#2 ファースト・コーナー #奥多摩ツーリング
ノイジー・エナジー #2 ファースト・コーナー
#奥多摩ツーリング
そんな感じで御厨、吉野の両先輩と、夏子や鈴木さんまで、毎日毎日居残り勉強会を開催して頂いた結果!高校初の中間試験は、赤点無し!半分は平均点前後!好きな数学に至っては結構いい点が取れました!母さんはまあまあねと云いながらも少し安心したご様子。よかった!ホントによかった…。コレでしばらくはバイクとバイトのことはうるさく言われないはずだ。たぶん…。
けど…。吉野先輩が気になるなあ。あの後も、何度も先輩達のお世話になったけど、なんか無理しているようで…。あ、あんまりアレな話はここまでにして、楽しい話をしましょうか。
じゃじゃん!『祝!ちえり赤点回避記念ツーリング』開催です!
行き先はあれこれ議論を戦わせた結果、くねくね道のメッカ!奥多摩周遊道路走破に決定致しました!日程は六月初旬の週末。梅雨のやってくる前に実施します。
エントリーメンバーの一番手はミクリンこと年御厨悟。機械科の三年生。ゼファー400での参戦です。二番手はミカリンこと吉野美佳。電気科の二年生。べスパ150で華麗に登場。三番手はアタシ晴海ちえり!機械科の一年生にして、二輪女子会のホープ?NSR250で白煙をあげて登場です!そして、しんがりは白衣の爆発ビューティ佐藤夏子!化学科の一年生。まだ無免許のため、タンデムでの参加になります。欠場は幽霊部員の関山君と鈴木さんです。そもそも幽霊だし、無免許だし、タンデムもしたことないので今回は不参加になりました。
と、いう訳で待ち合わせは府中街道にあるファーストフード店。
「ちえり!こっちだよ。」
ファーストフード店の入り口を入ると、夏子が手を振っていた。アタシが駐輪場にNSRを停めた時、既にゼファーとべスパが並んでいたから、みんな揃っているのは分かっていた。夏子の座っている席には御厨先輩と吉野先輩もいて、朝ごはんだろうか、御厨先輩はマフィンを食べていた。アタシは夏子に手を振り返して、先輩にコクリと会釈するとコーヒーを買ってから席についた。
「すみません。アタシのために集まって頂いて。」
なんて、一応のご挨拶。
「イヤイヤ、これも部活の一環だから。いいんだよ別に。」
と、部長はおっしゃるが…。
「そうね。まぁ。十分くらいの遅刻に目くじら立てるのもねえ?」
とは、吉野先輩。目くじら立ててるよねぇ?!
「お前ら、最近仲悪くないか?」
そうですね。なんででしょうね?
「まあまあ、折角のツーリングなんですから、楽しく行きましょう。」
夏子が助け舟を出してくれた。
「そうそう、仲良く行こうぜ。」
部長がそう言うなら仕方ないですね。
と、御厨先輩がアタシと夏子をジロジロと見始めた。何か?
「君ら、ちょっと軽装じゃないか?」
確かにここのところ、バイクにはいい季節だし、ツーリングが決まったのも割りと急だったので、アタシと夏子はG店で買った普段使いのアウターで間に合わせていた。バイク用なら当然入っている肩や肘、脊椎プロテクターなどは入っていない。ボトムスも普通のジーンズだ。膝パッドなどは入っていない。
「タンデムの佐藤はまぁいいとしても、NSRの晴海はあまり感心しないな。走るんだろう?」
「はぁ、もう少しバイト代を稼いだら揃えようと思ってます。」
「怪我してからじゃ遅いんだからな。今日は控えろよ?」
まぁ公道じゃ路面も悪いし、全開走行をするつもりもないけど…。そういう問題じゃないか。
「はい、分かりました。」
御厨先輩は大丈夫かな?と言うようにアタシをジト目で見ていたが、これ以上心配しても仕方ないと思ったのか、吉野先輩に話を振った。
「じゃあ早速ミカリン、アレ出してくれるかな?」
吉野先輩は分かったと言うと、ショルダーバッグからインカムを取り出した。一応四人分ある。
「チャンネルはもう設定してあるから、このボタンを押すだけで通話可能よ。それから…。」
通信機とかのデジモノは吉野先輩の得意分野だ。一通り説明してくれて、スピーカーとマイクなどの取り付けも手伝ってくれた。こういうところは面倒見がいいんだよね。
「それから、私はカメラを付けているから、写りたかったら私の前を走ってね。週明けに学校でお披露目しましょう。」
おお、それは凄い!吉野先輩のバイト代はこういうモノに注ぎ込まれているのか!
「それじゃ、出発しよう。」
準備が整ったので、御厨先輩が立ち上がった。
「…あの。」
夏子が手を上げた。
「私はどなたに乗せて頂けばよろしいんでしょうか?ココまでは吉野先輩に乗せてきて頂きましたけど…。」
アタシの後ろにはまだ乗せてあげられない。タンデムは免許取得後、一年以上経過することが必要だ。
「まぁ、俺の後ろでいいんじゃない?」
御厨先輩が即答する。
「あ、それじゃお願いします。」
夏子も特に気にすることもなく即答した。
はて?アタシは何だかモヤモヤしてきた。ふと、吉野先輩を見ると吉野先輩もモヤモヤしているのか、ちょっと口元が引きつっている。御厨先輩のゼファーはグラブバーを付けていない。必然的に夏子は御厨先輩に捕まって、もっと言えば抱きついて乗ることになるのだ!夏子は自分より五歳は上でないと、オトコと認識しないから全く気にしていないみたいだけど…。
「わ、私が乗せて行きましょうか?」
吉野先輩が何とかしようとするが…。
「大丈夫ですよ。吉野先輩のべスパより、御厨先輩のゼファーの方がパワーがあるから、その方がいいですよ!」
いや夏子…、そういう問題じゃないから。そこへ、御厨先輩も同意した。
「そうだな。でも、奥多摩周遊道路に入ったら、ミカリンに交代していいか?俺も少し走りたいんだ。」
御厨先輩は吉野先輩の意図を何一つ分かっていなかった。まあ、御厨先輩も夏子も全くそんな意識はないから、やきもきするだけ無駄なんだ。アタシと吉野先輩はモヤモヤしながらも、御厨先輩と夏子のタンデムを追認した。
『それじゃ、出発しよう。』
御厨先輩が、インカムで呼びかける。
貸してもらったインカムは結構性能が良くて、概ね視界内にいれば通信が可能だそうだ。おかげで出発するや否や、おしゃべりが始まった。
『おお、道が広くなって二車線になったね。あ、ココ右に曲がるとお世話になっている教授の大学があるよ。』
と吉野先輩。
『中央道のインターもあるよな。』
しばらくすると急に視界が開けて緩やかな登りのカーブになった。
『なんかゴルフ場ですか?』
『そうみたいですね。』
『これを登り切ると多摩ニュータウンが見えるよ。』
『ホントだ。あれは電車の線路ですか?』
『そうだよ。賑わっている辺りが聖蹟桜ヶ丘だな。』
聖蹟桜ヶ丘を過ぎ、野猿街道を渡ると車線が減少し、ローカルな川崎街道に変身した。
『この辺は電車の路線に沿ってるんですね。』
『うん。もうスグ高幡だよ。ほら、モノレールが見えてきた。』
『なんか車両に動物の絵が描いてあるよ。ヤダ可愛いかも。』
『すぐそこに動物園があるからね。』
やがて、お寺?の門前の信号に引っ掛かった。キョロキョロと辺りを見渡すと五重塔もあって中はかなり広そうだ。
『これは由緒ある仏閣ですか?』
『かなり有名だよ。ココの交通安全祈願のシールを貼ってる車は結構いるよ。あ、この坂登ったら右ね。橋を渡ります。』
右折して道なりに進むと甲州街道に出た。左折して八王子方面に向かう。八王子までは平らで真っ直ぐな道が続く。
『あ、高架橋が出てきましたけど…。』
『国道16号だ。あそこを右。』
16号に入るととたんに車の流れが速くなった。
『ミカリン大丈夫か?』
『うう…トラックが多くて怖い…。』
『もう少しの辛抱だ。左入の交差点を過ぎれば少しはマシになる。』
『ねぇ、そろそろ休もうよ。怖いし疲れた。』
吉野先輩が弱音を吐いた。
『そうだな…。コンビニと道の駅とどっちがいい?』
『え…カフェがいい。』
吉野先輩がワガママを言う。
『贅沢言うな!あ、でも道の駅にあったかも…。』
『じゃ、そこで。』
アタシ達は道の駅に立ち寄った。
道の駅はちょうど営業を開始したみたいだ。駐車場に続々と車が入って来る。吉野先輩は早速カフェラテを片手に座って一息入れている。御厨先輩も同じテーブルについてコーヒーを飲み始めた。アタシと夏子はあちこち見て回った。
「なんか野菜が一杯だね。あ、ちえり!パンやおにぎりもあるよ。なんか食べたくなってきちゃった。」
「夏子、本能に任せて食べると太るよ。」
そんな軽口を叩きつつも、アタシは夏子に聞きたいことがあった。
「ねぇ、さっきしばらくインカム切ってなかった?」
夏子は少しイタズラっぽく笑った。
「ちょっと御厨先輩と専用チャンネルで話してたんだよ。先輩がちえりのことをどう思ってるか…とか?」
なに~!
「ちょ…。何話してんの!やめて!い…いや、別にいいけど。そんなんじゃないし。…で、なんて?」
夏子はじっとアタシの目を見た。あまりいい話じゃないのかな?やがて、またニヤニヤし始めた。
「さて、どうしよっかな?」
むう…。焦らすつもりだな。それともタダでは教えないつもりか?
「…夏子?パン食べる?」
夏子はちょっと考えたが。
「やっぱいいや!太るしね。」
そりゃないよ~!
「楽しそうだな。なに話してんの?そろそろ行こうか。」
御厨先輩がやってきた。コーヒーは飲み終わったようだ。仕方ない。後でなんとか聞き出そう。タンデムも交代して夏子は吉野先輩の後ろだ。アタシ達は道の駅を後にした。
新滝山街道は真っ直ぐな道だ。多少のアップダウンはあるが、バイクを傾けるところはない。
『単調ですねぇ。』
『近付いてくる山々を見ましょう。』
『トンネルですよ。』
『あ、なんか遊園地あるよ。』
『プールいいねぇ。もう少ししたら来たいな。』
『おい、そっちじゃないから、真っ直ぐあきる野インターくぐるから。で、坂登ったら都道7号左折ね。』
『あ~、また真っ直ぐですねぇ。』
『大丈夫。武蔵五日市に突き当たって左に行ったら、じきにくねくねしてくるから。』
『ミカリン給油したいです。』
『この先にあるよ。ついでにコンビニも。』
アタシ達はガソリンを補給。コンビニはさっき道の駅に寄ったのでスルーした。ここから山道だ。奥多摩周遊道路の入り口までは再び御厨先輩がタンデムすることになった。
「夏子、ねぇちょっと。変な話しないでよ?」
「ふふふ、何のことでしょう?」
アタシは気が気じゃなかった。
この辺から道は秋川沿いの緩やかなワインディングロードになる。
『やっと山の中らしくなってきたね。』
『気持ちいいねぇ。』
『佐藤さん、ちゃんと前見てないと酔うよ。』
『あ、大丈夫ですよ。慣れてますから。あれ?突き当たりですよ。』
『左に曲がりま~す。』
橘橋で左折して南秋川沿いに進む。気が付くと夏子と御厨先輩が内緒話をしている。アタシは吉野先輩に話しかけた。
『吉野先輩、あのふたり何話してるんでしょうね?』
『知らんわ!』
『アタシだけに話しておくこと、なんかないですか?』
『皆無!』
つれない先輩だ。
『お~い!その先右折して~。』
夏子と御厨先輩の内緒話が終わったみたいだ。
上川乗の交差点。ココを道なりに進むと山梨方面に出る。奥多摩方面はここを右に入る。しばらく行くとようやく奥多摩周遊道路の入り口だ。ここからは本格的なくねくね道。少し登るとパーキングがありバイクがたくさん止まっている。行き交うバイクも多く、たくさんのライダーでにぎわっている。アタシ達もパーキングに入って一息入れることにした。夏子もここからは吉野先輩のべスパに乗り換えだ。
ひと休みしたアタシ達は、待ち合わせ場所を奥多摩湖のふれあい館駐車場にして、アタシと御厨先輩はワインディングを楽しむことにした。遅いタンデムはゆっくり景色を堪能してください。
「じゃあお先に失礼!」
アタシと御厨先輩は走り始めた。
最初はタイヤを温めるためにアクセルオンとブレーキングでタイヤを揉んでから徐々にペースを上げていく。
とはいえここは公道なので直線だからと言ってアクセルを開けっぱなしにしたりはしない。次のカーブが楽しめる程度のスピードに乗せて行くのだ。
クッとアクセルオフ。侵入するコーナーに合わせて重心移動を開始。ジュワッとブレーキング。パンッ!とシフトダウン。スッとブレーキをリリースしながら、コーナーの出口を窺うようにバイクを寝かしこむ。クイッとアクセルを開けてリア荷重。ザア~ッ!フロントとリアの接地感を確かめながらクリッピングポイントを通過。パァーンッ!アクセルを開けコーナーを脱出する。やってることはいつも通りだけど、やっぱりくねくね道は楽しい。
『うひょー!気持ちいい!』
『だろ?気に入ったか?』
『もう、最高です!』
奥多摩は思っていたより、路面が整備してあって気持ちいい。センターにポールが立ってたり、スピードを出せないようにしてるところもあるけれど、いい感じの道だ。バイクでヒラリヒラリと走っていくのにちょうどいいカーブが連続している。こちらからは登りだし、全開で走るわけではないので、フルブレーキングが必要なシーンはあまり無い。概ねアクセルのオンオフと、じわりと利かすブレーキングで対応出来る。重ね重ねだけど、今日はツーリングなんで全開では走りません。
南からアクセスすると奥多摩周遊道路は月夜見山を登っていく。最初は登りもきつく、Rの小さなコーナーが続くので、ガンガン攻める道だ。月夜見パーキング前は見せ場。この先は尾根伝いに下り勾配の緩やかな中速コーナーが続く。性格の異なる道は南北どちらから走るかでも違った顔を見せる。これはアタシの個人的な感想なので、小娘のたわ言くらいに思っておいて下さい。
道案内のため前を行くミクリンのライディングは特段速いわけではないけれど、安定感があって後ろをついていくのに困らない。コーナーへの侵入では、じわっと利かすようなブレーキングで、唐突なフルブレーキはしない。バイクの倒しこみも自然で気負ったところがない。ヘアピンでもバイクの挙動は安定していて滑りそうな気配もない。コーナーの出口ではそれなりにアクセルを開けるけど直線でも無茶なスピードは出さない。じっくりとコーナリングを楽しんでいる感じだ。とはいえ、じゃあ完全に制限速度を守っているかというと、そこは察してください。
そんな感じでくねくね道を楽しんでいたが、ずいぶん走ってきたところで目の前にお巡りさんが現れた。道路わきの空き地に警察のバンが止まっている。え?検問?レーダーあった?いや、気が付かなかったけど。え?何キロオーバー?って戦々恐々としたアタシと御厨先輩だったが…。
「はーい。止まってくださーい。」
なんだろ?スピード違反で切符を切ろうという雰囲気ではない。むしろフレンドリーな感じ?にこやかにお巡りさんが近づいてきた。アタシ達はシールドを上げて、お役目ご苦労様です的に頭を下げて挨拶をした。
「ご協力感謝します。只今安全運転のキャンペーンをしておりまして、ライダーの皆さんにシールを配ってます。ぜひ好きなところに貼っていただいて、安全運転を励行してください。」
お巡りさんはそう言って名刺大のシールをくれた。アタシ達はホッと胸をなでおろした。全開走行ではないもののそれなりにスピードを出していたので、かなり後ろめたい。渡されたシールにはお巡りさんのキャラクターと警察署の文字が印刷されていた。警察ですけどちょっとかわいくしてみました的な感じを醸し出していた。う~む。着眼点はいいと思うのだが、もうちょっとセンスのいいものならよかったのに。きっと予算も限られているのだろう、アタシはNSRにそのシールを貼るのはちょっとためらわれた。とはいえ、貴重な血税から良かれと思って作ってくれたものを、むげに断るのも大人げない。(まだ大人じゃないけど。)
「どうも、ありがとうございます。」
控えめだ!控えめすぎるお礼だ。けどアタシにはそれ以上何も言えない。
ふとまわり見ると、もういい年のお巡りさんが懐かしそうにアタシのバイクを眺めている。
「懐かしいバイクですね。今買うとプレミアがついて結構お高いんじゃないですか?」
え?そうなんだ。売るとか考えたことなかったから、調べたこともない。
「昔のバイクはイモビライザーとか付いてないから、盗難とかも気を付けてくださいね。」
ラジャーです。ガレージの奥に鎖で縛りつけておきます!
「それでは、気を付けて!安全運転でお願いします。」
と、さわやかに敬礼されてしまった。
アタシ達はちょっとひきつった笑いを返して、再びバイクを走らせるのだった。
アタシ達はより控えめになってはいたが、くねくね道を楽しんでいた。一度Uターンして引き返し、のんびり走っている吉野先輩と夏子とすれ違った。最初のパーキングで再度引き返して、しばらく走っていたところ、登りのコーナーの手前でミクリンが急に減速して警告してきた。
『晴海、減速しろ。』
うん?さっきはレーダーは無かったけど、御厨先輩は何か見つけたのかな?
『何かありました?』
と、思ったら…。
カーンッ!甲高いエンジン音とともにバイクがコーナーを回ってきた!あれは!?CBR250RR?しかも2台でバトルしてる?下り坂のコーナーを文字通り全開走行で、ライダーは膝のバンクセンサーをザリザリと削りながら旋回している。カーンッ!フォン!2台のCBR250RRはあっという間にアタシたちの前を通り過ぎて行った。しかし、CBR250RRは最新型が1台と、もう1台はアタシのNSR250と同世代の旧車だった。あっぶないな。けどなかなかやるな。と関心していると…。
ボフォーンッ!ファーンッ!感心してる場合じゃなかった!さらにその後ろから、大型SSがやはりこちらも2台がコーナーに突っ込んでいく。
ウ~!フォォーンッ!しかもその後ろからは回転灯を点滅させ、サイレンを鳴らしながら猛追する白バイの姿が!
「止まりなさい!左に寄せて止まりなさい!」
すれ違った後でバックミラーを見ると大型SSの1台がコーナーで盛大にコケたようだ。バイクとライダーが転がっている。追跡していた白バイはもう見えない。もう一台のSSを追ったのだろう。アタシの前からはもう一台の白バイが応援に駆けつけている。先に逃げて行ったCBRはともかく、大型SSは逃げられそうもないな。せっかくの安全運転キャンペーンも台無しだ。
『ちょっと自重しようか?』
『ですね…。』
小心者のアタシとミクリンはさらに控えめにツーリングモードで奥多摩湖を目指していた。やはり公道では他人様に迷惑をかけてはいけないなという自壊とともに。
奥多摩湖に出て橋を渡り、湖の周りを回った。いくつかトンネルをくぐって小河内ダムのパーキングに出た。パーキングに入ると、バイクも随分止まっている。その中に吉野先輩のべスパを見つけた。
プルル、プルル。スマホが鳴り出した。夏子だ。
「遅い!待ちくたびれてお腹空いた。」
「ごめんごめん。どこ?」
「上見て、上。」
建物の上の階の窓で夏子が手を振っている。
「分かった。行くよ。」
アタシと御厨先輩は建物の中に入っていった。上の方にレストランがあって、夏子と吉野先輩が席についていた。
「私達、建物の展示を一通り見てきたけど、ミクリンと晴海は随分とお楽しみだったみたいね?」
アタシ達が席に付くと、吉野先輩がチクリと言う。
「おお、久しぶりの奥多摩はやっぱいいなぁ。テンション上がるわ。」
そう、そっちのお楽しみだから、別にやましい事はないから。
「ちえりも後でちょっと見てきたら?展示も面白いよ。」
夏子は面白いかもしれないけど、アタシはそういうお固い展示は遠慮しておきます。眠くなりそう…。
「お待たせしました。ダムカレーのお客様。」
え?ダムカレー?夏子の目の前にはカレーライスが。ライスがダムにカレーが湖水に見立ててあり、ポテトが展望塔、ベジタブルがドラム缶橋を模している。
「あ、アタシも同じのがいい!」
「残念、限定で売り切れました。」
ガッカリだ。泣ける。
「そうだ。吉野先輩って新旧二台のCBRとすれ違いました?」
「CB?何それ?」
吉野先輩はレーサーレプリカにあまり興味ない。が、夏子が気付いていたようだ。
「いたよ。すっごい飛ばしてた。吉野先輩カメラ回してました?」
「大丈夫だよ。なんで?」
「週明けに見せてください。」
「オッケー!」
ちえりはCBRのライダーのヘルメットが気になっていた。すれ違う瞬間にチラリとしか見えなかったが、『OK』という文字が目に焼き付いていた。なんでOKなんだろう?別にどうでもいいことだけど、ちえりの頭からはOKの文字がなかなか消えなかった。
#CBRライダー
コンビニの駐車場に新旧二台のCBRが並んで停まっていた。その脇には駐車場のネットフェンスにもたれてくつろぐ、ふたりのライダーの姿があった。ヘルメットを脱いだ素顔は若く、まだハイティーンになったばかりの初々しさがある女の子だった。
「大型SSも大したことないね。」
「乗り手がタコだったからね。」
「反対車線にNSRがいたね。」
「一度やってみたいな。」
「でも今日はもう帰ろうか?」
「白バイいるし、桶川は遠いしね。」
「また、こよ?」
「だね。」
彼女たちが被ったヘルメットには「OK-GirlsRacing16」という文字のステッカーがお揃いで貼ってあった。