSRで出かけることにした。試験勉強は明日から頑張るぞ!


 夏子がワケわからんことを言った後、アタシはなんだかアタマに来てしまって、ソッコー家に帰ってしまった。

 なんか理由があると思うんだけど、あの時は聞きたくなかったんだ。その後、夏子とはまだ話していない。顔も見たくないわけじゃないけど、まだ顔を合わせていない。そんなモヤモヤを払い除けたくて、今日はソロツーリングなんです。


 今日は246から129と国道伝いに来て、湘南の海沿いを走っている。今日の目的地は箱根の大観山。御厨先輩によると、その昔栄えていたツバキラインというくねくね道があるらしい。湯河原から大観山に登って行く道だというので、アタシはまずは湯河原を目指す。

 折角だから西湘バイパスを通って西湘パーキングにも寄ってみた。結構バイクが止まっている。目の前の海岸からは日の出も見えそうだ。そのうちみんなで来れたらいいな。

 パーキングを出て小田原を過ぎるとスグに有料道路出口だ。アタシは小銭を出すのに手間取って、後ろのクルマにクラクションを鳴らされてしまった。可愛いJKライダー相手に大人気ないよね。

 ココから海岸線なんだけど、御厨先輩の話では根府川駅の手前で信号を右に入るといい感じの旧道があるらしい。住宅も結構あるからあまり飛ばすような道じゃあないけど、ウォーミングアップにはいいって言ってた。


 アタシは早速旧道に入って行った。確かに道は狭いところもあるし住宅地も通るけど、どんどん登って行くと景色が良くなってきた。おお、山の上から見下ろす海が綺麗ですね。レストランとかもあるよ。

 くねくね道も悪くないね。ブラインドコーナーがあったり、横断歩道があったり、ちょっと気を付ける必要があるけど、そんなに飛ばしさえしなければ楽しい道です。

 やがて道は下り坂になり真鶴駅の裏を抜けて湯河原の海岸線に出た。ちょうどガソリンスタンドがあったので給油して、いつも通りファーストフードで休憩です。


 マフィンをかじりながらスマホで道を確認する。海岸線からスグそこを右に入って、道なりに上がればよさげ。最後の右折さえ間違わなければ、大丈夫そうだ。マフィンを食べ切って海岸線の国道を見ていると、バイクが結構多い。やっぱりたまの晴れの日だと乗りたくなるよね?アタシはとっくに飲み干したアイスコーヒーの蓋を開けると、氷をいくつか口の中に流し込み、カリカリとかみ砕いた。口がしゃっきりして、のんびりくつろぎモードからバイクモードに切り替える。アタシはアウターのジッパーを上げると店を出た。


 湯河原駅に向かう道を登るとすぐに駅前に出た。お土産屋さんや商店が並んでいる。多分歩いて回ると色々発見があるだろうが、今日は寄り道しないで真っ直ぐだ。道沿いにはコンビニや銀行らしくない銀行も出てくるが、登るにつれて温泉宿が増えてくる。小さな宿、大きなホテル、古いモノ、新しいモノ様々だ。たいそう栄えているのは、きっといい湯どころなんだろう。

 道は川沿いになり、両側は山と森に挟まれ渓谷の趣きが出てきた。そろそろ右折かな?再び温泉宿が川沿いに現れると、案内板が見えた。この先右が大観山だ。ってココでいいのかな?一瞬迷ったが右折出来るのはココしかない。前にも後にもバイクやクルマがいないからちょっと不安です。まぁ、違ったら引き返せばいいよね?アタシは道を右に入って森の道を登って行った。


 道はセンターラインのある普通の道。でも少し登るとくねくね道が始まった。ブラインドコーナーには一応ミラーがあるので、対向車の存在は早めに気が付くことが出来るだろう。コーナーは比較的Rが小さくて、スピードの割りに楽しめそうだ。場所によっては梅雨の影響で水が流れているところもある。少しタイヤを揉んでグリップを確かめながら走っていると、早速ヘアピンカーブ登場だ。

 左へ軽い登りのヘアピンカーブ。視界は良好、見通しも利いていて、対向車や駐車車両は見当たらない。

 キュウッ!

 センターラインギリギリに寄って、アプローチ。それほどスピードは出していない。軽くブレーキを引く。

 ススッとブレーキを緩めながら腰を落としてバイクを倒し込む。かなり小さなRのためヒザを落として路面に擦り付けたくなる。しかしアタシのボトムスはバンクセンサーはおろか、膝パッドさえ入っていないジーパンだ!がまんしてヒザを引っ込めたが、そのせいで少しバイクが狙ったラインからハズレてしまった。う~ん。消化不良…。気持ち良くない。次はバンクセンサー付きパンツを購入するべきかもしれない。


 自分の装備不足に不満を抱きながらも、くねくね道は続いていく。山道は木が道にかかっているところも多く、路肩に枯葉や土が浮いているところもある。

 極めつけは左コーナーのイン側を掠めた時のことだ。

 テテテテテッ!

 アタシのステップのスグ横を並んで走っているモノがいる!?黒い毛玉に見えたソレは道端の木に飛び移って駆け上がってゆく。リスだ!可愛い!こんなことも山道ならではのことだ。やっぱりくねくね道は楽しいや。


 その後、何ヶ所もある小さなS字や、森の中の路面の悪い複合コーナーや、Rが大きめのヘアピンを過ぎると、木が途切れ視界が開けてきた。確かこの崖に張り付いた真っ直ぐな坂道を登り切ると、駐車場に面した左ヘアピンカーブがあるはず。谷側は絶壁で落ちたら生命はなさそうだ。そこに…。

 フォンッ!

 走り屋さんのお出ましです。下りのヘアピンを猛スピードで下ってくる。いや、ココは怖いって!見てるこっちが心配になってしまう。アタシはやっぱり膝すりパンツより、サーキット用のレーシングスーツにしようかな?


 ひとしきりくねくね道を堪能すると、右手に広い駐車場と大観山のドライブインが現れた。真っ直ぐ行けば芦ノ湖、右に入って下ればターンパイクだ。駐車場に入るとバイクが一杯だった。梅雨の晴れ間はバイカーの心をくすぐるらしい。海賊船の行き交う芦ノ湖に目を向け、辺りを見回すと駒ヶ岳などの箱根の外輪山と、その先に綺麗な富士山が望める。海に目を向けると初島とその向こうに大島が見える。今日は箱根名物の霧もなく、素晴らしいパノラマが堪能出来た。ドライブインの中ではカレーや麺類などが食べられるけど、今日は走りがメインなので缶コーヒーでガマンするんだ。後で可愛いNSRにガソリンをたらふく飲ませてやらなければならないのだ。節約節約!

 

 バイカーは圧倒的にオジサンが多い。駐車場の片隅に設置された喫煙所や、携帯灰皿を使って美味しそうに排気煙を上げている人も多い。父さんも昔吸っていたけど、ラーメン屋開業を期にやめてしまった。マナーのある喫煙はいいけど、くわえタバコでバイクを走らせるのはやめて下さい。灰や吸い殻が後ろのバイクに飛んで来るのは大迷惑です!


 ドライブインの周りをブラブラしながら景色やバイクを眺めていたら、何処で見かけたバイクを見つけた。新旧二台のCBRだ!この間奥多摩で飛ばしていた人達じゃないかな?ナンバープレートを見ると、大宮ナンバーと春日部ナンバーだった。埼玉から来てるのか!結構遠いよね?大宮ナンバーの新型CBRはマットなグレーでステルスっぽい。マフラーを始めとして、色々と手が入っている。旧車の春日部ナンバーのCBRの方は元はホワイトのカウルやタンクにこれでもかというほどシールやステッカーが貼ってある。その中にあの日奥多摩で配っていた警察署のシールを見つけた。

 俄然興味が湧いてきた。アタシは離れた場所に止めてある自分のNSRに向かい、CBRのライダーを待った。


 来た。CBRのライダーは若い女の子だった。アタシと同じくらいかも。一人は白に蛍光イエローのラインの入ったレーシングスーツ、もう一人も赤い革のジャケットと黒いバンクセンサー付きの革パンツで、どちらもフルフェイスのヘルメットを持っている。アタシみたくジーパンにジェットヘルなんて軟弱な軽装じゃない。レーシングスーツの子は肩くらいまでの黒髪をゴムでまとめて短めのしっぽにしている。ジャケットの子は明るい茶髪のショートカットで前髪に少し赤いメッシュが入っている。


 二人は二言三言、言葉を交わすとジャンケンをした。先行、後追いを決めているのだろう。

 走るんだ。

 願ってもないチャンス。アタシもスグに出られるように、NSRのエンジンをかけて長い髪をゴムでまとめるとヘルメットをかぶった。準備万端整えると、二人もヘルメットをかぶって動き始めた。新しいCBRがジャケットの彼女で、シールいっぱいの旧車がレーシングスーツの彼女だ。アタシは彼女達が駐車場を出て湯河原方面に向かうのを確認すると、NSRで後を追った。レーシングスーツを着た彼女が駐車場を出る時にアタシの方を振り向いた気がした。ソレならソレで話が早いじゃあないですか!


 アタシはタイヤを暖めながら走って行った。駐車場からの比較的緩やかなカーブをペースを上げながら走って行く。深めの右カーブを抜け、再び緩やかなカーブの連続する下り坂を駆け下りると…。

 いた。

 一つ先のカーブを抜けるCBRのテールを捉えた。

 パァーンッ!パァーッ!

 カウルに伏せ、アクセルを開けて増速!急接近する。

 恐らく待ち構えていたのだろう、二台のCBRに間も無く追いついた。アタシがペースを合わせ追走してチカチカとパッシングすると、後ろを走っている旧車の彼女が振り向いた。

 シールドはブルーミラーで表情は見えなかったけど、クスリと笑った様な気がした。彼女はハザードを点灯し、リアを振って誘いを掛けてくる。女の子のクセにはしたない。お仕置きしてあげましょうか?でもやるなら後追いがいいな。先に行ってくれない?アタシは再びパッシングをチカっとくれてやった。先行していた新型CBRのライダーが旧車のライダーに一瞬振り向くと片手を横に突き出して親指を立てた。

 やってやるぜ、ってこと?

 先行する彼女はハンドルを握り直すとアクセルを開けた。

 ブフォーンッ!

 チューンしたマフラーのせいか排気量にしては野太いエキゾーストを響かせてグレーのCBRが加速する。

 ヒュオーンッ!

 旧車のCBRもモーターの様なサウンドを奏でながら後を追った。

 カシッ!パァーンッ!

 アタシもギアを落としてフル加速!NSRは白煙を上げて追撃を開始した。


 高速カーブを加速し短いストレートを抜けると左カーブが迫ってくる。

 ククッ!

 ブレーキでコーナーへの進入速度を調整して体重移動開始。

 カンッ!

 ギアを落としてブレーキをリリースし、腰を落として車体をバンクさせる。

 コーナー出口は路面が荒れていて、すぐに迫るRの小さな右コーナーへのアプローチは、おっかなびっくりのブレーキングになった。

「ヤバい!マジで怖い!」

 前のCBRはヒュンッ!と、音がしそうな勢いで切り返していく。アタシもなんとか切り返したが、右のコーナーはいきなりの深いヘアピン!下り坂のコーナリングで、アクセルを開けるタイミングは前を走るCBRにならって追走する。


「うーん…。苦戦…。」

 右へ左への緩やかなコーナーは下り坂を全開で加速してなんとか食いつく。もしかするとアタシを待ってるの?と、思う間も無く再び深い右のヘアピン!前の二台に続きフルブレーキングからの倒し込み。

 ザリザリザリ…。

 コーナーは真ん中辺りでRがキツくなる。CBRの二人は更にバンクして膝パッドを路面に擦り付けた。アタシも腰を落としてNSRを更に深くバンクさせるけど、擦れないヒザにやっぱり不満足!


 下り坂は更にキツくなり、アクセルを開ける手も躊躇いがちになる。S字コーナーが増え始め、左右に切り返す回数も増えたため、腰を落ち着けていられない。右カーブを抜けると、落差のある左ヘアピンが現れる。コーナーの内側となる下り車線は螺旋状に落ち込んでいる。

「キャーキャー!やめて!来ないで!」

 と、言っても前の二台はガンガン突っ込んでゆく。

 ヴォンッ!フォーン!

 フルブレーキ&ギアダウン!

 ギュンッ!

 しっかりとリア荷重して、恐ろしい下り坂を何とかやり過ごす。コーナー出口で先行のCBRにはたいそうな差をつけられてしまった。なんとか追い付きたい。道端には木々が増え、視界が悪くなっていく。続いていく果てしないS字区間で、NSRを右に左に振り回しながら、アタシは焦燥感に襲われていた。


「離されてるな。」

 アタシは前の二台に差をつけられ始めた。特にヘアピンなどの深いコーナーではスルスルと先行されてしまう。バイクの重量はコチラの方が軽いはずだから、アタシが重いのか。(考えたくはない。)それとも、やっぱりアタシがヘタなのかだ!

 緩やかなカーブの下り坂。

 パァ~ンッ!パァ~ッ!

 アタシは危険を承知でアクセル全開で突っ走る。山道を登ってくるバスとすれ違った。バスの後ろには数台のクルマが数珠繋ぎに連なっていた。クルマがバスを追い越していたらアタシの生命は無かったな。背筋をイヤな汗が流れるのを感じていた。


 やがて先行する二台に追いついた。明らかにアタシを待ってる。

 急に木々が途切れ、道の向こうに空が見えた。CBRはヒュンと右に曲がって消えた。アタシも後に続いていく。ガードレールの向こうは断崖絶壁!コケれば天空を舞うことになる!死んでもコケるワケにはいかない!

 ン?なんかオカシイな?足の踏ん張りが利かなくなってきた?たった数分の走行でこんなに消耗するなんて!体力無さ過ぎだ!カラダがナマってる。情けない。

 下り坂のうねるようなS字の連続で軽いはずのNSRがやけに重い。深い左の中速コーナーでは踏ん張る膝がカクカクと笑い始めた。

 そして左へ下るカーブを抜けると、坂道の底に180度の右ヘアピンコーナーが見えた。

 ギュワッ!

 下り坂を駆け下りてフルブレーキング!

 パンッ!パゥン!

 カンッカンッとギアを落とすやバイクをぺたりと寝かしてフルバンク!

 途端に外足の左膝がガクッと砕けた!バランスを保とうと咄嗟に右膝が開く!

 ザリッ。

「痛っ!」

 開いた右膝が路面を擦った。痛いのはガマンして体勢を立て直す。多分ジーパンが破れて、可愛い膝小僧に擦り傷が付いてしまったのだろう。ココまでか…。転倒は免れたものの、アタシの無けなしのプライドはズタボロだ。擦り傷どころではない。

「アタシ負けましたあ。」

 アタシはアクセルを緩めると、とっくに次のカーブの先に消えたCBRに敗北宣言した。


 アタシは膝小僧の様子を確認しながらフラフラと走っていた。いくつかカーブを曲がると、道の真ん中に立木があって、登り車線と下り車線が左右に分かれている。カーブなのだがUターン出来るようになっていて、二台のCBRが正に今Uターンしているところだった。

 二人はアタシに気が付くと、もう一度行こうと言うように手を振ってくれた。しかし、心身ともにキズついたアタシはブンブンとクビを振ってお断りしてしまった。でも申し訳なくて、またねと手を振ってお別れしたのだった。


 アタシは湯河原の海岸でしんみりとハーモニカを吹いている。海岸とは言っても海水浴場ではない、海沿いの店舗の裏のテトラポットがゴロゴロと転がっている辺りだ。アタシのハーモニカを聞いているのはアタマの上を飛んでいるトンビや海鳥くらいのものだろう。

 最初はふざけてレクイエムを吹いたりして自虐的な冗談のつもりだったが、心がズキズキと傷んでシャレにならなくなってしまった。趣きを変えて、無理矢理明るいJ-POPを吹いてみたのだが、空々しい感じが否めない。そこでなにも考えず適当に吹き始めたら、自然とスタンダードジャズやブルースになっていた。

 ゆっくりとしたテンポで奏でるメロディは心の傷に優しく沁みてくる。もうお昼過ぎでお日様は高く登り、強い陽射しが近付く夏を思わせる。そこまで来てる暑い季節がアタシの心にも火を灯してくれるだろうか。


 膝小僧はやっぱり擦り傷になっていて、ジーパンも破れていた。アタシはこの近くのドラッグストアで絆創膏を買って応急処置も済んだ。膝小僧は深い傷じゃなくて良かったけど、体力不足には深くキズついた。武道や運動部をやっていたから、体力には自信があったんだけど、持久力の枯渇には正直呆れてしまった。部活引退から一年近く身体的鍛錬を怠けてしまった報いだ。早速、一から鍛え直さなければならなくちゃね。

 アタシは最後にハーモニカでファンファーレを吹き鳴らして、座り込んでいた石段から立ち上がった。

 帰ろう!帰ったら夏子とも話をしようかな?


#CBRライダー


 ちえりのいた場所から歩いてスグのファーストフード店の駐輪場に新旧二台のCBRが止まっていた。店内では二人の少女がポテトと炭酸飲料を前に今日の獲物について話していた。

「NSR、まあまあだったよね?」

「あんな舐めた装備にしてはね。」

「女の子だったよね?」

「長いしっぽが出てたね。」

「もっと早くに諦めるかと思ったけどね。」

「折り返しまで付いてきたもんね。」

「サキ、結構本気で逃げてたよね?」

「私が本気で逃げたら、ミズキも付いてこれないでしょ?」

「…そんなことはないわ。」

「…わかった!悪かった!私のドリンクを振るな!炭酸が抜ける!」


#海辺のドッグラン


 少年は誰かが吹いているハーモニカの音色に気づいたようだった。

「懐かしいな。昔ハーモニカを吹く奴がいたな。」

 ここは海岸沿いの店舗の裏手にあるドッグラン。

 足元には柴犬が寄り添って、やはり耳を立ててハーモニカの音色に耳を傾けているようだった。

 やがて派手なファンファーレを最後に演奏が終わったようだ。

「どうした?さくら?」

 ク~ン、ク~ン。

 さくらと呼ばれた柴犬は落ち着かなげに足を動かして、少年を見上げる。

「…そうだな。そろそろ行くか!」

 少年は転がっていたヘルメットを拾うと歩き出した。

 柴犬はクンクンと磯の匂いでも嗅ぐように鼻を鳴らしたが、探しものが見つからなかったのか、少年の後を追って走り去った。


#疑惑のタンデム


 アタシは何を見たのだろう。

 夏子を驚かせようと内緒で教習所の近くで夏子の教習が終わるのを待っていたアタシは信じられない、信じたくない光景を見てしまった。

 教習所の前で愛車のゼファーを止めて佇む御厨先輩に、ちょうど教習が終わったのだろう夏子がにこやかに声をかけていた。明らかに夏子を待っていた御厨先輩は、夏子をタンデムに乗せて走り去ったのだ。

『御厨先輩はやめた方がいい。ちえりは諦めた方がいいと思う。』

 夏子の言葉が再びアタシの心をざわつかせていた。


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